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PLAY26 アキⅡ(決意)①

「あの、何でガーディさんがここに?」

「ガーディっていうの? このダサいファッションセンスで臭くて鼻が折れ曲がりそうな変質者の男は」

「あはは。そこにいる御嬢さんはすごい毒を吐くね……。変質者なの俺は……」

「シェーラ。失礼だぞ」

「あー。うん……、毒を吐いた女の子はシェーラちゃんっていうのね鬼神さん……。珍しく俺の心がズタボロになりそう……。もうガラスの罅割れの様だ……」


 アキにぃの豹変を見て、アキにぃは最長老様の家を出て行ってしまった。


 その後を追うことも出来たけど、アキにぃのあの冷たい目を見て、そして冷たい声を聞いてしまった私は、それと同時に噴き出していたアキにぃの黒いもしゃもしゃを感じてしまい、委縮してしまった。


 追うことでさえも、躊躇ってしまった。


 そんな中、最長老様はクルクくんを呼んで、私達にはこの郷での休息を強要した。


 それを聞いて私達は渋々と言う形でそれを汲み取った瞬間、ガーディさんが来たのだ。


 ガーディさんに対して何でこの場所にいるのかと言うことを聞くために一旦私達は最長老様の家を出て、ガーディさんと一緒に郷の空き地らしいところで話をして、最初の話に至っている。


 ガーディさんは『とほほっ』と目から涙をきらりと流しながら「最近の若い子って、こんなに冷たいのかな……? ハンナちゃんが例外なのか……? これが普通なのか……?」と、ぶつぶつ言いながら背負っていたリュックを漁っていた。


 それを見てキョウヤさんは鼻を抓みながら――


「それで? 何でこんなところにいるんだよ。おっさん」と聞いた。


 それを聞いたガーディさんはキョウヤさんを見てあははっと、泣きながら笑って――


「そんなの決まってるだろうが、商売だよ商売って、俺もしかして臭い? 露骨に鼻を抓んでいるけど……?」


 なんだかキョウヤさんの行動に傷ついてしまったのか、ぐっと親指で涙を拭いながら言った。


 私はそれを見て、ガーディさんの気持ちはわかるけど……。事実は事実で処理してしまうのが人間でもある。


 私も、手で口を覆い隠して、臭いが鼻に来ないように守っていたから……。


 すみません……。本当にすみません……。


 でも、事実です……。


「商売って、こんな異臭を放っているおっさんが商売人なの? 信じられないわ。ちょっとそこの川に入って自分の汚れを見に行きなさい。きっと嘘の汚れも取れるわ。それが理解できなかったら、私の氷スキルで永遠の氷像を立ててあげるわ」

「ひどくないっ!? あと俺死んじゃうっ!」


 シェーラちゃんが近くの川を指さして言うと、ガーディさんはとうとう泣き出して突っ込んでしまった。


 シェーラちゃんの目は冷たく、鼻をつまみながら言ったことも相まって……、シェーラちゃん相当怒っているような雰囲気を出していた。


 キョウヤさんはそんなシェーラちゃんの後ろでうんうん頷きながら納得している……。


 ……納得するところなのかな……? うーん。


 そんな二人を見て泣いているガーディさんは。慌てながら手を振って――


「違うんだっ! 服はあとで洗うとして、今日は本当に商売で来たんだ! ほれっ!」


 と言って、リュックの中から色んなものを取り出したガーディさん。それを見て、私達はその商品をじっと見る。


 ガーディさんが出したものには、何かの種と鉄で作られたお鍋。あとは色んな食品などがあった。それを見て、私は何かの種を指さしながらガーディさんに聞いた。


「この種は……?」

「あぁ、それは『アップリコロン』っていう、赤くてしゃりっとした果物の種だ」


 と言った。


 それを聞いて、私が思い浮かべたその果物……、それって、林檎、だよね? 言葉を聞くとアプリコットに近いけど……、それだと杏だし……。となると、アップリコロンは林檎に近いようなものなのかな……。


 そんなすごく関係ないようなことを思っていた私の横で、シェーラちゃんはその種を見ながらガーディさんを見て「本当に商売人なのね」と信じてくれたみたいで納得して頷いた。目は座っているけど……。ガーディさんはあははっと笑いながら――


「言葉に棘があるのはまぁまぁいいとして……。俺はこう見えても仕事大好きな社畜だからな。こう言った日用品の売買もしているんだ。魔技師たる者、必要な器具も買わないといけないしな」

「大変だなー……」


 キョウヤさんはうんうん頷きながら言う。


 すると、ヘルナイトさんは腕を組みながら「ここに来たのが売買ならいいが……」と言って――


()()()()()()()()()()?」


 ヘルナイトさんはふとした疑問をガーディさんに向けて聞いた。


 それを聞いて、私達もはっとしてガーディさんを見た。


 確かに、この郷の出入り口はクルクくんの魔法がなかったら開かない仕組みだ。すぐに閉じちゃうし。


 ガーディさんは聖霊族だけど、それでもどうやってあの出入り口がわかって、そしてこの郷に入れたのか、それはみんな、不思議に思っていたに違いない。私もその一人だ。


 するとガーディさんは「あぁ。それな」と言って、リュックからとあるものを取り出した。


 それは……、透明なクリアガラスに入った、二つの小さなディナーベル。よくメイドさんを呼ぶ時に使う、取っ手がついているそれだ。それぞれ金と銀のベルで、ガーディさんはそれを指さしながら説明した。


「このベルは探索に役に立つアイテムでな。金色は隠された扉、偽者の何かを見分ける時に使う『真実の呼び鈴』これは戦闘でも分身とか偽者を見分ける時に使うことができる代物だ。そして銀色は鍵がかかっている扉を開けること、閉めて鍵をかけることができる『開閉の呼び鈴』だ。これは探索用によく使われててな。俺はここに入る時、結構これを使う」


「へぇー。オレ達が知らないアイテムが存在するとはなぁ」

「おひとつ二十五万L! どうよ?」

「いや買うか。ぼったくりだわそれ」


 キョウヤさんがそのことを聞いてすごいと褒めていると、ガーディさんはそれをキョウヤさんに近付けて売りつけようとしていた。


 しかしあまりの高さに、キョウヤさんは驚きながら突っ込みを入れる。確かに……、そうなると一つ十二万五千Lってことになる。それは高い……。


 キョウヤさんの意見に、私は頷きながら賛成した。

 シェーラちゃんはそれを聞いて「ほんと、ぼったくりね」と言いながら肩を竦めていると、ガーディさんは「ひどいっ!」と驚愕に顔を染めながら――



「さっき()()()()は『それスゴイですね』って言っていたのに! なんでこんな貴重なアイテムを買わないんだよぉっ! アキくんはおひとつ十万で買ったぞぉ!」



 ん?


 さっき、アキ……、にぃ。が?


 それを聞いてか、キョウヤさんとシェーラちゃん。そしてヘルナイトさんまでもが、ガーディさんを見て、特にシェーラちゃんとキョウヤさんが威圧するようにガーディさんを見ていた。


 私は出来ないので、その背後からそれを見ることしかできなかった。ナヴィちゃんも帽子から出てきて、その光景をじっと見て「きゅ?」と首を傾げていた。


「ガーディ殿。少し聞きたい」

「ん?」


 ヘルナイトさんは背後から出ているそれを意ともしないで、ヘルナイトさんはガーディさんに向かって聞いた。


 ガーディさんはヘルナイトさんの背後を見て、「お?」とぎょっとした音色で驚きながら、「ど、どうしたんだい……?」と、恐る恐るヘルナイトさんに言った。


 ヘルナイトさんはガーディさんに対して、こう質問した。


「先ほどの言葉で、アキが何かを言っていたようだが、それは……、何処かで会ったのか?」

「あ、ああ……、()()()()()()()()()()()()()()で……、ばったりと……。そん時この郷から出たい様子だったから。俺が使っていた『開閉の呼び鈴』を渡して」


 と言った瞬間だった。


 シェーラちゃんとキョウヤさんの拳が、ガーディさんの顔面に狙いを定めながら……二人共拳を構えて、腰を捻りながらそれを繰り出した。顔面が崩壊するような……。


 効果音で言うなら……。




 ――バッギャアアッッ!




 そんな殴りを繰り出した二人。


 ガーディさんは殴られながら、「ぶぎゃぁ」と潰れたカエルのような声で叫んで、背中からずささっと滑りながら倒れた。


 そして二人は、殴ったポーズをした後、ずんずんっとガーディさんに近付きながら……、赤くて燃えてるようなもしゃもしゃを出して…………。


 ()()


「てめぇ……、なに余計なことをしてんだコラァ……。おかげでアキ逃げちまったじゃねえか……っ!」


「まだ話し合っていないけど……あれはあれで戦力になるのよ? 少しは考えなさい廃人」

 キョウヤさんはべきべきと指を鳴らしながら威嚇し、シェーラちゃんは剣を引き抜く。


 それを見たガーディさんは、命の危険を感じたのか、わたわたしながら「待って待って!」と何とか弁解しようとしていた。私とヘルナイトさんは、それを見て何とかしようと止めに入ろうとしていたけど……、キョウヤさん達に――


「「止めるなぁ! 今緊急事態なんだよっっ!/なのよっっ!」」


 と……、怒りながら止められてしまったので、結局私達はその光景を見ることを強いられてしまった……。強いられて、ガーディさんの断末魔のような叫びとボカボカと言う殴る音を聞く羽目になってしまった私達。


 するとヘルナイトさんはふっと考える仕草をして……、こう口を零した。


「……しかし、そうなると……。アキはすでに郷の外……か」


 そのヘルナイトさんの言葉を聞いて、私はしゅんっとしてしまう。


 確かに、ヘルナイトさんの言う通りならこんなことをしている間にアキにぃは、もっと遠くへ行ってしまう……。それも私達が探せないくらい……、遠くに……。


 ……そんなの、いやだ。


 離れたくないという気持ちが大きくなってしまう。それを見ていたのか……。


 ヘルナイトさんはふわりと、ナヴィちゃんのことを考えて、ナヴィちゃん越しに頭を撫でながら私を見降ろしてこう言った。


「……なら、今からでも遅くはない」


 決断するなら、今すぐだ。その言葉に、私はその言葉の意味を汲み取った。


 それが指すこと……、それは……。


 今から一緒に探しに行こう。と言うことだ。


 私はその言葉に対して、きゅっと口を噤んだ後……、控えめに微笑んだ後、嬉しさを顔に出して……。


「うん……」と頷いた。


 それを聞いてヘルナイトさんは頷いた後、ガーディさんに向かって殴ったりしているキョウヤさん達に向かって声をかけた時……。


「やめときな」


 突然。後ろから声が聞こえた。


 その声を聞いて振り返ると……、そこにいたのは、少し小ぶりの黒い猫耳と黒い髪の毛が印象的なおばさんだった。


 おばさんは両手に重そうな果物を籠いっぱいに詰めて持ち歩いている。それも片手に一つずつ……、よく見ると手の甲に血管が浮き出ている……。


 それを見て驚いていると、「よ……、よぉ……。ミィおばさん……っ」と、ガーディさんはキョウヤさん達に殴られ、顔面がぼこぼこに腫れながら笑顔を作って手を振っていた。


 それを見ていたおばさん――ミィおばさんは「あっはっはっは!」と笑いながら――


「また派手にやられたねぇ! 今回はどんなへまをしたんだい?」


 お腹を抱えながら豪快に笑っているミィおばさん。それを見て、やっと怒りが収まったのか、キョウヤさん達はそのミィおばさんを見て聞いた。ガーディさんに謝りながら……。


「あの、あんたは?」


 そうキョウヤさんが聞くと、ミィおばさんはお腹を抱えてまだ笑っていると、キョウヤさんの声を聞いて目元をこすって……、ミィおばさんは言った。


 私はガーディさんの怪我を『小治癒(キュアラ)』をかけて治して聞き耳を立てていた。


「あ、あたしかい? あたしゃミィだ。この郷ができた時からいる最長老様の古い友人だよ」


 って言っても、あいつとは年が離れすぎているけどね。


 と、ミィおばさんは言った。それを聞いて、ヘルナイトさんはすっと頭を下げて「お初に御目にかかります。『12鬼士』が一人。ヘルナイトです」と言うと、それを見てミィおばさんはまた豪快に笑って――


「あっはっはっは! そんな固くならないでよ鬼士さんっ! あっはっはっは!」


 と言った。


 それを見て、私はなんだかしょーちゃんを思い出してしまった。何となくだけど、明るい性格が似ていたから……。ガーディさんは涙を流しながら小さく「この人は郷のムードメーカーなんだよ……」と言っていた。


 というか、なんで泣いているんだろう……?


 そう首を傾げていると、ミィおばさんは笑いながら私達を見て思い出したのか……、あぁっと息を吐いて一旦落ち着いた後こう言った。


「それで、今外を出るのは危ないよ。今なんだか悪い噂が広まってて、最長老様が外に出ることを禁じているんだよ」

「外に……?」


 そう言えば……、クルクくんに対してもそんなことを言っていたような……。それを聞いたヘルナイトさんはその疑問に対してこう聞いた。


「それは……、『六芒星』がいるからですか?」と聞くと……。


「いやいやちがうよ! それよりももっとやばい奴で……、なんでも()()()()()()()()()()が出ているから危ないってね……。わんこ……、じゃない。最長老様が言っていたんだ」

「奇怪な動き……?」


 それを聞いて、ヘルナイトさんはふむっと唸って考える仕草をした。それを見てシェーラちゃんは小さく「なんだがやばい魔物が住み着いてしまったのかしら……?」とごちっていた。険しい顔をして。それを見て、聞いて……、私は回復をしながらミィおばさんに聞いた。


「あの……、だからクルクくんに『郷を出るな』って言い付けたんですか?」と聞くと、ミィおばさんは腰に手を当てて、うーんっと唸って何かを考えているのだろうか……。ミィおばさんは「そうだねぇ」と言葉を濁して……。


「まぁ……、郷の住人全員にだよ。あの最長老はすごく慎重で疑い深い……、あ、いや……。この場合は真剣すぎるんだね……。()()()()()があったんだから」

「あんなこと?」


 その言葉に対して、キョウヤさんがはて? と首を傾げた。それには私とシェーラちゃんも首を傾げていたけど、ヘルナイトさんだけはぐっと頭を抱えて、そして小さく……。


「そうだ……、思い出した……」


 と、まるで思い出すのが遅すぎたと言わんばかりに、後悔の音色を絞り出した……。ガーディさんは「あー」と言って空を見上げながらそのことを思い出すようにこう言った。


 回復はすでに終わっているので、私は座った状態で膝に手を置きながら聞いた。ナヴィちゃんも膝に乗ってそれを聞く。


 カーディさんは言った。




()()()()()()()()()()()……、すでに四百六十二年か……」




 それを聞いて、私達は言葉を発することを、そしてあまりに衝撃的な言葉に、一体何を言っているのだろうと、ガーディさんを目で見て、訴えた。


 どういうことなのかと。


 それを見てか、ガーディさんは「冒険者には話していないことだよなー」と、首を傾げて頭を掻きながら言うガーディさん。それを聞いて、ヘルナイトさんはこう言う。


「『終焉の瘴気』が出たのは確か……、今から二百五十年前だ。しかし創世記は大陸歴三千年になる。その二千五百三十八年前、『亜人の郷』は『獣人里(じゅうじんざと)』と呼ばれていたんだ」

「そうだったのか……」


 ヘルナイトさんの言葉に、キョウヤさんは驚きながら言うと、ヘルナイトさん続ける。


「獣人、主に犬人や猫人しか住んでいなかった里だったが……、その領土を狙って、とある種族がその領土を奪って、領土拡大を企てた」

「それが……、ダークエルフ……?」


 シェーラちゃんが言うと、ヘルナイトさんは頷いた。


「その時代ではエルフと言う一括りの種族で、エルフは弓矢に長けていたんだ。近接の戦法しか知らない獣人にとって、エルフは天敵に近い存在。そして……、絶好の的だったんだよ」


 ミィおばさんが言う。思い出しながら顔を悲しいそれに変えて、顔を歪ませてから続けてこう言った。


「私は違う国から来た獣人でね……、その一件があったせいで、『獣人里』は一人を残して滅び、獣人が黙示録から消えて、エルフ達も三つの種族に分かれて、里を滅ぼしたエルフを『闇森人』と名称して、黙示録から消し、滅亡録に記されてしまった」


 まさに、負の連鎖の物語だね……。と、ミィおばさんは首を振りながら嘆いた。


「ところで……、黙示録とか滅亡録ってなんだ?」


 キョウヤさんはヘルナイトさんに聞いた。


 それは私も気になっていたことで、オグトも黙示録とか言っていた。それを聞くと、ヘルナイトさんは凛とした音色でこう言った。


「黙示録とは、このアズールの全てが記載されている歴史書だ。種族のデータや魔物のデータ。土地のデータ全てが記されている世界に一冊しかない本のことだ。どこにあるのかはわからないが、その本から消された種族は、逆に――全てを消し去らなければならない黙示録……、滅亡録に記されることになる。そこに書かれた種族や魔物、土地はすべて――駆逐や滅却の対象となる」

「なんか……ブラックリストだな……」

「暗殺されるってことね……、誰にも知られずに」


 シェーラちゃんが言うと、ガーディさんは首を横に振りながら肩を竦め「というか、国の手によって謀殺されちまう」と言ったけど、まぁっと気怠くガーディさんは言って……、空を見上げながらガーディさんは言った。


「でも、それがいやだって思っている奴らがいて、早々消すことができなくなっちまったのが現実だけどな……」

「それって……」


 シェーラちゃんは驚きながら言うと、ヘルナイトさんは頷いて……。


「それが――『六芒星』だ。黙示録から消され、滅亡録に記されたアズールの種族。異国では適用されていないがな」


 と言った。


 私はそれを聞いて、ますます『六芒星』と分かり合えればと言う思いが強くなってしまった。


 話を聞いて思ったこと……。


 それは『六芒星』が滅亡録というものに記されてしまったせいで、消される運命にある。


 でも消されたくないという一心で改革を目論んでいる。


 自分達のために。そして種族のために……。戦っている。


 消されてたまるものか。そう思って戦っているんだ。私だったら、戦う方を選択する。でも傷つけることはしたくないから、話し合いで何とかしてしまいそうだ……。


 その人達と会って、話し合って、何かいい意見が出て、みんなが平和に暮らせる世界になれば、それでいい。そう私は思った。でも、もしかしたら……、叶わないかもしれない……。そう頭の片隅でそう思ってしまった。きっと、その未来は遠いところにあるのだろうと……。


 でも……、何でそんな黙示録や滅亡録が存在しているのだろう……。


 そう思っていると、ミィおばさんはフゥッと溜息を吐きながらこう言う。


「その闇森人に里を滅ぼされ、生き残った最長老は一人で生き残ったんだよ。この地も、とある人間の魔女が最後の力を込めて、この泥で作られた塀を生成し、今もこの郷を守っている。クルクを生んだあの魔女は、最後まで諦めずに戦って、最長老の命を救った……」


 勇敢で、最長老様の命の恩人の魔女。


 そうミィおばさんは言った。


 つまり……。


 クルクくんは最長老様の命を救った魔女の息子で……、最長老様があんなに怒っていた理由は、闇森人であったアキにぃを殺そうとした理由は……。



 全部――郷のための行動だったんだ。



 そう思った私は俯いて考えてしまう。


 それを考えると、最長老様の行動は正しいのか定かではないけど、郷が滅ぶところを目の当たりにした最長老様だからこそ、郷を失いたくない気持ちは大きいんだ。きっと、この郷で一番……、それがデカい。


 そして形見でもあるクルクくんは心配してあんなに厳しくしていることも頷ける。


 でも……。


 私はふと思う。


「――そんなのただの自己満足で、結局は逆恨みじゃないの?」


 シェーラちゃんは私の思考を遮るように言った。その話を聞いてなのか、シェーラちゃんは溜息を零し、自分の腕を抱えるように組んで、そして彼女は言った。


「郷を滅ぼした奴らが消えても、結局はその憎しみだけが体の中を泳いで、行き場を失う。ああやって八つ当たりしたのだって自分のため。自分のストレスのはけ口を作りたいがために八つ当たりをする。自分の故郷を滅ぼした奴とは違うのに、それをぶつける」


 命あるものは、必ず怨恨を持つ。


 そうシェーラちゃんは言って、はっきりとした音色でこう言った。


「怨恨が完全に消える時――それこそ……、その怨敵を自分の手で殺すことで、完全に消えるの。他人がしてしまえば不完全燃焼。他人がしてはいけないの。最長老様はきっと、行き場を失ったその憎しみが、まだ体に残っている。だからあいつにぶつけたのよ。里を滅ぼした奴らと重ね合わせて……」



 まだ最長老様は――過去に縛られている。



 そうシェーラちゃんは言って、悲しい表情で、視線を下に向けていた……。

~補足~


※黙示録と滅亡録。創世記。


 黙示録は今でいうところの歴史書。色んな種族のことが書かれている書物と言われている。そんな黙示録の項目から消されると、滅亡録と言う歴史書に記入され書かれたそれらは気付かれることなく謀殺される。


 今でいうところの黙示録=歴史書。滅亡録=ブラックリスト。


 誰が書いているのかは誰にもわからない。そしてどこにあるのかすらも分からない。


 なお、これはアズールでしか適用されていないので、他国に亡命してしまえば対象外となってしまう。


 そんな滅亡録と黙示録の存在に対して疑念と憎悪を抱いて、『六芒星』が立ち上がって革命を目論んでいる。


 ※アズール創世記は三千年で、亜人の郷が滅んだのは四百六十二年前。そして『終焉の瘴気』が出現したのは二百五十年前。案外『終焉の瘴気』は最近出たことがわかる。


 アズールができた理由はまだ解明されていないところがあるが、一説によると竜の争いでこの地が出来上がったという説が有益らしい。

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