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PLAY25 アキⅠ(焦燥)⑤

 ここからアキ視点に切り替えよう。


 アキは意識を失っていた。


 ゆえに今の状況が全く理解できなかった。


 突然頭に強烈な痛みが来た瞬間、意識が覚醒して目を開けると、目の前には異常な顔で睨んでる狼の男。


 周りにはハンナ達がいて、そして何もわからず地面に放り投げられ、拘束されながら左手の甲を引っ掻かれ、掲げられて……。


 アキは愕然とそれを見ていた。



 ◆     ◆



「な、ダーク……、え?」


(何言ってるんだこの狼男は……、いや、狼ジジイか?)


 目を覚ましても状況が全く理解できず、目の前の狼の老人に言われた言葉に困惑だけがアキの頭を支配した。


 狼の老人――最長老は『グルガアアアアッ!』と声を荒げながらアキを獣の目で睨みつけてこう叫ぶ。


「貴様に問うておるっ! 貴様は『六芒星』なのだろう!? 否など言わせぬっ! わが嗅覚を侮るなっ! 貴様らの汚らわしい臭い……っ! 忘れたくとも忘れられんっ! 忘れたくもない、思い出したくもないっ!」


 最長老はクルクの名を叫ぶ。


 クルクははっとして「なに……?」と驚きながら聞くと、最長老はぐりんっとクルクの方を向いた。


 異常な怒りの表情と眼を見たハンナはびくっと体を震わせた。


 それを見たアキははっとして立ち上がろうとした。ハンナを怖がらせた輩に対し、怒りを向けようとアキは動こうとしたのだ。


 しかし――


 がすんっ!


「――っ! がはっ!」

「アキ!」


 アキが倒れていることは誰もが知っている。周知の上で最長老は左足を上げ、アキの背骨に全体重をかけた踏み付けを繰り出した。


 めきめきと肋骨が折れるような感覚を感じた。肺に刺さってしまえば大惨事だ。


 それを見たヘルナイトは最長老の肩を掴んで冷静に――内心平常心を保てと念じながら……。


「待ってください。この男は異国の冒険者。彼女達と共に旅をしているのです。あなた様の過去、生い立ち……、重々承知しています。しかし早まらずとも」

「ぬかせっっ!」


 グアアアッ! 


 と――最長老は老人と言うことを忘れているかのような威嚇の咆哮を上げながら、ヘルナイトに向けて言う。叫びながら言う。


「異国であろうと母国であろうと、闇の森人の性根は変わらんっ! こやつは例外などと言う甘い判断で許すと思ったかっ!? ぬるくなったぞ鬼神よっ! それでも鬼より強し騎士の団長にして()()()()()()()()()なのかっ!」

「っ」


 最長老の言葉にヘルナイトはぐっと言葉を詰まらせた。


 それを聞いていたハンナは驚きの表情で、震える唇で……「え?」と声をたった一言を、たった一文字を零した。


 キョウヤとシェーラもそれを聞いて思っていたことが同じだったのか、二人は「「アズール最強?」」と目元をぴくぴくと痙攣させていた。


 まぁ簡単に言うと……、驚いて固まってしまったのだ。


 ぬるい。そう最長老は言った。


 そしてクルクを睨み、そして血がべっとりと付いた指でクルクを指さしながら『グルガァ』と唸りながら言った。


「クルク……、また郷の外に出たな……っ! あれほど出るなと言い付けておったにも関わらず……、なぜ出たのだっ!」

「そ、それは……」


 クルクはうっと言葉を詰まらせたが、彼は最長老の顔を見て、少し不安そうな顔で意を決した後、彼はこう言った。


「俺は魔女だよ? ()()()()()()()この郷を守りたいって思うのは変なのかよっ」



「綺麗ごとをぬかすな小童めがぁ!」



「ひっ」


 びくりと、耳を逆立たせながらクルクは驚く。青ざめた顔からして、相当怖いと感じたのだろう。


 それは近くにいたハンナ達も、巻き添えを食らうかのように、びりびりとくる最長老の怒りを目の当たりにして、表情が、顔が強張ってしまった。


 恐怖で体が動かない。まさにこのこと……。


 よく叱られた時の委縮とはわけが違う。


 それは……、狼に狙われ、食われそうになる時の恐怖と同じだ。


 彼は食べないが。


 最長老は『グルガァアッ!』と威嚇しながらクルクやヘルナイト達に向かって怒鳴る。怒鳴る。怒鳴る――


「そのような綺麗ごと、このような穢れ一族の頭に、思考に、感情に備わっているわけがないっ! 森の一族は皆闇だ! 全員が壊れている! 狂っている! 『()()()()()()をこの郷に招き入れてタダで済むと思うなっ! 見せしめに、この闇森人の首を晒し者にする……、否ぁ! グルガアアッッ! 闇森人の見せしめとして磔にして闇森人への魔除けとするっ!」


 それを聞いていたアキは、だんだん理解ができない思考から、どんどんそれが怒りに変換され、嫌な記憶が甦ってきた。


 それは、幼少期のとある一幕……。


 目の前にいるのは黒くて細長い黒。


 それは小さい悪の前に立って、その姿を見ていた小さいアキは、ぶるぶると震えながらその影を見上げて、「ごめんなさい」と言葉を繰り返して泣いていた。しかし影は顔の位置にあたる影に、赤い空洞を作る。その空洞が、ぱくぱくと口のように動くと……。


『ごめんなさいじゃないだろう秋政。いつになったらお前は俺みたいになるんだ』

『秋政。少しはお母さんを見習いなさい。親戚のお兄さんはあんなに出来がいいのに、何であなただけは普通なの?』

『もっと出来のいい子供がよかった』

『もっと物わかりがいい子供を授かりたかった』



 あれがあれがよかった。


 これがあればよかった。


 あれとあれがあればもっとよかったはずだ。


 これとこれがあればもっとよかったはずだ。


 あれとあれがあり、あわよくばあればあれば本当によかった。


 これとこれがあり、あわよくばこれがあれば本当によかった。



 そんなことをよく親から聞かされ、アキは――秋政は家族から疎外されて生きてきた。


 誰も自分のことを見てくれない。


 それが一番ムカついて、一番嫌で……、一番苦しい記憶だ。


 殆どがそれだらけの記憶。


 この最長老もそうだ。


 自分がよくはわからないが、エルフではなくダークエルフと言う種族に対して、相当怒っていることは理解した。


 アキはもう一度、手にある烙印を見た。


 傷と血で見えづらくなっているが……、わかることがある。


 これは、アップデート前まではなかった。


 ダークエルフがいることはわかっていた。


 自分がそうだとはわからなかったが……、自分がそうなんだと、不覚にも納得してしまっていた。


 しかし最長老はアキを見ていない。ダークエルフだけを見て怒りを露わにしている。


 それを聞いて、アキは今までの焦りが怒りに切り替わってしまい、それがだんだんボイラーのように熱膨張を大きくしていき……、熱膨張が熱暴走に変わってしまう。


 アキはふつふつと湧き上がってきたそれを……。



「――は」と、声を上げた。笑いである。



「「「!」」」

「「?」」

「!」


 ハンナ達が、最長老とクルクが、ヘルナイトがアキを見降ろす。


 アキはぐっと腕に力を入れつつ、最長老の足をどかすように、そのまま横にわざとバランスを崩した。


「――っだぁ!」


 アキはぐるんっとバランスが崩れた方向に転がり、最長老の足は足場を失った足をだんっと本当の床にそれを踏みつけた。


 みんなが転がったアキを見ていた。


 アキはそれを無視しながらムクリと、背骨と肋骨に感じる痛みに耐えながら……、彼は床に手を付けた状態でこう言った。


 低く、嘲笑うように――


「――ばっかみてぇ」


 と言った。


 それを聞いた最長老は、眉間にびききっと青筋を浮き上がらせながら――


「グルアアアッ! 貴様グルゥ儂をグアアアッ馬鹿にしたなグルガアアアアッッ!」


 人語と獣語がごちゃ混ぜになった言葉を発した。よく漫画で怒りで我を忘れるという言葉があるが、それを体現したかのように族長は獣人であるにも関わらず、人語と獣語がごちゃ混ぜになった言葉で怒りを向きだしにし、怒りをアキに向けてぶつけにかかる。


 それを聞いたアキは「はは」と乾いた笑みを零して……。


「人語忘れかけている……。自分だって人じゃないだろうが」

「あ、アキにぃ……?」


 そんなアキを見ていたハンナは、心配そうにアキを見ていた。しかしアキはそんなハンナでさえも無視して、彼は立ち上がりながら、ゆらりと体を揺らして、こう言った。


「そんなに俺のことを目の敵にして、人が寝ている隙に何がしたかったんだよ」


 そこの猫。と、アキは寝かせた張本人に向かってじろっと睨んだ。それを聞いたクルクは。うっと唸って、えっと……。と言葉を零して、言葉を脳の箪笥から急いで探していた。


 しかしアキはそれを見て――図星と見て彼は、はっと見下しの笑みを浮かべ……。


 否……。すでに自暴自棄のような笑みで……、彼は言った。


「もしかして……、()()()()()()()()()?」

「っ!?」


 それを聞いたクルクは、「ち、違うよっ!」と声を荒げて言った。最長老はぐるぅと唸りながら十指の爪を伸ばして唸った。


 アキはそれを見て、上げ足を取るように「ほらどもった」と言って――


「結局。俺を材料に手柄を横取りしたかったんだろ?」


 その言葉を聞き、クルクは「そんなこと……っ!」と理由を話そうとした時……。


「おいアキ、いい加減にしろっ!」

「クルクくんはそんなこと思っていないよ……、そんなもしゃもしゃ感じなかったよ」

「きゃっ!」

「すごく年上でも、見た目は子供よ。あんた……今日はおかしいわよ」

「アキ――」


 キョウヤ、ハンナ、シェーラと、あろうことがプンスカと怒ってハンナの帽子から出てきたナヴィの言葉を聞いても、どんどん怒りや焦りがふつふつと沸騰していく。


 そして、ヘルナイトがアキの左肩を掴んで――宥めるようにこう言った。


「何があったのかわからない。しかし誰もお前をそう思ったことなどない。ここにいるクルクは、話をすれば理解してくれると、善意でここに連れて来たんだ。決して邪なことがあってしたわけでは――」


 その言葉は仲間としての思いが込められた言葉。それはハンナが一番理解していた。


 が、誰もがハンナのような優しく、素直な心を持っているわけじゃない。


 だから――




「――そうやってわかったふりをするなっっっ!!」




 アキは声を荒げて――あらん限りの感情を辺り一面にぶつけまくった。


 言葉で、一番攻撃力が高いそれで……、ぶつけまくった。



「俺は何も授かっていない。誰かが持っている個性のような才能がない。親からさんざん失敗作と罵られて生きてきた俺の気持ちがわかるのか? わかんないだろうな。キョウヤは槍の才能があるシェーラには剣の才能があるヘルナイトはチートすぎて笑えるしほかにもあの人はあれだしあの人はこうだし色んな人がすごい才能を持って俺にはない何で俺は失敗作として生まれてきたんだくそむかつく俺だって授かりたかったよすごい才能なんでほかの人達にはあって俺にはないんだよ生まれてくる子供を選ぶことなんてできないだろうがくそ親むかつくああ清々したよ」



 そして……。




「――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」




 アキはぜぇぜぇっと、息を整えて……、そして覚束ない足取りで家の出入り口に向かった。


「あ、アキに」


 ハンナが手を伸ばした瞬間……、アキはその手でさえも、苛立ってしまい、つい……。


「ついて来るな」


 そう、苛立ちをぶつけるように、低く言って睨んだアキ。


 それを見たハンナはびくっと震えて、伸ばした手を、そっと引いてしまった。


 アキはそのまま、ドアを押して外に出て、ドアを乱暴に『バタン』と音を立てて閉めた。


 ハンナ達は、それを見たまま直立してしまっていたが、キョウヤはちらりと、尻尾で持っていたアキの荷物を見て、すぐに前を見た。


 最長老はそんなアキを見てか、ふんっと怒りはまだ収まっていないが、落ち着きを取り戻したのだろう。最長老はクルクを横目で睨んで――


「クルク。話がある……。ここに残れ」


 それを聞いたクルクは、はっとしておずおずと頷いた。


 最長老はクルクの言葉を聞いてハンナ達を見た後……、一言。


「気の毒だな。あのような()()()勾引(かどわ)かされて」


 まぁ、ここに客人が来るのは久しい。ゆっくりしていけ。


 無愛想な言葉を言った最長老。それを聞いていたハンナ達は、アキへの混乱もあり、最長老の言葉に苛立ちながらも、彼らは渋々なのだろう……。『六芒星』のこともある。ゆえにここで少しの間、英気を養うことを余儀なくされた。


 どのみち、この郷からは出られないのだから……。


 そう思った時だった。


 ――ばぁんっ!


「よぉーいっ! こんにちわー!」 


 この場所ではすごく場違いな声が響いた。最長老のドアを無理やり開け、その男はからからと笑いながら入ってきた。


 それを見たハンナとキョウヤは目を点にし、シェーラは初対面となるその人を見て首を傾げながら「誰?」と言うと、ヘルナイトはその人物を見て「……来ていたのか」と驚きの声を上げた。


 その人物はいかにも不衛生そうな布切れのマントと古ぼけた帽子。穴が開きそうな革靴にボロボロの服。何より大きいサングラスをかけて手には簡素な指ぬき軍手をしている。頭が爆発している髪型の男……。


 その男を見た瞬間、ハンナは声を上げた。


「ガーディさんっ!?」


「おうよ! 俺だよ! ガーディだよ!」


 はっはっは! と豪快に笑いながら、陽気に言ったガーディ。


 なぜ入れないこの郷に彼が入っているのか……。


 それは、この後すぐに明かされることになる……。

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