PLAY29 激闘! ネルセス・シュローサⅡ(寵愛と愛。無心と正義)②
アルヴレイヴはエレンを見て言う。
じろりと仮面越しでエレンを睨んでこう聞いた。
「貴様――種族はなんだ?」
その言葉に、エレンは痛みを堪えながらはぁっと息継ぎをして……。
「え、エルフ……」と言った。
それを聞いたアルヴレイヴは、仮面越しにぎりっと歯を食いしばった。
ぐっと刀を握る力を強くし、ぶんっと振るい上げてすぐにエレンに向けてその剣先を突きつけた。
彼は飛んで浮いているので、突き付けたとしても遠すぎて誰に対してその剣先を突き付けているのかわからない。
しかし、そんなことなど関係ない。
そんな状況でも、エレンを睨みつけながらアルヴレイヴは言った。
「なぜ貴様のような弱小の種族になった貴様が、あの寛大で慈悲深いネルセス様の寵愛を一身に受けるのだ?」
その音色には怒りが込められていて、それを聞いていたララティラはエレンに小さく囁くように聞いた。
「一体何の話をしとるんや?」
「あいつは……、というか、『ネルセス・シュローサ』の幹部達は全員……じゃないな。殆どがネルセスに対して狂信の思想を持っているんだ」
「え? キモイやん……」
「わかる。わかるけど……、はっきり言うな」
そう言いながらも、エレンは前で飛んでいるアルヴレイヴを見て続けて言った。
若干引き攣りながら……。
「後から俺も気付いたんだけどな……。あいつが一番狂信者。他もひどいけどあいつが一番すごいとと思う」
「ぶち込みたいんやけど」
「やめなさい。というかティラさん? どうしたんだ?」
エレンはさっきからアルヴレイヴに対して睨みを利かせながら睨んでいるララティラを見て、ぎょっとしながら彼女を見ていた。
ララティラはアルヴレイヴを睨み、無言でじっと見ているだけだったか……、雰囲気から察するに……、彼女は怒っている。
そうエレンは直感したが……、その思考も一旦遮断されてしまう。
「貴様が来てから……、ネルセス様は私達にしか……、私にしか見せなかった微笑を、慈悲ある笑みを見せなかった。しかし……、だがしかしだっ! 貴様が来てからは私達のことなど二の次にし、貴様と共に肩を並べることが多かった! 貴様……、まさかあのお方を勾引したのかっ!? あのように尊いお方に何を吹きこんだっ!」
段々声を荒げるアルヴレイヴ。仮面をしてても分かってしまうくらいの怒りの眼でエレンを睨んでいるのだろう……。
だが、それを聞いてエレンは思った。
――いや知らんし。尊くねぇし。下種だろうがあの婆……。と……。
目を座らせながら、そのアルヴレイヴの言葉と思いに対して……、正直呆れていた……。
正直一日しかいない中で、そんなにネルセスと話していたのかもわからないが、アルヴレイヴはネルセスに対しては異常な狂信の精神を持っている。他の幹部よりもネルセスのことを想っている。心酔している。
エレン自身、幹部達とあまりというか、一日しかいなかったので、そんなに話したことはない。むしろ一回も話したことがない人だっている。
それなのに、この有様。
ネルセスと話していた理由も、なぜかネルセスは隠れて監視者としての話をエレンと一対一でしているだけで、そんなことはない。断じて。
それが勘違いを引き起こしているのなら、すぐに誤解だと言いたいのだが……。
なぜだろうか……。
それをしようと前に身を乗り出すと……、エレンの背中の服をがっしりと掴んでいるララティラのせいで、それができない。
エレンはララティラを見て、少しおどおどとしながら、おっかなびっくりにこう聞いた。
「あのー……、なんでティラさんが怒っているんですか……? 多分ティラさんには関係ないと……」
「あんた……」
「え?」
ララティラはすっと、エレンの目の前に立ち、腰に手を当て、目の前を飛んでいるアルヴレイヴに向かって――エレンを無視して、それでも彼の目の前に立って、彼を守るように立った彼女は……、すぅーっと鼻から息を吸って、胸を張って――
怒鳴った。
「なぁあああにエレンにヤキモチ焼とるんやこんの女々男子がぁあああっっっ!」
ぐあっと来たその怒声に、飛んでいたアルヴレイヴも仮面越しでぎょっとし、エレンはあんぐりと口を開けながら心の中で突っ込んだ。
なにしてんだ馬鹿。と――
絶句して、彼は青ざめていた……。
エレンに至ってすれば、ネルセス狂信の一人であるアルヴレイヴの前なら、自分がネルセスのところから出て行くと言えば、もしかしたら邪魔者が消えたと思いすんなりと返してくれるかもしれないと思っていた……。
あとから考えたらそれは望が薄いが……。
逃げれると思っていた時に、ララティラがアルヴレイヴを逆なでするようなことを言ってしまったせいで……、状況は最悪の方向に進みつつあった……。
その状況を見ていないのか……、ララティラは青ざめているエレンを見ておらず、自分の感情論で、己の意見を貫き通すように――彼女はびしっと、飛んでいるアルヴレイヴに向かって怒声を浴びせた。
「あんた、さっきから聞いて、ついさっき会ったばかりやけど……。あんたホンマに自分本位で自分のことしか考えとらんなっ!」
「………なにぃ?」
ぴくりと、刀を持つ手が、僅かだが震えた。
ララティラは怒りながらも言い続ける。
エレンはそれを見て、わたわたと二人を見合わせながら、小さく「ちょっと、ねぇ……?」と何とか止めようとしていたが……、あまり効果は期待できないだろう……。
「あんた……、なに会ったばかりのエレンに嫉妬しとんのか、うちにはわかるでっ! あんたのそのどろどろとした感情……、男には必要あらへん感情や! それは女だけが持つ感情なんやでっ! あんたそのネルセスのなんなんやっ! エレンとの関係は知らんけど……、そんなちっぽけな感情で攻撃すんなやボケェ!」
「貴様に何がわかる……っ! ネルセス様は、私のような醜いものを、社会からゴミと言われもおかしくないようなこの私に……『お前は必要だ』と教え、私に手を差し伸べてくれた存在だ……っ! 私だけ魔人だったのに、あのお方は私を傍に置いてくれた。懐刀として置いてく入れた! これ以上の恩赦がどこにある!」
「そんなもん一つしかあらへんやろっ! 自分を守るための盾! 囮みたいなもんやろうがっ! そんなことですらわからんくらいあの女に洗脳されとるんかっ! 頭おかしいであんたっ!」
「黙れっ! 貴様のような下劣な思考で、あのお方の崇高な思想に泥を塗ることは許さんぞっ!」
「崇高とか、尊いとか……、そんなもん知らんけど……、女としてうちはこう思ったで」
ようやくだろうか……。
互いに言い争うをしていた最中、エレンはわたわたと周りを見て「おーい。お二人さーん……。待ってー……」と小さい声で止めようとしていたが、あまりに二人の口論がヒートアップしていたこともあってか、エレンの声はララティラ達の声によってかき消されていた。
そして、ララティラがアルヴレイヴをギッと睨みながら彼女は大きく口を開けて、アルヴレイヴに向かって結論を吐き捨てた。
この場で、アルヴレイヴの前で最も言ってはいけないことを。
「いい? あのキモ虫女に伝えるんやな。もうエレンはあんたとは縁を切るって。それでチャラやし、あんな気持ち悪い芋虫相手は、永久にごめんや! そう言っと」
――ポン。
「――?」
不意に感じた肩の感覚。それを感じたララティラは後ろを振り返った。そこにいたのは……。
「どないしたん? エレン」
エレンだった。
エレンは俯きながら、顔を押さえて声にならないような呻き声を上げて……、小さく。本当に小さく……。彼女の名前を呼んだ。それをきいたララティラは首を傾げて返事をすると……。
エレンは――唸るような音色で、こう言った。
「……何で言っちゃったの? それを……」
「? 何を?」
ララティラはさらに首を傾げて目を点にして聞くと、エレンはララティラの耳にしか聞こえないような音色で、彼は小さく、本当に小さく……「芋虫」と言うと……。
ぽんっと手を叩いて、あーっ! とララティラは思い出したかのように言って――
「だって、うち虫嫌いなの知っとるやろう? なに今更な台詞吐いてるんや。あの女下半身虫やったから今思い出すだけでひぃ~ってなるんやで? だから」
「それは禁句だ」
「え? あ」
ララティラも気付いたのだろう。しかしそれは遅すぎた。
というか……、言い過ぎた後でざぁっと青ざめても、すでに時すでに遅しだ。
感情と言うものはすごい力を持っているが、逆に制御ができずに誘爆してしまう恐ろしい武器だ。
彼女はエレンを傷つけたアルヴレイヴに対し、怒りを露わにしたかったが、それを押さえて話を聞いていた。しかし、アルヴレイヴの言葉に対し、我慢の限界に達してしまったララティラは、彼女任せに言葉をぶちまけてしまったのだ。
最初こそよかったのかもしれない。
しかし……、考えもしないで言ったことが仇となった。
エレンとララティラは、そっと飛んでいるアルヴレイヴを見た。
そして、目の前から来た……、大雨にも負けないような火の玉を刀の先に集めていたアルヴレイヴ。
ばきんっと仮面に罅が入るくらいの威力と火力を持っているその火の玉をエレン達に向けて……、彼は、憤怒の音色で――低く、怒りを押し殺しているような音色でこう言った。
「貴様……、私と同類の存在であるから……、少しは大目に見ていたが……。尊きネルセス様に対して……、芋虫……っ! となぁ……っ!」
ララティラは内心……。まずいと思った。
言い過ぎたせいでこうなってしまったことに対してのマズイで、エレンを横目で見て、エレンと目が合ったことにより、ララティラは小さく、引き攣った笑みで彼女は……轟々とくる火の熱を目の前で感じながら……。
「――ごめん」
一言――謝った。
と同時に――
「聖騎士属性魔法――『エレメントフィアガ』ッッッ!」
刀の先に貯めていた火の力を――大きな火の玉を、エレン達に向けて放り投げるように放ったアルヴレイヴ。それを見て、迫りくる熱と攻撃に対し、エレンは――
すぐに彼女の手を取り、そして――
「謝るならあんなことするなぁああああああああああああああっっっ!」
一目散に、二人一緒に走って逃げた。さっきと同じことをした二人。
それを聞いて後ろを走って、手を引かれているララティラは申し訳なさそうに「ごめーん!」と言っていた。
結果として……。
完全完璧にララティラのせいである。
二人が逃げると同時に、二人に当たるように、雨にも負けないような火の玉を放つアルヴレイヴ。それはどぉん! どぉんっ! と、エレン達に当たるように、無数の火の玉が落下してくるのだが、ことごとく躱されてしまう。だが、当たった個所は黒く焦げて、『ジュッ』という音を立てていた。
しかも……、丸い小さなクレーターを作って……。
それを見たエレンはぞっとしながら走って、息を切らしながらララティラに向かって慌てながら聞いた。
「おいティラ! あの火の玉ってどうにかなると思うかっ!?」
「わからんて! というかこんな走りながら後ろ走りして、狙いを定めるなんて行動できんと思うで!」
「だよなっ! こういう場合は――」
エレンはぶんっとララティラを前に放り投げ、ざっと後ろを向き弓矢を構えながらアルヴレイヴに向けて――きりりっと狙いを定めた。
そして――
とある一点を――罅割れた仮面に向けてエレンは矢を放つ!
「『パワード・アロー』ッ!
ぱしゅぅっと放たれた矢。
それは空を切る音を出してアルヴレイヴの顔に向かって放たれ、その矢を見たアルヴレイヴははっとし、刀を向けて切り落とそうとした。
それを見てエレンはもう二つ――矢を装填して構える。
「エレンッ!?」
ララティラの声が聞こえるが、エレンはその声をあえて無視し――
「『パワード・アロー』ッ! 『スイング・アロー』ッ!」
パシュシュッと放つ二本の矢。
一本は一直線に、そしてもう一本は左に逸れていく……。
それを見たララティラははっとして見ていたが、アルヴレイヴは今しがた最初に放たれた矢を切り落として、すぐに目の前から来た矢に驚きはした。
しかしそれでさえも、両手でしっかりと刀を持ち、最初は上から切り落としたが、それを今度は――
「――はぁっ!」
声を上げ、気合を入れるように――
ばぎぃんっと、仕方ら上に向けて、それを切り壊したアルヴレイヴ。
バラバラと落ちる矢の破片。それを見てアルヴレイヴはエレンを見て、止めを刺そうとした。
しかし……。
「!?」
アルヴレイヴは顔を歪ませた。違和感と言う表情の歪みだ。
理由は明白で、エレンの顔が――
笑っていた。
まるで――計画通りと言う笑みである。
それを見たアルヴレイヴは、微かだったが……、遠くから『ひゅんっ』と言う音が聞こえた。その音が聞こえたのは……、アルヴレイヴの視点で右斜め後ろ。
その音がした方向に振り向き、横目で確認しようとした。それを見て、エレンはその一瞬の隙に、もう一本矢を装填して、彼の首元――兜と鎧のつなぎ目に狙いを定めた。
エレンは――これを狙っていたのだ。
最初に放った矢は最初の囮。
次に二本装填した後で、一本は一直線にむかって、敵にダメージを与える『パワード・アロー』を。
そしてもう一本にはMCO内ではその矢を放った瞬間、すぐには攻撃できない。
しかし相手が攻撃した瞬間か、一定の時間が経つと、自動的に攻撃が来るスキル……『スイング・アロー』を使って、同時に放ち、一直線に来た矢は伏線の囮として、そして後からくる本命の囮の矢に気を取られている間に――
本腰の攻撃の『パワード・アロー』を放つ。
周りくどいが、これがエレンの戦法で、普通の思考でしか思いつかない彼のやり方。
きっと、彼にしか思いつかない地味だが高確率で仕留める方法だろう。
エレンはすぐに矢を装填して――『パワード・アロー』と、唱えようとした時だった……。
「っ!」
ぐあっと、右斜め後ろからくるそれを見て、アルヴレイヴはぎりっと歯を食いしばり……、そして――彼は。
「このぉおおお! 私を――!」
言って、その方向を見た後で、彼は……、こう唱えた。
「――『風妖精の羽衣鎧』ッ!」
ごああああああっ! と――
アルヴレイヴを覆うような大きな竜巻。
それはまるで、ハンナが持っていた瘴輝石『癒しの台風』の少し小さいサイズの竜巻だった。だがその竜巻は、アルヴレイヴを覆っている。エレン達に攻撃しない。
エレンが放った『スイング・アロー』も跳ね返ってしまい、そのままどこかへ飛ばされて行ってしまった。その風を受けてエレン達はその風に負けないように体に力を入れて、吹き飛ばされないようにした。
しかし、その風も治まる。
否――中にいたアルヴレイヴに吸い込まれるように……、段々とその風は収束していく。
吸収されていく!
それを見て、エレンとララティラははっとし、それを見ていた。
ふぉおおおっと消えゆく竜巻。
その中から出てきたのは……、黒い兜に身を包んだアルヴレイヴではない……。風の鎧を纏い、ふおんふおんと周りに風の余波を放ちながら飛んでいるアルヴレイヴの姿があった。
「姑息にして小悪な攻撃だったな。エルフの男よ」
それを見てエレンは内心焦り、そして――
――あの鎧って……、まさか……。
と思い、そして口に出して、驚きの声でアルヴレイヴに聞いた。
「――詠唱っ!?」
その言葉にアルヴレイヴは「そうだ」と言い……、白い刀が風を纏い大きな大剣と化しているそれをエレンに向け、余裕のある笑みでこう言った。
「これぞ――聖騎士である私が使える……。ネルセス様から授かった詠唱『風妖精の羽衣鎧』だ」
よく覚えて置け。
その言葉を言い終えると同時にアルヴレイヴはぎゅんっと高速で――エレンに向かって急降下してきた!