PLAY32 激闘! ネルセス・シュローサⅤ(本当の強さ)②
飛び降りてきた二人を見た私は茫然としていた意識を現実に戻し、ナヴィちゃんの背中を叩きながら――
「ナヴィちゃん! キョウヤさんとシェーラちゃんを!」
と大きな声で言うとナヴィちゃんは理解したのか、ぶわっと飛んで、リヴァイアサンから離れて落ちていくキョウヤさんとシェーラちゃんの下に回り込みながら――
トスンッと――難なく二人を背中に乗せる。
二人はそのままナヴィちゃんの背に乗って、キョウヤさんはボロボロでところどころ氷漬けになった体で私達に向かって「大丈夫かっ?」と聞いてきた。
私はキョウヤさんに近付きながら――
「待っててください……、今回復を……」
と言って、キョウヤさんの近くで私は手をかざす。
「『中治癒』。そして……『異常回復』」
ふわっと黄緑色の靄がキョウヤさんを包み、凍っていないところからどんどん回復していく。
今度は白い靄がキョウヤさんを包んで、凍っていた腕や足を融かしていく。
『異常回復』というのは――よくある状態異常にかかった体を回復させるよくあるスキル。
私のようなメディックだとほとんどの状態異常を治すことができるけど、『呪い』を解除することはできない。
その『異常回復』に長けているのは……、シイナさんのようなドラッカーが持っているスキルでしか解けない。
でも――
「おぉ! 治ったっ!」
キョウヤさんは驚きながら、凍っていた腕を動かして私を見てお礼を述べる。私はそれを聞いて『どういたしまして』と言うと……。
「? キョウヤ……、それ」
「ん? あぁ」
アキにぃはキョウヤさんのところにある『とあるもの』を見て指をさす。それを聞いていたキョウヤさんは、胡坐した足の間に乗せている……、その赤黒い水晶玉を手に取って見せる。
「それは……」
「なんでそれを持ってきたのよ」
ヘルナイトさんもそれを見て、シェーラちゃんもそれを見ていると、キョウヤさんはその赤黒い水晶玉を見ながら……、私を見てこう言った。
「ハンナさ……、ネクロマンサー戦のこと……、覚えているか?」
「! ……はい」
ネクロマンサー。
つまりはエディレスとクロズクメ。
ベガさんの時は私……、記憶にない状態だったので覚えていないけど、きっとキョウヤさんが言っていることはエディレス達の時のことを言っているのだろう……。
それを聞いて私は頷く。
キョウヤさんはそれを聞いて、赤黒い水晶玉を見てこう言った。
神妙そうな顔をして、キョウヤさんは言った。
「この中にはさ……、たった一部だけど、それでもクルクの母親の生き血が流れてて、さっきも聞こえたけど、ドクンっと脈打っていただろ……? きっと、この中でも、その、クルクの母親が生きてるんじゃねえかなって思っちまって……」
「………そうかも、知れないわね。魔法使えていたし、それに、御魂って魂って文字が入っている。原理上心臓はなくても……、魂があるって言いたいのね。まるで聖霊族の、瘴輝石のように……」
その言葉に、シェーラちゃんは目を伏せながら言う。
それを聞いてキョウヤさんは言った。
「なんかさ……、このまま壊したくねえって直感してさ。この際だ。ハンナ――お前の詠唱で……、この水晶玉の力とか……、その、魂も浄化してほしい。そう思って持ってきちまって」
それを聞いて、私はその水晶玉を見る。そしてそっと……、指差しでその水晶に触れると……。
――どくん。どくん。どくん。
脈を打っている。あの時、浄化したばかりの、エディレスの瘴輝石と同じ……。天使の羽衣の石を嵌めるところ、エディレスの瘴輝石に触れても、すでに脈などない。でも、同じだ。
生きているような、そんな音とぬくもり……、そして、あの時と同じ、ネクロマンサーの石と同じ色をしているそれを見る。
「キョウヤ……、それってハンナに全部を押し付けるって言いたいのか……?」
アキにぃが冷たく睨んでキョウヤさんに言うと、キョウヤさんはアキにぃに向かって――
「――っ! 仕方ねえだろうがっ! オレ達じゃ浄化もできねえし……っ! それにオレはもう死ぬところとか見たくねえし――知らないままその人が死んだことを伝えられるのももっと嫌なんだっ! 誰かに利用されるために殺されたってのも、すごく悔しいし滅茶苦茶苦しいんだよっ。だったらせめて……」
何かを吐き出すかのように、キョウヤさんは声を荒げて、珍しい荒げで……私たちに向かって怒鳴った後、一回落ち着きを取り戻して、そして、赤黒い水晶玉を見て、こう言う。
苦しそうな顔で、キョウヤさんは言った。
「――せめて……、クルクと最長老には伝えたいんだ。もう大丈夫だって言えるようにしたい」
それを聞いたみんなは、無言になってキョウヤさんを見ていた。
キョウヤさんは、あまり過去を語らない人だ。自分の過去に何があったのかわからないけど……それでも、今聞いて分かったことはある。
キョウヤさんは――人の死に対して、その死の裏で利用された何かがあると……、すごく悔しいと思っている。悲しいと思っている。そして……、後悔している。怒りを覚える。
そう言った赤と青のもしゃもしゃが、キョウヤさんの中で混ぜりに混ざっていく。
それを見た私は、そっとキョウヤさんの手を握って――言う。
驚いて見ているキョウヤさんを見て――私は言う。
「――私も、一緒にいます。クルク君や、最長老様に、もう大丈夫って、伝えたい。そして、この水晶玉で苦しんでいる魂を……、救いたい」
その言葉に、キョウヤさんは俯いて、小さく、本当に小さい声で、私でも聴き取れないような声で……。
ありがとう。
と言った……。多分だけど。
「っ! そうこうしている間に……っ!」
アキにぃは目の前を見る。
私達も目の前を見ると、そこにいたのは、ヘルナイトさんが放った雷の攻撃を受けて、何とか命を繋ぎ止めているリヴァイアサン。
ところどころからバリバリと電気を放電させるようにして、呻き声を上げながら私達を睨んでいた。
それを見て、キョウヤさんはそっと私に赤黒い水晶玉を手渡し、シェーラちゃんと一緒に立ち上がって――武器を構える。
そして言った。
「時間を稼ぐっ!」
「ハンナ――あんたは準備して!」
キョウヤさん、シェーラちゃんの言葉に、私は頷く。ヘルナイトさんも大剣を構えて――
「私が攻撃をして怯ませる。その間に」
と言ったヘルナイトさん。その言葉を聞いたアキにぃ達はヘルナイトさんの言葉に答えるように返事を揃えて言う。
「「オッケーッ!」」
その言葉を合図に、アキにぃも私の隣で銃口をリヴァイアサンに向ける。それを見て、私は赤黒い水晶玉を持ったまま、みんなのサポートに回る。
ナヴィちゃんはそれを聞いてか、ぐわぁっと大きく回って旋回しながら、リヴァイアサンの背後に向かって、じゃきんっと伸びた爪をそのリヴァイアサンの体に食い込ませるように――
がっしりと掴んだ。
それを感じて、リヴァイアサンはナヴィちゃんの首元に、その長い首をうねらせて、そのままぶしゅっと血が出るくらい噛み付いた。
「――ナヴィちゃんっ!」
私は慌ててしまい叫んだ。そして手をかざして――
「『中治癒』ッ!」
ふわりと、ナヴィちゃんを覆う黄緑色の靄。それを受けてナヴィちゃんはぐるぅっと唸って――負けじとと言わんばかりに、爪を食い込ませながら、リヴァイアサンと同じように、首元にガブリ! と噛み付いた。
それを受けてリヴァイアサンは「グギュウウウウウウウッッ!」と噛み付きながら唸り、そのままぐるんぐるんっとナヴィちゃんを振り落とそうと回りだす。
ところどころで岩に当たったり、シェーラちゃんが凍らせた氷にぶつかったりして、ナヴィちゃんを傷つけていく。
「っ!」
私は手をかざして――
「『小治癒』ッ! 『小治癒』ッ! 『小治癒』ッ!」
どんどん、重ねかけをするように――私は必死に『回復』スキルをかける。
これでは……、無理をさせているようにしか見えないけど……、『盾』スキルをかけたとしても、きっとリヴァイアサンの攻撃を防ぐようなことはできない。
だから回復しかできない。
ナヴィちゃんを傷つけてしまう。無理をさせてしまう……。ぎゅっと目を瞑って、私は願うしかない……。
こう、無理をさせてしまう願いを、口にすることしかできなかった…………。
「ナヴィちゃん……、無理……しな」
「ナヴィ!」
「っ!」
後悔して言葉を零そうとした瞬間、アキにぃの声が聞こえた。
目を開けると……アキにぃはいつの間にか、ナヴィちゃんの頭の上に移動してて、そのうえで銃口を構えながら――アキにぃはナヴィちゃんの頭を撫でて……。
「――グッジョブ」と言って、銃口を構えて――
「……どんどらの時、これ使わないでおいてよかった……。こんな時使えないってことになったら、サラマンダーの時に二の舞になっていたし」
アキにぃは小さく言っていた気がしたけど、私には聞こえなかった。アキにぃは銃口を構えて――目の前でナヴィちゃんが噛み付いて動きを止めているリヴァイアサンの頭目掛けて……。
「――『必中の狙撃』ッ!」
だぁんっ! と――
リヴァイアサンの頭……ナヴィちゃんの首元に噛みついているので、アキにぃはその目の下を狙って、アキにぃは撃った。そして、リヴァイアサンの眼の下に向かって、一直線の銃弾が飛び……。
どぉんっという音が出そうな勢いで、銃弾はリヴァイアサンの眼の下を貫通し、ナヴィちゃんの体を傷つけないように、上顎から下顎に向かって斜めにどしゅっと貫通した。
それを受けたリヴァイアサンは、ナヴィちゃんから離れ、そのまま痛みを訴えるように口から、目の下から血を流して暴れる。ナヴィちゃんはバッとすぐに離れて――
「――すまない」
アキにぃと交代するようにヘルナイトさんが跳び、そして大剣を構えたまますっとシェーラちゃんがしていた刺突の構えをして……、その大剣にバリバリッと電気を発電させて、どんどんリヴァイアサンに向かって落ちていき……。
「――『雷鳴突乱』っ!」
電気帯びた大剣を使って、リヴァイアサンに向けて――
バシュシュシュシュシュシュシュッッッ!
と、刺突の雨の攻撃を繰り出した。
それを受けて、リヴァイアサンは「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!」と叫びを上げる。
空中で刺突をしているヘルナイトさんはすぐにその攻撃をやめて、周りを飛んでいるナヴィちゃんに向かって――
「――今だっ!」と叫ぶ。
それを聞いて、ナヴィちゃんはぐんっと、落ちていくヘルナイトさんに向かって受け止めようと飛ぶ。けど……。リヴァイアサンはそんなナヴィちゃんに向かって――こぉぉぉっと口から何かを出すように、火を吐くように息を吸っていた。
「あれ……っ!? やばい……っ!」とアキにぃが驚いて見上げた瞬間――
――『激流渦槍』――
バシュッ! と、口から大量の水――ううん、大量の水が、大きな槍の形となって、渦を巻いているそれに形を変えて、ギュルルルルっと回転しながら私達に向かって、ナヴィちゃんに向かって放たれたのだ。
それを見て、私は手をかざして『激流囲強盾』を出そうとした時――
シェーラちゃんは前に出て――剣先を天空に向けて……。
「――『滝の窓掛』!」
剣に水が纏われた瞬間、シェーラちゃんはそのままぐるんっと回って、その水を纏った剣を振りまわした。
すると……、私達に回りに水のカーテンがひらひらと靡かせながら揺れる。
どんどん迫ってくるリヴァイアサンの攻撃をばしゃぁっと受けて、そのまま横にそらしたのだ。
水の槍は崖の下にある岩に激突する。
それを見て、私はシェーラちゃんを見上げる。シェーラちゃんは言った。
「これが私が持っている二つの詠唱。一つは特殊の『氷河の再来』そして……。『滝の窓掛』は、敵の攻撃を受け流す防御詠唱よ」
と、凛々しく、強気でそう言った。
リヴァイアサンをそれを見て驚きを隠せないでいると……、ナヴィちゃんはすぐにヘルナイトさんを乗せて、また旋回しながら飛ぶ。それを見て、ヘルナイトさんは私を見て、頷く。
私も頷て――ぎゅっと自分の目の前で手を絡めて唱える。
「此の世を統べし八百万の神々よ」
「この世を総べる万物の神々たちよ」
いつもなら目を閉じるのだけど、今回ばかりは違う。この飛んでいる状況で目を瞑ってしまうと危ないから、私は目を開けて見る。
ナヴィちゃんはその声を聞いて、ぎゅんっと全力で飛びながら、リヴァイアサンに向かってまたしがみつく。今度は前から。それを受けたリヴァイアサンは、長い尻尾を使って殴ろうとした時――
「ぅうおおおおおおおおおおおおーっっ!」
獣のように叫んで、だんっと尻尾を使って跳躍したキョウヤさんはそのまま槍の先をポイズンスコーピオンの時のように赤く大きな刃にして、そのまま両手を使って、そのリヴァイアサンの攻撃を防ぐ。
「――『殲滅槍』っ!」
がんっ! ガンッ! ダァンッ! と――鈍い音を出しながらリヴァイアサンの攻撃を防ぐキョウヤさん。私はその間も唱え続ける。
「我はこの世の厄災を浄化せし天の使い也」
「我はこの世の厄災を断ち切る魔の王也」
ヘルナイトさんが持っている短剣が光り、そのまますぅーっと引き抜くヘルナイトさん。
シェーラちゃんも剣を鞭のように……って、え? 鞭? と思ってしまったけど、そこは後で聞くことにしよう。シェーラちゃんはキョウヤさんの攻撃のサポートをするように、ばしんばしんっとしならせてリヴァイアサンの攻撃を防ぐ。
「我思うは癒しの光。我願うはこの世の平和と光」
「我思うは闇を断ち切る光。我願うはこの世の安息と秩序、そして永劫の泰平」
すぅーっと引き抜くと、短剣は光を帯びて、長くなっていき、やがては普通の剣のように長くて光る……、聖剣としての姿を現す。
「この世を滅ぼさんとする黒き厄災の息吹を、天の息吹を以て――浄化せん」
「この世を滅ぼさんとする黒き厄災の刃を、我が退魔の剣を以て――鉄槌を食らわす」
アキにぃはそれを見て、銃で応戦してから――二人に向かって。
「離れろっ!」と叫ぶ。
それを聞いて、二人はだんっとその場から跳んで逃げて――ヘルナイトさんと入れ替わるように、ナヴィちゃんの背中に戻ってきた。ヘルナイトさんは跳躍したまま、口を大きく開けて、ヘルナイトさんごと食べようとしているリヴァイアサンに向かって――
「――『断罪の晩餐』」
ジャキィン!
と、リヴァイアサンと交差して、斬った音が聞こえたと同時に……。
ザシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッッッ!
と、一回しか聞こえなかった斬れた音が、リヴァイアサンを覆うような斬撃音と斬撃を出して、靄を切り刻む。
そのままヘルナイトさんは私を見て――
「――ハンナッ!」
と言ったと同時に、キョウヤさんはその赤黒い水晶玉をもって、それを――
「ううううおおりゃああああああああああああああああああああっっっ!」
ぶんっという音が聞こえるくらいの勢いで、リヴァイアサンの頭上にその水晶玉を投げた。
それを見て、私はすぅっと息を吸って――
「――やめてくれええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっ!!」
遠くで、アクアロイア王の声が聞こえた。でも……、私は、やめる気などなかった。
口の前に手を向け、息を吹きかけるように手を近付けて――
「――『大天使の息吹』」
私は迷いを捨て、目の前にいる二つの命を救う気持ちを固めながら……、ふぅっと息を吹きかける。
息を吹きかけると出てくる白い気体。
よく見る風が吹き抜けるような、そんな流れる風は、リヴァイアサンに向かって、そして包み込むように周りを回る。
私が吹きかけた吐息は、形を変えて、慈愛溢れる聖女に姿を変えて、私がしたのと同じように、リヴァイアサンと、赤黒い水晶玉を手に取りながら、その水晶玉とリヴァイアサンにふぅっと――光輝く吐息をかけた。
キラキラ輝くそれは、リヴァイアサンと赤黒い水晶玉を包んで……。
痛みと暴走している咆哮を上げているリヴァイアサンから離れたナヴィちゃんは、ばさばさと飛びながら、ヘルナイトさんを回収して、その光輝く風景を見て、旋回していた。
マドゥードナの街を覆う光は……、天候にも影響しているのか――
雨が降っていた雨雲が晴れて……、どんどん青い空が顔を出す。
それを見上げていると……。
(ありがとう)
「!」
どこからか声が聞こえた。聞いたことがない声だ。それを聞いて、私は辺りを見回すけど……、どこにも、その声の主はいなかった。ううん。いたのだ……。
私の手元から離れて、アクアロイア王の手のもとから離れて……、今……、きっと浄化されたんだ……。
私はぎゅっと自分の胸のところで握り拳を作る。悲しいのではない……。ただ、嬉しいといえば違う。これは……、複雑な感情だ。
どう表現したらいいのかわからない状態で、私は晴れた空を見上げた。
すると……。
――とん。
「?」
頬に当たったごつごつした何か。それを感じて、私はそのごつごつした何かを見ようと右を見ると……、目の前に広がったのは――リヴァイアサンの顔。
「ひゃっ!」
私は驚いて声を上げてしまった。それを見て乾いた笑みと共に尻餅をついているアキにぃ。腰に手を当てて呆れているシェーラちゃん。そして私と同じように空を見上げていたキョウヤさんがいて、ヘルナイトさんは私の背中を支えながら――
「――二つ……浄化できた」
よかったな。と、凛とした声で言ってくれた。
そう言われ、私はふっと――リヴァイアサンを見ると、リヴァイアサンはくりっと私の髪に上顎の鼻の位置の部位をこすりつけて――
――ありがとう。天の者よ。あなたのおかげで私を覆い、狂わせていた邪の力が解放されました――
と言った。
そう、リヴァイアサンが浄化され、私の近くには――透明な割れた水晶玉がそこにあった。
◆ ◆
リヴァイアサン――浄化成功。
残りの『八神』――あと五体。