PLAY32 激闘! ネルセス・シュローサⅤ(本当の強さ)①
ぼおおおおおおっと巻き上がる風。
それを受けて目を瞑っていたけど、何とか目を開けて私は目の前にいるリヴァイアサンを見る。
リヴァイアサンを苦しそうに、さっきまで聞こえていた声が聞こえなくなったことにより、もう暴走して自我が壊れてしまっているのではないかと思いながら……、私は目の前にいるリヴァイアサンを見た。
不安そうに、その姿を見て……。
「グルゥ?」
「!」
突然ナヴィちゃんが私を目だけで見上げて心配そうな声を上げた。それを聞いた私ははっとして、すぐにナヴィちゃんの背を撫でながら……。
「ごめんね……、なんでもないよ」と言った。
それを聞いたナヴィちゃんは「ぐるるるる」と唸りながら喉を鳴らしていた……。と思う。多分安心してと言う気持ちを添えた唸り声だろう……。
聞いただけではわからない。雰囲気で察したことだから正直これが正解かわからない。
……今思ったけど、これはよく聞く猫の『ごろごろ』声、喉を鳴らすそれなのかな……?
すると――
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!」
咆哮を上げて私達にその大きな口を向けているリヴァイアサン。
ぶわりと黒い靄が大きくなるのが見えた。
それを見て、ヘルナイトさんは大剣を構えながらこう言う。
「瘴気が濃くなっている。このままでは本当に暴走しかねないぞ……」
それを聞いた私はリヴァイアサンをもう一度見た。そして耳を澄ます。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!」
だめだ……。聞こえない……。
そう思ってリヴァイアサンを見る。見た限りは怒っているようにも見えるそれだけど……、あの時の声は違った。
あの声は痛がっていた……、苦しんでいた。
悲しんでいた。
だから……、だからこそ……。
「ハンナ」
そう思った瞬間、アキにぃが私を見て言う。
それを聞いた私はアキにぃを見て、そのアキにぃの隣にいたヘルナイトさんと一緒に見ると……、アキにぃは銃を構えながら――
「何とか『ジオ・ショット』で弱らせる。ヘルナイトも雷系の技があればよろしく」
「心得た」
アキにぃの言葉を聞いて、ヘルナイトさんも頷いた。
それを聞いた私は目の前を見て、飛行はナヴィちゃんに任せながら、私達はナヴィちゃんの背中で、リヴァイアサンに立ち向かおうとする。
私は補助の『盾』スキルを駆使して、何とか二人のサポートに専念しよう。
そう思いながらすっと……、崖の近くで戦っているキョウヤさんとシェーラちゃんを見た。
小さく見えるその光景を見て、私はそっと願う。
二人共……、怪我をしないで……。と。
◆ ◆
ハンナ達は大きくなったナヴィの背に乗り、リヴァイアサンと対峙している最中――シェーラとキョウヤ、そして巻き込まれてしまったエレンとララティラは、その四人によって挟み撃ちになっているアクアロイア王とネルセスを見た。
「てか……」と言いながら、エレンはネルセスを見る。
ネルセスはけらけら笑い、泣いているのか苛立ってるのかすらわからない表情で、シェーラを見ながらぶつぶつと何かを呟いていた。
呂律も回らない言葉で、視点も定まってない目の動きで、彼女はシェーラのことを見ながら恨みつらみと言わんばかりの言葉を並べていたのだ。
言葉は分からないが、雰囲気からしてそう思ったシェーラは、くぁってしまったネルセスのことを見て憐れんだ目をしたが、エレンだけはそんな彼女を見て……こう思った。
――ネルセス……。何かあったのか?
先程までとは違う豹変の様子に困惑しながら思ったエレンはキョウヤを見て、彼に向かって聞いた。
「一体何があったんだ……?」
少し遠慮がちに言うエレン。
ララティラはそれを見て……、なに遠慮しとんのや。と苛立ちながら見ていたが、エレンとしてはそれが当たり前の対応……。反応であろう。
エレンは彼等と再会した時、一応ネルセスの仲間としていた。
それだからこそ、きっと敵対心を持っていると思って、エレンは恐る恐ると、遠慮がちに言うことにしたのだが……。
「あぁ……ちょっとここにいる王様が外道でな」
「そう……、なんだな……」
――なんだが、心配することでもなかったのか……。そうエレンは内心ほっと胸を撫で下ろしていた。ララティラはそれを聞いて、キョウヤに聞く。
「外道って……、一体……」
と聞くと、キョウヤはくいっとアクアロイア王を顎で指さして、苛立った音色で、今丁度立ち上がり赤黒い水晶玉を持って警戒しているアクアロイア王を見て、彼は言った。
「あの水晶玉……、魔女の血を使って作った、リヴァイアサンのコントローラーだ」
「魔女……? それって」
と言った瞬間、エレンははっとしてシェーラを見て、慌てて彼は彼女に向かってこう聞いた。
「って! 君シェーラちゃんだよね?」
と聞くと、シェーラはじろりとエレンを睨みながら、彼女は「そうよ」とそっけなく答える。それを見て、聞いたエレンは内心驚きながらシャイナと同じ分類の子だと思い、彼はシェーラに聞いた。
「あ、君って」
と言った瞬間だった。
「――『泥ノ沼』ッ!」
アクアロイア王がその赤黒い水晶玉を天に向けて掲げた瞬間だった。
どろりと、キョウヤ、エレン、ララティラとシェーラの足元がぬかるんだ。
先ほどまで足元がしっかりしていた場所が……、突然ぬかるんだのだ。
しかも……、底なし沼のようにドロドロと彼らを飲み込んでいく。
「うぉっと!」
「なんだこれっ!」
「うぎゃぁ! 汚れるぅ!」
「っ!」
キョウヤがいち早くそのぬかるみを感じて、その場で跳躍した後で後ろに後退する。
エレンとララティラは訳も分からずにどぶりと足を取られ、シェーラは何とか逃げようとしたが、左足が足に入ってしまい、泥濘に飲み込まれていく。
それを見たキョウヤは固い地面に足をつけてアクアロイア王を睨んだ。
「てめぇ……、今の……っ!」
そう言ったキョウヤに対し、王はその赤黒い水晶を見せつけて、彼は狂気の笑みで笑いながらこう言った。
「言ったはずだぞぉ! これは『泥』の魔女の血で作られた魔導具! 制御もしかり! そして私のような魔力を持っていない人でも、魔法が使える! 魔女の力が使えるということだっ!」
――どこまでも外道ってことかっ!
そのことに対して、説明など不要であろう。アクアロイア王のしていることは……、もはや人がすることではない。その力を使うことは……、もはや怒りしかない行為でもあるからだ。
特に、亜人の郷で出会ったクルクや最長老、そしてその郷で起こった悲しい事件を聞けば……、誰だって怒りを露にする。なにせ、身勝手な理由で彼らは大勢の人の……、獣人達の人生を狂わせたのだから……。
それを見て聞いたエレンははっとし――
「まさか……っ! その水晶玉……! マースさんやダンゲルさんのような人の血が入っている……っ!?」
「……簡単に言うと、そんな感じ……」
エレンとララティラの驚愕の顔を見て、キョウヤはすぐに尻尾をしならせ、急加速でアクアロイア王に向かおうとした。
ぐっと身を屈めて、クラウチングスタートのように構えながら……、彼は尻尾をしならせると同時に、足を動かし――
――ばしぃんっと、地面を叩いたと同時に急加速で駆け出す。
そのままぬかるんだ泥沼を飛び越え、彼はその跳躍をしたまま槍を振り回し、王が持っている赤黒い水晶玉を狙い、彼は槍を振り回した。
かんっと、野球のように飛ばして壊そうとした。
が――そううまくはいかなかった。
「――『泥壁』ッ!」
どぶんっと、キョウヤの前に現れる泥の壁。それを見たキョウヤはぎょっとしながらなんとか止まろうとしたが、急加速したせいで止めることなどできない。
そのままアクアロイア王の策に嵌るかのように、どぶりとその壁に突っ込んでしまった。
「キョウヤさんっ!」
「キョウヤくん!」
「キョウヤッ!」
ハンナ、エレン、シェーラが叫ぶ。
キョウヤは泥の壁に突っ込んでしまったが、顔が出ているので呼吸は大丈夫だろう。胴体に纏わりつくその泥はキョウヤを拘束するように、どろどろとキョウヤの胴体に絡みつく。
「うぇっ! げほっ! んだよこれ! 気持ちわりぃ!」
と言いながら、キョウヤは胴体に絡みついてくる泥を叩く。
しかし弾力を含んでいるその泥は、キョウヤは握り拳で叩いても、ただべちゃんっと崩れて、すぐに修復して戻ってしまう。
それを見たキョウヤは、ぐっと顔を歪ませる。
それを見て、アクアロイア王はキョウヤに向かって、警戒などもしないで近づいて――彼に向かってこう言った。
「あはははは! 無様だな蜥蜴よ。蜥蜴は蜥蜴らしく、そうやってもがく姿が滑稽なのだ。何せ尻尾の先を掴んで鑑賞すると、これまた滑稽でなぁああはははははははははっ!」
「――っ!」
その言葉を聞いて、自分を見ながら嘲笑うアクアロイア王。
その言葉と下種の笑みを聞いて、彼は尻尾をしならせた。
胴体しか拘束していないので、足と尻尾は健在。だが足がつかないところに拘束されてしまったので、事実上身動きが取れない状態にあった。
それを見て、シェーラはすぐにぬかるみにはまった足を引っこ抜いて、二本の剣を抜刀したまま彼女は「すぐに助ける!」と言った。しかし――
「きいいいえええええええええええええっっっ!」
「っ! っっ!」
突如彼女の右側に来たネルセスの貫手。
それを目の端で捉えたシェーラは、ぐんっと屈んでその攻撃を避ける。その最中――彼女の髪の毛が数本犠牲になってしまったが……。
それでも、シェーラは屈みながらぬかるんでいる泥を避けつつ、ネルセスの方を見た。
「貴様を殺す。貴様を殺す! 貴様を殺す!」
その言葉を聞きながら、彼女は狂気に飲み込まれて、人格が変貌してしまった彼女を見て……。
――憐れね。と憐みの眼で彼女を見た。
アクアロイア王はそんな彼女を見て、きっと怖気づいてしまったと思ったのだろう。彼はそんな彼女を見てこう言った。
「そうだったな! 貴様はそこの大馬鹿女のことを臆していたそうではないかっ! それでは演技をしていた私と同じ……『弱肉の臆王』ならぬ、『弱肉の臆女』だなっ! ははは! となればこの戦いは、貴様らにとってすれば負け戦も同然! 『泥』の魔法を使って、このまま貴様らを生き埋めにしてやるっ!」
しかし――
シェーラは王の話を聞いても、今目の前で自分を殺そうとしているネルセスを見ても……、不思議と怖くなかった。
むしろ……、さっきまでの恐怖が嘘のように、彼女は面と向かって、ネルセスに剣を向けることができていた。
――わからない。しかし不思議と……、ハンナと手を握ってから……、不思議とできると思った。不思議と……、足が前に進んで、自然な形で避けることができた。冷静になっている。恐怖でがちがちになっていない。
――コンディションもいい。
そう思いながらアクアロイア王の言葉を聞き、シェーラはすっと立ち上がると、ぎゅっと二本の剣をしっかり持って――息を吸って、吐く。
そしてシェーラは、クイーンモスラのスキル……『モスラネイル』を出したネルセスを見て、だっと、流れるように駆け出す。
ネルセスはじゃきりと伸ばした十指の爪を、駆け出して近づくシェーラに向けて、猫が引っ掻くように爪を立てた。
それを見たシェーラは剣を使ってその爪を横に流した。
ぎゃりんっ! と――
爪の攻撃を跳ね返されたネルセスは、ぎょっとした目でその指を――手を見る。捌かれた左手を見ると……。
彼女の掌からどろりと血が出ていた。
斬られたのだ。左手の掌を……、斬られた。たったそれだけなのだが、ネルセスにとってすればそれは……、シェーラに対する憎しみを増大させるほどの変容でもあり――
変化だった。
シェーラを見下しているネルセス。じろりと目を向けると――目を疑った。
シェーラは……にっと緩く口元を緩めて――笑っていた。
余裕の笑みだった。
それを見てネルセスはぎりぎりと、歯ぐきから血が出るくらい食いしばり……。
「きいいいいええええええええええええええっっっっ!」
爬虫類のような奇声を上げながら、シェーラに向かって十指の貫手を繰り出す。が、シェーラもその貫手を、二本の剣で捌く。
「きいいいいいああああああああああああっっっっ!!」
ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっっっ!!
ネルセスの奇声と、互いに鬩ぎあい、研ぎ澄まされあう爪と剣の音。
互いの攻撃が鬩ぎ合う中――ところどころに散らばる火花。それが互いの強さを、その拮抗の凄まじさを物語る。
それを見ていたアクアロイア王は、気圧されていた。
ただその光景を見て、茫然とし、見ることしかできなかった。
入れない。入ったら殺される。そう思ったから、入らないで、茫然とその光景を見ることしかできなかった。すると――
「『旋風』ッ!」
「っ!?」
背後から聞こえた声。
その声を聞いたアクアロイア王は、ばっと振り返ると、その光景を見て――目を疑って「あ……、あぁ?」と、声を漏らした。
そう、そこにいたのは――杖を下に向けていたララティラの手を掴んでいるエレンの姿。彼女と一緒に泥から脱出した二人は、服を汚しながらアクアロイア王を見た。
「ありがと! ティラ!」
「服も汚れた。今日は最悪な一日やわっ!」
「あとでなんか買ってやるっ!」
「約束やで!」
そんな会話をしながら、固い地面に着地する二人。それを見てアクアロイア王は「ま。まだ」と言って、水晶玉を持っている手をかざした瞬間――
「――『雷槍』」
ヘルナイトの凛とした声が聞こえたと同時に、パチンッと指が鳴る。
刹那。
ドォオオンッッッ!
リヴァイアサンがいる場所に、まるで雷の槍が降ったかのように落ちる雷。
それを受けたリヴァイアサンは――
「グキェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」
大きな大きな痛みの叫びを上げながら、リヴァイアサンはそれを受けてびりびりと震えていた。体全体が黄色く迸る。それを見て……、アクアロイア王はそのまま、茫然と、ヘルナイトの力を垣間見て……。
へにゃんっと腰を抜かす。すると、手に持っていたそれを見て、キョウヤはエレンを見て叫ぶ。
「エレンさんっ! すいませんけどその水晶玉!」
「っ! わーった!」
キョウヤの声を聞き、エレンはだっと旋回しながら駆け出し、王が持っている水晶玉に手を伸ばす。
シェーラもネルセスに向かって、切削音を奏でていた拮抗をやめ、ふっと後ろに後退した後……。
「さぁさ凍てつくせ――氷の聖霊よ」
彼女は口ずさむ。ゆらりと立ち上がりながらすぐに駆け出し、彼女は唱え続ける。
エレンはぱしりと水晶玉を掴んで、ゴロンっと回った後で、アクアロイア王はエレンと水晶玉が紛失したことに気付く。
「我思うはこの吐息はそなた達の優しき調べと眠りの知らせ」
そう言いながら、彼女は先程とは打って変わってネルセスの攻撃を避ける。
目を瞑りながら、まるで滑って避けているかのように彼女は避ける。避ける。避ける――!
「ティラァ!」
エレンが叫ぶと同時に、ララティラは持っていた杖を、エレンがふっと上に向けて投げた赤黒い水晶玉に向けて――
「『風』ッ!」
彼女は先ほどよりも優しい風で、その水晶玉に向けて風を出した。
ふわりと浮いて、そのまま重力に従って落ちていく水晶玉を……。
懸命に腕を伸ばしたキョウヤの手にすっぽりと収まる。
「貴様……っ!」
アクアロイア王はキョウヤを睨みながら手を伸ばす。
「我願う――命与えし原水と対をなす命の灯、凍らせんその吐息にて……半永劫の眠りを与えん」
くるりと回り、ネルセスの貫手を避けたシェーラはすっと時計回りに回って、ネルセスに向けて冷気を出している剣を向ける。
それを見たネルセスは、はっと思い出す。
――今、何と言った? 我思う……、我……願う……。
――ということはっ!
ネルセスは避けようとしたが、時すでに遅し。シェーラは剣を構え、そのまま刺突の剣を彼女の腹部に向けて――ひゅっと冷気を放つその剣を、一気に前に向けて……。
どっとネルセスの胴体にそれを、突き刺し――彼女は放つ。ネルセスの胴体を貫通するその瞬間に――
「――『氷河の再来』ッ!」
そう彼女が叫んだと同時に、キョウヤ達の周りの空気が冷たくなった。
それを感じて、キョウヤ達は違和感を感じて、周りを見た瞬間――
バキバキバキバキバキッ!
ネルセスを中心に――氷が、否、急激な冷気が襲い掛かり、その冷気に負けて、地面が、草が、ネルセスの体が、ぬかるんだ地面が凍り始める!
まるで、突然氷河期に入ったかのように――どんどん凍り付いていく!
それを見て、エレンとララティラはすぐにその場から逃げる。
キョウヤは拘束されているので、赤黒い水晶玉を持ったまま受けることしかできなかった。
アクアロイア王はその冷気を受けて、成す術もなく受け止めてしまう。
ハンナ達はそれを見て……、茫然として見た。
そのシェーラが放った一帯が――まるでマンモスがいた時代のように、氷の世界が出来上がっていたのだ。崖となっているその場所だけが氷の世界。別世界となっているそれを見てアキは「怖っ」と身震いをした。
シェーラは凍ってない体で、すっと目の前にいるネルセスを見る。
ネルセスは――全身を氷で覆って、氷漬けにされていた。綺麗に言うのであれば……、氷の中にあるオブジェだろう。
それを見たシェーラはずっと氷の中に入っていた剣を引き抜き――すっとネルセスの前に立って……。
「みんな……、弱い。私も、あんたも……みんな、弱い」
そう言ってシェーラはだっとその場から去るように駆け出し、キョウヤがいる方向を見て叫ぶ。
――なら、本当の強さは何なのかしら。
「キョウヤ! すぐに壊すっ!」
「お、おぉ……っ! 凍傷しそうだ……っ!」
シェーラが駆け出して向かうと、キョウヤは髪の毛まで凍ってしまった体を震わせながら、シェーラを見て言う。
すでに体の一部が凍っている。
しかし腕の中に抱えているその赤黒い水晶玉は壊れていない。
それを見て、シェーラはぐんっと左手に持っていた剣を振るって――
「属性剣技魔法――『旋風剣』ッ!」
ふわりと風を纏った剣を振るい、ばぎぃんっと氷漬けになった泥の拘束を壊す。
キョウヤはそのまま『すとんっ』と足をつけると「うおおおっ! 寒ぃ!」と言いながら腕をさする。しかしキョウヤの叫びを無視するようにシェーラはキョウヤの前を通り過ぎながら「行くわよっ!」と言って走り出す。
――わからない。きっとそれは……、師匠も分からなかったに違いない。
キョウヤはそれを見て頷いて、駆け出す。
エレン達はそれを見て「あ」と言って止めようとしたが――シェーラはその二人を見てこう言った。
「あと少しなの! 話なら――後で聞くわっ!」
――だから探していた。
――だから、私も探す。
そう言ってシェーラとキョウヤはぐっと崖に足をつけ、飛び込むように身を乗り出す。
――表面だけの強さだけでは、補えない弱さ。
――その弱さを背負って……、見つけ出す。
――本当の強さを。
そう思いながらシェーラはキョウヤと一緒に――崖から飛び降りた。