PLAY29 激闘! ネルセス・シュローサⅡ(寵愛と愛。無心と正義)⑤
唐突に回想に入ろう。
今回は謎が多いかつ……、神出鬼没にして正義をこよなく愛する……。
アキ曰く……変人騎士。
正式名称は『セイント・クライン』
頭文字をとると『SK』
英語交じりの名を持つ正義に魅入られた男――旗見勇己について語ろう。
彼は確かに正義を愛し、悪を嫌う……典型的な正義の味方気取りの男だ。
しかしこれこそが彼の性格なのだ。
勇己は幼少の頃から弱い人を助けるヒーローに憧れていた。
理由はとてもオーソドックス且つシンプルなもので、小さい子供向けのヒーローアニメを見て彼は感化された。
それだけなのだが、その正義感溢れるその光景に憧れを抱いた。
体は弱くもなければ強くもない。普通の位なのだが……、それでも弱い者いじめをする子供がいるならば、その子を助けるくらい勇己は正義感が強かった。
その正義感は小学校、中学校、高校に大学に入った後も……、彼はその性格を崩すことはなかった。
昔見たヒーローアニメのように、泣いている人に手を差し伸べれるような、強くてかっこいいヒーローになりたい。
その心を胸に、たとえ苛められても泣かず、反感を持たれても動じず己の意志を貫いた。
大学を卒業し、彼は念願のヒーロー……、は、この世にはないので、この世の秩序を守る警察官になった。
警察官と言っても捜査の方ではない。彼は志願したのは……。
交番勤務。
なぜ交番勤務を志願したのか……、簡単な話。
彼は世の中の犯罪を未然に防ぎたい。ゆえにパトロールをし、犯罪の抑止力になりたいと思ったからこそ交番勤務に志願した。
それを聞いて、警視庁のトップであるその人物は、勇己に交番勤務を言い渡した。
それから勇己は己の職務を全うした。一日に三回。多くても四回のパトロール。
そんなにしなくてもいいと言われているのだが、犯罪の抑止力。そして平和な世界のために限りある時間を有効活用したい。その心がけを元に、彼は職務を全うした。
だが……、現実はそう甘くはなく……。いいや、甘いなんて言う言葉は不正解で、この場合正解の言葉はたった一つ……、腐っていた。
そう――正義は腐っていた。
今の時代、犯罪が多いのも事実で、人間は法を完全に守る人などそうそういないのだ。勇己ももしかしたらどこかで法を破っているのかもしれない。しかしそんなのわからない。
だが、その犯罪を起こしている人物に――警察が含まれていたら?
よくある話……、魔が差した。
そのような事件を引き起こして逮捕される事件だ。それは勇己にとって……、正義の名のもとに全うしている人のやることではない。そう思ったのだ。
ゆえに、勇己は上司に聞いた。
なぜそのようなことをするのか。なぜ自分たちは正義を正すものとしてここにいるのに、なぜ悪の所業をするのか。
それを聞いた上司は――
おかしく笑って……、馬鹿にするように……、こう言った。
「お前馬鹿か。そんなルール守ってばっかだと楽しくないだろうが、要領よく生きろって。アニメや刑事ドラマの見すぎなんだよ。お前大人だろ? なら大人の遊びも考えろって」
それを聞いた勇己は……、落胆することはなかった。
むしろ……、己の中にある正義への執着が強くなった。
他人は利益を求めて仕事をしている。それが当たり前だが、勇己はその職に就いて、人々のためになりたいと思っている男だった。
……汚い話、お金も大事で、それも大事にしているが……。
だが、正義のため、人のためなら自分がどうなってもいいと思っている。たとえ、この命が失われても、人命を優先にする。
それが……、警察官として……、そして――
生まれてから正義に憧れ、アニメのようなヒーローになりたいと願った……旗見勇己の悲願でもあり、宿願でもあったから。
だからこそ、彼は悪を――犯罪を許さない。
その悪を捕まえることが、悪を倒すことが……、彼の宿命である。
正義のために、彼は――命を惜しまない。
彼は、そう言う自己犠牲の精神が強すぎる男。それだけ言っておこう。
回想終了。
◆ ◆
「ここにいるのは、この世にいるのは一般人と……敵だけですよっ! この世界に、ヒーローなんて……、正義の味方なんて……、どこにもいないっっ!!」
その言葉を聞いて、SKは思った。
確かにと。
――確かに、この世界の正義と悪を比として表すのならば……合計を百とすれば……。
正義:悪=10:90
の位だろう。極端に言えば。
――その悪の比をゼロにするのは難しいことだ。人間は道を誤る存在。正しい道に行くだけの存在ではない。そうなればロボットだ。AIでもない。ただプログラムされたロボットだ。
――それではだめなのだ。
――正義のために、人の心を改心させてこそ意味があるのだ。
――正義がいない。ヒーローなんていない。
――それは間違いだ。とんだ言い訳だ。
――正義は必ず存在する。味方だっているはずだ。
そう彼は思い、剣を持って走り出す。そしてそのままズーに向かって、言った。
「正義の味方がいない? それは違う。私がいるではないか! 正義の味方がっ!」
それを聞いてか、ズーはぎっと歯を食いしばりながらぶるぶると鎌を持っていた手をがくがくと震わせ、そして彼は大きく鎌を振るい上げたと同時に――叫んだ。
「そう言うことじゃないっ!」
振るい上げて一気に降ろし、そしてそれを受ける。
攻撃はズーが、防御はSKがして……、攻撃の応酬を繰り返した。
ギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンッッッッッ!!
と――
己の手が見えないような素早さで繰り広げられる攻防。
どちらも引けを取らない速さで、SKの肩に、ズーの頬に切り傷ができ始め、次第にどんどん切り傷ができ始めた頃……、ズーはその攻防をしながら彼は言ったのだ。
「正義とかぬかしている人は、平和に現を抜かしている人が言うんですっ! 僕が生きてきた世界に……、ヒーローや正義の味方なんて一人もいない! むしろそれが普通なんです! 正義の味方が、ヒーローがいる時点でおかしいんですっ!」
そうでなかったら……っ!
ズーは思い出したくないことを思い出したかのように、彼はだんだん水を含んだ音色が目立つ声になってきて……、そのような状態でもこう言ったのだ。
この世界には――悪しかいない。悪が正義なんだと。
そう言った瞬間、がぃんっと響きあった金属音が止み、今度はぎりぎりと、互いの刃を削り合う、あの嫌な音を立てながら、互いの力を押しつけ合い……、そして押し出そうといていたのだ。
よくある剣が混じった状態で起こるあの光景だが、ズーの方が体格は小さい。
はたから見ればSKが勝ると思った。しかし同格。否……、ズーの方が少しだけ力が強い。
彼が持っているのは鎌。SKが持っているのは剣。重さも相まってか、ズーはその鎌の重さを利用して押し出しているのだ。
そんな状態で、ズーは言った。
「あなたは日本のお方ですよね? その日和った思考が何よりの証拠ですっ! あなたのような人に僕のような……、僕たちが生きてきた世界の事なんて、知らないでしょうねっ! でもね……、僕は小さいながら思い知らされましたっ! 優しさだけではなにもできないっ! その優しさで孤児院を作った父ですけど……、最後には見せしめとなってしまった! 僕を置いて、僕の目の前で――父の頭は無くなった! ボールになった! 目の前で見せられたこの絶望……、あなたにはわかりますかっ!? 僕のこの気持ちが! 悪である人に従わざる得なくなる気持ちがっ! 無心でいないと心が壊れそうになるこの気持ち……、あなたにはわからないでしょう! その時、正義であった警察は――動かなかった! 誰も孤児院を、みんなを――あの二人を、父さんを助ける人がいなかった! 警官は言いなりになって、近くの街に火を点けたっ! くずですよ!」
全員――僕達を見捨てた奴らはクズで、悪だっ!
そうズーは言い、そしてグンッと振り上げたと同時に――ズーは己の怒りの感情を爆発させ、振り上げた鎌を一気に振り降ろすようにしてこう言った。
「悪に負けた僕は……、その悪に言われるがまま人を殺して、罪を犯した僕は……! もっともっとクズで――悪だっ!」
……そう、最後は自分に対しての自虐だったのか……、はたまたは懺悔なのか、それはわからない。
しかしSKはズーの、無心になる理由を聞き、そして心の叫びを聞いて、振り降ろされたそれを見て、彼は一言……。
「そうだな。それは――悪だ」
だが。と言い。
がしりと――
振り降ろされた鎌の柄を、剣を持っていない手でがっしりと掴んだ。
それを見たズーははっとして、ぐっぐっとそれを引っ張った。しかし……、SKの腕力が勝っているのか、振りほどけない。取れない、取り返せない。
それを感じたズーは、SKから感じる殺気に気付いて顔を上げたと同時に……、ぞっと青ざめた。
SKは甲冑を被ってて、顔は見えない。しかし……、雰囲気でわかる。
彼が――怒っている。怒りを露わにしていることに。
それは、黒いローブを羽織った集団も感じたらしく、後列にいた集団は、SKのその殺気に中てられ、尻餅をついて戦意を喪失する。
「う、あぁ……」
と狼狽してしまうほど、それは強い殺気だった。
だが、その殺気は――ズーに中てたものではない。それは……。
ズーを無心にさせるくらい、ひどい仕打ちと心に傷を負わせた悪の存在に対しての……、怒りだった。
「だが……、その悪に呑まれた人間を救うのも」
SKはそう言いながら、手に持っていた鎌から一回手を離し、手の甲が胸に向くように……持ち方を変えてからぐんっとズーの鎌を元上げる。
手にしていたズーごと持ち上げ、ぐりんっと手を元の形に戻すとそのままズーと鎌をブゥンっと半回転させた。
「うあああっ!?」
ズーは少年のような叫びを上げる。
そしてSKは鎌の柄をがっしりと掴んで、そしてそのまま一気に振り降ろすために――彼は餅つきのように一回止まってから言う。
「悪によって利用され、苦痛の思いをしている人に手を差し伸べるのも……、正義であり。それができるのは――」
と言った瞬間、ぶんっと音が鳴るくらい、力強く振り降ろして――SKは……。
ずたんっ! と、鎌ごと振り降ろされて、背中から地面に叩きつけられてしまった……、目を朧気にし、口から血を吐いてしまうズーに、彼ははっきりとした音色でこう言ったのだ。
「――人間だけだ」
叩きつけられて気絶してしまったズーを見、フランドは朧げな輪郭で驚きながら、彼は思った。慌てていた……。
――まさか……っ!
――あのズーがっ!? あの孤児院のくそ餓鬼が! 『ネルセス・シュローサ』で最もレベルが高いズーが!? 負けた……っ!?
――なんなんだあの正義馬鹿は……っ!
――仲間じゃないはずだ……っ! 何であんな男が……っ!
と思っていると、SKはふらっと立ち、甲冑越しでじろりと黒いフードの男と、そしてフランドを睨みつけた。
その眼があった瞬間、誰もが悲鳴を上げて狼狽する。それはフランドも同じだった。
――まずい!
そう直感したフランドは、幽体のまま逃げようとした。
しかし……。
「逃がさない」
そう言ったのはSKではない。
フランドはその声を聞いて振り向いた。すると――何をしているのだろうか……。
ヘルナイトは大剣を持っていない手に、風を集めていた。
ふわんふわんと小さな竜巻を起こしながらだんだん大きくしていくと……。
フランドはそれを見てはっと息を殺し、狼狽している部下達に向かって――
「――逃げなさいっ!」と叫んだが……。
遅かった。
「――『嵐爆乱』」
と言った瞬間、手に集まっていた小さな竜巻が一気に膨張して吹き荒れた。
ブワリと巻き起こった風――否、竜巻は一気に爆散するように辺りに散らばって吹き荒れる。
それを受けていた黒いローブの集団は、叫び声を上げながら、何人かは耐え、何人かはすぐに吹き飛んで、そして最終的には全員が吹き飛ばされてしまう。
SKは気絶してしまったズーと、さくら丸を抱えて耐える。
ごおおおおっと吹き荒れるそれは、まるで台風。
幽体であるフライドも、体の幽体が吹き飛びそうなくらい……、その威力は大きかった。
しかし……、フライドに対してのダメージは全くない。
それを感じて、フライドはくっと喉を鳴らして思う。
――やはり、私に対しての攻撃手段はない。
――あれは部下を吹き飛ばして、私をこっちに引き込もうとしての技だったのだろうな。
――だが無理だ。私は幽体。浄化か光属性の攻撃でないと無理だ。
そう思いながら、風に幽体の体の破片が呑み込まれようとしているにも関わらず、彼は余裕の心持でその場にいた。
しかし……。
「?」
遠くから、ちかりと光る何かが見えた。
それを見るために、輪郭が朧気な目を細めて……、それを見ると……。
「っ!?」
フランドは目を疑った。
そう。
ヘルナイトは光る何かを持って、風によって身動きが取れないフランドに向かって、放とうとしていたのだ。
「っ! ぐぅ!」
フランドはそれを見て避けようとする。しかし風が邪魔をして、動けなかった。
それを見て、ヘルナイトは、光を纏った大剣を持ち……、静かにこう言った。
「……キメラプラントのような命中率はないが、これなら外さないだろう」
そう言って、彼は大剣を持っていない片手を……、空に伸ばした。すると――
バシュッと出た、光る弓。それは本当に光る弓と言われてもおかしくないような、発光している弓だったのだ。
それを手に取り、エレンがするように弓に光を纏った大剣を添えて――ぎりっと光の弦をしならせる。
そして……、狙いを定めて……。
彼はフランドに向かって――それを放った!
「――『煌燐』」
言った瞬間、ヘルナイトは大剣の柄を離して、その大剣を矢のように。
バシュゥッと音が鳴るくらいの威力で、高速の速さでフランドに向かい、一直線に来たのだ。
高速で、音よりも早い速さで。
フランドはそれを見て、慌てながらそれを見て、彼は……。
絶叫する。
「くそおオオオオオオおオオオオオオおおおおおおオオオオオオオオオオッッッ!!」
叫んだ瞬間、すでに大剣は彼の顔のど真ん中。
刹那。
ばしゅぅっ!
と、彼の頭と、その光の大剣が交差する。
光の大剣はフランドと交差した瞬間、光の粒となって消え、すぐにヘルナイトの手元に戻る。
そしてフランドは……。
風が止んだと同時に……、ガッと己の顔を掴み、押し潰すように掴んだ後……。
「あ、あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああーっっっっ!」
あらん限り、そして泣き叫ぶようにして彼は真っ二つになった顔を押さえながら……、ぼしゅうっと散布して消えた。
それを見たヘルナイトはふぅっと息を吐き、ところどころで倒れている黒いローブの集団を見て安心した後……、再度フランドが消えた場所を見る。
――あれで倒れた……。とは言えないな。きっと致命傷は避けた。そうするようにしたんだが……、あれなら当分は来ないだろう。
そう思いつつ手加減して本当によかったと思いながら、ヘルナイトはSKを見てこう言った。
「すまない――こっちの事情に巻き込んでしまい」
そう頭を下げて謝ると、SKは首を横に振り――
「いいや。むしろいいものを見せてもらった……、の方がいいな。これであの悪の根源である、あの女のもとに行けるな」
「………ああ」
そう言いながら、ヘルナイトはすっとハンナが向かった場所を見つめる……。
彼女のことを想いながら、彼はぐっと顎を引いて小さく……。
「今行く。ハンナ――待っててくれ」と言った。