PLAY30 激闘! ネルセス・シュローサⅢ(逆転)③
キョウヤがコココに対して説教みたいなことを言っている丁度その頃……。
アキ対どんどらの戦いは……すでに佳境に入っていた。
その戦いの流れを簡潔に、短く説明するとこうなる。
どんどらがアキを掴んで向かった場所は――とある処刑場だった。
そこは人が登ろうと思ったとしても、すぐにそれを断念させてしまうような……、大きくそびえ立っている塀。それは四方を取り囲むように建てられており、中は倒れた石柱や倒木などがあるだけの無造作な場所だった。出口などない。
いいや――必要ないのだ。
なぜなら、そこで一人の囚人を複数の看守が銃を使って処刑する……。
銃殺処刑跡地なのだから。
そこに降り立ったどんどらは早速アキを無造作に降ろし、そのまま彼はアキに向かって――
突進してきたのだ。
牙を使って地面を抉り、剛腕で大きな手を使って倒れている石柱や倒木を叩いて真っ二つにし、挙句の果てには拳を作ってアキに向けて殴りかかることもあった。
だが、アキはそれを難なく避けていた。
簡単だったからだ。避けることが。
そしてどんどらの攻撃が明らかにシンプルすぎたから。
どんどらの種族は魔獣族『ズンドウセイウチ』
銃による貫通攻撃と打撃攻撃に異常といえるような耐性を持っている魔獣で、属性攻撃もあまり効かない持久戦が主流のモンスターだった。
アキは先ほど銃を使ってもあまり効果がなかったのは……、その魔獣の厚い脂肪のせいで銃の弾丸が内部に届かなかったからである。
ゆえに銃の攻撃は駄目。
それを見て、アキは思った……。
――『ネルセス・シュローサ』……、俺達対策ができている。
と思ったのだ。
簡単に言うと、『浄化』と『光』属性しか効かないフランドは……、『光』属性の攻撃魔法を持っていない (実際は持っていた)ヘルナイトを相手に。
空を自由に舞うことができるコココは、槍を使っての攻撃と短時間の飛空跳躍力しか持っていないキョウヤを相手に。
刺突攻撃、弾丸の攻撃に対して絶対の自信があるどんどらは、銃を持っているアキを相手にしている。
それを見たアキは……『ネルセス・シュローサ』に情報収集に長けている人がいることをいち早く察知し、今この状況をどうにかしないと思いながら……、どんどらの単調で単純な攻撃を避けながら考えて現在に至っている。
しかし状況は劣勢。
アキの攻撃が効かないどんどらは「ぐあははは!」と笑いながら、大きく手を振って石柱を壊して、牙を使ってアキを串刺しにしようと頭を一気に垂らすが、アキはそれを見て横に避けると……、どずぅっ! と地面に深く突き刺さるどんどらの牙。
それでも、アキは焦らないでどんどらの攻撃を避けることに専念していた。
どんどらはそれを見て、勝機と見たのか……、どんどらは言った。笑いながら言のだ。
「どうしたっ!? 銃か効かないからよけることに専念しておるのか!? これだから所属と言うものは厄介にして面倒なものじゃ! 儂らはそのような縛りはない! 自由なものだぞ! 魔獣は!」
その言葉に対し、アキはどんどらに向かって、一旦言葉を閉ざしたが、すぐにこう言う。
「確かに、その言葉はあっているかもしれない。でも逆に、自分はそんな醜悪なモンスターになって、そしてほかの人は好きな所属を選べる。メリットデメリットがある中で……、あんたはその魔獣の姿を好んでいるところから見るに……、もしかして……」
アキはにやりと顔を緩めてから――大打撃の言葉を放った。
「リアル顔――不細工なの?」
その言葉を聞いた瞬間、どんどらはびきりと青ずしを額に浮かべ、右手を反時計回りに振り回す。拳をぎゅうっと作りながら、アキの首元を狙って――ラリアットを繰り出そうとしていた。
が、アキはその攻撃を横目で見て、その腕の下を掻い潜るようにどんどらの右手にしがみついて、ぐるんっと、鉄棒のように逆上がりをした。
「っ!?」
どんどらはそれを見て目を見開いて驚く。
そしてアキは内心……。
――あぶねぇ! あれ当たっていたら首折れる……っ! てか頭部位破壊で死ぬ!
冷や汗が体中に流れる中……、アキはどんどらのその腕の上に乗り、そしてそのどんどらの肘の部位に当たるところに……、どすりと――拳銃の銃口を突き付けた。
肉が食い込むような……、突き付けをして、どんどらは何をする気だと思って見ていたが、アキはそのまま、口の端を緩く上げて……、二丁の拳銃の引き金を……。
バン! バン!
一回――だけに留まらず……。
何回も、何回も、何回も!
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッッッ!
と――どんどらの肘を粉々にするように、何回も何回も発砲する!
肘がどんどん抉れて、血が飛び散る。それを見たどんどらは――どんどん集まる肘の熱と連動し、どんどん警告音を出す頭のサイレン。
「うぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!」
どんどらは叫びながら、ぐるん! ぐるんっ! と、まるで一人で踊り狂っているかのように、その場で回りながら、アキを振り落そうとした。
アキは、どんどらの右腕に、足をがっしりと絡めて銃の発砲を続ける。
どんどらの腕はまだ正常だ。部位破壊されれば、だらんと腕が落ちるはずだ。アキはそう思い、更に銃弾をどんどらの右肘に向けて撃ちこむ。
片手が無くなれば戦力は大きくダウンする。
そこを狙って、他のところも部位破壊をする。生憎アキの手元にはアサルトライフルがある。連射に長けている武器があるのだ。弾はまだある。
ここは直接攻撃をして、部位破壊を片っ端からする!
そうアキは思い、どんどらの腕の力が無くなってきたことを感じ、アキはラストスパートをかける。
が。
かちっ! かちっ! かちっ!
ざぁっと青ざめるアキの表情。理由は明白。
拳銃二丁の弾が――無くなったのだ。
生憎……、拳銃の弾は……、ユワコクには置いていなかった。ゆえに……、拳銃の弾はもうない。
その弾切れが――大きな隙を生んでしまった。
「ううううぐああああああああああああああっっ!」
「っ! ぅあ!」
どんどらはあらん限りの力を使って、ぶぅんっと空を薙ぐ音を出しながら、腕に絡みついていたアキを、ブン投げた――否。ぶん回して離した。の方がいいのかもしれない。
遠心力のせいではたから見ればすごいスピードだったのだろう。アキもそう感じ、感じながらその風を切る音と感覚を体で感じ、すぐに来た頭の激痛と『ガゴォンッ!』と言う石が壊れる音が響き渡った。
それを聞いて、アキは全身に響く鈍痛を感じ、「いって……っ!」と呻きながら立ち上がる。
がらりと石柱だったそれがただの石の破片と化し、辺りに散らばる。
その石に隠れるように、手から離れた拳銃が落ちたのだ。アキはそれを見て、両手が部位破壊されていないことに安堵しながら、それを取ろうとした。
刹那。
かちんっと、拳銃のトリガー部分から音が聞こえ……。
アキは、目を疑った。
どんどらはずんっと前にで、そしてボロボロとなってしまった右腕の肘の部位を支えながら、どんどらはアキを睨みつけながら、もう一歩、重い脚を踏みつけた。
アキはそのままどんどらを見、両手に拳銃を構えながら、仁王立ちになってどんどらを睨んでいた。
どんどらはそれを見て、更に青筋のそれを太く、大きくさせ、彼は怒鳴る。
「貴様……っ! 矮小な耳長の分際でぇ……っ! この『ネルセス・シュローサ』の最古参幹部にして、初代『ネルセス・シュローサ』を支え尽くしてきたこの儂に……、『猛猪』の異名を語ったこのどんどらにぃいいいっ! 恥と傷を与えたなあああああっ!」
彼はどんっと大きな足とその巨体で、アキに向かって、猪のように直進し迫る。
それを見てもアキは、すぅっと息を吸って、吐くだけで……、あまり命の危機を感じていない。否、落ち着かせるために、わざと平静を装っているのだ。
だがそれでも、どんどらはアキのその態度を……、否、アキ自身のその姿を見て……、更に苛立ちを募らせながらこう怒鳴って突っ走る。
「初代ネルセス様は、人間を捨てた儂に……儂のことを最も人間らしいと言って身近に置いてくれた! 枷を外してくれた! 元奴隷であった儂を、人間にしてくれた! 儂はそれだけで嬉しかった、そしてこのお方のためなら……、命を捨ててでも、何を捨ててでも、何もかもを壊してでも、『ネルセス・シュローサ』を守り抜くと誓ったのじゃ! 貴様にはあるか!?」
「………………………………」
「日本と言う、永劫人間でいられる土地で、そのような覚悟を決めるようなことがあるか? ないじゃろうな! 何せ、そのような人生を送ったことなど、一度もない貴様に……、日和の貴様に! 何も考えずとも苦痛などない味わったことがない貴様に! わかるわけが――」
と言って、どんどらはアキの前で、至近距離で――ぐわりと両手を広げた。
そしてそのままアキに向かって、両手を振り、まるで拍手でもするかのように、その掌に、アキを閉じ込め……否。蠅叩きのように叩いて潰そうとしたのだ。
アキはそのまま仁王立ちで、立っているだけ。
強いて言えば、どんどらのように拳銃を持った手を広げているだけだった。それを見て、どんどらははっと鼻で笑いながら……。
「血迷ったか! それとも気が狂ったか! 先ほど弾切れの音が鳴っていたではないか! その拳銃は使えん! もし補充の弾があれば話は別! じゃがの……儂はそのような隙を与えんぞ!」
そう言いながらもどんどらはアキを両手で叩き潰そうとする。
勝利を勝ち取った狂喜の笑みで、彼は高笑いを上げながらこう言った。
「これにて――ネルセス様率いる、儂らの完全勝利」
と言った瞬間だった。
ちくりと……、掌に来た小さな痛み。
「?」
それを感じたどんどらは一瞬、ほんの一瞬手を止めてしまった。
止めてしまったがゆえに、アキはその隙を狙い、拳銃を持ったまま腕を伸ばしたままグルンッと回った。
それだけなのに……、何もしていないのに――
ばしゅっと、手のひらから鮮血が噴き出した。
どんどらはそれを見て絶句し、ナイフの類は持っていなかったはずだと思いながら……、彼は思わず手を引っ込めて掌を見ると……、更に目を疑った。
掌には横一文字に、ぱっくりと割れた切り傷。斬られた痕ができていたのだ。
どんどらはそれを見て言葉を失い、そしてアキを見ると……、目を疑って「んんなぁ!?」と声を上げた。アキは拳銃を持ったまま……、どんどらをから目を離さないで見ていた。
持っていた拳銃からは……、鋭利な刃物が出ていた。それは銃口から出ていて、剣よりは短く、ナイフよりは長い……、包丁と同じ長さの両刃剣が、二丁の拳銃の銃口から出ていたのだ。
――仕込みっ!?
そう思ったどんどらはまずいと直感し、すぐに距離をとった。だが、アキはそのまま突っ走り、どんどらの真正面に向かってただ走る。
それを見たどんどらはその威圧に押されかけ、体が委縮してしまう。そして――アキとどんどらの距離が狭まった。その瞬間……。
アキは剣を振るった!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!」
どんどらを壁に追い詰めるような猛威と怒号で、アキは拳銃から出た剣をがむしゃらに振るう。
ヘルナイトのように剣技を極めた流暢なそれはできない。
キョウヤのように踊っているような槍術を扱えるわけではない。
だが、ごり押しならできる。
付け焼刃の猛威と特攻だが、どんどらの体に、腕に、顔に、足に切り傷ができる。出血もひどくなってくる。
「うぐううううううううううっっ!」
どんどらは唸りながらアキを止めようと腕を伸ばすが、アキはすかさず拳銃を振るってその行動を阻害する。アキが拳銃から出ている剣を振り回しているせいで、自分の向かって猛威を振るっているせいで、どんどらは追い詰められ、手が出せない。
手が出せない。
まさにこのことだ。
そんな猛威が続き、どんどらの背に冷たくて固いものが当たった瞬間、アキはすぐにどんどらの視界から外れて、どんどらの股を通り抜けながら……どんどらの足に向けて、その拳銃の剣をくるんっと回して、拳銃を下に向けて、まるで逆手に持つように掴んだ後、小指にしっかりと引き金をかけて――
どんどらのアキレス腱に深く、その刃を突き刺して、ザシュッと斬る!
それを受け、どんどらは両足に来た激痛に耐えきれず、その巨体を後ろにぐらつかせた。
アキはそのままどんどらの下から抜けて、右に旋回してどんどらの前で跳躍する。
そしてアキはどんどらの左肩に片足を乗せて――
「悪いけど……俺だってそう言った守りたい覚悟はある」
どんどらの頭めがけて、足を横に捻りながらアキは言った。まるで……どんどらの顔をボールに見立ててシュートをするような……、そんなポーズ。
その状態でアキは言った。
「誰かのために戦う覚悟……、言葉だけで分かったつもりかとか言われてもいいけど……、俺にはあんたの気持ち……、わかるよ。あんたはその人のために、命を捨ててでも守りたい。助けてくれたから守りたいって思ったんだろ? そう言った純粋さ、すごく羨ましい」
けど、と言い、アキはぎっとどんどらを睨み、足を振るった瞬間どんどらがそれを見て何かを慌てて言おうとした時……。
「俺は兄として! 妹を守らなければいけない確固たる意志があるんだっ!」
アキはそう叫びながら、ばぎぃっと、どんどらの顔面に蹴りを、足刀を入れた。
それを顔面で、鼻が折れそうなその攻撃を受けてどんどらはぐらっと、後ろにバランスを崩し……、そのまま石の壁に頭ごと激突した。
と同時に――ばがぁんっと石の壁が崩れ、大きな穴が開いた。
アキはすたっと地面に足をつけて着地すると……、その先に見えるマドゥードナの街を見て……、アキは己の足元で伸びているどんどらを見て、はっきりとこう言った。
「なにが日和だ。何が苦痛のない人生だ。俺は味わっていたよ。小さい時からずっと……」
そう言ってアキはどんどらを避けながらその場所を後にし、急いでハンナがいるその場所に向かって足を進める。
走りながら……、銃を改造してくれたガーディに対し心の中でお礼を言いながら……。