PLAY25 アキⅠ(焦燥)②
「お前達だな」
少し筋肉の付き具合が他の人達よりも盛り上がっている……、簡単に言うと他の人よりも大きくて少しだけ筋骨隆々な男が私達に向かって一歩前に出て、手に持っている身の丈以上の刀を肩にとんとんっと置きながら聞いてきた。
「アルテットミアでサラマンダーとライジン。そしてアルテットミアの襲撃を邪魔した天族の小娘。蜥蜴人の男。『12鬼士』に……、んん?」
筋肉質の大男は聞いてきた。
きっと、リーダー格なのだろう。
リーダー格の男は私達を見てシェーラちゃんとアキにぃを見て顎に手を当てつつ、すいすいと撫でながら首を傾げてこう聞いてきた。
「なんだ? 魔人か? そんな奴の情報は今まで聞いたことがない。だが、あと一人は話が合いそうだ」
そう言ってリーダーの男……、この場合はリーダーで十分だと思う。
その人はアキにぃを見て、アキにぃに向かって歩みを進めようとした時……、アキにぃはじゃきりとライフル銃を構えた。
鬼の眼のような目で睨んで、アキにぃは怒りの顔をそのリーダーに向けていた。
リーダーはその眼を見ながら悪ふざけをするように――
「おぉ。怖い怖い。子犬に咬まれそうになったぜ」
とけらけら笑いながら手を上げて言う。
それを見てか、部下の人達もけらけらと笑っていた。
なんだろう……これは……。
「なんだこいつら……」
「明らかに変ね。フレンドリーすぎる。頭打って思考回路が逆転して楽天的な発想になったのかしらね」
「後半の言葉に対して俺は断言する……。それはない」
キョウヤさんとシェーラちゃんが言う中、リーダー格はアキにぃに言った。
「お前――エルフだろう?」
「!」
その言葉に私は辺りを見回して見た。全員――仮面からはみ出るような長い耳を持っていた。長い耳……、それはエルフの象徴。でも……、ところどころを見ると……。
首元や肌が出ているところを見ると、なんだか黒いあざが見えた。
それを見て、私はなんだろうと思いながら首を傾げていると……、ふっと前が暗くなる。ううん。これは影になったと言った方がいいのかな……。
私は横を向いていた顔を元に戻して、前を見ると……。
「アキ?」
「おいアキ……?」
「ちょっとシスコン。なにしてんのよ」
三人の声が聞こえる。そして私は見上げながら、アキにぃに向かって聞いた。
「アキにぃ……、どうしたの?」
アキにぃは私の前に立って、ヘルナイトさんがしたことと同じことをして、私を守りながら立って、銃をそのリーダーに向けて突き付けていた。
「おいおい。俺の話を聞けって同胞」
「同胞とか言うな……っ! そのくさい口を閉じろっ」
「??」
なんだろう……。
アキにぃ……、すごく怒っている。本当に、赤一色のそれだ……。
それを感じながら、私は戸惑いながらも話を聞くことに専念する。
「いやいや。俺にはわかるぜ。お前が同胞だというにおいが。感覚が、勘が囁いてる。他の種族は憎いが、俺達のリーダー・オーヴェン様は同族に対しては実に寛大でな。あんたを一目見た時は、実のところ勧誘したかったって言っていたぜ」
「おい……。その口閉じろよ」
アキにぃの低くてどすの利いた声を無視して、リーダーはずんずん前に進みながらフレンドリーに言う。手振り身振りと言うアメリカンなジェスチャーをしながら歩み寄るリーダーは、敵である私達に向けてなるべく敵意などないような振る舞い方をして話しかけてくる。
明らかな敵意などない――すごく親し気で、一瞬あれって思ってしまったけど……、なんだろう……、違和感があると言うか、別の目的を持っているような面持ちで、リーダー格は言った。
「同胞には優しくしろって言われていてな。そんな多種族と一緒に行動するなんて、俺には考えられねえ。だからここからが本題だ。突拍子もないと言われてもいいがな。交渉にはインパクトってもんが必要なんだよ。だから単刀直入で言う」
何故かフレンドリーに言ったリーダーは、すっと刀を持っていない手をアキにぃに向けて差出して……、はっきりとした言葉で、陽気な音色でこう言った。
「――『六芒星』に入れ。同ほ」
――バァンッッッ!
□ □
……乾いた音が、今私達が歩いている狭い森の一本道に響いた。
私はその音を近くで聞いて、突然のことだったので耳を塞いでしまったけど……、すっと目を開けて、アキにぃの前を見て……、はっと息を飲んで、絶句してそれを見た。
アキにぃは、ライフル銃の銃口から細い煙を出しながらじっとその場で構えていて……、後ろを見ると、キョウヤさんたちは驚きながらそれを凝視してて、ヘルナイトさんは大剣を構えながら待機していた。
冷静に見えたけど……、若干焦りが見えるそのもしゃもしゃで。
私はそれを見て、どくどくとくる不安を無理に抑えながら、震える顔で、ぎぎぎっと首が壊れてしかったかのように、錆びついた音を立てるようにアキにぃの前にいる人を見た。
見て――二つの感情が私を襲った。
安心と、混乱。その二つ。あとは絶句も付け加えないといけない。
アキにぃは、目の前にいるリーダー格に、銃を放ったのだ。それも……、私から見て、リーダー格の左肩を狙って……。その箇所だけ、赤黒く染まっていく。
黒い装束が赤を加えたことにより、どんどんその混沌色を大きくしていく。
「あ? あ? ああ? は? ん? お?」
混沌色を見降ろし――驚きながら、焦りながら……、リーダー格は懐から薄黄緑色の石を取り出して、ぴゅっ。ぴゅっ。と出るその傷口にその石を近付けた。
その最中も、「お?」や「へ?」や……、あとは「あー」と言いながら、突然の光景と出来事を何とか整理しようと変てこな声を上げながら、舌ったらずな言葉を並べて――
「ま。マナ・エリクシル――『癒しの蛍光虫』」
と言った瞬間――ふわりとその石……、瘴輝石から淡い光の球が出てきた。それは蛍のような光で、その光はリーダー格の傷口に向かって飛んでいき、そして傷口に触れた瞬間……。
ふわりと光って消える。それと同時に、男の傷が無くなり、塞がったのだ。
回復系の……、瘴輝石。
それを見て、私はそっと手を掲げる。
リーダー格のそれを見て、アキにぃはまたジャキリと銃を構えた。その時……、ライフル銃から『ビキッ』と、大きな罅割れた音が聞こえたのは……、きっと、気のせいではない。
でも、アキにぃは聞こえていない。
私はアキにぃに声をかけようとした時……。
「あーあ」
リーダー格は困った音色で、その服に触れて、ぐっと伸ばして、そして穴が開いたその箇所を見ながら……、繰り返し、々。
「あーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあー」
ショックと呆れが最初に出て、次第に苛立ちと怒りが出てきて。最後の「あー」のところで……、大きく大きく、叫んだと思った時……。
ふぅっと、頭を垂らして、リーダー格は刀を上に上げて、それをブゥンっと力強く振るってから、反対の手を上げた。
それを見て、部下達が武器を構える。手に持っているそれは――刀とナイフ、あとは遠距離用の弓矢と拳銃。
ヘルナイトさん達は各々武器を構える。
そして――
「――ぶっ殺せええええええええええええええええええっっっっ!!」
リーダー格がぶんっと腕を振って叫んだと同時に、部下達は「オオオオオオッッッ!」と叫びながら、私達に向かって突っ込んできた。
私はそれを見て、落ち着いてと、心で念じながら――
「『囲強固盾』ッ!」
スキルをみんなの周りに張るように出した。
すると、それを見て慌てた部下達。足を止めようにも、急に前に出たせいで急には止まれず、きききぃっと音が出そうな足で止まりながら、ずささっと土煙を出して……、そのまま。
べたんっと顔から突っ込んでしまった部下達。それを見て私は、ほっとした後にも次々とくるその部下達の刀の攻撃を防いで、アキにぃ達に言う。
「解除します。大丈夫ですか?」
すると……。
「全員手を出すな……っ!」
「え?」
突然、アキにぃが前に出て、銃を構えながら、もう片方の手にアサルトライフルを手に持って、攻撃している部下達の頭を狙いながら、アキにぃは私を見ないで、私じゃない……、ヘルナイトさん達に向かって怒りを含んだ音色でこう言った。
「俺が……、こいつらを全員ぶっ殺すっ! そうすれば、俺だって何かを持っていることが証明されるっ!」
「何言ってんだよお前! 何かを持っているってどういうことなんだ!? てか……、殺しは駄目だって」
「でも! こいつらはNPCじゃない……っ! こいつらは敵だろう? 倒しても文句もないだろうっ!? 殺しても誰も文句を言わない奴だろうがっ! くずだろうがっっっっ!!」
「………あ、アキ……? マジでどうした……?」
違う。
私は思った。
怒りのままに叫んで、キョウヤさんの困惑したその言葉なんて聞かずに、アキにぃは苛立ちをぶつけるように、私達を見ないで言った。
その怒りは、黒いもしゃもしゃもも混ざってて、さっきまで思っていたアキにぃとは全然違っていた。何かを求めている。それはわかったけど……。違うのだ。
さっきだってそうだ。
アキにぃは焦っているみたいに、野生の獣が興奮するような息遣いで、目の前に来ていたリーダーを……、本当に殺す勢いで睨んで、躊躇いもなく銃を撃った。
アキにぃは……、なんだかおかしい。
そう私は直感した。
シェーラちゃんはそれを見てか、小さく何かを言って……。
「ハンナ。この壁を解除して」
「え?」
突然言われたので、私ははっとしてシェーラちゃんを驚いた眼で見ると、シェーラちゃんはツンとしているけど、怒りを含んだ顔で声を荒げ……。
「早くして。解除出来次第、私達は部下をやるわ。アキは大将を狙えば」
と言った瞬間だった。
じゃきりとアキにぃは私の肩越しに銃口を私の前にいる人物に向けて……、部下に向けて――
――バァンッと乾いた音を響かせた。
三人はそれを見て驚き、私はその音がした、火薬臭い匂いを辿りながらその方向を見ると……。
「あ、がぁ……っ! げほっ!」
がくがくと震えながら、私が発動した『囲強固盾』を突き破っている小さい穴。それは丁度『六芒星』の胸に小さな風穴を開けるように。
そこからぴゅっ。ぴゅっと赤い液体を吹き出し……、仮面越しの口から『ごほっ』と吐血して……、その人は力なく、私が発動した『囲強固盾』にべちゃりと突っ伏するように……、そのまま地面に向かって落ちていった。
『囲強固盾』に、真っ赤な太い線を残しながら……。
「っ!」
私はそれを見て、言葉を失い、体中の血がぬくもりを失ったかのように冷たくなっていくのを感じた。そして……、急に怖くなった。
どくどくと心臓がうるさく、急かしなく血液の循環をしているけど……、動悸……、違う。恐怖が治まらない。キョウヤさんはシェーラちゃんも言葉を失いながらそれを見て、ヘルナイトさんだけは違った。
「アキッ! いったい何を――」と、発砲したアキにぃに向かって言ったけど、アキにぃはそれを聞かずに、声を荒げながら……。
「今のままじゃダメなんだ……っ! 俺が妹を守らないと! 俺の光を守らないと! 俺が! 俺がぁ!」
その声を聞いて、私はふっとアキにぃの方を見た。するとアキにぃは、『囲強固盾』に向かって足を振り上げて……。そして勢いをつけて――
「守らないと――俺には、何も残らないっっっ!」
そう言った瞬間。
ダンッと踏みつけるように足を出したアキにぃ。そして……、銃を構えながらアキにぃは、目の前で怯えて、仲間の死を見た瞬間士気を失った『六芒星』の部下達に銃口を突き付けて……。
バンバンバンバンバンバンッッ!
ジャキンッ!
バンバンバンバンバンバンバンッッ!
ジャキンッ!
「うわあああああああああああああっっっ!」
「ひぃいいいいいいえええええええっっっ!」
「や、やめてくれぇえええええええっっっ!」
「わ、わかったから! もうやめぎゃぁ!」
地獄のような叫び。
地獄絵図のような風景。
それを見た私はぺたりと……、尻餅をついてしまった。
なぜって? そんなの簡単だ……。
アキにぃが怒りのままに銃を発砲して、『六芒星』に向かって撃ちまくっていた。それだけ。
じゃない。
私からしてみれば……、大問題だ。
アキにぃの凶行も然り、こんなこと……、誰も望んでいない。誰も、こんな未来を想定したわけじゃない。
『六芒星』がどうなのかはわからないけど……。でも、こんなの間違っている。
私は震える体を無理に動かして……、近くで倒れてしまった人を見て、歩みを進めようと一歩足を動かした時……。
ダァンッ!
「っ!」
びくりと、私は足を止めてしまった。ううん。
足元に弾が当たり、それに驚いて私はびくついてしまったのだ。
恐る恐る撃たれた方向を見ると……、そこにいたのは……、アサルトライフルを出して私にその銃を向けていたアキにぃ。その銃から煙が出ている……。それを見た私は言葉を失って、そしてアキにぃを怯えながら見ることしかできなかった。
アキにぃはそんな私を見て……、低くて、そして怒りを含んだ音色で、こう言った。
「そいつは――敵だろう?」
ぶるり。
私は自分を抱きしめて、カタカタ震えだす体を押さえるようにその場でへたり込んでしまう。
アキにぃはそんな私を見て、前にいた『六芒星』を一瞥した後……。ぎゅんっと駆け出して銃を撃ちまくった。駆け出しながら、アキにぃはぶつぶつ何かを言っていた。
それは――
「俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守るっっっっ!!」
繰り返しそれを言いながら、鬼の形相で駆け出して、銃を乱射しながら『六芒星』を撃ちまくった。
もう、アキにぃじゃないそれを見てしまった私は……、一瞬何がどうなっているのか、理解ができなかった。なんでこうなっているのって……。でも……。
「ヘルナイト! この子を!」
後ろからシェーラちゃんの声。その声を聞いて、振り向こうとした時、既にシェーラちゃんとキョウヤさんは走り出して、アキにぃに向かって武器を向けて……。
「このシスコンッ!」
「少しは限度ってもんを考えろっ!」
二人同時に武器を振り降ろしながら叫んで、アキにぃを止めようとした。
「ハンナッ!」
「!」
突然肩にぬくもりが。それを感じて、私はふっと後ろを振り向くと……、そこにいたのはヘルナイトさん。
「あ、へ……ルナイ、ト……さん」
震える声で私はヘルナイトさんの名を呼ぶ。それを見てヘルナイトさんはそっと背中のマントで私を隠すように、ふわりと覆い隠した。その時、ナヴィちゃんも帽子から出てきて、私を頭から見降ろしながら心配そうに鳴いていた。
それを見て、私はナヴィちゃんの頭を撫でながら……。
「だ、大丈夫……、だから」と、情けなく聞こえるその音色で、私は心配させないようにそう言った。でも、体は正直だ。ナヴィちゃんを撫でる手が……、震えている。
それが……、何よりの証拠だ。
「っ!」
ヘルナイトさんは何かに気付いて、ぐっと私を横抱きにしてその場から後退して跳んだ。
すると――
ダダダッ! と……、私達がいたところに銃弾が。
それを見て、私は辺りを見回すと、見つけた。
少し遠くで、震えながらアサルトライフルを握っている『六芒星』の部下が。
すると……。
「おおおおおおまあああああああああああええええええええええええええっっっ!」
アキにぃは叫びながら、ライフル銃を突き付けて撃とうとした。それを見て、キョウヤさんがダッとアキにぃに向かって駆け出す。
そして下から掬い上げるように槍を回して――アキにぃに何かを言った後……。
そのライフル銃を――
バギィンッ!!
と、大きな音を立てて壊したのだ。
落ちながらそれを見ていたから、その状況がよく見えた。
でも生憎アキにぃの背後だったので、見ることはかなわなかったけど……、キョウヤさんは怒りの眼で、顔で……。
「馬鹿かよお前はぁあああっっ!」と叫んだ。
それを聞いて、アキにぃは肩を震わせていた。
ヘルナイトさんは私達を抱えながら着地してそれを見た。するとすっと長い刀を構えながら構えて……、そしてアキにぃ達に向かって一気に駆け出すリーダー。
「命――頂戴する」
そう言った瞬間――その二人の間に入り込むように、シェーラちゃんが間に入って、リーダーが振り上げて、振り降ろした刀に向けて……、剣を突くように構えて――
「属性剣技魔法――『轟雷刺突』ッ!」
バチリと電流を帯びた剣を、そのまま一気に突きだし、リーダーの刀にそれが『ガゥィンッ!』と当たり、ぎぎぎっと研磨音を少し出して、拮抗を保った後……、ぐっとシェーラちゃんは踏込を強くして……。
「――はぁっ!」
と一声気合を入れて、一瞬それを引いて、もう一回突いた瞬間――
バギンッッ!
リーダーの男のそれがへし折れて、男の顔に突き刺さそうとした瞬間、シェーラちゃんは止めた。寸前のところで。
それを見て、リーダーの男は頭のてっぺんから吊るされた糸が切れたかのように、べたりと尻餅をついた。
シェーラちゃんはすっと流れるように剣を鞘に収めた後……、リーダーの男にこう言った。
「安心なさいな。手持ちが無くなっただけだから」と言って、シェーラちゃんはふっと後ろを見た。
私はただただ、その光景を見ることしかできなかった……。
アキにぃはリーダーの男以外の部下全員を撃った。
殺しているのか、殺していないのかわからないくらい……、撃っていた。
それを見た私は、今まで一緒にいたのに、さっきまで一緒にいたのに……、なぜだろうか……。
キョウヤさんに止められているアキにぃを見て……、私は……。
アキにぃのことを怖いと感じてしまった。
一緒に暮らしてきた……、血は繋がっていないけど、家族なのに……。
怖いと………………、そう思ってしまった。
そんな恐怖に震えている私を見たヘルナイトさんが優しく抱き寄せていることなど、その時の私には気付く余裕などなかった。