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PLAY25 アキⅠ(焦燥)④

 がさがさと叢をかき分けて、私達はクルクさんの後をついて歩く。


 私達が今歩いているところは、深い深い森の中。


 獣道と言う言葉が正しいかのような何の舗装もされていない草木がぼうぼうになっているその森は本当に手付かずのままで、私の身長でも鼻の中に入りそうなほどその草木が伸びているような道だった。


 あぁ……っ! 鼻に入りそう……! くしゃみしそう……っ!


 その中を歩きながら私達はクルクくんの案内の元――『亜人の郷』と言うところに向かっていた。


 ………一時間前から。


 寝てしまったアキにぃはヘルナイトさんが担いでいる。


 その前を後ろから私、シェーラちゃん。キョウヤさんの順番で歩いていた。私はクルクさんに向かって聞いた。


「クルクさん」

「クルクでいいよ。俺ってこんな外見だけど、郷のみんなは俺のことを子ども扱いするし」

「あ、それじゃぁ……、クルクくん」

「なに?」


 そう言われたので、私はクルクさんをクルクくんと呼んで聞いてみた。


「クルクくんも……、魔女なんだよね?」

「そうだよ」


 クルクくんは振り向きながら進んで――


「俺は『空気』を使う魔女。アクアロイアには結構魔女がいるんだ。俺もその一人で、お母さんも魔女()()()

「……だった。か。魔女の力は遺伝するのか?」


 キョウヤさんはクルクくんの言葉に対して、多分私と同じことを思っていたけど……、それを敢えて伏せながらキョウヤさんは別の話題を振った。


 それを聞いてクルクくんは「うーん」と言いながら……。


「俺もよくわからないんだ。お母さんは俺とは違って……『沼』の魔法を使っていたし、たぶん遺伝しないんじゃないかな。よくわからないけど」

「『空気』に『沼』かぁ……。難しいことを聞いて悪かったな」

「ところで……」


 唐突にシェーラちゃんが割り込んできた。


 それを聞いて二人は後ろを振り向いて、シェーラちゃんはむすっとした顔で草をかき分けながら進んで、苛立った音色でこう言った。


「一体いつになったら、その里に着くのよ。もう何分歩いたのよこれ……っ」


 それを聞いて、クルクくんは「あぁ」と言いながら、すっと前の方を指さして……、笑顔で――


「もうすぐだから」


「それもう十五回目よ。筋トレにはうってつけだけど……っ。こんなに生い茂っていたら服が汚れそう。なんでこんな森の中にあるのよっ! というか私……、アクアロイアのことは大抵知っている気でいたけど、『亜人の里』なんて聞いたことがないわっ!」

「おぉう……、すげーマシンガントーク……」


 シェーラちゃんは苛立ちがピークに達したのか、効果音で言うなら『ムガーッッッ!』という文字が背景に出るような怒りで、マシンガンのように出てくる言葉を吐き捨てながら叫ぶシェーラちゃん。


 それを聞いて、キョウヤさんは驚きながら突っ込んだ。


 そして、いつもクールな感じのシェーラちゃんが、あんな風につーちゃんみたいに感情を出すんだと、私は失礼だけどそう思ってしまった。


 何となくだけど……、シェーラちゃんってそんな雰囲気だったし……。うん。


 それを聞いていたクルクくんは「あはは」と笑いながら――


「ごめん。でも今度こそもうすぐなんだ。あと里じゃなくて郷」

「――どっちだっていいっっ!!」

「こりゃ駄目だな……」

「……ですね……」


 私でもわかった。


 シェーラちゃんはクルクくんの言葉を聞かずに、苛立ってそれをぶつけていた。コミカルな怒りを露わにして、しかしクルクくんはアハハと笑いながら流している。


 それを見ていた私達は、キョウヤさんは私の近くに来て言葉を放ったけど……、あとからそれを見て、多分私達は同じことを思った。


 ――すごいぞ、この子は……、もとい年長者スゴイと……。


「聞きたいことがある」


 後ろの声を聞いて振り向くと、ヘルナイトさんはクルクくんに向かって、未だに寝ているアキにぃを見て、こう聞いた。


「仲間を入れたいのだが、()()()()?」

「「?」」


 一体何を聞いているのだろう。そう思っていると……、クルクくんは「大丈夫だよ」と頷きながら――

()()()()()()みんなだってわかってくれるよ」


 そう笑顔で言った。


 それを聞きながら、私はヘルナイトさんに抱えられているアキにぃを見て……、少しだけ……、不安を抱いた。


 混ざった不安でもあった。


 アキにぃは寝ているけど……、さっきのあれは、アキにぃじゃなかった気がする。


 アキにぃであって、私が知っているアキにぃじゃない。


 ううん。


 もしかしたら、私はアキにぃの……、全てまではいかずとも、私はアキにぃのことを全然知らない。


 おばあちゃんもおじいちゃんも、アキにぃのことを詳しく教えなかった。


 あの輝夜にぃに対しても……。


 なんだか隠しているような気がした。


 幼かった私は、それに対してあまり深くは考えることができなかった。


 そして、あまり考えることをしなかった。


 今だって、きっと大丈夫と思ってあまり考えなかった。


 アキにぃは……、誰に対しても、自分の過去を話さない。


 誰だって過去に対して全部話す人なんていないけど……、それでもアキにぃは話そうとしない。


 頑なに、だ。


 前に過去のことについて輝夜にぃが聞いた時……、本当に何気なく聞いた時……、アキにぃは血相を変え、豹変しながら口論していたことを覚えている。


 それが原因で、アキにぃの過去を詮索することを禁止にした記憶がある。


 それが関係しているのかわからないけど……。


「着いた!」


 すると――クルクくんの声を聞いて、私は一気に現実に戻された。


 それを聞いて、前を向く。

 シェーラちゃんは膝に手を突きながら「着いたの……?」とげっそりとした表情で聞く。キョウヤさんとヘルナイトさんも上を見上げた。私も上を見上げると……。


 ん?


 と、首を傾げて、もう一回見た。


 シェーラちゃんはそれを見て……、顔を引きつらせながらそれを見て、ニコニコしているクルクくんに向かって――


「全然到着してないし、行き止まりじゃないっ」


 なによこれっ! といいながら、シェーラちゃんはびしっとその目の前にあるそれを指さした。


 シェーラちゃんの言うとおり……、目の前にあったのは……。大岩だった。


 大岩でもすごく大きな大岩で、上を見上げてもそのてっぺんが見えないくらい長い、楕円形の……、あ。半楕円形の大岩が私達の前にあったのだ。


 シェーラちゃんはそれを言いながらクルクくんに向かって苛立ちを爆発させながらクルクくんに近付こうとした時、キョウヤさんがそれを尻尾で妨害した。


 シェーラちゃんはじたばたしながら「ちょっと放しなさいよぉ!」と怒りながらキョウヤさんの尻尾を手で叩きながら言うけど、キョウヤさんはそれを無視してクルクくんに聞いた。


「これ以上の冗談はきついと思うし、さっさとアキが休める場所を」と言うと――


「ううん。()()()()()


 と、クルクくんはその大岩の、ちょっと亀裂が入っている場所を指さして言った。


 それを聞いた私達は、更に首を傾げる。


 ヘルナイトさんは、何かを思い出したのか……。


「そうだ……、確かに、()()だ……」と、小さく声を零して言った。


 それを聞いた私はふっとヘルナイトさんの方を振り向いて見た。するとヘルナイトさんは私に気付いたのか、私を見降ろし――「見た方がいい。ここで当たっている」と凛とした声で言った。


 それを聞いて、私は前を向くと……。


 クルクくんは亀裂はが言っているところに指をトンッと添える。すると……。


 ぽわんっと、触れた指が淡く光る。その色は、薄水色。


 そしてクルクくんはその指をすーっと下に降ろしてなぞりながらこう言った。


「ルズラーヴ・イルフェール・マキ(さぁさ、この地を守りし土の聖霊族達よ。魔祖達よ)」


 ?


 いったい何の言葉だろう……。


 そう思って聞いていると、クルクくんはそのまま指を離して、真剣な音色でその線から左斜め上のところに、もう一度指を置いて右斜め下に向かってすぅーっと線を引く。


「イゥガラマダ・パフィリオラ(我は門の番を任されし魔の者である。我はそなた達に願う)」


 そしてまた指を離して、今度は右斜め上のところに指を置いて、すぅーっと左斜め下に向かって線を引く。クルクくんはその時も、何を言っているのかわからない言葉でこう言っていた。


「ラ・グェンデラヴィラ(閉ざされし扉の錠を、開けよ)」


 と言って、ちょうど三つの線が交わっているところに――トンッと書いた指で小突くと……。ふわりとそこから光が漏れだした。それを見た私達は、目を凝らしてそれを見た。


 すると――


 カチリ。と鍵が開く音が聞こえて、すぅーっとその光が消えた瞬間……。


 私達は、唖然としてそれを見た。


 クルクくんはくるっと私達の方を振り向いて、にこっと笑いながら――


「これで通れるよ」と、クルクくんはさっきまで岩の壁だったそこを指さして言った。


 でも、もう岩の壁じゃなくなっている。代わりに出たのは――遠くが見えない洞窟だけ。


 それだけなのだけど……、一体どうなっているのか……。私達には到底理解ができなかった。でもヘルナイトさんだけは理解していたのか……、先に歩みを進めてこう言った。


「この先だ。急いで向かおう」と言って、私の背に手を添えて言う。


 それを見上げてみた私は、その言葉を信じて頷いた。キョウヤさんとシェーラちゃんも、顔を見合わせながら半信半疑になって歩みを進める。


 中は暗く、なんとかシェーラちゃんが剣先に出した炎を頼りに、まっすぐ歩く。


 いつの間にかだけど……、すでに私達が通った入り口は塞がってて、それを見た私は慌ててクルクくんに聞くと……、クルクくんは「あぁ」と言って笑顔で――


「すぐに閉じるようにしてあるから、出たい時は俺に言って」

「……えっと、うん。わかった」

「流されるんじゃないわよっ」


 私はクルクくんの言葉を聞いて、頷いて納得する。無理に納得する。するとそれを聞いていたのか、シェーラちゃんが苛立ったような音色で突っ込みを入れる。


 それを聞いて、私は一人シュンッとしていると……、前の方が明るく見えた。ううん。これは出口から光が差し込んでいる。それを見たクルクくんは、指をさしながら「あ! この先だよ」と言いながら駆け出す。それを見た私達も駆け出して、その光が差し込んでいるその場所に向かい、その出口を通った瞬間……。


「………わぁ」


 私は驚いた声を上げて、その風景に見惚れてしまった。ナヴィちゃんも帽子の中から出てその光景を見て「きゅきゃぁ~!」と喜んでいる音色で鳴いた。


 シェーラちゃんとキョウヤさんも、それを見て言葉を失って見惚れていた。


 ヘルナイトさんだけは、その光景を見て一言……。


「ここは、全然変わってないな」


 私達が見た風景は、アルテットミアやエストゥガ、アムスノームとは一味違った風景が広がっていた。


 簡単に言うと……、自然そのものを使った風景。


 半楕円形の大岩は、まるでエストゥガの岩の壁のように覆われて、バリケードの役割を果たしている。でもてっぺんの方は日が当たるようにぽっかりと大きな穴が開いててその中の中央には多くて高い櫓が立っている。見張りなのだろう。そしてその下には、集落があり、その集落では畑作をしている人や流れている皮で水を汲んでいる人。そして木を切ったりなど……、比較的自給自足のような生活をしている……。


 犬の耳が生えた人や猫の耳が生えた人。あるいは湖には下半身が魚の尾びれをつけた人。人馬の人やいろんな種族が暮らしていた。


 それを見て……、私は「これは……」と声を零すと……。ヘルナイトさんは凛とした声で言った。


「ここはアクアロイアで唯一多種族だけが暮らす村――『亜人の郷』だ」

「亜人……」


 それを聞いて、もう一度村の住人を見る私。


 よく見ると本当に亜人だ。


 人間率が多い人や、多種族率が多い人。バラバラだけど、みんな人間族や多種族と言う分類じゃない。


 人間+多種族の……、亜人だらけだった。


「今から最長老様のところに行くんだけど、一緒に来て」とクルクくんはぴょんっと跳び降りて、村の向こうにある、一番大きな家に向かって走った。


 それを見て、私達は互いの顔を見合わせながら……クルクくんの言うことを聞いてその場所に向かって走る。もちろん道順に沿って。


 その道中……、短い道のりだったけど、すれ違う人達は私達を……、特にアキにぃを奇異な目で見て、ひそひそと話をしていた。目の前を走っているクルクくんには、気さくに話しかけているのに……、なぜだろうか……。アキにぃを見る目だけ……、すごく怖い……。


 そう私は思いながら、その人達の目を見ながら走っていた。


 そしてすぐに、最長老様と言う人がいる家に着いた。クルクくんはとんとんっと木で作られたドアを叩いて、少し大きな声でこう言った。


「最長老様ー。俺です。クルクです。お話したいことがありまして」


 と言うと、少し間が開いた後……。ドア越しから『入れ』と野太い老人の声が聞こえた。


 それを聞いて、クルクくんは私達の方を見てドアに手をかけながら「さ。入ろう」と笑顔で言った。


 ガチャリと開いたドアの向こうを見た私達。そしてその向こうにいるその人物を見て、身構えてしまった。ヘルナイトさんはすっと頭を軽く下げて――


「お久し振りです。最長老様」


 それを聞いてか、言えの空間の向こうで、威厳がある座り方をして私達を品定めするようにじっと睨んでいる一人……、違う。一匹の狼さんは低く……。


「久しいのぉ。鬼神よ」と言った。


 服装は鋼鉄の鎧に、頭には兜、顔から見てすごく年老いているのに、その佇まいや威厳は衰えを感じさせない。赤黒い毛並みがさらさらしている狼のおじいさ……っ! げふんっ! 最長老様。


 最長老様は私達を一瞥しながら、ぐるぅと唸ってこう聞く。


「そなた達の名を問おう」

 その言葉に、私はびくりと肩を震わせてしまった。正直……、食べられると思っていたから……。狼なので……。それを見ていたクルクくんは「あはは」と笑いながら――


「大丈夫だよ。最長老様はみんなを食べないよ。最長老様はベジタリアンだし」


 年長者らしい言葉を放ったクルクくん。


 その言葉を聞いてか、小さく「狼がベジタリアンって……、どゆこと?」とキョウヤさんがおっかなびっくりに突っ込んでいたけど……。


「グルゥウウウウ……ッ。クルクゥ……」


 最長老様は唸りながら、獲物を狩る眼でクルクくんを睨んでいた。それを感じたクルクくんは、流石に寒気を感じたのか、頭の耳をぞぞっと逆立たせて青ざめていた。


「あっちが年上だな……、最長老っていうくらいだし……」


 キョウヤさんがそれを見て肩の力を抜いていると、その力が抜けている間にキョウヤさんは「あ、オレはキョウヤっていうんす。蜥蜴人の亜人です」と、自分を指さして言った。


 そのあとに続いて、私達も言った。


「人魚族とマーメイドソルジャーの魔人族。シェーラ」

「天族のハンナです」


 シェーラちゃんはいつものクールだけどツンっとした表情で言って、私は頭を下げながら言うと、最長老様は私達を見て、「ぐるぅ」と唸った。


 ……本当に、食べる気はないんだよね……?


 そう私は一瞬不安を覚えたけど……。最長老様は「そうか」としか言わなかった。そして、最長老様はすっと立ち上がって「それで」と言った後、すっと前に出て、ひたひたと……ヘルナイトさんに向かって進む。私達はそれを見て、あまりに唐突なことで驚きながら見ていると……、最長老様はぴっと、爪が尖っているその指で、アキにぃを指さしてこう聞いた。


「そやつは?」


 それを聞いたクルクくんは――


「あ、実は最長老様に言いたいことがあって、この人達ね、俺達の郷を脅していた『六芒星』を」


 と言っている途中、最長老様はスンスンッと鼻をぴくつかせた瞬間……()()()


「グルゥウウウウウウッッッ!」と、犬歯を見せて、怒りの眼でアキにぃを見ながら、ぎりぎりと歯を食いしばって怒りを露わにしていた。


 私達はそれを見て、驚くことしかできなかった。唐突なことがありすぎて、言葉も出せなかった。クルクくんもそれを見て、ぎょっと驚きながら恐る恐る最長老様の名前を呼ぶ。


 最長老様はアキにぃの頭をぐっと掴んで、爪が食い込むくらい掴んで、最長老様は「グルルゥウウウッッ」「グルルルルッ」と唸った。


 その痛みが目覚ましになったのか、アキにぃは「いてっ!」と唸ってはっと意識を取り戻した。


 それを見てヘルナイトさんは「アキ。起きたか」と安堵の息を吐いたけど、アキにぃは辺りを見回そうとしても、掴まれてるせいで何もできない。どころか爪がより一層食い込んで頭から細い赤い線を作ってしまう。


「いててっ! なんだこれ……っ!」

「こやつ……っ!」

「……っ!? え?」


 最長老様が唸りながら、最長老様は声を張り上げて言った。


「グルガアアアアッッ!! クルクゥ! 貴様、なぜ『()()()()()()()()()()()()っっ!」

「っぃ! ちょ……っ!」

「「「っ!」」」


 その声はまるで超音波のように、私達の耳を壊す勢いで響いていく。私達はその怒りの声を聞いて耳を塞ぐことしかできなかった。私はそっと細めて最長老様を見ると……、最長老様は。


 怒っていた。


 怒りで童話のような大きい口を開けて、アキにぃに向かって血走った目で最長老様は怒鳴りながら言う。


「貴様――()()()であろうっっ! ダーク! グルアァ! エルフなのだろうグルアアアアアッッ!」

「ちょ、まっ! 意味が全く……っ! てか、俺はエルフ」


 とアキにぃが何とか状況を理解しながら質問に答えた時、最長老様は掴んでいない手の五指の爪を伸ばし、そしてアキにぃを引きずり降ろして地面に叩きつけてから……最長老様はその五指をアキにぃに向ける。


「っ! ま」


 私はすぐに静止の声をかけようとした。でも最長老様は雄叫びを上げながらアキにぃに向かって攻撃した。


 ヘルナイトさんも動いてその後詩の手を掴もうと手を伸ばした。でも……。


 ざしゅ!


 と、音がしたと同時に床には何滴か血が付着した。


 それを見た私はすぐにアキにぃの血だと気付いて最長老様を見た。


 クルクくんもあまりの行動に叫んでいて、キョウヤさんとシェーラちゃんもあまりの光景に驚きながら見ていた。


 ヘルナイトさんは最長老様の手を掴んでいたけど……、遅かったらしい。ヘルナイトさんはアキにぃに……申し訳なさと苦痛が入り混じった音色で……「すまない」と言って、謝った。


 アキにぃはそれを聞いて一体何がどうなっているのかわからない状況で「え? へ?」と気が動転した声をがしていたけど……、最長老様はヘルナイトさんの手を払い除け、すぐにガッと何かを掴んで持ち上げた。


 首元を掴み上げるように――ぐっと。


 それはアキにぃの左手。手袋が裂けて、切れたところから血がどくどくと出ていて……。



 ん?



「ん? なんだあれ」

「あんなマーク、見たことがないわね」


 キョウヤさんとシェーラちゃんがそれを見て首を傾げて見ていた。クルクくんはそれを見てぎょっとしていたけど、私はそれを見て……、全身の体温が急激に下がるのを感じた。


 アキにぃの手の甲には――あの時『六芒星』の女の人が見せてくれた……、あの()()があった。




 ダークエルフの象徴とも云える……、あの刺青が……。




「嘘をつくな闇森人! 貴様――『六芒星』だろう!」


 最長老様の怒声は、今もなお続いていた……。

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