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PLAY27 世界(アズール)の動き①

 亜人の郷を後にした私達は、魔物を倒しながら食べれる素材を調理 (これは私担当で、シェーラちゃんには一切手を付けないでくれと念を押している) をしながら、ユワコクに向かっていた私達。


 それまでレベルを上げつつ、冒険者免許でスキルを振り分けながらどんどん先に進む。


 どんどん先に進むと同時に、ヘルナイトさんの頭痛もひどくなっているらしく……、最近では頭を抱える回数が多くなった。


 それを見て私は一回だけヘルナイトさんに聞いた。


 ――あの、頭痛が治るようにスキルかけますか? と……。


 でもヘルナイトさんはそれを聞いて、首を横に振りながら……、凛とした音色でこう言った。



『私に対しての心配は不要だ。ハンナ、君は君や、大切な人のことを一番に考えてくれ』



 その言葉に刃などはなかった。


 むしろ優しい言葉。


 でも……、なぜだろう……。


 その言葉を聞いた瞬間……、胸の奥がずぎんっと痛み出したのはなぜだろう……。



 □     □



「うわぁ……っ!」

「すっげぇ!」

「これが……」

「ああ」


 亜人の郷を後にして一週間。


 私、キョウヤさん、アキにぃが驚く中……、ヘルナイトさんは頭を抱えながらそれを見てこう言った。


 私達の目の前に広がるのは――とある日本の温泉街のような風景。


 ところどころから噴き出る湯気。微かに臭い硫黄の臭い。街並みは江戸の城下町のような、瓦の屋根や暖簾(のれん)。そして色んな種族が歩いている風景は、まるでアルテットミアを思い出させる。そして歩く道沿いに設置してある足湯。それを見て私は声を漏らして、アキにぃ達も声を漏らしてしまったのだ。


 そう、ここはシェーラちゃんが言っていた唯一ギルドがある街――



 ユワコク。



 日本の温泉街と類似している場所だった。


「マジで温泉の国だなー!」

「温泉がいっぱいある。宿泊施設もだ」


 周りを見ながら、キョウヤさんとアキにぃは興奮冷め止まぬ状態で言う。


 初めて見る様な子供の様な目を輝かせながら二人は言うと、ヘルナイトさんはそんな私達を見ながら凛とした音色でこう言った。


「ここは元々観光を目的としていた場所だ。冒険者にも人気があり、この温泉街を目的にくる異国の住人も数多くいる。移住しに来た人だっているほどな」

「移住したくなる程かよ……っ。スゲーなユワコク」

「これは……、まさにがっぽりだね」

「やめなさいっ。感動が現実に潰されちまうっ!」

「でも現実だろう? ここで働いている人達はここで稼いで養っているんだ。それは社会として当然で、そんな夢を持ってここで楽しみながら暮らすことなんて到底」

「アキ、今はこの感動に浸れっ! お前の話を聞いているとだんだん悲しくなってきたっ! これだから社会人はっ!」


 そんな話をキョウヤさんとアキにぃはしていた。


 でも私はさっきから会話に入っていない人の背中を見て……、未だにその風景を見ているシェーラちゃんの肩を、背中からとんとんっと叩いて……。


「あの……シェーラちゃん?」と聞くと、シェーラちゃんは振り向いた。



「え?」

「はっ」



「?」


 私はぎょっとした。シェーラちゃんの顔を見て、驚いたのだ。


 シェーラちゃんの顔がいつもと違っていたから、驚いてしまったのだ。簡単に言うと……、いつもツンっとしている顔のシェーラちゃん。でも今は……。


 今まで見たことがないような……強気な笑みではない。普通の女の子がしそうな顔で、笑顔で私のことを見て、振り向いていたのだ。


 それを見た私は、あまりの豹変 (ひどい)に驚いて、目が点になってしまったのだ。


 シェーラちゃんはそれを見て、首を傾げながら私を見ていた。それも、なんだかウキウキするような笑みで……。だけど、ふと私の背後を見て……。


「っっ!」


 ぎょっと彼女も驚いて、ぐりんっと私達に背を向けて何かをしていた。それを見ていた私は、何だろうと思い後ろを振り向くと、そこにいたのは……。


 なんだかニマニマして見ているアキにぃとキョウヤさん。ヘルナイトさんはそれを見ながら首を傾げて、「ぐ」と唸りながら片手で頭を抱えた。


 私はそれを見てぎょっとしながらヘルナイトさんの名前を呼ぼうとした時……。


「さ、さぁ! ユワコクに着いたのなら、あ、アクアリウ……ッ! じゃなくて! アクアロイアまで目と鼻の先よっ! ここで一旦旅支度をしてからアクアロイアに向かいましょうっ!」


 焦りながら、顔を赤くしているシェーラちゃん。


 指をさしている方向を見ると……、その場所はギルドではなく……、大きな建物。そこの木製の看板には、こんなことが書かれていた。



『秘湯源泉かけ流し! 保湿美容にコラーゲンたっぷり、打ち身や捻挫! 飲んで体の中と外をデトックス! の! 源泉はここだけ! 寄って入りなさい! 止まって入りなさい! 『宿処まぼろし』! おいでませ!』



 それを見てシェーラちゃんを見ると、シェーラちゃんの頭の上からは……、なんだろうか……。湯気のようなものが出てきて、ぶすぶすと焦がす音が聞こえたと同時に――


「うわあああああああああああああーっ!」


 シェーラちゃんは叫んで、頭をバリバリと掻きながら照れ隠しのような行動をしていた。


 私はぎょっと驚いて、そのシェーラちゃんらしくない行動を見て止めに入ろうとした時、すっと私の前に出された手。その手を辿りながら上を見上げると、そこにいたのは……キョウヤさん。


 キョウヤさんはそれを見て、うんうんと、なんだか和みながら頷いてて、アキにぃはにやにやと意地悪そうな笑みを浮かべていた。キョウヤさんは優しい笑みと表情で――


「そこに泊まろうと思ってんだろ?」と、慌てているシェーラちゃんを見て言った。


 それを聞いてシェーラちゃんは動きを止めて、そしてぐりんっと私達を見ながら、顔を真っ赤に……、一瞬トマトと思ってしまったくらい真っ赤な顔を私達に向けて、彼女はこくこくこくこくと、高速で顔を立てに振りながら慌てた様子でこう言う。


「そうそうそうっ! そうよっ! 旅支度って言っても、敵の本拠地であるアクアロイアに入るんだから準備万端にしておかないとねっ! ここで英気を養うのも大事ってことよっ! うんそうよねっ! うんうんっ!」

「……早口だけど……、大丈夫?」

「大丈夫にきまっちぇるわっ!」

「あ……、噛んだ」


 シェーラちゃんは早口になりながら目をぐるぐると回転させて言う。


 それを聞いていた私はどうしたんだろうと思って聞くと、シェーラちゃんは案の定……、舌を噛んだ。


 それを聞いて、私はシェーラちゃんに駆け寄って一体何があったのかと聞くと、シェーラちゃんは顔から湯気を出しながら――


「いいからいいからっ! まずはギルドに行ってこの石に入っている奴らの処遇を何とかしましょうっ!」


 と言って、シェーラちゃんは急いで駆け出して行ってしまった。


 私はそれを見て手を伸ばしながら「あ。待って……」と、その後を追う。


 そのあとから、ヘルナイトさんが後を追うけど……、アキにぃとキョウヤさんは、少し離れてから後を追っていた。


「シェーラの奴……、親日イギリス人だったんだな」

「しかも温泉が大好きと見た。女の子だね……」

「だなぁ」


 そんな会話も、遠くへ走ってしまっている私には聞こえなかった……。


 そして……シェーラちゃんの案内の元辿り着いたその場所は――


「つ、着いたわよ……」


 シェーラちゃんは顔を手で扇いで体温を下げながら息を整えて言う。シェーラちゃんの言葉を聞いて、上を見上げると……、私達の目の前にあった建物は……。


 ――宿屋だった。



 □     □



 ギルドと言っても、マースさんやダンゲルさんのように、ギルドらしい建物もあったけど……、マティリーナさんのような人は、酒場のような建物がギルドと言う特殊な建物もあった。だからちょっとやそっとでは驚かないと思っていたけど……。


 別の意味で、驚いてしまった。


 シェーラちゃんがギルドと言っていたその場所は――確かに宿屋。


 私達をそれを見上げて見ていると、その宿に入ろうとしている浴衣姿の人間族の二人。しかも女性。その人達はキャッキャと雑談しながら笑って、私達に気付かずにその宿の暖簾に手を通して入ってしまった。


 それを見て、アキにぃはシェーラちゃんに……。


「……温泉巡りならすぐにできるから」


 と、シェーラちゃんを見降ろしながら……、まるで駄々をこねている子供をあやすような音色で言った。


 それを聞いてシェーラちゃんはカチンっと頭に来たのか、カッとアキにぃを睨みながら慌てている音色で「違うわよっ!」と言って――


「私はここで目を覚まして、そしてここで冒険者免許を貰ったのよっ! 他にも大勢いたし!」

「………えぇ?」


 アキにぃはその建物を見上げてみた。


 どこからどう見ても……、宿屋なのだけど……。


 私はそれを見て少しだけ半信半疑になってしまったけど……、シェーラちゃんはずんずんっと歩みを進めながら『やどや』とひらがなで書いていある暖簾に手をかけて、中に入ってしまった。


 私達はそれを見て、互いの顔を見合せながら、ひとまずシェーラちゃんが入ったから、入ってみようとした時……、私はヘルナイトさんを見る。


 ヘルナイトさんは私に視線に気付いたのか……、私に近付きながらそっとしゃがんで、頭に手を、優しく置いた。ナヴィちゃんのことを思っての配慮だろう。


 ヘルナイトさんは言った。


「私はここで待っている。大丈夫だ」


 その言葉は何となく二度目な気がする……。思えばヘルナイトさんはアズールではすごい存在で、確か、最強とか言われている『12鬼士』なのに……、ヘルナイトさんは人目を、特に冒険者が集まるところを避けている気がする……。


 一体どうしてなのかはわからないけど……。なんだろう……。


 うーん、えーっと、うーんっと……。




 苦しい?




 そう思いながら首を傾げていると……。


「ちょっと、早くしなさいよ」


 シェーラちゃんがドアから顔を出して私に向かって言う。それを見て、私ははっと現実に戻りながら「う、うん……」と頷いてヘルナイトさんを見る。


 ヘルナイトさんはそっと私の背中を優しく押して……。


「行ってこい」と、凛として、優しい音色で言った。


 それを聞いて、私はなんだか胸の奥が苦しくなってしまって、その場から逃げるようにシェーラちゃんのところに向かって走ってしまった。


 なぜだろうか……。


 今ヘルナイトさんと一緒にいると……、胸の奥が沸騰した薬缶のように熱くて……、苦しい。


 そう思いながらギルド (?) に入ると、シェーラちゃんは胸を押さえて息を整えている私を見て、ハァッと溜息ひとつ吐き……。


「――どっちもどっちね」


 はっきりと、それでいて凛々しいけど怒っている音色でそう言った。


 私はそれを聞いて「?」と首を傾げていると、シェーラちゃんは呆れながら溜息を吐いた。そして前を見る。私も前を向くと……。


 シェーラちゃんの言うとおり……、その場所はギルドに近い風景だった。


 違うところと言えば、酒場のように長い机がない。しかし代わりに足湯ができるところがいくつもあって、和風の雰囲気に、老舗旅館のような畳の部屋まである。


 完全に旅館だけど……、普通の旅館じゃない。ギルドの受付があるのが特徴の旅館兼ギルドだった。


 色んな人がくつろいでて、冒険者の人もくつろいで足湯を満喫していた。


「……なんだか、まったりとしているね……」

「でしょ? まぁ私は全身……じゃなくて! ほらあんたも来なさいっ!」

「あぅ」


 シェーラちゃんは何かを言いそうになったけど、すぐに首を横に振ってから、私の手を掴んでたっと駆け出して受付に向かう。


 手を引かれていたので少し手首が痛くなったけど……、シェーラちゃんも焦っているんだろう。そこをくみ取って、私は何も言わなかった。


 受付に向かうと、すでにアキにぃとキョウヤさんがその場所にいて、私達が来たことに気付いて振り向く二人。


 キョウヤさんは私達に手を上げて「よぉ。もう換金したぜ」と言った。


 それを聞いた私は、キョウヤさんに向かってこう聞く。


「あ、ここに来る途中で倒した魔物の素材を……?」

「あぁ」


 私の言葉に、キョウヤさんはにっと笑っていう。アキにぃもその話に入り込んで――


「合計で五十九万L。ディナーベルは備えあれば憂いなしで売らなかったけど……、それを引いて七十八万残って、合計で百三十七万になった」

「お前が出て行ってすごい出費だったな」

「抉るな」


 キョウヤさんはアキにぃのことを見て、亜人の郷での出来事を思い出しているのか、にっと笑いながら言うと、アキにぃはじろっとキョウヤさんを睨みながら言う。


 シェーラちゃんは口をあんぐりと開けながら……、「百三十七万……、すごい額ね……っ!」と、驚きを隠せずにいた。


 するとアキにぃはシェーラちゃんを見て聞く。


「そう言えば、あれは?」

「あぁ、そうね」


 と言って、シェーラちゃんは懐から収納の瘴輝石を取り出して、そのままアキにぃ達の間に割り込むように受付に向かった。


「いかがなさいましたか?」


 そう優しい笑顔が印象的な若い男の受付の人が聞くと、シェーラちゃんはその瘴輝石と冒険者免許を見せながら、はっきりとした音色でこう言った。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 それだけだった。なのに……。


 ――()()()()()()()()()()()()()


 それを感じた私達は辺りを見る……。すると、冒険者の人達は足湯を堪能しているけど、その他の人は……、なんだろうか……、そう。


 まるで、()()()()()()()()()()()()()()、じっと、見ていた。


 しかも受付の人でさえも……、そんな目をしている。


「っ」


 不意に感じる不安。ぎゅっと胸の辺りで握りしめていると……、シェーラちゃんの前にいる受付の人は口をゆっくりと開けた。


 そして――


「――そうでしたか」


 にっこりとした笑みで言った。


 それと同時に、張り詰めていた空気が、一気に緩んだ。


 キョウヤさんとアキにぃもそれを見て、まだ混乱しているようで、辺りを見回していた。


 私も、それを見て……、不審を抱いた。


 あのアムスノームの『不審の疑王』様のような疑心じゃないけど……。あまりにも不自然と言うか、異常だった。あの時の空間は……。


 シェーラちゃんは「ええ」とだけ言うと、その受付の人は意志と冒険者免許を手に取って、にこやかに少々お待ちください」と、そのままいそいそと奥へと足を進めてしまった。


 それから本当に少し――一分も経たずに戻ってきたその人は、シェーラちゃんにその石と冒険者免許を手渡して……。


「ご協力ありがとうございます」とにこやかにお礼を言った。


 それはあまりにも、()()()()()だ。


 そう……、その顔は……、()()()()()()()()……、歪な笑顔だった。にこやかとは言えない笑みだった。


 シェーラちゃんはその意志と冒険者免許を手に取りながら「ありがとう」と、そっけなく言う。しかしその人は私達の顔を見て、にっこりと、歪な笑みを浮かべながらこう言った。


「処遇につきましては――こちらで対処します。報酬ですけど……」


 と言った時……、私達の背後から……、妖艶で、それでいて色っぽい音色が耳に飛び込んできた。


「あら? 冒険者さぁん?」

「っ!」


 びくりと、シェーラちゃん以外の私達三人は、その音色に驚きながら肩を震わせ、背後を見た。


 シェーラちゃんはそれを見て、あぁ。と声を零して、少し鬱陶しそうにこう言った。


「その人……、このギルドのギルド長よ。すごい姿だけど……」


 シェーラちゃんは言った。


 シェーラちゃんの言うとおり、その人はすごい姿だった。


 下半身は人魚のような青い尾びれの足……。メグちゃんと同じ人魚族の人かな……。そしてうねっている黒い長髪に少したれ目が目立つけど、それでもなきほくろと口元のほくろが印象的な……、その……、うん。


 ララティラさんと同じかそれ以上のグラマラスで、服装は……、よく花魁がやりそうな胸の谷間が見えてしまいそうな……、というかすでに胸が零れそうな着流しの着方をしている……。服装的に危ないお姉さんがそこにいて、その人は私達を見ながら「はぁん」と妖艶な溜息を吐きながらこう言った。


「あなた……。アルテットミアで。有名なお人ね。わたしは。ウェーブラ。『魚』の魔女なの」


 …………私の頭の中で……、すごく女の香りを出している人もとい……、すごいボディの人一位に入り込んだ人……、ウェーブラさんは私達を見てそう言った。


 ちなみに、以前の一位はララティラさんで、二位はロフィーゼさんです。

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