PLAY30 激闘! ネルセス・シュローサⅢ(逆転)⑤
――囮になる? 何言っているの?
ハンナの言葉にシェーラは言葉を失った。
――逃げてって、私に言って……?
尻餅をつき、ハンナに標的を変えたネルセスを見てシェーラは呆然とその光景を見ていた。
確かにネルセスの言う通り……、シェーラは最初からハンナ達を利用しようとしていた。
言葉巧みとは言い切れないが、それでも彼女達はアクアロイアに行く理由がある。
それを知ったシェーラはそれを利用して『ネルセス・シュローサ』と激突させ、自分は性に合わない方法で……。
不意打ちで殺そうと思ったのだ。
バングルもしっかりと壊し、退場してもらう。
これが彼女が立てた計画。
だが……、その計画に綻びが生じる。
その綻びとはシェーラの心の変化であり、彼女の心の変化と連動し綻びは少しずつ大きく、大きくなり、最終的にずれが生じていたのだ。
最初こそ彼女達にはただ親しく接する演技をすればいい。そう思って接していた。
演技はあまり得意ではないが、隠す事ならできる。
そう思っていたのだが……、少しずつ少しずつ……、彼女は思ってしまった。
楽しい。面白い。共感できる。嬉しい。
一人の時、そのような感情は一切感じなかった。
だがハンナ達と一緒にいる時だけ、暗く閉ざされた心が、扉が大きく開いて明るくなってくるのを感じた。
一人の時は復讐一色だったそれが……、ハンナ達との出会いと交流を深めていく内に、それがどんどん、楽しい、明るい感情によって消えていくのを感じた。
それを感じてシェーラはすぐに気持ちを切り替え、復讐一色に染まるも……、目の前で楽しく話している三人、そしてその背中を見て和んでいるように見えるヘルナイトを見て……。
呑気だという黒い感情は出なかった。むしろ……。
いつもなんだか楽しそう。
そう見て……、羨ましいと感じ、次第に……。
私もいつか、復讐が終わったら……。
そう思ったシェーラだったが、すぐに首を横に振る。その願いは叶わないと思ったからだ。
『ネルセス・シュローサ』の首領を殺したら、自分が一人でその主犯の片棒を担ぐ算段だから、復讐が終わったら、一人で逃げて生きて行かないといけない。
現実でも、仮想でも同じ。
それを覚悟して、殺す覚悟も決めてきた。
決めてきたのに……、なのに……。
シェーラはマドゥードナに来て、心がぐらついていた。ぐらぐら揺れていた。
ジルバによって捕まってしまい、あろうことかハンナ達がここに来てしまったのだ。
シェーラは己の詰めの甘さと、己の弱さを嘆いて、苛立ち、そして……。
ぶつけた。
あろうことか、助けに来たハンナに向かってだ。
だがハンナはそれを聞いても、何も怒ることなく、シェーラに手を差し伸べて、手を握ってきたのだ。
自分が弱いことに対してコンプレックスを抱いていたシェーラに対し、ハンナはシェーラよりも弱い。誰よりも弱いと言って、励ましてくれた。
シェーラはその時、ハンナの話を聞き……思った。
弱い? そんなことない。
そう彼女ははっきりと思った。
はっきり思いながら、彼女に手を引かれて走りながら……、シェーラは思い続ける。
――あんたが弱いなら、何でここまで一人で来れたの?
――あんたはメディックで、戦う術なんて持っていない。何も持っていないのに、どうしてそこまで必死になって、助けようと奮起するの?
――あんたは自覚していないかもしれない。でも、あんたはきっと、どの人よりも……。心が強い。
――心が弱いことにコンプレックスを抱いている私とは対極に。
それがあまりにも残酷で、あまりにも妬ましくて……、あまりにも…………。
眩しかった。
ネルセスとの対峙で、彼女は剣を取った。しかし動けなかった。分離したとしても……、それでも動けなかった。
怖くて、負けるかもしれない。そう思っただけで、体の言うことが効かなかった。
それくらいシェーラはネルセスに対して、恐怖していた。
ジルバが殺されそうになったことも相まって、シェーラは委縮して震えたまま、彼女は前に出た。剣を突き出した。しかし……、結局は虚勢。
それくらい……、怖かった。
もしかしたら……、ジルバが殺されてしまう。もしかしたら……、今度は自分が殺されてしまうかもしれない。そうなったらどうなるのだろう? 自分は……、ジルバは……。
違う。
こんなのただの逃避だ。
ただシェーラは……、怖かった。怖くて怖くて……、ネルセスが……怖かった。
それだけ。
しかし人の恐怖は恐ろしいもので、長い間その恐怖は滲みのようにこびりつく。
人はそれを、トラウマと言う。
そのトラウマに囚われてしまうシェーラ。
それと相まって、己の計画をネルセスに察知されて、ハンナにばらしてしまう。
最悪の状況だ。最悪のシナリオだ。
そうシェーラは思い、言葉が思いつかなくなってきた。突き放す言葉も、弁解の言葉もでなくなってきた。その状況で、シェーラは言葉を探していた。ハンナが納得するような言葉を、なんとか……、なんとか……。
そう思った時だった。
ハンナはシェーラの手を掴んで、自分のことを格好いいと言ってくれた。すごく優しい人と言ってくれたのだ。
利用しようとした本人に向かって、何の疑いもないその控えめの微笑で、否……、それがあったとしても、シェーラの手を離さないと言った。
最後には……。
友達、そして、仲間と言ってくれた。
嬉しかった。ただ嬉しかった。
嬉しくて、涙が零れた。鳴くほど嬉しかった。
こんな自分に、そのような温かい言葉をかけてくれたハンナに対して、感謝を述べたかった。
シェーラは言葉を発しようとした瞬間、ハンナはシェーラを押して、己が囮になると言った。だから逃げてと――シェーラに言って……、シェーラは……。
◆ ◆
「っ! あ」
シェーラはすぐに立ち上がろうとした。しかし体が言うことを聞いてくれない。ぶるぶると震えながら、その場で座り込んでしまっている。
そんなシェーラから目を離したネルセスは、ハンナを睨んでこう叫ぶ。
「はああああっ!? 何をぬかすのじゃ小娘っ! 『私が囮になる?』何を当たり前なことをぬかしおるっ! 貴様を囮にして逃げることこそが、そこにいるシェーラの策略だったのじゃぞ!? なぜ墓穴を掘るのじゃ!」
それを聞いていたハンナは首を横に振って――はっきりとネルセスを見上げて言った。
「そんなことないです。シェーラちゃんからそんなもしゃもしゃは感じませんでした。シェーラちゃんは……、そんな卑怯なこと、絶対にしない。私はそう確信しています」
「……何を訳の分からんことをおぉぉぉおおおっ!」
ぎりぎりと歯軋りをしながら、ネルセスが十指に爪をぎゅんっと伸ばして、ハンナに向けて貫手を向けた。シェーラはすぐに助けに向かおうとした。
その時……。
「っ!?」
ふわりと、突然来た浮遊感。それを感じて、シェーラは影がかかっているその上を見ると……、そこにいたのは……。
「シェーラちゃん。ゴブジー?」
ジルバだった。ジルバは少しぎこちない笑みで飄々としながらも、引きつった笑みでシェーラを見降ろして、彼は彼女を横抱きにしていた。
シェーラはその体制に対してあまり驚かず、というかこの状況で突っ込むことなどできない。
ゆえに彼女はジルバを見上げて……、小さい声で「……なんで……?」と、覇気のない音色で答えた。
それを聞いていたハンナは、ジルバの方を見て――
「ジルバさん……っ!」と叫んだ。
ジルバは首を傾げながらハンナを見る。ハンナは言った。
「私が引きつけておきます。ジルバさんは……、シェーラちゃんを安全なところに」
その言葉を聞いて、シェーラは身を乗り出しながらハンナに向かってこう叫ぶ。
「ちょっ! なんでそんな……っ!」
「大丈夫だよ」
しかし……、彼女はシェーラの言葉を遮りながら、彼女はシェーラに向かって、控えめに微笑みながら、僅かだが、胸の位置で絡めている手を震わせながら……、彼女は言った。
「私……、ここでネルセスを食い止めるから」
行ってください。
そうハンナは言った。
その心意気が……、優しさが……、逆に苦しくなった。シェーラは手を伸ばそうとした。しかしそれを遮るように――
ダッと、ジルバは駆け出した。ハンナと一緒に向かおうとしていた道を突き進みながら。
「っ!?」
シェーラは焦った。
横抱きにされながら彼女はジルバに向かって叫んだ。
背後から聞こえた切り刻む音を聞いて、更に焦りを募らせながら……。
「ちょっと……っ! 待って! ねぇ!」
「ダメだヨ。あの子が囮になっている間に、少しでも先に進んで、シェーラを安全なところに運ぶからネ。安心して――ちゃんとあの子も」
「今助けてよっ! 今あの子を……、ハンナを助けてっ!」
シェーラはあらん限り叫び、ジルバの服を掴みながら止まるように静止をかけた。
しかしジルバは首を横に振りながら少し声を荒げて「ダメ」と言う。ばしゃりと水飛沫が飛ぶ。
しかしそれでシェーラが折れるわけもなく……、ジルバが走っている間に二人は言い合う。
「止まって! お願い!」
「ダメ」
「なら私を下ろしてっ! それができないなら止まって!」
「ダメッ」
「お願いだから止まって! このままじゃハンナが……、ハンナが……っ! ねぇ止まって!」
「ダメッ!」
「ねぇ――止まって」
そう言ってシェーラはあらん限り涙を流しながら、ジルバに向かって叫んだ。
「お願いだから、止まってよぉっ! ソーダァ!」
「っ!?」
ソーダ。
それは……ジルバが孤児院にいた時、シェーラがジルバに対して呼んでいた名前。それを聞くのは久し振りだ。そう思ってしまったジルバ。と同時に……。
その言葉を聞いて、ジルバが足を止めてしまった。
ジルバはしまったと思った時には、シェーラは既にジルバの腕の中から降りて、べちゃりと力が入らない足を引きずりながら、遠くにいるハンナを見て……、大雨のせいで泥がついて濡れてしまった手を、伸ばした。
ハンナに向かって、掴めない手を震えながら伸ばして……、彼女はボロボロと流れる涙を拭わずに……、彼女は小さく……、言葉を零した。
「おね……、がい……、や、めて……」
その言葉は、ネルセスに対しての言葉で……、強気のその言葉ではない。
彼女らしくない弱音であり、今の彼女の、彼女らしい言葉でもあり……。
本音を、口にした。吐き出した。
――やめて。
「や、めて……」
――やめて。
「その子を……、殺さないで」
――もうやめて……。
「ネル、セス……っ!」
――私から……、奪わないで。
あらん限り、声が嗄れるくらい……、彼女は心の声を――大爆発させて、声にしてそれを吐き出した。泣きながら、吐き出した。
「――大切な人達を奪わないでえええええええええええええぇぇぇっっっっ!!」
その声はシェーラを中心に響き渡る。
しかしネルセスはそれを止めず、罅割れそうになっている『強固盾』に向かって貫手を繰り出そうとしていた。
「しねえよぉおおおそんなことおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」
そんな残酷な言葉を口にし、ハンナの喉笛に向かってその貫手を繰り出そうとした。
刹那。
ガシリと掴まれる手。
その手を見たネルセスは、ぎょっとしながらその手の見た。
ハンナはそれを見て、ほっと安堵の息を吐いて、どっと疲れを体現するかのようにべたりと地面に座り込んだ。
そして彼女の前にいる白銀の鬼士を見て、彼女は「ふにゃ」とへにゃりと力なく控えめに微笑んで……、彼女は言った。
「ごめんなさい……、ちょっと緊張の糸が」
そう言うと、目の前にいた鬼士は「大丈夫だ。言っただろう?」と言い、ネルセスの手をがっしりと掴み、その攻撃を止めながら、彼は――ヘルナイトはハンナを見降ろして、凛とした音色でこう言った。
「私は君を守る鬼士として、君が愛する者達を守る鬼士として、私は君と、君が愛した人達のために守ると」
遅れてすまない。シェーラ。
そう言ってヘルナイトはシェーラを見る。
シェーラは涙をボロボロと零し、嗚咽を零しながら彼女はその光景を見ていた。その顔を見てヘルナイトはネルセスを見る。
ずるりと……、黒い瘴気が出そうな雰囲気と、そして……甲冑から覗く怒りの眼で、ネルセスを睨みつけて、彼は言った。低い音色で、彼はネルセスを睨んで言った。
「お前だな……? 二人を傷つけたのは……」
「っ」
ハンナはその怒りを感じて、びくりと肩を震わせ。
シェーラはボロボロと涙を零しながら……、その光景をただ見ることしかできなかったが……。
「っ!」
ネルセスは……、瞬間的に命の危機を感じた。その命の危機を察知し、空を飛んでいた『仔成虫』は「キィイイイイイイイイイイイイイイッッ!」と叫びながら、ヘルナイトに向かって急加速の急降下を繰り出す。それを見て、ジルバは「危ないヨッ!」と叫んだ。
が――それは杞憂だった。
なぜなら……。
「「うううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!」」
あらん限り叫んで走ってきている二人の男。
それを見たシェーラは「あ」と声を零した。ハンナはそれを見て、はっと口元に手を当てて、驚く。そして……、安堵の表情を顔に出して、ダンッと跳躍した蜥蜴の尻尾の男は、『仔成虫』の背中に――
ざしゅっと槍による斬撃を繰り出した。下から掬い上げるような、その斬撃を。
背中に立て一文字の斬撃を残す男は、そのまま地面に降り立って、痛みで泣き叫んでいる『仔成虫』を見上げながら「いいぞぉ!」と叫ぶ。
それと同時に来たのは――
バァンッ! と来た銃声。
その銃の弾丸は、『仔成虫』の胴体――心臓に位置するところに命中し、そのまま『仔成虫』は「ギィイイイイイイイイイイ……ッ!」と泣き叫びながら、黒く変色して、最後に、ぼふぅんっと黒い煙と煤を出して……、消滅して消えてしまう。
それを見ていたシェーラは、ただ座り込んだまま、その光景を見ることしかできなかった……。ジルバも、その光景を見ることしかできなかった。
自分が苦戦した、恐怖で動けなかったネルセスに立ち向かって、一泡吹かせて、あろうことは『仔成虫』を倒したのだ。
ネルセスはそれを見上げ……、「あ、ああ……」と言いながら、わなわな震えながら……。
ぎっと目の前にいる……、ハンナを守るように前に出ているヘルナイト、アキ、キョウヤに向かって――
「きいいいいさあああああああまあああああああああああっっっ!」
と言いながら、彼女はびきびきと指の関節を鳴らしながら、顔に浮かび上がる青筋を浮かび上がらせて、彼女は怒りを露わにする。
しかし、それを見ても、ヘルナイト達はどうしなかった。
むしろ――
「なにか『きーさーまー』だ! よくもハンナを怖がらせやがって……っ!」
「おー。シスコンはこんな状況でも健在だな……。まぁ、オレもこいつには苛立っていたから、今日だけはお前の感情に同感」
「……………これで、形勢が逆転したな」
アキ、キョウヤ、ヘルナイトが言う。
それを聞いて、ネルセスはぎりっと歯軋りをしながら、辺りを見回して――
「フランド! どんどら! コココ! アルヴレイヴ! ズー! 誰か返事をしろぉ! 妾を助けろっ!」
そう彼女は叫ぶ。しかし誰の声も聞こえない。それを聞いて、ヘルナイトは「無駄だ」と言って、ネルセスの手を離して、彼は大剣を掴みながらこう言う。
「もうフランドと言う男は倒した。アキとキョウヤがここにいるということは、他の二人も同じだろう。フランドと一緒に、ズーも倒された。一人知らない奴がいるが、来ないということは倒された」
お前だけだ。ネルセス。
その言葉を聞いて、ネルセスはうっと唸りながら、後ろに後退しながら青ざめて、逃げようとする。アキはその足元に銃弾を撃ち込む。
それを聞いたネルセスは、足を上げて「ひぃ!」と声を上げる。
アキはそんなネルセスの叫びを聞いて――「意外とかわいい声を出すんだね」と言って――
「でも、逃げようったってそうはいかないから」
銃口をネルセスの心臓に位置に向ける。
それを見て、ネルセスはざぁっと、更に顔を青くする。顔を絶望に歪ませていると……。
たたたたたっ!
「「「「っ!」」」」
「「「っ!?」」」
ネルセスはその足音を聞いて背後を振り向く。ヘルナイト達もネルセスの背後の先からくる……、三人の黒いローブの部下達を見て、目を見開いて驚いていた。
それを見て、ネルセスは絶望から希望の笑みに変えて、「あははは!」と笑いながら、ヘルナイト達に言う。
勝ちを確信した、安堵と狂気、そして至福の笑みが混ざったかのような笑顔で、彼女は言った。
「なにが妾だけじゃとぉ!? 仲間がまだおるわっ!」
さぁ! と、ネルセスは背後から来た援軍に向かって――手を広げてこう叫ぶ。
「妾を助け」
と言った瞬間だった。
「いやですー。自己中なあなたを助けることはできませーん」
その声はこの場にいる人の声ではない……、初めて聴く声に、ハンナ達は驚きを隠せず、辺りを見渡す。
すると……、ネルセスに向かって走って来ていた黒いローブの三人組は、ネルセスを助けるような行動をとらず、そのままハンナ達のところに駆け寄って――
大剣を持ったローブの男は上を見上げて叫んだ。
「いいぞぉ!」
「え?」
その声は――聞き覚えがあった。アキとキョウヤ、そしてハンナには……。三人はその声を聞いて、心の中で、(((そ、その声って……)))と思いながら、その人物に声をかけようとした時……、ネルセスに対して拒否の声を上げたその声が――
「――『大時化』」と言った瞬間だった。
ぶわりと、ネルセスの目の前に現れた水の柱。否――波なのだろうか……。
海でもないその波はネルセスに覆い被さり、そのまま下り坂をどんどん滑り落ちながら、海に向かって流れていく。何を言っているのかわからない。ネルセスを飲み込んで――
それを見ていたハンナ達は呆然としていると……、一人の殴鐘を抱えた人が、ハンナに駆け寄り――
「あらぁ。少し怪我しているぅ。もぉ、あの人本当に容赦ないのねぇ」と、ハンナの頬に手を添えて言ったのだ。それを聞いた三人とヘルナイトは、内心まさかと思いながら――その三人を見ていた。
すると――ふわりと舞い降りてきた一人の人物が、ヘルナイトを見てこう言う。
「お久しぶりね。団長さん」
「っ! その声は……っ!」
ヘルナイトはその人物を見て、驚きの声を上げる。それとは対照的に、空から舞い降りたその女性は、くすっと微笑みながらヘルナイトを見ていた。
その女性は顔に狐のお面を着けている薄桃色が混ざった銀髪の長髪。それはふわっと三つ編みにしている。服装は赤い巫女服。靴は鉄製のブーツで、手に持っていたのは桜模様が彩られている扇子。それをぱんっと閉じて、彼女は言った。
「始めましてのお方に、お久し振りの団長さん。私は『12鬼士』が一人、『桃源の巫女』と言う通り名があります……、キクリと申します」
よろしくね。と、女性――キクリが言うと同時に、黒いローブの三人も着ているローブを脱ぎ捨てた後ハンナ達を見た。
ハンナは見たことがある三人の顔を見て……、驚きのあまりに口元に手を当てながら見開いた後、「なんで……?」と声を零した。
それを聞いて、キクリはその三人に駆け寄りながら――
抱き着かれて照れるシイナ。その顔を見ながら和んでいるロフィーゼ。いかにも不機嫌そうに顔を引き攣らせているブラドの肩を寄せ合いながら抱きしめてこう言った。
「――運命? かしらね?」
◆ ◆
運命は時に気まぐれ。
そして……、無邪気で、残酷である。