PLAY28 激闘! ネルセス・シュローサⅠ(始動)④
――今の人は……。
私はシェーラちゃんとナヴィちゃんのもしゃもしゃを感じてここまで来た。
凄く悲しいもしゃもしゃが透き通った音色を出していたおかげで、私はここまで来れた。
迷わずにここまでこれたのは本当にもしゃもしゃに感謝しかない。
更に言うと、『ネルセス・シュローサ』の人達はヘルナイトさん達がいたところに集まっているのか、走っていた私は全然すれ違うことはなかった。
さっきすれ違った人が初めての人。
でもその人は、私に話しかけてこなかった。
まるで、何処かにいる人と……。
「きゅきゃーっ!」
「!」
そんなことを思っていると、遠くからナヴィちゃんの声が聞こえた。
私は駆け出して向かうと、目を疑ったけどすぐに声を出して……。
「シェーラちゃん! ナヴィちゃん!」と、喜んだ。
疑ったのは――シェーラちゃん達は簡易に作られた鉄格子の牢屋に閉じ込められていたことだった。シェーラちゃんの手には手枷が付けられている。
それを見て私は辺りを見回すと……、首を傾げるようなものが牢屋の鍵穴に刺さっていたのだ。
刺さっているものは――錆びてしまった牢屋の鍵と、もう一つ小さな錆びた鍵だった。
それを見て私はそれに手を伸ばす。最初に手に取ったのは――鉄格子。牢屋だ。
最初に錆びた鍵に手をかけることもできたんだけど、それを回して開けることもできたんだけど、もしかしたら手に触れた瞬間に一瞬の内に折れてしまうかもしれない。
それをしてしまったらもう終わりだ。本発転倒だ。と思ったから、私は最初、多分ないかもしれないけどかかっていないことを願って開けようとしたのだ。
もしかしたらかかっていないかもしれない。頭の片隅でそんなことを思いながら、かかっていないことを信じてぐっと前に押して、後ろに引っ張って……。
――がちゃ。がちゃ。
うん。鍵がかかっている。
当たり前だと思うけど……、そんなことを思いながら私は次に鍵穴に刺さっている錆びた鍵に目をやり、それを見て、私はその鍵を掴む。
握ると、錆びているせいか、ぼろっと指の腹に鉄のザラザラがこびりついた気がし、その腹で鍵の中から『びき……』と言う音を感じると、私はぎゅっと目を閉じて、どうか回ってと願いながら、私は鍵を回せる方向に買いを動かす。
ぐっと、鍵が回る方向――時計回りに、折れないようにゆっくりと捻り回すと……。
――がちゃん。
「っ!」
鍵が開く音が聞こえたと同時に、ぼきんっと、錆びていた鍵は回したところから折れて、使い物にならなくなってしまった。
よ、よかった……。開いた瞬間に折れて……。
それを見て、そして折れなかったことに感謝をしながら、私はもう一度牢屋のドアに手をかけて、ぐっと引くと――
ぎぃぃっと、錆びたような音を立てて扉が開いた。
開いたのだ。
「二人と」
「きゅきゃ~っ!」
「わっぷっ」
開いたと同時に、私は『二人とも!』と言おうとしたけど、喜びのあまりに私の顔目掛けて突っ込んできたナヴィちゃん。
それに驚いた私だけど、すぐにナヴィちゃんを手の上に乗せて、そして控えめに微笑みながら――
「ナヴィちゃん。シェーラちゃんの傍にいてくれたんだね。ありがとう」と、お礼を言うと、ナヴィちゃんは胸を張るようにふーんっと鼻から息を吐いて「きゅっきゃ!」と言った。
まるでそれは、えっへん! と言っているようなものだ。
私は座り込んでいるシェーラちゃんを見て、すぐに牢屋の鍵と一緒についていた小さな鍵を手に取って……。
「シェーラちゃん待ってて。すぐに手の拘束取るから」
そう言って、私はシェーラちゃんに駆け寄る。
「さっきこの洞窟の位置口付近に、シェーラちゃんの武器があったの。それにヘルナイトさん達がネルセス達を引き付けているから、すぐにここから」
「なんで」
「?」
すると、唐突に、手錠に鍵を差し込んだ私に、シェーラちゃんは低く、そして力ないけど、吐き捨てるようなそれを聞いて、私は動きを止めた。肩に乗っているナヴィちゃんも、シェーラちゃんを見る。
シェーラちゃんは、俯きながらこう聞いてきた。
「なんで――ここに来たの?」
その言葉に、私は少し冷や汗をかきながら「えっと……」と言って、シェーラちゃんにこう言った。
自分達の浅はかな行動でこうなってしまったことを、包み隠さず話した。
「シェーラちゃんがいなくなったから、急いでシェーラちゃんを探しにアクアロイアに向かったんだけど、その、ネルセスの策略にはまっちゃって……。それでここに転送されちゃって」
「なんで私を助けに来たのよ」
「?」
突然だった。シェーラちゃんは低い声で声を荒げながら、シェーラちゃんは言った。
「何で私を助けに来たの? そんなことしなくても、私はここから脱出できる。なのになんで私をそんな風に、弱いと断定してみているのよ。私は手助けなんていらない。あの時だってそうだ。師匠の言うことを聞かないで、立ち向かえばよかった。そうすれば未来が変わっていたのかもしれない。あいつだって私を弱いとみて、自分が倒すんだって言って、ふざけている。なんで私を弱く見ているの……? 女だから? 子供だから? そんな心配は無用よ。この時のために剣術を磨いた。体を、剣術を、技術を磨きあげて来たのに……っ!」
前に、シェーラちゃんは趣味の件に関して『剣術』と言っていた。でも違ったんだ。
それは――目的のために作った趣味。
人を……、ネルセスを、殺すために磨き上げた力だったんだ……。
それを聞いた私は、シェーラちゃんの話を聞きながら、手錠の鍵を、鍵穴に差し込んだ。
「みんなして……、私を弱いと思って見ている。私だって強い。私はここまで、一人で技術を磨いて、ただ倒すことしか考えないで、どんな手を使ってでも、いやでいやでしょうがない汚い手を使ってでも……、ネルセスを倒したかった。あの下種な笑みを、ぶっ壊したかったのに……っ! みんなを、師匠を殺したアイツを、この手で葬りたかったのに……っ!」
「だからだったんだね?」
そう私は言って、手錠を解いて、シェーラちゃんの手に、自分の手を重ねて、優しく聞いた。敢えて、優しく……、シェーラちゃんは私を見ない。でも、それでも私は言う。
「私達に提案したのも、シェーラちゃんの計画通りってことだったんだね。私達を使って、ネルセス・シュローサを壊滅までに追い込んで……、そしてそのあと、ネルセスの首を、取る……」
全部、計画のうちだった。
それを思うだけで、胸が締め付けられたけど……、不思議と、怒りはなかった。むしろ……。
「そのくらい……、シェーラちゃんにとって、お師匠様が大好きだった。みんなが誰かはわからないけど……、大切だったんだね。だから、許せなかったんだね。ネルセスのことが」
「………………だからなに?」
シェーラちゃんは頭を垂らしたまま声を荒げ、吐き捨てるように、私を見ないで私に向かって自分の怒りを、感情をぶちまけた。
「そう言ってどうしろっていうのよ? 日和のあんたに何がわかるのよっ! 勝手に人の過去を作り上げて同情しないでほしいわっ! 勝手に考えないでほしい! 私の過去はあんたが考えているほど優しいものじゃない! 死人が出た! 目の前が火の海だった! なのに何もできなかった! 無力な私を見てどう思っているのかわからないけど……、気休めを言うならやめてほしいっっ!」
「うん。でもね……、一つだけ言わせて?」
「復讐を止めろって言いたいんでしょ? そんなの聞かないっ! 私は絶対にネルセスを」
「シェーラちゃん」
私は、ぎゅっとシェーラちゃんの手を握る。すると、今までボロボロと流れていた青いもしゃもしゃが、勢いを殺して止んでいく。それを見て、私はシェーラちゃんにこう言った。
「シェーラちゃんは、自分が弱いことに対して、すごく怖がっている。弱い自分が、レッテル。コンプレックスになっている。凄く伝わった。でも」
私は優しく、シェーラちゃんに言った。
「私も弱いよ。シェーラちゃんに完敗しちゃうくらい弱いよ」
「…………………………………………………」
「でも、みんな弱いよ。みんな……」
心は弱い。
そう言うと、シェーラちゃんは顔をそっとあげていく。それを見ないで、目を閉じて私は思い出す。ヘルナイトさんや、アキにぃ。そして、きっと、ネルセスの言葉によって無理強いを強いられているエレンさん。キョウヤサンやもみんなのことを思い浮かべながら……。最後に思い出される……。復讐に溺れてしまった、ティックディックを思い出して……。
「力は確かに体を酷使すれば、磨けるし、強くなるけど……。心は壊れやすい。私もね、昨日お父さんとお母さんの記憶が全くないことに対して、怖くなった。でも、ヘルナイトさんはそれ以上に記憶が全くないことに対して、最初は怖かったって言っていた。強いと思っていても、私も、みんなも……、怖いことには怖いと思うし、弱いところは誰にだってある。弱くない人間はいないと思うよ。もともと強い人間なんていない。でも……」
目をすっと開けて――シェーラちゃんを見ると。
シェーラちゃんは、ボロボロと涙を零しながら、私を見ていた。
それを見て、私は掴んでいた手をそっとあげて、シェーラちゃんに見せるようにして、彼女の手を掴んだその手を見せて、私はこう言った。
「こうやってね。人と手を繋いでいると、不思議と安心するでしょう? 私ね。何度もヘルナイトさんに助けられた時……、こうして手を握ってくれたの。その時ね。私不思議と、怖くなかったの」
ライジンの時、ネクロマンサーの時。ヘルナイトさんはこうして握って、そして私に力をくれた。
「なんだか……、恥ずかしいけど、勇気を貰っている感じがしたの。だから、心が強い人はいないけど……、こうして、人は手を取り合うことで、勇気をもらって強くなるんだよ」
だから――人は一人では何もできない。
理由は違うけど、それでも……、私がここまで来たのは、みんなのおかげでもあるんだ。
それを聞いているシェーラちゃんは、その手を見て、ただただ涙を零して、服にしみを作っているだけだった。それを見た私は、ぎゅっと手を握って――
「行こう? みんなが待っている。そのあとで、ちゃんと打ち明けよう」
シェーラちゃんに優しくそう言った。
その牢屋がある場所に、ある人物が近付いて来ていることに気付かずに……。
◆ ◆
ハンナがシェーラのところに辿り着いた丁度その頃……。
ネルセス・シュローサ対ヘルナイト達の戦いは激戦になりつつあった。
キョウヤはコココを相手に、飛んでいるコココを叩き落とそうとしているが、できない状況にどうするかと模索しながら、空から攻撃してくるコココの攻撃を流していた。
だが、コココはぎゅんっと急降下しながらキョウヤに向かってくる。
キョウヤはそれを見て、すぐに防御の体制に入る。しかし……、コココは両足の鉤爪を使って、キョウヤの両腕をガシリと掴んだ。それを見たキョウヤはぎょっとして、振りほどこうとしたが、足の強さが尋常ではないコココのその拘束に、更に驚きながら、腕から聞こえる『メリメリ』と言う音に顔を歪ませる。
――くっそ! こいつなんて力だ! てか……、こいつも魔獣って言っていた……ってことは!
と思い、ざぁっと青ざめた瞬間には、すでにキョウヤはコココによって、持ち上げられていた。
ばっさばっさと、足で掴んだキョウヤを運ぶように、コココは「きゃははは」と笑って――ヘルナイトと対峙しているネルセスに向かって叫んだ。
「マーマァ! こいつコココがなんとかするねー!」
「おい餓鬼! 放せって!」
キョウヤが叫ぶも、それを聞かないでコココは笑顔で「行ってきまーす!」と、まるで子供が母親に向かって出かける時の挨拶をするように言うコココ。そのままキョウヤは、空中で宙ぶらりんっとなった状態でコココに連れて行かれる。どこかに。
「キョウヤッ!」
アキはそれを見て、すぐに銃口を向けた。
ライフル銃の距離なら、コココに当たることは間違いない。アキはその銃口を――コココの翼に向けた。
――翼に当てればきっと痛みでキョウヤを離すだろう。キョウヤはきっと打撲だけど……、恨まないでくれよっ!
……一部だけ、なにやら悪意があるような言葉を放ったアキだが、アキは善意でキョウヤを助けようとしている。アキはライフル銃の引き金を引こうとした。
その時――!
「敵を目の前にしてよそ見とは――不愉快な男よぉっ!」
「っ!?」
引き金よりも早く動いたどんどら。セイウチの体だが、体格はそれ以上の体で、ずんずんっと、その巨体からは想像もできない速さで迫りくるどんどら。
アキはすぐに銃口をコココの翼からどんどらの腹部に変える。
じゃきりと構えて、引き金を引くアキ。
――ばぁん! ばぁん! と響いた銃声。どんどらに向かっていく銃弾は、どんどらの腹部に当たった。しかし――どんどらはそれを受けても、どんどんアキに近付いて迫ってくる。
「っっそ!」
アキは苛立って言葉を吐き捨てながら思った。
――セイウチの厚い脂肪が銃弾を止めた! 元々あのセイウチの魔獣は打撃とか銃の攻撃には効果が薄い魔物! しかも防御力高いし……、早いっ!
そう思ったとき、どんどらはアキに向かって、その大きな手をぐあっと鷲掴みにするように迫って、アキはそれを避けようとしたが……、横にいた黒いローブの集団に押し返されて、バランスを崩し、その隙が仇となって……。
がしりとどんどらに掴まれてしまったアキ。
「っぐぅ!」
めきめきと、握り潰されながらアキは……、体中から聞こえる骨が軋む音と痛みに耐えて、顔を歪ませる。それを見たヘルナイトはアキの名を呼んだ。だがアキは……。
「俺のことはいいから……っ! そいつをっっ!」と言った瞬間だった。
「ネルセス様を攻撃したもの――ゆるすまじ」
と、ネルセスと拮抗を保っていたヘルナイトの前に現れた――半透明の何かだった。
半透明だが、それは人魂のように見えるそれだ。しかし、その人魂が段々人の形を形成しながら輪郭が朧気なそれに代わり、朧気な仮面のような顔ができていき……、それを見たネルセスは「おぉ」と歓喜の声を上げながら――
「フランドかっ!」と言った。
それを聞いて、幽霊体のような存在――フランドは「はい」と頷いて……、彼は言った。
「ネルセス様。天族の小娘がここから北東に位置します『第二投獄窟』へと向かっています。しかもその洞窟に、ジルバが入っていくのを目撃しました」
「んなぁ……?」
ネルセスはビキッと顔を引きつらせて、フランドを指さしながら、彼女は芋虫の体を使ってずりずりと進みながらこう叫んだ。
「フランド! そ奴を足止めしとけ! 妾はその洞窟に向かう! 一匹たりとも妾の邪魔をさせるでないっ!」
「――承知しました」
そう言って、ネルセスはずりずりと進んで行ってしまう。それを見たヘルナイトは「逃がさんっ!」と叫んで向かおうとしたが……。
「おっと」と、フランドはヘルナイトの胴体をすり抜けて――ひゅるんっと体を回しながらヘルナイトの前に立って、手を広げて彼はこう言った。
「行かせません。これは命令ですので」
それを聞いて、ヘルナイトは内心厄介だと思いながら大剣を構えた。
「っぐ! ……そ! だろぉ!?」
アキは握られながら、そのフランドを見て驚きを隠せずに、顔を歪ませていた。
――あれって……、モンスターの中でもスライムと同等の雑魚モンスターの『ゴースト』ッ!?
――浄化したりすれば一撃だけど……、今は、ハンナがいないっ!
――しかも……、光だけが弱点なモンスターだけど……物理攻撃とか魔法攻撃も効かないっ! 俺が加勢しても……、『光』属性のスキルを持っていない俺だと……、無駄撃ちに終わるっ!
そう思ったアキ。
すると、それを見たどんどらは「おぉい! 幽体!」と、大きな声で叫んで、フランドに言った。
「ここは貴様に任せる! 儂はこれからこの耳長を血祭りにあげたるわぁ!」
「血祭りっ!?」
残酷な言葉を聞いて、ぎょっと驚くアキをしり目に、どんどらはぐっとしゃがんだと同時に――だんっと跳躍したのだ。その衝撃によって、石で造られた足場がべぎりと凹む。
キョウヤ程の跳躍ではないが、石で造られた建物を飛び越えるくらいの脚力で、どんどらはアキを掴んだまま別の場所に、コココやネルセスが向かっていない場所に、跳んで行ってしまった。
ウサギのように、セイウチなのにウサギのように……、ぼぉん! ぼぉんっ! と――
「ううわああああああああああっっっ!?」
アキは叫びながら、成す術もなく連れて行かれる。
それを見て、ヘルナイトはアキを追おうとしたが、フランドはふっと、輪郭が朧気な手を上げた。
それと同時に、ヘルナイトの背後から感じる魔力の気配。スキル発動の余波と言ってもいいだろう。
ヘルナイトは背後に感じたそれを防ぐために、手に持っていた大剣を、元の鞘に戻すように、背中の大剣で守る様に向けた。
刹那。
どぉんどぉん! と来る衝撃。
それを大剣の腹で受けて、ヘルナイトはすっと、横目で、前にいるフランドから目を離さないでそれを見た。
背後にいたのは……、黒いローブに身を包んだ集団。前にいた集団は杖を持って、構えている。だが、微かにその杖を見っている手が震えている。杖が揺れているからだ。
そう言うことか。
そうヘルナイトは合点して、フランドを見た。
フランドは幽体の顔で、笑みをグニッと作った後、彼はこう言った。
「さぁ。どうしますか? 私は一応、あの人の片腕にして参謀を務めさせていただいております。ここにいる団員達は百九十六人。私を入れても百九十七人。あなたは一人。多対一の時……、勝率はどっちに傾くと思いますか? 私はもちろんこう予測します。『多』が勝つと。あなたは最強と謳われますが……、MPなんて無限なわけない」
どうしますか? どう対処して、攻撃が効かない私を――倒しますか?
その言葉に、ヘルナイトは何も答えなかった。代わりに――防御に使っていた大剣を、フランドに突き付けただけだった。
それを見たフランドは――商機ありと言っているようなヘルナイトを見て、ゆらりと、朧げな輪郭を怒りに歪ませて……「余裕ですか……」と、低く、そう言った。
◆ ◆
その頃、エレンは――
逃げていた。
しかし逃げていると言っても、ただ逃げているのではない。
彼だって、ネルセスの脅しを聞いて、されるがままだったわけではないのだ。
脅しを聞いて、従うふりをしてから……、隙を見て情報を見て脱げる算段を企てていた。
しかし誤算だったのは――ハンナ達が来てしまったこと、そして……。
ララティラに見られたことだった。
そうなってしまうと、きっとダン達を引き連れてくるに違いない。
ハンナ達のあの驚きようを見たエレンは、内心謝罪してみていた。どうか逃げろ。逃げてくれと願っていた。だがネルセスはハンナを仲間に引き入れようとしていた。それを聞いたエレンははっとして、手を伸ばそうとした時……、ハンナの言葉を聞いて、手を止めて、そしてヘルナイトの攻防を見て、すぐにはっと現実に戻ってから、エレンはすぐに行動に移した。
――あのくそ女の言うことなんて、これっぽっちも聞きたくない。
――とにかく、理事長の情報があるネルセスの隠れ家を見つけて……、情報を暗記してずらかろう。
――あいつの片腕……、フランドが俺の同行を監視していたせいで、下手に動くことはできなかった。
――きっと、この騒ぎを聞きつけて、あの狂信はすぐにネルセスを助けに向かう。それが隙だ!
そう思い、エレンはネルセスの隠れ家と言われているところに向かう。
何となくだが、彼はこのマドゥードナのことを偶然アルテットミアの書庫で見つけ、地形は大体把握していた。偶然が功を奏したとはこのことだ。
というか、探索クエストで向かわされると思って覚えただけなのだが……。
兎にも角にも、エレンは走ってその場所へと向かった。
走って、走って、走って――!
刹那。
バシュッと、エレンの真上に出てきた――否、出現した人物。
その人物はスカートを掴んで、下が見えないように抑えながら下を見ていた。エレンはその音を聞いて上を向いた瞬間……目を疑い、そして――
上空にいるララティラに向かって――叫んだ。
「ティラァッッッ!?」
「エレンッッ!」
激闘は――混乱を招いて、加速し出す……。
歪みにも加速して。




