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PLAY31 激闘! ネルセス・シュローサⅣ(真の絶望)②

 その頃……、エレンとララティラは……。


 マドゥードナには港があり、その場所では囚人を運んで収監や移送等をするために使われ、一般の運搬も担っている場所でもあった。


 その港の近くにある……ひっそりと開いている薄暗い洞窟。


 その洞窟内を歩くと、奥にある石で造られた扉。無造作な扉で……そこは、ネルセスがエレンと密会 (と言う名の情報提供)をした場所でもあったのだ。


 その場所に入ったエレンとララティラはその内部で情報を漁って見ていた。


 内部は案外丁寧に整理されており、広さは六畳程度。木で造られた机にいくつもの棚。その棚には色んな種類の本が所狭しと並べられていた。


 ぼわりと揺れ動く机に置かれた蝋燭(ろうそく)の火。


 それを証明にして一枚一枚紙を見ているエレンと、棚を見ながら「へー」や「ほー」と驚きの声を上げているララティラがいた。


「うー……ん」


 エレンは頭を掻きながら紙とにらめっこをし、その紙を机に無造作に置いて……、一言。


「ダメだ――ネルセスも俺に話したことしか情報を入手していないみたいだ」

「無駄足やったね」

「それ言わない。あいつのことだからきっと何かを隠し持っていると思っていたんだけどな……」


 エレンは溜息を零しながら言った。


 それを聞いてララティラは腰に手を当て、お疲れと言わんばかりの乾いた笑みで言う。


 彼女のその顔を見てからエレンは困ったように目を細め、ぐっと固くなってしまった体を反らすと内心ショックを受けながら思った。


 ――ネルセスのことだから何か奥の手を持っているのかと思っていたけど……、あれで全部だったってことか……。


 ――まぁ。アイツも言っていたけど、何処かに落ちているとか何とか言っていたし……、アルテットミアにも落ちている可能性があるから、探してみるか。


 エレンは気持ちを切り替えて、ララティラの方を振り向きながら「よし――戻って」と言った時だった。


「?」


 エレンはララティラを見て首を傾げた。


 彼女はとある小さな赤い本を手に取って、真剣な目でそれを見ていたのだ。


 その本は手に収まるような小さな本で、紙の端はボロボロ。表紙も見た限り傷だらけの本だ。


 表紙の題名はない。


 それを見たエレンは……、出版されていないものだろうと思いながら、ララティラに近付きながら、彼は聞いた。


「何見てるんだ?」


 それを聞いたララティラははっとして、その本をバタンッと閉じた後……、彼女はエレンを見て少し慌てながら「あ、いや……」と言った。


 それを見て、エレンはじとっとララティラの表情を見、そして小さな本を見て……。


 まさか……。いや、そんなことは……。 


 と思いながら、エレンはその小さな本を指さして、引きつった笑みで彼はこう聞いた。


「まさか……、その本」


 その言葉に、ララティラは小さい声で、エレンから目をそらして……。


「気になってもうて……、見てしもうた……。初めてやわ……。()()()()見るの」

「結構真剣でしたけどねーっ!?」


 やはり。その言葉を聞いて、エレンはやっぱりかと思いながら、少し苛立ったような音色で突っ込みを入れる。


 まぁ人の日記を見るのは駄目なことではある。


 しかし気になってしまうとみてしまう。


 それが人間なのだ。


 エレンは溜息交じりに呆れながら、ララティラに聞いた。


「それで? 何かあったのか? 聞きたくないけどさ……」


 そう聞くエレンだったが、エレン自身興味がある。


 あの慎重な性格のネルセスの日記。


 気になる人は気になるが、気にならない、あるいは憎い人物にとってすれば、最高の弱みの宝庫かもしれないし、燃やすかもしれない。


 エレンは気になる方であり、ララティラ読んでしまったので、前者だ。


 ララティラはそれを聞いて「えっとな……」と言いながら、エレンに言う。その本の表紙を見せて……。


 少し、悲しそうな音色と表情で、こう言った。


「――色々あったみたいや。ネルセス」



 ◆     ◆



「っはぁ! っはぁ……っ! げほっ!」


 ハンナ達がロフィーゼ達と再会して会話に花 (?) を咲かせているその頃……。


 ネルセスはせき込みながら地面に手を付けて、起き上がった。


 ――な、なんだったのだ……? 今のは……。


 ネルセスは思い出す。


 先ほどあった津波のような攻撃。そして裏切ったローブの部下三人。


 なぜ裏切ったのか。そうネルセスは思った。


 いや、今にして思うのなら……、偶然その元部下を倒して、そのローブを雨傘代わりにした三人は、ある意味敵も味方も欺いたということになるだろう……。


 だが、その事情を知らないネルセスは……、苛立ちをぶつけるように、だぁんっと、石で造られた地面に拳を打ち付けた。ばしゃりと跳び散る水。顔につく水滴。


 背中に当たる雨が、彼女の感情を冷やしてくれるのであれば幸いだ。しかしそんな冷たさも気休めだ。


 ネルセスはぎりっと歯を食いしばり……、口から鮮血を零し……。


 ぴちょんっと、雨で溜まってしまった地面にそれを落とした。紅い液体は、水に溶けてなくなる。


 それを見て、ネルセスは思った。くしゃりと、顔を歪ませながら……彼女は思った。


 ――なぜ……。父と同じように、『ネルセス・シュローサ』を束ねたというのに……、なぜ運命は、妾の味方をせんのじゃ……。と……。



 ◆     ◆



 回想。今回はネルセス・シュローサ編。


 彼女はとある国で生まれたイギリス人にして、彼女が生まれる前から悪名が高かった『ネルセス・シュローサ』の娘だった。強いて言うなら……、次期ネルセス・シュローサである。 


 彼女の本名はわからない。


 彼女自身、次期ボスと言う名でよばれていたが故、名前など必要なかった。


 別に不便ではなかった。


 ただ次期ボス。その名があるだけで、不思議と自信に溢れたから、それ以上の名前など必要なかった。


 彼女の父はマフィアとして威厳があり、信頼もあり……、冷酷で非道で、なにより躊躇いがなかった。


 彼女にはない……堂々としたものがあった。


 マフィアと言うだけあり、犯罪に手を染めることもあれば違法なことをすることだってある。


 彼女の父――前ボス『ネルセス・シュローサ』はその違法や犯罪に手を染めても、堂々として、何より自分に自信を持っていた。


 そんな父に彼女は――憧れを抱いていた。


 私も、父のようになりたい。


 父のように、この『ネルセス・シュローサ』を大きくして、イギリスを支配するお手伝いをしたい。


 そう思っていた。そう願っていた。そう……、夢見ていた。


 だが……、その願いも儚く散った。


 父である『ネルセス・シュローサ』が、倒れた。殺されてしまったのだ。


 襲撃にあったからではない。奇襲を受けたからではない。


 ()()()()()()によって、彼は部下に殺されてしまった。


 彼女はそれを見ていた。父が泡を吹いて倒れるところを……、そのまま息を引き取ったところも、全部見ていた。眼の前で見ていた。全部見て……、父を殺した部下を見た彼女。


 部下の男は言った。彼女に向かって、父に向かって――言った。


「いくら冷酷で横暴で、躊躇いもない完璧なボスでもな……。部下に心を許しちゃいけねえだろうが……、下克上上等。部下だって上に立ちたいんだ。お前の下で一生こき使われたくねえ奴だっている。ボスは……こいつは部下を信じすぎたんだよ。俺みたいな野心がある部下に、こうもあっさりと殺されちまう。人間信じて得することはねぇなぁ。人の心は操りやすい。言葉一つで信用して、コロッと騙されちまうんだからな」


 その言葉に、彼女は全身に稲妻が走ったかのような感覚を覚えた。


 そのあと、男はボスの部下……どんどらもとい――ウォレスタによって粛清されてしまったが、父の部下たちが彼女に駆け寄って心配していたが……、彼女は何も声を発しないで、考えていた。


 否……、分析していた。


 父は部下を信用し過ぎていた。それはいいことだと父は言っていた。


 だが現に彼は、その部下によって殺されてしまった。


 部下は言っていた。彼は部下を信用し過ぎたから殺されてしまった。人間信じて得することはない。


 まさに――今起こったことがそれだ。


 彼女はそれを見て、一か月後……。彼女は齢十五歳にして、巨大マフィア『ネルセス・シュローサ』を築き上げた。


 父が遺したマフィアを、彼女は誰の手も借りず、己の才能と努力。そして父から培った技術を用いて、彼女は父以上の『ネルセス・シュローサ』を築き上げてきたのだ。


 誰の手を借りず、誰も信じずに、彼女はたった一人で、心の味方がいない世界で生きて、色んな人を言葉巧みにだまして、陥れて――己の手を汚さずに築き上げた。


 父の忠実な元奴隷のウォレスタを筆頭に……。


 娼婦に捨てられ、ネルセスを己の母と思い込んでいるコココこと――コーシェに、ネルセスはコココの母を演じながら、彼女に処分を言い渡し。


 とある事故で四肢切断を余儀なくされ、夢の道を絶たれたアルヴレイヴこと――アレクシダ・フェンドレイスに、ネルセスは尋問を言い渡し。


 商業に失敗して自殺をしようとしたフランドこと――デイラー・ノマネティに情報を収集する術を叩きこませて、潜入兼情報収集を言い渡し。


 借金を背負わされ、泥水を啜る日々を送っていたユースティスことユリマンティスと、闇の仕事で体に影響を及ぼす薬の副作用により、脳に深刻なダメージが残ってしまったムサシ (彼には名前がなかったので、きっとウォレスタと同じ元奴隷だろう) には……、情報を無理やり入手する拷問を言い渡して……。


 孤児院の父の息子でもあったズーもとい――セルズには己の用心棒として、殺しの道を進ませた。


 今上げた数名は、彼女の幹部にして手足で肉盾でもある。


 彼女は、彼女だけの『ネルセス・シュローサ』を作り上げた。


 複数名の部下もいる中、幹部がいる中でも……、彼女は何も、心の底から信じるということをしなかった。


 なぜ?


 父は部下を信用し過ぎたあまりに殺されてしまったのだ。


 自分も部下に殺されてしまっては元も子もない。


 ネルセスなネルセスになってから……、慎重になった。慎重になりすぎでは? と思われるくらい……、彼女は外部に、幹部や部下に、自分の情報を漏らすことはなかった。


 知られたことはないが……。彼女は誰にも心を許さなかった。


 情報を漏らしたことにより、もし弱みに付け込まれたりしたら……父の二の舞だ。なので彼女は何も情報を漏らさない。個人情報も、敵の情報も、すべての情報を……。


 漏らすことはなかった。


 言葉巧みに心酔させても、従わせても、いずれ野心と言う感情が彼らを支配する。


 そんなことがないように、彼女は細心の注意をはらって、そして慎重に行動し、言葉巧みに人を操って惑わせて……消す。


 父のように、冷酷で、非道で、躊躇いのない……、父のような、父以上の『ネルセス・シュローサ』を作り上げる。


 誰も信じないで。誰の手を借りないで――父と自分の『ネルセス・シュローサ』を作り上げる。


 それが……、彼女の願いであり、悲願であり……、夢でもあった。


 そんな悲しい人生を送っているネルセスに対し、そのことが綴られている日記を見て……、彼女は思った。


 ――ホンマ、悲しい過去を背負った女。ほんまに悲しい人と……。


 回想終了。



 ◆     ◆



「う………ぐぅ……っ!」


 ネルセスは唸った。


 ぎゅううっと、地面につけていた手を握りしめ……、彼女は唸りながら、悔しさを心の中で唱えたのだ。


 ――なぜだ……?


 ――父のようなヘマはしていない。


 ――妾は父のように部下を信用せず、冷酷に、非道に、そして躊躇いもなく、己の手を汚さずに生きてきた。


 ――なのになんでこうなったのだ?


 ――あの小娘を手中に入れようと思ったからか?


 ――あのシェーラとか言う女に不意を突かれたからか?


 ――ジルバを仲間に引き入れたからか?


 ――それともMCOに入って、アバター狩りを目論んだのが間違いだったのか?


 ――それとも、それとも……。



「………最初から……、間違っていたのか?」



 そうネルセスは、一人ごちった。そしてその言葉を振り払うようにして、彼女はだんっと、地面に拳を叩きつけて、彼女は叫んだ。


 あらん限り……、叫んだ。


「いいや! 間違って等おらんっ! 妾は正しいのだ! あの男の言うとおり、父は部下に信頼されていたが、信用し過ぎていたっ! だから野心に気付けなかった! だから『ネルセス・シュローサ』は滅びかけた! だが妾は違うっ! 妾は他人を信じることなどせんっ! 妾は妾だけを信じればよいのだっ! ほかなど駒だっ! 捨て駒だっ! アルヴレイヴも! コココも! フランドも! どんどらも! ズーも! ジルバも! ユースティスもムサシも! 全員が妾の敵と思えばいいのじゃ! 誰も信用してはいけんのじゃ! いけ」


 と言ったところで――


 彼女は……、はっとして、怒声を、怒号を、沸騰した感情を、沈めた。


 感情が昂ぶったおかげで、頭の中はクールダウンされ、頭が余計に冴え始める。


 だがネルセスは心の中で言葉を発することを忘れ、思ったことが口に出てしまっていたが……、それでも彼女はとあることを思いだした。


「そう言えば……、()()()()()()()()()()()()? ここは幹部と部下にしか知られておらん場所。口を割るなとしつこいくらい言うておる。念には念を入れて、喋ったものには爪を剥いでもらっている……。けじめとして……、アクアロイア王とも一時期手を組んでいる状態だが……、それでもここの場所は言っていない。否、言うはずがないのに……なのに、なんで……、()()()()()()()()()()()()()()?」


 ネルセスも思ったのだろう。


 ハンナとシェーラが思ったように、エレンとララティラが思ったように……、なぜ、本当になぜ……。



 ()()()()()()()()()()()()()()



 最初は理解ができず、状況が呑み込めなかった彼女。しかしここは逆手を取ろうと試みた。


 しかしハンナはネルセスの申し出を断り、シェーラを助けに行ってしまった。


 最初から手を組めるとは思っていない。しかし見て確信した。動揺から見て確信した。


 ここに自分達がいるとは思ってもみなかったのだろう。と――


 そうなると……、消去法で残ったのが……、()()()()()()だ。


 その疑問に、ネルセスはぶつぶつと言いながら……、彼女は推理した。


 背後から来る人物に気付かないくらい、真剣に推理していた。


「ここの場所を知っておるのは『ネルセス・シュローサ』の一員だけ。だがここには()()()()()()()()()()()()()()()()が戻っておらん。瘴輝石があるところに向かっておったのに……、まだ戻ってこない。あれから何日経った? 三日? 否四日以上だ。それくらい経っても戻ってこない。ここはアクアロイア。ギルドを通してアクアロイアに密告される……。まさか……、まさか」


 そうネルセスは、ありえないと思いながらも、その可能性を思いながら……、彼女は呟く。


 己の推理を――がくがくと震えながら、ひゅっ。ひゅっと呼吸のリズムが不安定になる中……、彼女はとあることを推測したのだ。否……。


 もしかしたら、()()()()()()()()


「もし……、あの二人がどこかでギルドの者かアクアロイアの連中に捕まって……、()()()()()()()()()()()()……? 瘴輝石の種類は無限大じゃ。もしその中に……、『()()()()()』石があれば、『()()()()()』石があったとしたら……っ!」


「ああ、そうだな」


「っっ!?」


 ネルセスは背後から聞こえた声に驚き、ぐんっと勢いよく振り向くと、そこにいたのは……ここにいてはいけない人物で、この場にどうしているのかが不思議で、そして……ネルセスが最も会いたがっていた……、否。理由を聞きたいがために会いたがっていた人物が、にっと、ゆるく口元に弧を描きながら……、彼女の背後に立っていたのだ。二人のアクアロイア兵士を引き連れて……。


 それを見たネルセスは、ぎりっと歯ぎしりをし、鬼の形相でその男を見た。


「貴様……っ! 先の言葉はなんじゃ……っ!」


 その言葉を聞いた男は、鼻で笑いながら肩を竦めて――


「言った通りだ。ネルセスよ。貴殿は名推理を生業としたものになれるのではないか?」と言った。


 それを聞いたネルセスは座り込んでいた体に鞭を打ち付けて、素早く立ち上がりながら彼女はその男に向かって「うるさい」と毒を吐いて……。


「まさか……、ユースティスとムサシは……」

「ああ、ユワコクで吐いたぞ。べらんべらんっと。『真実証言』の瘴輝石で尋問し、その後は口封じをしておいたぞ」

「っっっっ!」


 やはりか……っ! そうネルセスは目の前の男を見ながら歯軋りをし、ネルセスは男を睨みながら指を指してこう怒鳴った。


「貴様……っ! 妾との契約はどうなるのじゃっ! 貴様の保身と安全を、妾達が請け負って保護するかわりに、貴様は妾達にリヴァイアサンの制御権限を明け渡すと言ったではないかっ! 誓約書にも書いたぞ! この状況……、惨状……。滅茶苦茶だっ! 貴様……っ! なぜ」



「せいやくしょおおおおおおおおおお~~?」



 男は小馬鹿にするような音色と言葉で、ネルセスを見て、男は言った。独特なマッシュルームカットで、彼はネルセスに顔を近付けながら、べろりと彼女の顔を厭らしく舐めて……、彼は言った。


 狂気に飲まれた――黒く、ぐちゃまぜになった眼で……、彼は――


「――忘れたっ! と言うか知らんっ! そんな『せいやくしょ』だなんて! これっぽっちもなっ!」


 と言い、ばっとネルセスから離れた彼は、懐からとあるものを取り出した。


 それを見たネルセスは……、思わず「なんだ……、それは?」と聞いてしまった。


 男の手に持っていたそれは、てにすっぽりと収まるくらい小さい水晶。しかしその水晶の色を見て、ネルセスはうっと唸って、口元を押さえた。


 それはまるで……、心臓のような赤黒いもので、どろどろと水晶玉の中を蠢いていたのだ。


 男はそれを聞いて「あぁ」と言いながら、それを見せびらかすかのように、彼はこう言った。


「これな。遂に完成したのだよ」

「……何を?」

「決まっておろう――」


 と言って、男はネルセスにそれを差し出すように、赤黒い水晶玉を近付けて、水晶玉を持っていない手で水晶玉の上に手を置くと同時に……、ぐっと押し潰すように力を入れた瞬間――赤黒い水晶玉は赤く光を放ったのだ。


 それと同時に……。




 グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!




 耳を塞ぎたくなるような大きな叫び。否――咆哮。


 それは人の物ではなく、人外の咆哮。


 それを聞いてネルセスは耳を塞ぐ。


 びりびりとくる振動と咆哮のせいで地面がまるで揺れている錯覚を覚えた。


 よく見ると、地面に溢れていた水がちゃぷちゃぷと揺れているようにも見える。


 ネルセスは目の前の男を見て、耳を塞ぎふらつきながら彼女は叫んだ。


「貴様だったのかぁ! ここの情報を聞き、そしてあの小娘達をここまで誘導させたのはぁ!」

「うーむ。私はやはり天才だな」


 ネルセスの怒りを無視するかのように彼はこう言った。


「貴様達を何とか騙し、制御する装置ができるまで実験を繰り返し、やっと完成したから実践として、貴様達と浄化をする小娘を、ここで私が操る()()()()()()()()()()になってもらいつつ、ここで葬ろうという作戦。成功だな」


 そう言って男はマドゥードナの港から迫り来る大きな大きな魔物に向けて……。




 アクアロイア王は――叫んだ。




『八神』が一体――リヴァイアサンに向かって――




「さぁ! バトラヴィアの者達を殺す手段は整ったぞ! 予行練習だ! ここにいる全ての者達を殺すのだ! リヴァイアサンッッッ!!」


 彼は叫んだ。


 狂気に呑まれ、甲高い叫びと笑いを上げながら彼は荒れ狂う波を起こしながら迫ってくるリヴァイアサンに向けて――命令を下した。


 その命令に応じるかのように……、リヴァイアサンは――




 グギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!




 と、波が起きる咆哮を上げたのだった。

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