PLAY26 アキⅡ(決意)③
アキはその小岩から離れた。
それと同時に来た――右にいた人物の得物がアキが座っていたところに何か切り込みを入れるように横にそれを薙いだ。
薙いだ所は――丁度アキの首元。
それを見たアキは……、転がりながら手にしていた瘴輝石を手に取って……。
「マナ・ポケット――『レォット』ッ!」
と叫ぶと、突然アキの手元に突然出たアサルトライフル。
それを手に取って、がしゃっと銃口をその奇襲を仕掛けた男に向けると……、アキは目を見開いて銃越しにその光景を見た。
小岩のところで奇襲を仕掛けた男は……「あはははは」と言いながら片手で顔を覆うように掴んだと思ったが、すぐにぐわんっと既に月の光しか頼れない夜の空を見上げながら男は言った。
「橘のくそ社長の息子……っ! 橘秋政だろう……っ! ボクのことを見ても、アバターだから分からないだろうけど……、ボクは知っているよ……」
「?」
(一体何を言っているんだ?)
暗い世界でアキは声を頼りに銃口を突き付けているが……、それでも前が見えない。そんな中……。
ざっ、ざっ。
アキに向かって歩みを進める人物。足音を聞いて、アキは警戒を強めながら銃を構える。
それを見て、暗闇に身を隠している男は「あひゃひゃひゃひゃっひゃぁっ!」とけらけら笑いながら、アキの行動を滑稽に見て、男は笑いながら歩みを進めて言う。
「そんな風に身構えても無駄だよぉぅ? ボクはずっと君を追っていたんだ……。だってあの橘社長の息子だろう……っ? むかつくったらありゃしないっ! ボクのことをずっと言葉で陥れてっ? それでボクは逮捕? 社員のために頑張ったボクをぉ? 救済したのに!」
どんどん声色が荒くなり、足音も早くなる。
暗闇を見て、アキは冷静に、警戒しながら姿が見えた瞬間を見計らって……、撃とうとした。
ざっ! 一歩。
ざっ! 一歩。
ざっ! 一歩。
(見えた!)
足の先が見えた。その足の先は革製の黒い靴でその位置を見て、上に目を向けて、彼はジャキンッと銃口を向けた。
が――
できなかった。
暗闇から姿を現した人物を見て、アキは思考が真っ白になり、そしてだらりと、銃を下ろしてしまった。目の前にいたのは……、見覚えがある人物。それも、アキが最も毛嫌いする……、男の顔だった。
服装は黒いスーツと言った王道の服だった。しかし顔は違った。皮だけの角ばった顔に鋭い目つき。ボサボサの七三分け。そして右手だけは黒く変色して……、否。焦げている手。それを見て、アキは漫画の下書きのように、体全体がぐちゃぐちゃになる感覚を覚えた。
なぜ?
それは簡単な話……。
「あれぇ? 撃てない? 殺せない?」
男は言った。けたけたと、顔を片手で覆い隠しながら、彼は言った。
まるでそのアキの表情を見て、想定内。そして予想的中。最終的には計画通り。
そんな表情を、手で隠された表情で、狂気に笑みを浮かべ、彼は歩みを進めてアキに近付きながら言った。
「そうだよねぇ――ボクは殺せないよねぇ? だって、だって……? この顔は――」
お 父 さ ん の 顔 だ も ん ね ぇ っっっ!?
その言葉が、せき止めていたそれを破壊した。
「う」
アキは持っていた銃の支えとなっていた左手を離して、その手でせき止めきれなかったそれのせいで膨らんだ口元を押さえる。
何とか口の前でせき止めるように抑えた後……、ぐるぐると回る思考の中、ぐちゃぐちゃになる体の中。特に胃の辺り。それが口にまで到達し、独特の酸味を感じながら刺激を受ける。
長い間刺激されまくっているような感覚を覚え、アキはとうとうなのだろうか、そのせき止めにも耐えられなくなって、ずたんっと地面に銃ごと手を付けて――
「うぉえええええっっっ!!」
ばしゃばしゃっ! としゃとしゃっ!
「あ、うげええええっっ!!」
ばたばたっ! びちゃびちゃっ!
やっとそれが終わったアキだが、荒い息遣いと共に――口の周り、左手、地面から酸味の臭いと異臭が、鼻腔内を刺す。それも相まってまたしそうになったが……、ぐっとアキはそれを堪え、見上げる。
そう。そこには、アキの父――橘仁慈の顔があったのだ。体格までもが一緒で、服装も、あの事故の時を模したかのように、瓜二つの状態でそこにいたのだ。
アキはそれを見て……。
(悪夢かよ……っ!)と内心頭が壊れそうになりながら思った。
だが目の前の男はそれを嘲笑い、腹部を抱えながらその衝動を吐き出すように――けらけらと笑った。
「あははははっ! あーあっ! 吐いちゃったぁ! そうだよねぇ? 亡霊? もしかしてお化け? とか思ったんだよねぇ? 橘の息子さん……。でも、ボクはそれだけじゃ気が治まらないんだ……」
男はすらっと十指の間に挟めた八つの細い針を出して、彼は言った。
「もうボクの恨みはあのくそ社長だけに留まらないっ! ボクは社員のために――ボクは社員の救世主となって……君を」
男がその言葉を発すると同時に――右手に持っていた針四本を、首元に持ってくるように絡めるようにして……、そのままぐんっと横にスイングして――
男は怒りの音色で、アキに向かって――
「――殺さないと、みんなのためにもならないし、ボクのためにもならないっっ!」
しゅぴぴぴっ! と投擲したのだ!
それを見て、アキはすぐに横に転がりながらそれを避けた。刹那――アキがいたところにそれは『タタタタッ!』と突き刺さる。
ゴロンッと転がって、それを見るアキ。よく見るとそれは注射器のような武器だった。
針やフォルムも注射器だったが、中身の液体を入れるところがないため、それをかたどった武器なのだろう……。刺さってもそれほどの怪我にはならない。そう思ってアキは一旦冷静になって、もう一回銃をちゃんと持って構えた。
吐き出したそれのせいで、ぬめりを帯びてしまいぐっと触った瞬間ずりっと中から手が離れてしまう。それでもアキは銃を構えた。
構えて……、狙いをその男に向けた――
――父親に瓜二つの、その男に。
「あははははっ! やるんだ! やるんだね。あの時君は車にいなかった。だから君は助かった。でもそれだから、ボクのこの憎しみが晴れない……、永遠の曇りなのさっ!」
そう叫びながら、男はぐいんっと二本の足でバランスを取りながらエビ反りをし、頭をガクンッと自身の後ろの風景を見るようにたらす。
それを見たアキは、銃口を構えながら(チャンス!)と、気持ちをしっかり持って、冷静に銃口をその男の、胃の辺りに向ける。
狙いを定めて、アキは焦点があったところで――すっと引き金を……。
――引くことができなかった。
指先が震えて……、冷静に、気をしっかり持っていたはずの意志が、簡単に、ボロボロとこぼれてしまったのだから……、無理はない。
保たれた意志が、一瞬のうちに崩れる。
目の前にいる人物に向けた瞬間……。水を含んだ和紙のように、へなへなと重みを持って、崩れてく……。
(なんで動かなんだよっ! 動けってこのぉ! 引けって! 簡単だろうっ!? 何で引けないんだっ! くそっ! くそぉ!)
アキは焦りを募らせ、震えて動かないその指を無理に動かそうとするが、その指と意志の伝達が切り離されているかのように……、動かない。全く動かない。
震えて動かない。
その間にも、男はけらけらけらと笑いながら――彼は叫んだ。
「おいでぇ! 『狂喜の樞人形』っっ!」
反り返った背中から出る黒い液体。
どろどろと、彼の反り返った目の前を覆うように、暗闇に紛れながらそれが出てくる。
アキはそれを見て……「影……」と呟いた。
そう。影なのだ。
冒険者――プレイヤーが使う……、シャイナと同じ、影。
その影が形をかたどりながら、姿を現す。
その姿はまるで――日本人形。
紅い着物を着て黒い髪を可愛らしい飾りで彩っている。その姿を見るだけならいいのだが……、問題はここから。
顔が小面のような顔で、口のところががぱがぱと上下に動きながら『キャハハハハハッ!』と笑い、腕も四本のからくりの手がぎしぎしと言いながら、人間だと曲がれないような肘の曲げ方をしていた。その腕四本に持ってる四本の刀。それもその人形の狂気性を物語っていた。
簡潔に言おう。
暗闇の中でそれを見ると、更にホラー性が増す。そして……、その人形こそが、男の影で、ミィおばさんが言っていた奇妙な人物の正体だと。
アキは知らないので、それを見て「人形ってか……っ! なんだよこれっ!」と、ぐっと口元についたそれを拭いながら言うと、男はその子を見上げながら、エビ反りの状態で彼は言った。哄笑しながら、彼は目元に浮かぶ涙を拭わず、彼は言った。
「『狂喜の樞人形』っ! あぁ、ボクの理解者っ! さぁ、君の目の前に……、赤髪の男がいるだろう……っ!?」
そう言った時、『狂喜の樞人形』はぐりんっと、人間ではできない首の回転で、アキを見た。背中が前のようなその動作で。アキはそれを見て、ぎょっと驚いて、すぐに立ち上がって体制を整えようとした時……。
「――握り潰してええええっっ!」
男は叫んだ。
それを聞いて、『狂喜の樞人形』が目をギョロっと動かし、ガコンっと口を開けた瞬間――
『きゃははははははははははっ!』と、飛来するように、アキに向かって飛んだ。
それを見て、アキは銃を構えながらゴロンっと転がり、その軌道から少しだけ逸れるように仰向けになった。
それを見て、すぅーっとどんどん下に向かって迫る『狂喜の樞人形』
まるでホラーのように迫りくる光景に、アキはぐっと口をつぐみ、人形だけを見ながらアキは、胴体にその銃を置いた。
仰向けの状態で、頭だけを上げて銃を足で挟めて焦点が揺らがないように――
ダダダダダダダダダダッ! と、十発発砲した!
それを受けてしまった『狂喜の樞人形』は、てで顔を覆い隠しながら『キェアアアアアアッッ!』と、まるで泣いているかのように叫んだ。
が――男はぐわんっとエビ反りから立ち上がると……、そのまま男は叫ぶ。異常ともいえる。狂気の眼で笑み。更には血相で――彼は叫んだ。
「『狂喜の樞人形』! 『壊滅殺人兵器』に豹変だぁ!」
それを聞いたアキは、首を傾げそうになったが、『きぇきゃ……』と声を上げた『狂喜の樞人形』を見て……、アキは目を疑った。
目の前で顔を掴んで泣いていた人形が……、がらんっと腕を下ろして、持っていた刀を落としたのだ。
すると、顔を隠していた手ががちゃんっと、絡繰りのように腕の中に収納されたと思った瞬間……、ずっと出てきたのは――不釣り合いで、なおかつ隆々としている後ろの大きな手。巨人サイズかと思わせるそれで、その指の先からはいくつものの武器がにゅっと出てきていた。手を隠していた手は普通の手から爪がとがっている手に切り替わってて、ぐわんっと顔を上げた樞は……。
『キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!』
「っ!?」
先ほどの人間味がある顔から一変。
目が赤く染まり、口元がすでに軟体動物のような楕円形の口元で、喉の奥まで続く螺旋状の歯並び。うねっているところから見て、生物なのだろう。が――今はそんなのどうでもいい。
「――っ! 二段変形なんて……っ! 聞いていないってぇっ!」
アキは叫びながら立ち上がったが、その最中に『壊滅殺人兵器』はその隙を見て……、と言っても一瞬だった。だがそれでも……、アキの目の前に来て、振り上げた右上の腕の拳――大きな隆々の手を振り上げて、武器をしまってガッと握りしめて、そのままアキに向かって殴り潰そうとする。
それを見て、アキは後ろに逃げようとしたが――動かない。
どころか……。
「っ!?」
アキは自身の胴体が左下の手に掴まれていることに気付いた。がっしりと掴まれて動けない。そう思ったアキは頭上からくるそれを見上げ……、ふっと自分に向かって落ちてくるその大きな手の殴打を見て……。
アキは何とか片手に持っているアサルトライフルを……、地面に向けて発砲した。
ダダダダダダダダダダッ!
するとその音に驚いたのか、『キャ』と可愛らしい声で驚く『壊滅殺人兵器』
内面は乙女らしい一面を持っているのか、そうアキは思ったが心にしまっておく。
だがその驚きのおかげで、アキを握っている力が緩んだ。
それと同時にアキはしゃがみ、そのままゴロゴロと転がって回避。
転がってマントと髪の毛の先が大きな手にちっと掠った瞬間……。
どぉんっ! と――地面が壊れるような轟音と風圧。ついでに来た小石。
アキはそれが頬に当たり、「痛っ!」と唸った瞬間。
ガシッと誰かの手によって掴まれてしまうアキの腕。
その感触と、転がりの影響が無くなったところを見て、アキはふっと上を向く。
そこにいたのは……、口裂け女のような笑みを浮かべ、べろりと下唇を舐めながらアキを狂気の笑みと目で見ている男の姿。
それを見てアキは絶句し、また這い上がってくるそれを押さえ、口に手を当てた瞬間――
アキの肩を掴んで押し付けていない手に、得物を持った男。
それは――拳銃。
コーフィンが使っていた――『KILLER』だ。
それをアキの腹部に向けて――男はにたりと笑みを浮かべて……、こう叫ぶ。
「キル!」
だぁんっ!
「っ!」
腹部に来る激痛。そして――それが次々と……、来る。来る。来る!
「キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル」
壊れてしまったレコードのように彼はその言葉と共に、銃弾をアキの腹部、肩、腕、足などの撃てる箇所全部に発砲を繰り返した。弾切れとなった後も、かちかちと音を鳴らしながらそれを続けていた。
かちかち。かちかちと――
「キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル。キル」
言葉では、思考では撃ち続けているのだろう。そのくらい、男の狂気は異常だった。
それを垣間見て、四肢や体の箇所から来る激痛に耐えながら、アキは見上げる。そして荒い息で呼吸を繰り返しながら、彼は聞いた。
「あ……っ! あんた……っ! なんで……、俺を……」
「お前――橘秋政だろう? あの社長の息子さん」
「どこ、かで……、会った」
アキが聞こうとした刹那……。アキの頭に向かって、弾切れとなった拳銃を振り上げて、それを鈍器のように男は――ガンガンッとアキの頭を集中的に、殴り続けた。
「あっ! がぁっ! ぐぅ! ぐえっ! ぎゃ!」
アキは叫ぶ。ガンガンッとくるその衝撃に耐えながら……、アキは部位破壊された左手と右足をどうにかしようと考えている時……、男は言った。叫んだ。
狂気の怒りで、怨恨が込められた眼で、彼は叫ぶ。
「何があっただぁっ!? ボクのことを忘れたってのか!? そうやってお前達家族は、ボクの存在を消すように、新しい人材を入れては使えなかった人の人生をクズのように捨てる! 滅茶苦茶にした後は記憶から抹消っ!? ふざけんなこのクズ! 屑人間!」
男は叫ぶ。
その叫びを聞きながら、アキはふと……首元が目に留まった……。
その首元には……大きく斬れた痣が残っているそれで、まるで首を掻っ切ってしまった後のそれのようだった。否――
自分の命を捨て去ろうとしたそれのようだった。
男はぐっと首元のそれを見せつけるように服を乱暴に引っ張って降ろすと、男は荒げながらこう言った。
「この首の傷が痛くて痛くて仕方がないんだっ! 社長によってけじめと言う名の見せしめにされて、命を取り留めたにも関わらずボクの家族はバラバラッ! 仕舞には妻は精神崩壊して――死産してしまったっ! 生まれてくる女の子……シンディちゃんが死んだ! なのにあの男はボクを見て……っ! 『誰だ?』だぞぉっ!? その時からボクは、同じ犠牲が出ないために社長を殺した! ボクはみんなの光なんだ! なのにボクを捕まえて、あろうことかボクを異常者とみなした! 世間は知らないんだ! この橘の血を引いた奴らは……、クズってことを! そしてその血を引いてしまった奴らを殺すまで、ボクは諦めない! みんなのために! ボクはこいつを見せしめに殺すんだっっっ!!」
「まさか…………」
アキは小さく呟き……、男の名を口にした……。
「あの二人を殺した……、殺人犯……。舘向和一……っ?」
その言葉に男はにやりと「ふひぃ」と声を上げ、歪に歪んだ笑みで彼はこう言った。
「そうだ! ボクは舘向和一! ここでは『ジンジ』って名乗っているんだ! だから橘秋政……、ボクの復讐のために……、死ね」
最後にハートマークが出そうな音色で、男――ジンジは狂気に笑みを浮かべて、ぐんっと銃を振り上げた。