PLAY29 激闘! ネルセス・シュローサⅡ(寵愛と愛。無心と正義)③
「っ!」
突然来た風の鎧を纏ったアルヴレイヴ。
エレンはそれを見て、すぐにその風の弱点属性の攻撃を放とうとした。
しかし……。
アルヴレイヴが向かった先はエレンではなく……、その背後にいる……。
ララティラだった。
「っ!?」
ララティラはそれを見て驚きのあまりに慌てて杖を突きだし、スキルを発動しようとした。が――この天気の所為なのか……、大雨のせいもあってか……。
ずりっと、ララティラは足を滑らせてしまう。
「っ!?」
ぐらりと、視界が上に向かって回り、そしてすてんっと転んでしまったララティラ。
アルヴレイヴはそれを見て、仮面越しで狂気の笑みを刻み、その仮面でも狂気の笑みがわかるような雰囲気を出しながら勝利を確信した音色でこう言った。
否――怒鳴りながら笑って言った。の方が正しい。
「形勢が逆転したな! 貴様らにはわからんだろうが……私はピクシーの血を引いているっ! ゆえにMPはカンスト! 魔力残量はまだある状態だ!」
「っ!」
それを聞いて、ララティラはすぐに立ち上がろうとした時――
風を纏った風の大剣を両手で掴み、横から薙ぐように構えて、ぎゅんっと低空で飛びながら、急加速でララティラに迫ってきたアルヴレイヴ。
杖を構えたララティラだったが……、あまりに素早いその飛行に目を見開いてしまい、一瞬……ほんの一瞬動きを止めてしまい……。
――はやいっ! このままじゃ……、スキルが出せへんっ!
と思った時には、すでにアルヴレイヴは彼女の胴体を真っ二つにするようにして、その剣を振るおうとしていた。
「――くたばれ」
アルヴレイヴはそう言って、ララティラにその風の大剣を振るおうとしたその時だった。
――ギィンッ!
「!?」
「っ!?」
風の鎧に当たった何か。
金属音が聞こえた。
それを聞いたアルヴレイヴは横目でそれを見て、ララティラは放たれた方向を見て叫けぼうとした時……、びたりと、さっきまでの勢いが突然失われたかのようにアルヴレイヴは止まる。
止まったかと思えばその場に留まりつつ空中でその方向――矢を放って注意を引き付けたエレンに向けて……。
風の大剣を向けて――ぼぉっと小さい焔を出した。
それはよくララティラが使う『火』なのだが……。
しかし、それは雨でだんだん小さくなるどころか……、どんどんと、少しずつだが大きくなっていく。
「え? 嘘やろ……っ!?」
「っ!」
ララティラが驚き、そしてエレンがぎょっとして逃げようとした。
その時には既に火の玉は先ほど放った火の玉よりは劣るが……、それでも、風の力により大きくなった火は炎となり――そして……。
「このような使い方もある。力も劣る、知識も劣る、技量でさえでも劣るエルフが……」
そう言って、アルヴレイヴはぶんっと振るって、自分の目の前で燃えている火の玉に向かって――ぎゅっと両手で大剣を掴んで、腰を捻りながらその火の玉目がけて……。
「聖騎士属性魔法――『エレメントフィア』ッッッ! ホームラァアアアンッッッ!」
ぶんっと風の大剣を使って、その火の玉を――カキィン! と。そんな音を出すように打ったのだ!
「っげぇ!」
「嘘やんっ! あんな使い方もありなんかっ!?」
エレンとララティラはそれを見て叫んだ。
まぁMCOではそんな使い方はありえないので、アルヴレイヴのアグレッシヴな行動には目をひん剥くような光景である。
ありえないというか、そんな使い方はゲーム内ではインプットされていない。
アルヴレイヴは、豪速球のように飛んで、更に大きさを増したその火の玉を見て……、彼は小さく「……これでは、魔焔球と、つい名付けてしまいそうだ」と、懐かしむように口走った。
しかし、その言葉を聞く余裕など、エレン達にはない。
避けようにも、あまりに早いそれを見て、エレンは思った。避けようと、スローモーションになる世界の中で、エレンは思ったのだ。
――風の鎧。
――攻撃しようにも生半可の攻撃だと風で吹き飛ばされて跳ね返ってしまう。
――強い攻撃でやっと通れるそれだけど、中にある本当の鎧のせいで貫通なんてできない。
――あの火だって元々小さいものだった。
――でも、風の特性を利用して、大剣を近付けながら……風の中ある酸素で火を成長させて大きくした。
――だからだんだん大きくなった。そこはいい。そこはいいんだ。
――元々小さい火でも、どんどん大きくなればそれ相当の威力となってしまうけど……。
ゆっくりと、ゆっくりと迫ってくる火の玉を見て、エレンは内心、心の中で――
――あんな使い方はないだろうがっ!
と、怒鳴った。
そう心の中で怒鳴った瞬間……、スローモーションだった世界が元の時間を取り戻したかのように、正常な動きを見せる。
エレンも普通に避けようと動いて彼の目の前に迫ってきている火の玉を見て……。
万策尽きた。
そう思った時だった……。
――カンッ! と、エレンの右耳から聞こえた、金属製の何かが落ちた音。
それを聞いて、右を見てその音がなんなのかと確認しようとした時――
刹那。
ぼしゅうううっと、突然辺りを包み込む白い煙。それはアルヴレイヴも同じで、驚きながら風の大剣を使って、その煙を吹き飛ばす。
ぶんぶんっと、大剣を振るいながら。
そのおかげもあってか、すぐに煙は消える。
と同時に――
「!?」
目を疑って、周りを見回す。
誰かがいる形跡がない。
というか、そこにいるのは――アルヴレイヴだけ。
そう。二人はどこかへ逃げてしまったのだ。
彼は舌打ちをしながら、背中から生えていた羽をすっと畳んでしまい、そして自分の足で進もうとした時、ふと、感じてしまった。
足がない。
あるのにない感覚。
手にも感じた。
喪失感に欠損感……。
手はあまり感じられなかったのに、今となってはその手でさえも感じてしまう。
「っ!」
アルヴレイヴはばんっ! と、己の四肢を叩いた。叩きまくった。
叩いて、叩いて、叩いて――
自分の手足があることを、痛覚、感覚があることを……、痛みを感じることで確認しようとした。
ここに手はある。ここに足はある。
あの現実のような……、四肢がない体ではない。
「っ!」
アルヴレイヴは脳に伝達されていく痛覚を感じながら、その足が本物……、仮想世界で本物と言われても、おかしい話なのだがそれでも、今は本物の足と手だということを実感して、アルヴレイヴは歩みを進める。
ズンッ……。ズンッ……。と、ゆっくりと、慎重に。
――もうあの時の私とは違う……っ!
――未来の野球の星と言われ、信頼されていた私が、とある大きな事故により、四肢完全壊死による四肢切断を余儀なくされ、醜いと、社会のゴミだと言われて突然蔑まれる日々を送ってきた私ではないっ!
――今は、ネルセスシュローサ様の懐刀として……、側近として! 私は!
――あのお方のために……! この命を使い、そして、寵愛をこの身で受けるっ! そのために、あの男は邪魔だ! あの女も、ネルセス様を侮辱した!
――許せんっ! 許せんぞぉ!
ずんっと、やっと煙が出ている中心に来たところで、アルヴレイヴはそれを見て――言葉を失い、喪失する目でそれを見降ろし……。そして……。
しゅぅうううっと出ている圧縮弾を――風が纏われている大剣で……、叩き壊した。
ばぎゃりと、それはもう粉々になるくらい……。
◆ ◆
そんなアルヴレイヴの殺意が一気に膨張した頃……。
圧縮弾を投げて、煙を発生させて、エレンを抱えて逃げ出すことに成功したララティラ。
エレンと一緒に逃げてきたのは……、とある道具屋だった。
しかしその道具屋は蜘蛛の巣がいくつもできて、木でできた棚や立てかけは腐りかけ、あろうことか得体のしれない茸が生えている……。
辺りに落ちているのは錆びてしまった剣や盾、あとは拷問器具。どれも錆がひどくて使い物にならない。
急ごしらえの避難場所とは言っても、エレンはその道具屋を見て……。
「他のところもこんな感じだろうな……、大雨ばっかで湿気ひどそうだし……」
「もっといいところを探そうかと思っとったんやけど……」
「うん。助けてくれてありがとう。そんな贅沢はいらないから大丈夫……」
辺りを見ながら、入り口のところで頭を垂らして落ち込んでいるララティラを見ないで、エレンは言う。
しかし……、と、エレンはようやく、ララティラを見て聞いた。
「よくあの状況で圧縮弾投げれたな」
それを聞いて、ララティラは「う」と唸った声を出して、エレンを見て申し訳なさそうにこう言う。
「うん。まぁ……。あん時はやけくそで……、でも多分、あの男に壊されとると思うけど……」
「弁償だな絶対に」
それを聞いて、内心溜息を吐いて、自分達のお財布から多額のLが羽を生やして飛んでいく光景が目に浮かんだ……。
エレンははぁっと溜息を吐いて……、頭を掻きながら自嘲気味に……。
「これって、元はと言えば俺が蒔いた種だよな……?」と言い、それを聞いていたララティラは驚きながら慌てて「ちゃうやろうが」と言うと、彼女はエレンに向かってこう言った。
「あれはあの男が、ネルセスの寵愛? をエレンが受けているって勘違……ん?」
ララティラはふと、何かを思い出したのか、首を傾げてエレンを呼んだ。
それを聞いてエレンはなんだと聞くと……、ララティラは聞いた。
「そう言えば……ネルセスってどんな女なんや?」
「どうした? そんな急な質問……、まぁ、答えるとするなら……、自分の手は汚したくない車いすに乗った女で」
「ちゃうちゃう。そうやなくて」
と、ララティラはエレンが腕を組んで言った言葉に対し、首を横に振って彼女はこう言い直した。
「ネルセスの性格や。どんな感じやったの?」
「また唐突な……、今緊急事態なんだが」
「その緊急事態で、違和感があるんやけど……ネルセスの性格ってどんな感じや?」
その言葉にエレンはうーんっと唸り、内心早くしないとハンナちゃん達にも迷惑かけているし……、と思いながら、エレンはネルセスに関しての情報を、知っている限りララティラに教えた。
「まぁ、人の心を弄ぶことが好きな性格で、冷酷で非道。でも慎重だな。監視者の件だって、俺以外には誰にも話していないし、このマドゥードナをアジトにしていることだって、誰にも」
「それや」
ララティラは指をさして、確信を突いたような顔をしてエレンを指さして言った。
一体何がそれなのだろうか……。
そうエレンは思ったがララティラは「いいか?」と言って――エレンに説明をした。
「うちはまだこの状況をよう理解しとらん。でもこの騒ぎを聞いていて、誰かがこのマドゥードナに侵入してきたってことはわかるで、それでネルセスも出るしかなったんやろうけど……、ネルセスは慎重。そうなると、仲間とエレンにしか、この場所は教えてへんやろ? するとこの騒ぎは変なんや。なんで慎重に事を進めてきたのに、なんで今になって、『ネルセス・シュローサ』があるマドゥードナに、今騒いでいる人たちは飛ばされたんや?」
変すぎやし、唐突過ぎる。そうララティラは言った。
それを聞いてエレンははっとし……、少し考える仕草をしてからこう言う。
「確かに……、ネルセスはこの場所がアジトで、俺達が監視者同士で話している場所は誰にも知られていない。それくらいネルセスは慎重だ。目的のためには手段は択ばないけど、下準備だけは一人で黙々とする方って自分で言っていた。だから監視者である俺には、『ネルセス・シュローサ』の全容を、幹部達の紹介なんて一切しなかった」
「裏切りとかあったら困ると思ってか? でも一人割れとるやないか」
「あれは例外だ。あいつから俺に詰め寄ってきたんだよ」
「納得」
……そう。
ララティラとエレンが言っていることを、わかりやすくする。
ネルセスは性格的には、手段を択ばない冷酷非道な女帝。しかし目的のための下準備は欠かさず、且つその情報が完璧でない限りは漏らすことはない。
徹底した慎重な性格の持ち主でもある。
エレンとの邂逅の時も、彼女は一人で会いに行き、そしてエレンに幹部達のことを話さず、幹部達にはエレンのことをあまり話さなかった。
はたから見れば、信用していないようにも見えるその光景。
そんな彼女だが……、アジトがここにある理由として、滅亡録に記録された街になど、誰も近付かないのが第一の理由だろう。
だが……、だがだ。
なぜ兵士は、ここにハンナ達を転送させたのか?
そこが疑問となるだろう。
『ネルセス・シュローサ』とアクアロイア王は――簡単に言うと同盟のようなものを結んでいるだけの関係。
信用していないがゆえに自分たちのアジトなど絶対に言わないネルセス。頑なに言わないネルセスだ。そんな歪な関係なのだ。
そうなると、あの伝言は嘘か真か……、定まらなくなってきた。
それを踏まえると……、どんどん謎が深まるばかりである。
「うーん。同盟ってところはネルセスから聞いていたし……、それにここの場所はアクアロイア王にも話していない場所だから、知られることはない。ってあいつは言っていたな」
「無断で使っとるんやな。とすると……、知らない場所なのにこんなことになった」
「まぁ、あいつ最初はすごく慌てていたけど……、もしかしたら……」
「予期せぬ事態やったんやな……」
そう思い至った二人。
そしてエレンは「よし」と言って、未だに大雨が降っているその場所を見て……、エレンは言った。
「でも今は最初に、あの男を何とかしないとな」
「その件で、エレン」
ララティラはエレンに向かって進んだ。その時。
――ゴンッ!
「わぎゃっ!」
突然、ララティラは足元にあった木箱に足をぶつけてしまい、そのまま盛大に転んでしまった。
べちゃっと転んだララティラを見たエレンは、呆れながら「あーあ……」と言って、彼女に駆け寄りながら「大丈夫か―?」と言って、彼女に手を差し伸べようとした時……。
「?」
彼女の足元にあった――彼女が蹴躓いた木箱の中身を見て……、エレンは目の色を変えた。
◆ ◆
その頃……。再び空中を飛んで、エレンとララティラを探していたアルヴレイヴ。
「どこだ……っ! どこにいる……っ!」
彼は血眼になりながら、どこにあの二人がいるのか、空中を跳びながら探していた。
あの短期間だ。壁に隠れてやり過ごしているのなら見つかるが、建物内を探すときは、そのまま急降下してその窓から顔を出して、その中を覗く。
それを繰り返して、アルヴレイヴはエレン達を探していた。何度も何度も……。
――自分を受け入れてくれたネルセス様の寵愛を……、あの何の変哲もない弱小のエルフの男にとられるこの屈辱……っ!
――許せん……っ! 許せん……っ!
――どんな時でも、あのお方は私には必ず一回以上は私に話しかけ、そして慈悲ある笑みを浮かべ、私にだけその笑みを与えてくださった!
――私が特別! 私は特別なんだ!
――だからこそ、あのお方を守ることこそが私の使命! 私の天命! 私の天職!
……そう思いながら、血眼でエレンを探していたアルヴレイヴ。風の鎧を纏いながら、エレン達をどう殺そうかと熟知していたその時だった。
ばっと下から現れる何か。
「っ!」
目の端で捉え、その方向を見て向かおうとした時……、ぎゅんっと向こうからアルヴレイヴに向かって来たのだ。
彼とは違う……、水色の妖精の羽を生やした女性が……。
「ほほぅ」
アルヴレイヴはそれを見て、仮面越しでにやりと微笑んだ。
まさか同胞がここにいるとは……、と思ったのだ。
彼の言う通り――その通りなのだ。本当に同胞がいたのだ。
その同胞の正体……、目の前にいたのは――ララティラだった。
しかもさっきとは違う。水色の羽を生やした状態で、試行錯誤しながら飛んでいたのだ。
アルヴレイヴと同じだ。それを見たアルヴレイヴはララティラを見て聞く。
「貴様もピクシーだったのか」
その言葉に、ララティラは「せや」と、ふらつきながら言い……「あんたがピクシーの言葉を放った時、もしかしたらって思ってなんやかんやしたら、できただけや。だから飛んだのはこれが初めてなんや」と言った。
「っは」
それを聞いたアルヴレイヴは、鼻で笑い……そして――すぅっと風の大剣を両手でしっかり持って、そのまま振り上げながら彼は言った。
「それは幸運だな。しかし……、熟練度的に私の方が……」
と言って、アルヴレイヴは妖精の羽をバサッと動かして――
ぎゅんっと、ララティラに向かって急加速しながら――
「レベル的に、所属的に上だっっ!」
それを見て、ララティラはふらつく飛行に悪戦しながらも、なんとかその急加速を避けた。
上に向かって飛ぶという避け方で。
それを見て、見上げたアルヴレイヴはぎゅんっとララティラがいる上に向かって旋回して、回りながら彼女に突っ込む。
「――イィィヤァッッ!」
「っ! うひぃ!」
彼女から見て、右から来た鬼の形相のアルヴレイヴ。
それを見て、ララティラは慌てながら後ろに避けた。
だが、それでも、今度はその勢いを殺さずに急加速して、左斜め下から後ろに回り、その大剣を振り上げて……、彼女の頭をかち割ろうとしたアルヴレイヴ。
ララティラがそれに気付いた瞬間、その大剣は振り降ろされていた。
刹那――びりぃっと敗れる音と、鮮血。
そのあとも、アルヴレイヴはまるで高速で飛ぶ鳥のように、ララティラの周りを飛び回りながら、風の大剣で彼女の体を傷つける。ザシュザシュと切りつけて、傷を作る。
それでも、ララティラは攻撃をしない。
「どうした! 先ほどはあんなに威勢のいいことを言っていたが……、あまりに力の差を感じて声も出せないか! 女を甚振る趣味はないが……、このまま一気に!」
と言ったところで、アルヴレイヴは違和感を覚えた。
彼女はさっきから……、攻撃しないで――移動しながら逃げては避けていた。
頭に血が上って、そこまで考えることができなかったが……、それでも、今思うと変だ。
そうアルヴレイヴは思い、そして、周りを見て……、言葉を失った。
そこは……、マドゥードナの簡易牢獄洞窟がある……、洞窟がある岩壁。断崖絶壁が、彼の背後にあったのだ。その上を見て……、アルヴレイヴは言葉を失った。洞窟の岩壁の……、上に――エレンがいたのだ。
しかも――弓と矢を二本構えて……、自分に向かって射抜こうとしていた。
――まさかっ! 誘われた……っ!? この私が……っ!?
そう思い、アルヴレイヴは切り刻んでいたララティラの方を振り向いた。
ララティラは、服がところどころ破けて、腕や顔に切り傷ができているが……、それでも……。表情はさっきの慌てていた顔とは一変……。
にっと、微笑んでいた。
計算通り。そんな顔をして、アルヴレイヴを見ていた。
「~~~~~~っ! 貴様ああああああっっ!」
ぐあっと、ララティラに向かって、その風の大剣を使って襲い掛かろうとしたとき……。
エレンは言った。
透き通るような、アルヴレイヴでも聞こえるその声で……。
最後の節を――唱えた。
「不死の命の灯を、この矢に灯し――ともに射抜け」
エレンが構えた二本に矢の先に――まるで夕焼けのような炎が灯った。この大雨でも消えないような、見ているだけで暖かくなるその火を。
その火が灯った状態で――エレンは、その矢じりを、パッと手放し……。
「――『番の不死鳥』ッ!」
パシュッと放ったと同時に、日本の矢に灯る夕焼けの焔が、どんどん形を作り……、二羽の不死鳥を作り上げる。その不死鳥達は、まるで雌と雄のように、くるくると回りながらアルヴレイヴに向かって、彼の背中に向かって突っ込もうとしていた。
それを見たアルヴレイヴは、まずいと悟ったのだろう。その場から逃げようとした時……。
「『竜巻』アアアアアアアーッッ!」
ララティラは杖を持って、己が持っているMPを全部使って、最大級の横殴りの竜巻を、アルヴレイヴにお見舞いした。アルヴレイヴの真正面にあたる竜巻。そして背後には二羽の焔の鳥。
「っ! ぐううううううううううううううううううううっっ!」
アルヴレイヴは唸り、気合でぐりんと、エレンの方に体を向けて、そして――風の大剣を捨てて、そのまま……。
ぐわしぃっ!! と、その二羽の不死鳥を掴んだ。
その不死鳥は、アルヴレイヴの鎧に向かって突っ込もうとしている。しかしアルヴレイヴも負けじと……。
「おおおおおおおおおオオオオオオおオオオオオオおおおおおおおおおオオオオオオオッッッ!!」
あらん限り、命ある限り、声が嗄れるくらい叫んで、叫んで、叫びまくった。
その不死鳥達を押し出す力に変えて、アルヴレイヴはぐぐっと力を入れて、押し出していた。
背後にあるララティラの風が壁となってしまっているせいで、押し出す力が入ってしまったのだ。
それを見て、エレンは内心舌打ちをした。
しかし……。
「あんたは……、馬鹿や」
「グうううウウウッッ!?」
ララティラは、魔法を放ちながら、静かにアルヴレイヴに向かって言った。
片手に持っていた杖を、もう片方の手で掴みながら……、彼女は……。
「ネルセスの寵愛? そんな特別な愛、どこがいいねん……。うちはそんな特別なもんを持っていなくても、普通のそれで十分幸せって思える」
「ううううグゥうううああアアアアアああああっっ!」
「あんたが言う特別な愛は……、ただの駄々っ子が求めている愛や。そんなもんで、勝てると思ったら、愛されると思ったら……、大間違いやっ!」
ぎゅうっと握り、彼女は叫ぶ。心の叫びをぶちまける! それと同時だった。
「そんな力で、エレンから取り返せると思ったら大間違いやっ! うちはあんたには負けん! エレンだって負けんっ! うちは……、ダン、モナちゃん、シャイナ、トリッキーマジシャン、エストゥガのみんなやアキくん、キョウヤくん、ヘルナイト、ハンナちゃんのことを大事に思っとる! みんなかけがえのないうちの友達で、大好きな友達やから! 大好きな人達のことを想って戦うんや!」
ごぉおおおっと発動していた竜巻が突然膨張し、ぐんっとアルヴレイヴの背を押し出す。それと同時に不死鳥との距離が縮まってしまった。
慌てるアルヴレイヴ。驚くエレン。
しかし……、ララティラは止まらない。
「あんたのように、個人だけを想うんやないっ! いっぱいいっぱい大好きな人を想って、守って闘うんや! 愛する人を守るために、うちは! エレンのために戦うんやあああああああああっ!」
もう感情論のぶちまけだ。ララティラの想いと連動しているのか、竜巻の威力を大きさが異常になってくる。
それを受けていたアルヴレイヴはどんどんその距離が縮まっていくそれを見て、なんとかして押し出そうとして抗う。だが……。
「ウウウオオオオオああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアあああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!」
どんどん勢いを増す竜巻。そしてついに……、不死鳥はアルヴレイヴの鎧に当たった。刹那。
ぼぉっと風の中に含まれる酸素を吸い、風の鎧が炎の鎧と化して、その焔の鎧に呑みこまれていくアルヴレイヴ。
その絶叫を聞きながらエレンはぞっとし、それを見て、密かに勝利を喜んでいた。