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PLAY31 激闘! ネルセス・シュローサⅣ(真の絶望)③

『八神』が一体。『水』のリヴァイアサン。


 体中に出ている水の風船を浮かせ、水を思わせるような青と水色の鱗が色鮮やかにその体を彩り、日の光に当たることでその美しさが際立つ日本伝来の竜の姿をした……、サラマンダーよりも二倍大きい海竜。


 海の上に浮かび、全ての水に潤いと生命を与える――まさに海の神の名に相応しい行いをしているリヴァイアサン。


 だが今となってすればその面影すら見えない状態になってしまい……、『八神』リヴァイアサンは――暴走竜と化してしまった。



 ◆     ◆





 グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!





 轟音に近いその咆哮。


 それはこの監獄街マドゥードナを覆い尽くすだけに留まらず、その咆哮はアクアロイア、ユワコク、亜人の郷、聖霊の緒……にいた住人が耳を塞ぐほどの大きな声だった。


 その咆哮を上げながらリヴァイアサンは大海原を滑走し、水飛沫を上げながらマドゥードナに向かって飛ぶ。


 それを見たアクアロイア王は「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!」と気が狂ったかのような声を上げる。


 それを見たネルセスは顔を引き攣らせ、アクアロイア王の行動に混乱しながら彼女は言った。


「な、なにをしようとしておるのだっ!? 貴様……、一体何が目的で……」

「目的だとぉ?」 


 ネルセスの言葉に、アクアロイア王はリヴァイアサンを見ていたその体をネルセスに向けて「言った通りだ」と言ってから――


「ここで私が操る()()()()()()()()()()になってもらうと言ったのだが?」

「そ、そなた言ってたではないかっ! まだリヴァイアサンを制御しきれていない……。完成しないかもしれないと」

「あぁ。あれな、あれはな……、()なのだ」

「う……そ……?」


 ネルセスは『ガクリ』と立ち上がった体の糸が切れたかのようにずたんっとへたり込み、未だに彼女を見下ろし、狂気に嘲笑うアクアロイア王を見上げて彼女は聞いた。


 そこにいたのは――冷酷で、非道の限りを尽くした『ネルセス・シュローサ』のボスではない。ただ一人の……、慎重で信じるという心を失ってしまった……ただの女性がそこにいた。


 彼女は茫然とした表情で、アクアロイア王に聞く。


「まさか……、貴様っ! 初めから……っ! 妾を騙したのか……っ!? そのような気弱な演技をしてまで……っ!?」


 ゴロゴロゴロッ! 


 雲行きが怪しくなる空。薄暗さに黒が勝り始め、次第に雷の音まで聞こえてきた。


 そんな中、ネルセスはアクアロイア王に聞いた。アクアロイア王はそれを聞いて、ふっと狂気の笑みをやめて、彼は彼女に顔を近付けて……、そして、ゆっくりと口を開いた……。


「――そうだよっっ! 全部演技だっ!」


 ぐぱぁっと口を大きく開け、口裂け女のような笑みを体現し、アクアロイア王はネルセスに対し舌をべろりと突き出しながら、人間とは思えない表情と笑み、そして目で、彼は『弱肉の臆王』名に相応しくない言葉を放った。


 マシンガンのように放った。



「演技している間貴様は私のことをどう思っていたっ!? 『あぁなんて頼りない王なのだろう』と! しかし私はそんな貴様を見て逆にこう思っていたよっ! 『あぁなんて無様な醜悪女だ。こんな疑心の塊のような女を傀儡にするのはさも簡単そうだ』と思っていた! 案の定貴様は私のことを侮りすぎていたっ! 舐め過ぎていたのだよぉ! この私を! 私が『弱肉の臆王』? それは違うぞ! 私はこのアクアロイアを牛耳り、バトラヴィア帝国の者たちをこの世から葬ることしか考えておらんっ! アクアロイアは……、アクアロイア帝国は私は牛耳ってこそふさわしいっ! そのために私は己を偽り、敵を欺き、味方を欺いたっ! 敵味方容赦なく欺き、とことん利用した! この『八神の御魂』を完成することができたのも……、魔女の血を使って作り上げた私だけのオリジナル! 血と汗と涙の結晶! 私しか作れない『八神』を暴走を加速させる魔導具っ!」



 アクアロイア王はネルセスの髪をつかみ上げ、そのままぐっと持ち上げる。


 ネルセスは痛みの声を唸らせ、しかめた顔でアクアロイア王を見ると、アクアロイア王は彼女の眼を見て、ぐにっと狂気の笑みで彼は彼女に言った。


 ()()()()()を――言ったのだ。


「――感謝するぞ。疑心の女帝。もう用済みだ」


「っ!」


 その言葉を聞いたネルセスは……、己の不甲斐なさを嘆いてか、はたまたアクアロイア王に対して怒りを覚えたのか――彼女はぐしゃりと顔を歪ませ、その頬から伝う涙なのか、大雨のせいで揺れてしまったのかもわからない、水滴るその顔を拭かないで、彼女はアクアロイア王の顔を睨みながら……。


「――貴様あああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!」


 ネルセスが激高した感情を爆発させたと同時に……、ぶわりと彼女とアクアロイア王の上を通り過ぎた青と水色の鱗を持った大きな魔物――否。『八神』が一体――リヴァイアサン。


 それを見上げて、ネルセスはハッと息をのんで、そしてアクアロイア王はそれを見て、ははっと笑い声を上げながら、彼は言った。手に持っている『八神の御魂』を掲げて――


「やるのだリヴァイアサン。ここにいる私とこの女以外の奴らを殺せ。殺しまくるのだ。貴様が持っている力を出し切るのだ。やれ――リヴァイアサン」

「っ!?」


 アクアロイア王の命令を聞いたかのように、リヴァイアサンは大きく咆哮を上げて、彼女達がいるところから離れていく。


 それを茫然としてみていたネルセスだったが……、アクアロイア王は彼女の髪を掴んだまま、二人の兵士にこう言った。


「この女を連れていけ。ゆくぞ」

「「はっ!」」


 二人の兵士が頭を下げ、そしてネルセスの両肩を持ち上げる。さながら囚われた何かだ。


 その状態でネルセスは微妙に足がつかないこの状況と、アクアロイア王の言葉に驚きを隠せず、彼女は「い、一体どうしたというのじゃ……っ!? なぜ妾を殺さんっ!」と、声を荒げながら聞くと、アクアロイア王はニッと狂気に笑みを零しながら……。


「気が変わった」といった。


 そして続けてこう言う。


「貴様の言葉の匠はなかなかにして使える。ゆえに利用価値があると見たのだ。だから幽閉し、私直属の侍女にでもなってもらう。そのためにも……、心残りをここで消してもらわないとな」

「――っ!」


 ――まさかっ!


 ネルセスはまさかという不安に襲われ、兵士に自由を奪われながらも足や手を使って暴れる。


「うぅっ! ぐぅ! ぎぃ! いやぁっ! あぁ!」と、叫びを上げては、ぶんぶんっと足を振ったり、手を動かして、バタバタと暴れる。しかしそれをしたところで、戦況や状況が絶望のままだ。


 つまり……。


「――無駄なあがきだ。さぁ。行くぞ」


 そう言って、アクアロイア王は前を歩く。そのあとをついていくネルセスを拘束した二人の兵士。ネルセスははっと焦りを浮かばせながら、彼女はあらん限りの力で暴れる。


「やめろ……っ! まて……っ! おいやめろっ!」


 叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。


「待ってくれっ! 待てっ!」


 彼女は叫ぶ、アクアロイア王は自分を見ようともしないが、それでも叫ぶ。叶わないと思っても叫んだ。


「消すな……っ! 消さないでくれ……っ!」


 どんどん、彼女の声色に水が含まれる。鼻水が出そうになる。嗚咽を吐き出しそうになる。


 そんな状態でも、アクアロイア王は彼女を見ない。己の願いのために、己の実験のために……、彼は人の感情に首なと突っ込まない。というか……。


 使える人は徹底的に使って利用し――捨てる。感情などいらないのだ。


 どこかで見たことがある正確に見える。しかし彼にとって徹底的というのは……、生涯を終えるまでということだ。つまるところ……。


 使える人間は――アクアロイア王の奴隷なのだ。


 アクアロイア王は狂いに狂い、人間の心がないように人を使う。たとえそれが……、冒険者であろうと、かれは徹底して使うのだ。


 ネルセスは嘆願した。ぐしゃぐしゃの顔で――視界がゆがむ中で、彼女は言った。嘆願して……、アクアロイア王に願った。



「頼むから……、『ネルセス・シュローサ』を壊さないでくれええええええええええええええええええええええええええっっっ!!」



 父が築き上げたマフィアを――家を、壊さないでくれ。


 そう願ったが、アクアロイア王は彼女に耳を傾けず、陽気にスキップをしそうな足踏みで目的の場所に向かっていた……。



 □     □



 突然だった。


 あの耳の鼓膜が破れそうな声が聞こえて、私達は耳を塞いでしまった。その声はアクアロイア中に響いていたと思う……。


 そしてすぐにその声は消えた。消えてすぐ、アキにぃは「何だったんだ……?」と、驚きの声で声がした方向を見ていた。キョウヤさんは耳がキンキンっとしている状態で目を回しながらふらついて、頭を抱えながら「うるせー声……っ!」と苛立った音色でいう。


 シイナさんも耳がいいのか、頭に生えている耳を抑えながら「うぅ」とうなって、ふらつきながら「大きな生物の声でしたね……」といった。


 それを聞いた私は、シェーラちゃんを支えながら頷く。


 シェーラちゃんは耳を防いで、私近くで頭を伏せながら黙っている。さっきから何も言わないけど……どうしたんだろう……。


 そう思っていると、突然私達の上を何かが通り過ぎる。青と水色の鱗が綺麗な、その体を取り巻く大きな水の塊。その姿を見た私は……ふとこう思った。大蛇のような……、違う。


 その飛んでいく竜の姿を見て、不覚にも、きれいと思ってしまったのだ。


 あの声を聴くまで――



 ――やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!――



「っ!」


 突然脳に伝わった大声。


 それを聞いてしまい、頭に直接その大声が伝わってしまったせいで、私は頭を抱えて蹲ってしまう。アキにぃは私を見て駆け寄りながら「ハンナっ!? 大丈夫かっ!」と、心配して駆け寄ってくれた。


 ヘルナイトさんとキクリさんも、頭を抱えながらその竜が飛んで行った方向を見て……、最初にブラドさんが言った。


「なんだありゃっ!」

「大っきいへびぃ」


 驚いてわたわたと慌てながら見ているブラドさんに、その竜を間近で見て驚きながらその竜が向かった方向を見ていた。


 みんなには……、聞こえていないんだ……っ。この声が……。


 この……。


 悲鳴が。


 ――やめてくれ! 私を操るものは誰だっ!――


 ――やめてくれっ! 私は『八神』が一体だぞ! 私は誰の指図も受けんぞっ!――


 ――ぐああああああああああああああああああああああああああああっっっ!――


 ――頭が引き裂かれるっ! 頭が熱いっ!――


 ――うわあああああああああああああああああっっ! 逃げてくれえええええええっ!――


 ――避けてくれえええええええええええええええええええっ! 逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!――


 ――助けてくれっ! 助けてくれっ! 助けてくれええええええっっっ!――




 ――うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!――




「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」




「っ!」


 叫びと咆哮が入り混じる。


 ううん……、この咆哮こそが叫びなんだ……。


 みんなにはうるさい咆哮にしか聞こえていないみたいだけど……、私や、ヘルナイトさんとキクリさんには聞こえている……。


 あの竜の……、ううん……。 


『八神』が一体――リヴァイアサンの魂の叫びが。


 それを聞いて私は立ち上がる。


 よろけてしまったせいで、アキにぃは私を支えながら「大丈夫か?」と、心配そうに声をかけてくれたけど……、私は首を横に振って「大丈夫」と控えめに微笑みながら言った。


 それを聞いてアキにぃは私を見下ろし、それでも心配そうな顔をして「そうか……?」と言うと、ヘルナイトさんは頭を抱えながら近付き、そして……。


「あの竜……、あの竜がリヴァイアサンだ」といった。


 それを聞いたアキにぃはぎょっとしながら「嘘だろっ!? あの竜が!?」と驚きの声を上げて言った。


 それを聞いていたジルバさんは「あれが……? なのかな?」と、信じられないことを聞いたかのように、引き攣った笑みで飄々としてヘルナイトさんに聞くと、彼は頷く。


 私も頷いて「本当です……、声が聞こえました」と言った。


「声……? あのうなり声が?」


 ジルバさんはきょとんっと首を傾げながら私に聞いた。


 それを聞いた私は「あ」と声を零す。その言葉にロフィーゼさんとシイナさんがジルバさんと同じように首を傾げていたけど……、その疑問に対して――


「私達魔王族と、天族にしか聞こえない声があるの。それが『八神』の声。それを聞いて分かったの。今咆哮を上げているあの魔物が……リヴァイアサンだって」


 キクリさんは頭を抱えながら言う。


 それを見たロフィーゼさんは、「あらぁっ」と驚きながらキクリさんに近づいて――大丈夫? と聞きながら彼女の肩に手を置いた。


 それを聞いてキクリさんは無理している笑みで「大丈夫よ」と言って、心配をかけまいとしていた。


 それを見て、私はそっとリヴァイアサンが向かった方向を見る。


 あの苦しい声……、叫び声……。


 泣いているようにも聞こえた。助けを求めていた。


 泣きながら助けを求めていた。


 行かないと。救けないと。


 そう思った私は、無意識に足を動かしていた。シェーラちゃんをジルバさんに任せて……私はそのリヴァイアサンがいるその方向に。そう思った私だけど、その足を止めるようなことが起きた。


 強いて言うなら……聞いてしまったのほうが……、正しかった。



「うわあああああああああああああああああっっ!」

「ぎゃあああああああああああああああああっっ!」

「助けてくれええええええええええええええっっ!」



『っ!?』


 声が四方八方から聞こえる。それを聞いた私達は、辺りを見回して、どこから声が聞こえるのだろうかと思いながら辺りを見回す。


「どこからっ!?」

「ばらばらで聴き取れねえってっ!」

「え? なに? 何が起こったっ!?」

「ブラドは黙っててぇ」

「俺をKY(ケーワイ)みたいに言わないでっ!」


 …………ごめんなさい。ブラドさん。こんな状況だから言えないけど、私もロフィーゼさんの言葉には同意をしてしまいます。


 そんなことを思いながら、どこから声が聞こえるのだろうと思い辺りを見回すと、キクリさんはふわりと風船のように浮かんで、そして少し上に上がったところで、辺りを見回す。


 すると……、キクリさんはハッと息を呑んだ。


 それを見てヘルナイトさんは「何か見えたかっ!?」と聞くと、キクリさんは私達を見下ろすように――


「リヴァイアサンが黒いローブの人達を襲っているっ! まだ怪我人はいないみたいっ!」

「っ!」


 その言葉を聞いた私は……、すぐにリヴァイアサンがいる場所に向かおうとした。


 アキにぃが言っていた。サラマンダーさんの大きな技を受けたら即死だと。


『八神』が一体の攻撃を受けることは……、自殺行為に等しい。それが今起ころうとしている。


 ――止めないと……。


 ――リヴァイアサンを、止めないと……。黒いローブの人達が、死んでしまうっ。


 死んでほしくない。後味が悪いとかそういうことではない。ただ、死んでほしくない。そう切実に思って、願ったから、私は行動に移した。


 傷つくことは嫌いだけど、他人が傷つくことは、もっと嫌いだから……。


 そう思って走った時だった――


「おいハンナッ! どこに行くんだよっ?」


 パシリと掴まれた私の手。その手を掴んだのはキョウヤさんで、キョウヤさんは私を見て、少し怒った顔をしてこう聞いた。


「どこに行くんだって聞いてんだけどよ……。今の声を聞いて、急いでリヴァイアサンのところに行こうとしただろ」

「っ!」


 その言葉を聞いた私は目を見開いた。キョウヤさんは溜息交じりに「図星だな」と言って――


「焦るなって。オレ達も焦っている。こいつらはどうかはわかんねーけど」


 と言いながら、キョウヤさんは呆れながら私に言った。ブラドさんたちを親指で指さしながら首を傾げていたけど……。


 ブラドさんはそれを聞いてキョウヤさんに怒りの眼を向けながら「俺だって別の意味で焦っているわっ!」と怒鳴っていた。


 私はそれを聞いて、しゅんっとしながらキョウヤさん達に謝った。でも――


「でも……、このままじゃリヴァイアサンが……、黒いローブの人達が」

「なんで?」


 そう言ってきたのはジルバさんだった。


 ジルバさんは驚いてみている私たちを見ながら、あの飄々とした顔ではなく、真剣で笑みのない表情で彼はこう聞いてきた。


「黒いローブの人は『ネルセス・シュローサ』の一員で、彼女に服従することを選択した冒険者だヨ? 君達の敵だったんだヨ。それなのに、助ける義理があるのかな?」


 その言葉を聞いてアキにぃ達は少し考え出す。


 ロフィーゼさん達は首を傾げて聞いていたけど……、ジルバさんは続ける。


「この場合は見捨てることを選択しても、誰も怒らないと」

「――そんなことじゃないんですっ!」 

『っ!?』


 私は声を荒げて言った。叫んだ。


 みんな驚いて私を見ていたけど、私はすぅっと息を吸って、そして一回落ち着いてから「ごめんなさい」と謝る。そして――


「そんな簡単なことじゃないんです。私にとってすれば……、誰もが大事なんです。リヴァイアサンも、黒いローブの人も……、救けたい人達なんです」


 その言葉を聞いて、ジルバさんは肩を竦めながら――


「誰もが大事って……、そうはっきりと言う理由は?」と聞いてきた。その言葉に私は――はっきりとこう言った。


 控えめに微笑みながら……、己の胸に手を当てながら……。


「――当たり前です。傷を負ったら、誰だって痛い。そうさせないために、手を伸ばして、救けたい」


 それだけです。


 そう言うと、ジルバさんはぽかんっと口を開けて聞いていた。


 それを見た私は、首を傾げてこう思ってしまった。


 私は……、変なことを言っているのかな? と……。


 するとジルバさんは、頭を掻きながら参ったという顔をしてへらりと笑いながら――


「しょうがないネぇ。そんな真剣なおめめで言われちゃったら……、折れないわけにはいかないか……」と言った。


 ? 


 どういうことなのだろう……?


 私はただ、自分的には当たり前と思って言っただけなのだけど……。


 そう思っていると……、ジルバさんは私達を見てこう言う。特にキクリさんを見上げて……。


「ネぇ~? 詳細を教えてほしいなぁー。誰がどこにいるのかとかー。あと君って吹雪のようなそれ使えるヨネ?」


 その言葉を聞いて、キクリさんは驚きながら辺りを見回した。


「えっと……、黒いローブの人達はばらけて散ったみたい。どこに誰がいるのかはわからないわ。でもリヴァイアサンはマドゥードナの見晴らし噴水のところで悶え苦しんでいる。あ、あれは……、アクアロイア王っ!? それと、アクアロイア兵士二人が女の人を抱えて王と一緒に斬首刑跡地に向かっているわっ! あと質問の答えでいうと、使えるわっ! 何で知っているのかしら?」


「んにゃ。なんでもないヨ」


 その言葉を聞いて、ジルバさんはうんうんっと言いながらキクリさんにお礼を述べてから――私達を見て。


「君達は先に向かってて。ここは俺達で何とかするから」


 と、ジルバさんは飄々としながらそう言った。それを聞いたアキにぃは前に出て「それは一体どういうことだよ。まさか……、俺達を」と言ったところで私はアキにぃの手を掴んで静止をかける。


 アキにぃは私を見下ろして、少しむっとした顔で見ている。それを見た私は言った。


「大丈夫だよ。ジルバさんは私とシェーラちゃんを助けてくれた。悪い人じゃないよ」


 むしろいい人だよ。と控えめに微笑むと、アキにぃはすぐに「そうか……」と納得してくれた。


 それを聞いて、ジルバさんはにっこりとブラドさん達を見た。そして――


「ちょーっと、手伝ってほしいなー。巻き込まれてしまった人ー」と言った。

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