PLAY26 アキⅡ(決意)⑥
あの騒動から一日が明けた後……。
というか、その日はすごく濃密だった気がする。
アキにぃの豹変に亜人の郷での出来事。
ガーディさんの再会、『BLACK COMPANY』に所属している人と出会い、戦闘になったけど、それも事なきを得て――最終的にアキにぃが元に戻った。私達の元に戻ってきた。
思えば……一日で色んな多くの出来事があった。
それはきっと、初日と同じくらいの情報量だった気がする。私的には……。
そんなことを思いながら私達は今、亜人の郷の入り口の前で最長老様の話を聞いていた。
あの晩、なぜ私達は最長老と一緒にいたのか……。
それは偶然。それを話すためには少し時間を遡らないといけない。
昨日ガーディさんがアキにぃの壊れた銃を見て、言葉を失いながら、まるでこの世の終わりのような叫びを上げて、変な踊りをしながら「なんでこんな壊れ方すんのぉんっ!?」と、最後だけ変な語尾になるくらい……、ガーディさんは混乱していた。
キョウヤさんはそれを見て……。
「あんたも壊れたぞ……?」
なんだか申し訳なさそうに手を伸ばしながら謝ったけど、ガーディさんは壊れたライフル銃を奪うようにぶんどり、そしてリュックの中から色んな修理器具を出しながら「ちょいと待ちなぁ!」と言った。
「江戸っ子かよ……」
それを聞いていたキョウヤさんは首を傾げながら突っ込むと、シェーラちゃんがそれを見て「何をしようとしているのよ」と聞いた。
聞かれたガーディさんは私達に背中を向けながら『がちゃがちゃ』と音を鳴らして、私達を見ないで言う。
「決まってんだろっ! 貴重なアークティクファクトだ! 俺の手で直して見せるっ! というか……、新しい武器に作り替えるっ!」
「「絶対に後者が目的だろ/でしょ」」
それを聞いてシェーラちゃんとキョウヤさんが突っ込むけど、ガーディさんはせかせかと両手が四本手に見えるくらいの動きで、アキにぃのライフル銃を直す。
それを見て、私は思い出す。
確か……、ガーディさんは……。
社畜。
じゃない。アズール図一の魔技師。
アークティクファクトミストだ。
なんで社畜が最初に出てしまったんだろう……。
そう思っていると、ガーディさんはがちゃがちゃと修理し、粉々になってしまったそれを修復しながら、焦った音色で私達に言う。
「待ってろよ! 今すぐ作り直す! 一時間で終わると思うからっ! っほ! よぉ!」
「いやいや、一時間って……」
「絶対に作れないパターンね。そう言って長引かせるのが得意なのよ。こう言った奴は」
「二人共――」
キョウヤさんとシェーラちゃんが、ガーディさんの言葉を聞いて、無理だと思って頭を垂らしていると、ヘルナイトさんはそれを聞いて、二人の肩に手を置くと、凛とした音色でこう言う。
「ガーディ殿は『有言実行』をモットーにしている。宣言通り一時間後には直してくれるだろう」
私はそれを聞いて、なんだろうか……。ヘルナイトさんだからだろうか……、私はそれを聞いて、そうだよね。と、あっさりと信じてしまった。
そんな確証、どこにもないのに……。信頼して、ガーディさんを信じてしまった。ヘルナイトさんの言葉を、信じて……。
二人はそれを聞いて、疑念の目でヘルナイトさんを見て、ガーディさんの背中を見ながら……。
首を横に振っていた。
そして一時間後……。
「完成っ!」
「「マジかっっ!!」」
二人はそれを見て目が飛び出そうな驚きで叫ぶ。
ヘルナイトさんは私を見降ろし「言っただろう」と言う。それをきいた私はうんうんっと驚きながら頷いた。
本当に完成してしまったようだ。ライフル銃が入っているのだろう……、ガーディさんは大きめの袋を手に持った状態で私達に見せて、すぐにキョウヤさんに手渡しながら、満足げな顔をしてこう言った。
「これでこれは生まれ変わったぜ! 使い方はこの袋の中に入っている。アキくんに伝えてくれ」
ガーディさんは言った。すでに夜の世界となった郷で、ガーディさんは――
「ちゃんと使いこなして」
『キィエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!』
「うひゃっ!?」
「「「「っ!」」」」
突然だった。
女の子の奇声が、波のように広がって飛び交う声が聞こえた。それは山彦のように反響し、亜人の郷にも、その声が爆音のごとく響いたのだ。
それを聞いて、私達は耳を塞いでいた。
その声が消えて、そっと耳から手を離したとき……。バンッと遠くから音が聞けた。その音はドアを乱暴にあける音で、その音の音源を辿りながら振り向くと、そこには――
「最長老っ!?」
「最長老様が!」
「どうしたんだっ!?」
外にいた亜人の人達は突然出てきた最長老様の行動を見て、駆け出す最長老様を見て驚きを隠せなかった。
でも……、その背後を走って追っていたクルクくんは息を切らして走りながら――
「最長老様! なんで俺は駄目なのっ!?」
その言葉に最長老は足を止め、上を見上げながら「言ったはずだ!」とグルルルっと唸りながら最長老様はこう言う。
「お前には――無理だ」
「無理じゃないじゃんか! 俺は魔法が使える魔女なんだよ!? なんで」
「その魔女は、この郷を守るために……、命を落としたっ!」
「っ」
それを聞いて、クルクくんはぐっと言葉を詰まらせた。最長老はそれを見ないで、上を見上げながら……、クルクくんを思っての言葉を吐いた。
「お前はこの郷にいろ、儂が何とかする」と言った瞬間――
だぁんっと、斜めに跳んだ最長老様は、泥でできた壁に張り付いて、そのまま反対の壁に向かって斜めに跳ぶ。それを繰り返しながらどんどん上に向かって跳んでいく。それを見て、キョウヤさんはわなわなと震えながら……、マジか。と声を零して。呆然としていた。
それを見て私はどうしたんだろうと思ったけど、最長老のことが心配になってキョウヤさんの尻尾を掴みながら「は、早く後を……っ!」と言うと、キョウヤさんは「んにゅへぉっ!」と変てこな声を上げてびくついた。
あ、そう言えば尻尾は駄目だったんだ……。ごめんなさい。
私は内心キョウヤさんに謝りながら、物陰に隠れてしまったガーディさんに、さっきのディナーベルを買い、後を追って、すぐに追いついて、そしてアキにぃと再会できた。
そして今――最長老とクルクくんがその場所にいて、私達は最長老の話を聞く。最長老様は開口……、ううん。すぐにこの行動を示した。
それは――
「すまない」
謝罪の行動。
頭を下げて私達……、というかアキにぃに向かって頭を下げて言ったのだ。
それを聞いたアキにぃはきょとんっとしていた。私達もそれを聞いて驚いていたけど、最長老様はすっと頭を上げて……、申し訳なさそうにしているけどまだ怒っているようなその顔で私達に向かって言う。
「昨日の件、儂の軽率な見解により不快な思いをしただろう。すまない」
「いいえ、俺は鬱憤を吐くことが出来て嬉しかったので、お相子です」
「反省しろ」
アキにぃの垢抜けた笑顔と言葉を聞いて、キョウヤさんは苛立った音色の突っ込みを入れる。シェーラちゃんはそれを聞いて溜息を吐く。
ヘルナイトさんは最長老様に――
「……郷のことを聞きました」
と、オブラートに包みながら、そのことを伝えた。それを聞いて、最長老様はすっと目を細め、少しだけ、悲しい青と黒のもしゃもしゃを出していたけど、すぐにそれを引っ込めて、さっきと同じ怒った顔をして最長老様は言った。
背後にある。その郷を覆う泥の壁を見て……。
「この泥は……、とある魔女が作った壁であり、儂の命を救った人が最後の力を振り絞り……。この郷の未来を繋ぐ懸け橋となった壁だ」
それを聞いてクルクくんはその壁を驚きながら見上げていた。
最長老様はそれを見て、私達を見ないで壁だけを見て、こう続ける。
「この壁が、儂を、郷に来た亜人達を守っている。結界と言う古の魔法で、儂等を守ってくれた。その血は受け継がれているクルクにしか解けない。そして封じることも、クルクにしかできない。だが、儂はいつしか、憎しみに埋め尽くされていたのやもしれん……。里の者達を……、郷を守った魔女を……、蹂躙していった奴等のことが、時代を超え、世代を超えたとしても……、消えなかった。そして、今に至ってしまっておる」
「憎しみ……」
そう私は呟く……。
それを聞いてか、アキにぃは最長老様の名前を呼んで、最長老様の返事を待たずにこう言った。
「確かに、誰かを恨む。それは妬みとか嫉妬。そして怨恨でもあり、負の感情が起因して怒ってしまう。きっかけだけでそれは簡単にできてしまう。あの人も、最長老も……、俺だって、些細なことで、大きなことで……、憎いと思う」
だから。と、アキにぃは言った。
「俺は、その……決心して前に進もうと思ったんですけど、もしかしたらできないかもしれない。ちょこちょこと前に進むくらいかもしれないんですけど……、えっと……。うーんっと……」
アキにぃらしくない……、まとまっていない言葉。
思い出しながらなんて言おうかと迷っているようだ。
それを聞いて私はアキにぃの顔を覗くと、鼻の先を指で撫でながら……、アキにぃは顔を赤くしてこう言った。
「えっと、臭い話……。その憎しみを抱えず、前向きに……、前に進んだ方が、いい、と………おも、い………ます」
……結局と言うか、なんというか……。
アキにぃは恥ずかしがりながら顔を真っ赤にして、俯きながらだんだん声を小さくしていく。最後なんてよく聞こえなかった。私はそれを聞いて、くすっと、なんだかアキにぃらしくないけどアキにぃらしいという矛盾のようなことを心の中で思い……、それを聞いてヘルナイトさんは「ふっ」と、小さく微笑む声をだし、キョウヤさんとシェーラちゃんは……。
「くせぇ」
「臭いわね。あんた変なものでも食べた?」
すごく真剣な顔をし、心配そうな顔をしてアキにぃに聞く。
アキにぃはぼっと顔を真っ赤に染めながら、二人に向かって「べべべべべべ別にいいだろうがっっ! い、一回くらい言ってもいいだろうがっ!」と恥ずかしそうに大声で叫ぶ。
それを聞いていた最長老様は、ふんっと鼻で笑いながら……。
「そうそう簡単にできん」と、はっきりとした音色で言った。
それを聞いたアキにぃは、絶句しながらショックを受けていた。
けど……。
「だが、変わることも必要なら……、そうしたい」と言い、私達を見て、最長老様はこう言った。クルクくんの頭に手を置いて――
「異国の冒険者よ。一つだけ告げよう。この国は……、アクアロイアは狂っておる。腐っておる」
「……そんなの今に始まったことではないわ」
私はここに来てから知ったもの。そうシェーラちゃんが腕を組んで言うと、最長老様は「そうだな」と頷いて、重ねてこう言う。
「今から四百六十二年前よりも前までは、アクアロイアはこんな国ではなかった。バトラヴィア帝国があった『砂の大地』は元々……、『緑の大地』と呼ばれ、この国は一つだった。アクアロイア帝国として、栄えていた」
緑豊かな帝国として。そう言いながら、雲一つない空を見上げながら、最長老様は思い出しながら言う。
「しかし、とある時代の時……、『終焉の瘴気』がこの世界を覆う前に……、アクアロイアが分断された。『水の大地』、『砂の大地』となって、対立をするようになったのだ」
「……なる前から……?」
驚きながら私が言うと、最長老は頷き、そして――
「些細な喧嘩だ。それのせいで、里は滅んでしまった。どこぞの差し金を引いた、闇森人によってな……」
後から知ったことだ。そう最長老様は言うけど……、その些細な喧嘩で、一つの里が滅んでしまった。そんな身勝手なこと……、あってはならないはず……、なのに……。
「許せないわね。この国は……腐っている」
そうシェーラちゃんは毒を吐く。その時、ブワリと出た赤と黒のもしゃもしゃ。それを感じた私は、びくりと肩を震わせてしまった。シェーラちゃんは私の驚きを見て、はっとしながら私を見て、すぐにそれを引っ込めた。
「なにかしら?」
「あ、ううん……」
私は首を横に振る。
今のもしゃもしゃは……、確か……。
と思っていると、最長老様は私達を見て「何がともあれだ」と言い、クルクくんの頭を撫でながら、最長老様は私達に向かって――
「儂はまだ、闇森人を信用したわけではない。できないと言った方が正しいかもしれん。しかし、時間が掛かるかもしれないが、この件を機に少しだけ、視野を広く持とうと思う。クルクのことを見習って……、な」
その言葉に、クルクくんは目を見開いて、そしてにっと笑いながら最長老様を見上げる。そんな顔を見て、最長老様は一瞬、微笑んだ気がしたけど、私達を見た瞬間――その表情を厳しいそれに切り替えて……。
「だから再度言おう。不躾なことをしてすまなかった。そして――闇森人の青年よ……」
そっと、頭を下げて……。
「ありがとう――」
そう、郷の事……。自分のことを乗せて、最長老様はお礼を、アキにぃに向けて言った。それを聞いてアキにぃは鼻を指で掻きながら……。
「えっと……、はい……?」
あまりに突然のことで驚きながらも、頷きながら小さく……、「こちらこそ……、失礼なことをしてしまい、申し訳ありませんでした……」と言った。
私達はそれを見て微笑ましく見ていると、アキにぃはそれを見て、更に顔を赤くしながら照れて――焦りながら最長老様達に背を向けて私達に――
「ほぉらぁ! さっさと行こうっ!」と促す。
それを聞いて、アキにぃを先に行かせながら、そのあとを追う。私もシェーラちゃんの後を追って、ヘルナイトさんは最長老様達に向かって頭を下げながら私の後を追う。
クルクくんが手を振って、笑顔で「またねー!」と言っているのを見て、私はそっと手を振って「またね」と小さく言った。ナヴィちゃんは私の帽子から出て肩に乗り移りながら「きゅきゃー!」と、大きな声で鳴いていた。
まるで……、またねと言っているように。
アキにぃの一件があり、もしかしたらばらばらになってしまうかもしれないという不安があった一日だったけど、アキにぃはいつものアキにぃに戻った。
アキにぃはキョウヤさんにからかわれている。アキにぃは顔を真っ赤にさせながら口論している。それを見て私は安心していた。
いつものこの風景が――私にとって今の日常だから……。
「さぁ――ユワコクについたら、一番最初にギルドに向かうわよ」
シェーラちゃんはとある方向を指さしながら凛々しい音色で言う。
私はそれを聞いて頷く。
けど……、この時までは知らなかった。
最長老様が言っていた言葉――
この国は腐っている。
軽い気持ちでその言葉を受け取ったけど、本当は……、言っていること以上にこのアクアロイアは……。
腐りすぎていたということに……。
それと対を成すかのように……、私達の背中を見ていた最長老様とクルクくんは……。
「……最長老様」
「どうした?」
「俺――決めた」
「?」
「この国が腐っているなら、俺、この国を最長老様が言っていた国に戻したい。だから俺、ギルド長になる。魔女の俺にしかできない唯一の方法で、この国を……、元のアクアロイアに戻したい」
その決意を胸に最長老様に告げたことは……、私達が知る由もなかった。