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PLAY03 エストゥガにて②

「で、出れた……」


 泥炭窟を抜けると、今の今まで暗い所にいた所為か目が光に慣れていない。だから私はアキにぃに手を引かれていない手で顔を覆った。


 目に差し込む光が一際強く光っているような感覚が、だんだんと慣れていくと同時に光りまくっていた世界が普通の世界に戻っていく。


 その光景を見て、そして肌に差し込む光、私達の頬を撫でる優しい風にさらさらと揺れて綺麗な緑の世界を奏でるその草木の声を感じながら私は思った。


 出れた。と安堵の声を上げて、へにゃりとへたり込んだのは――モナさん。


 モナさんははーっと溜息も吐いて、出れたことと、生きていることに対して安心してしまったのだろう。


 私もその一人。


 私も今生きていることに、安心と気の緩み。


 そして――自分の決意の揺らぎを感じた。


 ついさっきまで浄化をしようと心に決めて、みんなのために何かできることをしようとしていたのに、それがさっきのモンスターの所為で折れかけた。


 自分のことを強豪と謳っていたゴーレスさんは、いなかった。


 ゴーレスさんやいろんな人達はその場所にいなかったけど、逆に落ちていたのは……武器だった。


 暗くてよく見えなかったけど、黒い何かをつけた状態で無造作に置かれ……ううん、この場合は違う。あれは、投げ捨てるように置かれていた。ううん……、捨てていたんだ。その武器の数はきっと百を超える。


 それが指す事は、考えないでおこう。


 考えただけで怖いけど、まだ完全に決まったわけじゃない。


 逃げ切って、エストゥガに身を隠している人だっているはずだ。


 きっと、ううん……っ。絶対にいる。


 だって早合点は禁物だもの。こんなところで、一日で絶望に落ちることは絶対にしたくない。折れかけたけど、ゴーレスさんがもうこの場所にいないなんて言う最悪は、絶対に考えない。


 生きている。生きているっ。絶対に生きている。


 ずくずくと嫌な鼓動が早くなる己のポンプを必死に抑えつつ、私は再度自分の意志に焚火を入れて、焚き付ける。


 その決意の表れとして……、手で頬を叩くという、何とも時代遅れな気合の入れ方をしようとした。でも――


「? あ」

「? どうした?」


 アキにぃは私を見下ろして、さっきとは違う――いつもの笑みで私を見下ろしていた。私は見上げて、アキにぃが掴んでいる手を、くんくんっと引く。それを見たアキにぃは、ぎゅっと、さらに手を離さないように掴む。


「……アキにぃ、離して」

「なんで?」


 アキにぃは問い詰める。笑みの(まま)、私を問い詰める。


 私はそれに対し、内心おっかなびっくりでいたけど、私は微笑みながら私の腕を掴んでいるアキにぃの手に自分の空いている手を、とんとんっと優しく叩いて――


「少し、気合を入れたいの」


 その言葉に、アキにぃはじっと私を見てから……、少し考えたのだろう……。


 そっと、私の腕から手を離した。


 私はアキにぃに「ありがとう」とお礼を言って、それからすぐに、ほっぺをぱんぱんと叩く。ほっぺがひりひりとしているけど、それでもこれは私なりの戒めとなったのかもしれない。


 ……多分。


 そう思っていると、モナさんは泥炭窟をじっと見て、動かなかった。


「……どうしたんですか?」


 私はモナさんに聞く。するとモナさんはハッとして、私の方を振り返ってから、空元気のような笑いを上げて「いやねー!」と頭を掻きながら、モナさんはまた、泥炭窟に目を移す。


「……さっきさ、ヘルナイトにお礼を言ったんだよね」

「!」


 その言葉に、私はなぜか――どきりとした。


 どきりと言うそれは、焦りなのか、それとも他の何なのか……。まだ私には解らない。


 モナさんは泥炭窟を見て、私に対して言っているけど――見ないで言う。


「今まで、『12鬼士』は怖いとか、強いとか認識していたから、この世界になっても――きっと怖い人物なんだろうなーって思っていた」

「………、それは、解ります」

「だよねー!」


 モナさんは肩を竦めながら、カラカラ笑う。でも、その笑いをすぐに消して、洞窟を見る。その目は――とても穏やかに見えた。


 あの洞窟で起きた――恐怖、畏怖、憤怒、嘆きなどの、赤と青のもしゃもしゃ……、感情……、なのかな……。それが一切見えないそれで、モナさんは言った。


「でも、怖くなかった。人間だった」


 そうだ。


 人間だった。人間の感情を持った……騎士そのものだった。


 多を助け、多を救う。


 騎士の鑑。


 それが、ヘルナイトにはあった。あったからこそ……、人としての人格があったからこそ……、私は複雑で、見ることしかできなかった……。


 そう……見ることしか……。


「……?」


 ふと、私は首を傾げる。それは、違うと直感したから。


 なんだろう。本当に違うと思った。違うというより……、それは当たり前だろうと思っている自分がいた。


 何故なのかはわからない。


 でも……、私は……。そう思った時だった。


「おぉーい! 御二人さーん!」

「「!」」


 エレンさんが遠くで私達を呼ぶ声。私とモナさんは、エレンさんがいる方向を見た。


 エレンさんはアキにぃやダンさん達と一緒に、少し離れたところで手を振って、私達を呼んでいる。


 エレンさんは言った。


「早くしろよー! エストゥガはもうすぐだからな! 日が暮れるまえに急ぐぞぉ!」

「あ、はーいっ!」

「は、はい……っ」


 先にモナさんが、次に私が走ってみんなに追いつくように走る。


 走りながら、私も泥炭窟を見る。


 ……外の外装と言うか、それは壊れていないようだ。言ったどれだけ壁が厚いのだろう……。


 でも、あの場で起こった出来事は、現実なんだ……。


 あの蜘蛛も、あの武器や防具も、血も……。


 そして――



 ――怪我がなくてよかった――



 私はそっと、踵を返して、アキにぃ達がいるところに向かって走る。


 私は、あの言葉を聞いたことがあると、思った。


 ううん。核心のそれだった。


 聞いたことがある。


 でも、どこで聞いたんだろうか……。肝心なところが思い出せない……。


 私は考えたけど、今は、目の前のことに集中しないといけない。


 浄化。それが先だと。


 ヘルナイトへのお礼は、会った時にしよう。ちゃんと、お礼を言おう。そう私は思った。


 そしてみんなに追いついた私。アキにぃは私を見て――


「一人は危ないだろう? 勝手な行動は駄目だからな」


 と、めっと注意されてしまう私。私は頷いて、反省しながら「ごめんね……」と言ったところで、私はふととある疑問を抱いた。


 アキにぃをじっと見る私。


「……? ど、どうしたの? ハンナ……」


 アキにぃは驚きつつも、恥ずかしいのか、髪を弄って私に聞く。後ろから「乙女かよ」とダンさんの声が聞こえたけど……、アキにぃは無視している。


 私はさっきまで思っていたことに対し、アキにぃに聞いてみた。


 本当はエレンさん達にヘルナイトのことを聞こうと思っていたけど……ヘルナイトのことは、エレンさんやアキにぃ達には言わないでおこう。


 アキにぃには特に。


 あの敵視する目が私には怖かった。ということもあるけど……、その話をしたら、きっとアキにぃはむっとするから。


「アキにぃは……、スナイパーなんだね?」とにこっと控えめに微笑むと、アキにぃはそれに対して「え? あ、あー……そうそう」と言いながら、照れ笑いを浮かべてそれをそっと取り出した。


 それはさっきも使っていたライフル銃。


「俺は遠距離特化のスナイパーなんだ」

「? 遠距離……?」

「スナイパーにも、色々なスナイパーがいるんだ」


 そう私とアキにぃの間に入り込むように会話に参加したエレンさん。


 今歩いている順番はエレンさんが前、その後ろに私とアキにぃ。モナさん。ララティラさんにダンさんと言う順番。


 エレンさんは後ろを向いて、後ろ向きに器用に歩きながら私達を見て言った。


「ほら、銃次第で戦況が変わるとか、昔仲が良かった拳銃マニアが言っていたんだ。しかもアキくんのライフルは、完全なる遠距離特化のそれ」


 すっとアキにぃのライフルを指差すエレンさん。


 それを聞いたアキにぃは、少しむっとした表情になる。そしてその表情のままアキにぃは言う。


「……遠距離なら、不意打ちが出来るでしょうが」

「忍者かっ」


 アキにぃの言葉に、エレンさんは驚きながら突っ込んだ。そしてララティラさんも間に入るように――


「まぁ、不意打ちって結構戦況が有利に立つことがあるか………らねぇ」


 あ、また言葉が変になった。そう思って、私はララティラさんの言葉を聞く。ララティラさんは髪をそっと手の甲でたくし上げながら――


「私はエルフとピクシーの魔人。魔力が他よりも少し高めで、ウィザードをやっているんだけど、私ももっと、可愛い所属になりたかったなーって思ったもん」


 と、後悔しているような音色で言った。


 それを聞いてエレンさんは申し訳なさそうに「悪かったって」と謝る。


「その件に関してすれば、俺とダンだけのチームだと、属性攻撃とかが本当に乏しいんだよ。俺はエルフのアーチャー。ダンは巨人族のモンク。そうなると、遠距離でも近距離でも戦えるウィザードが必要だったんだって」

「それだと偏りがあるでしょうがっ。回復要因もいない状況で、どうやって切り抜けようとしていたんっ……。のよっ!」

「いや、友達を誘えばと思っていたんだけど……」

「なんで肝心なところが抜けてんゃ…………のよっ!」


 ……ほとんどがエレンさんとララティラさんの会話。それを聞きながら歩いていると、モナさんは私とアキにぃに近付いて……、こそっと耳打ちした。にやにやした笑みで……。


「なんだかんだで……、仲がいいよねー。あの二人」

「………たしかに」

「喧嘩するほど仲がいい。って言うけどね」


 モナさんの言葉を聞いて、私とアキにぃは、歩きながらも、器用に口喧嘩をして(一方的なそれ)いる二人を見て、仲がいい光景を見て、私はモナさんの言う通り……、仲がいいんだなぁ。と、心が和んだ。


 けど――



「なぁ――さっきのヘルナイト、なんで俺達を助けたんだろうな?」



 …………空気にびしりと罅が入った気がした。


 その言葉に、ダンさんの何気ない疑問の言葉に、私達の和んでいた空気が一瞬にして気温が下がる。私はダンさんを見ると、ダンさんは首を傾げ、腕を組みながら、なにがどうなっているんだという顔をして見ている。


 エレンさん達は、頭を抱えながら「あちゃー……」と言葉を零している。


 アキにぃは……、あ……。凄く怒っている……。


 笑みがあった表情はなく、今は冷たい怒りがアキにぃを支配しているようだ……。


 私はわたわたとアキにぃを見上げて――


「助けたのは当たり前じゃないですか?」


 私の言葉を遮る……。ううん。これは言うことを妨げたの方がいい。誰かが言葉を遮った。


 その声を辿って、ふっと振り返ると、モナさんが笑みを崩さずに、そっと泥炭窟の方角を見て――


「人として、当たり前なことをしたんじゃないですかねー?」


 ――その言葉には、曖昧なそれも含んでいたけど、それでもはっきりとしたそれも含んでいるようで、私は、それに対して追及はしなかった。


 追及が、できなかった。


「あれは……人じゃ、ない」


 アキにぃの小さな声に、私は聞き返す事が出来ず……。というか、聞こえていなかった。


「まぁ、それもあると思うが、それは本人しか知らないだろう?」


 エレンさんは肩を竦めて、頭をガジガジと掻きながら、面倒臭いような仕草をして――泥炭窟とは正反対のその場所を見る。


「――あと少しで、エストゥガだ」

「………止まっちゃ、いけない」


 そう、私は小さく戒める。


 ポーチに入れていた白い魔導液晶……ヴィジョレットを操作してクエストの詳細を見る。クエストの記述欄には、新たな情報が更新されていた。


 アキにぃがそれに気付いて、二人でその内容を見る。


 そこには――

 


 新情報更新。

『八神』が一体――サラマンダーの情報更新。

 今現在、サラマンダーはエストゥガの鉱山ダンジョン――『鉱焔洞宮(こうえんどうきゅう)』の最深部にて潜伏中。

 ダンジョンの詳細については、魔導液晶地図にて詳細を記す。



「……サラマンダー……」


 サラマンダーと言う言葉に、私はぎゅっと、自分の胸のあたりで握る拳を作る。


 手汗が私の手を濡らす。


 とうとうだ。『八神』の一体と、対面することになる……。


「おっ」


 ダンさんが陽気な声と共に私達に言った。ダンさんがその方向を指差して小さい好奇心旺盛な子供のように――


「おぉ! あれがエスタンクだっけ? エスハンバーグだっけかっ!」

「――エストゥガだ……。突っ込むこっちの身にもなれ。あと後半から食べ物になっている」


 はぁっと頭を項垂れて疲れを体現するエレンさん。まるでその光景は、しょーちゃんとつーちゃんと同じ光景。それを見て私は……。


 メグちゃん、みゅんみゅんちゃん、しょーちゃん、つーちゃん……。


 今頃どうしているんだろう……。


 そう思いながら目の前に広がった街を見た。

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