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PLAY24 幻想の地での喧嘩祭り⑦

「うがあああああああああああああああああっっっ!」


「っ!?」


 ――意識……、違う……っ! 我を忘れて……っ!


 あらん限り叫ぶガルディガル。


 それを見たベガは『くるん』とガルディガルの背後からも魔法を放とうとしたが……、ガルディガルは壊れかけていた。


 ぶすぶすと焦げた臭いを放っている秘器(アーツ)を無理に動かし、『がぎゃがが』と歪な音を立てながらベガの方に視線を向けて。


 その時計回りの回転を利用し――


「ああああああああああああああああっっっ!」


 ガルディガルは左拳を使い、ベガに向かってその拳を向けた。



 ◆     ◆



「け、けけけけっ」

「?」


 その雄叫びより少し前……。


 ムサシ達の周りをぐるぐると回り、風を纏った槍を振り回していたキョウヤはふとムサシの異変に気付いた。


 さっきまで陽気に笑って、形勢が逆転した時には青ざめてわたわたしていたのだが、突然何かのスイッチを押したかのようにふっとその場立ち尽くして……、最初の笑いを声に出したのだ。


 それを聞いていたシェーラは、はっとしてアキ達に向かって叫んだ。自分が隠れている場所を知られても、そんなの関係ない。


 この状況はまずいと、己の直感が囁いているのだから、危険な局面上等で、彼女は叫んだ。


「――離れてっ!」


「?」

「! っちぃ!」


 アキはその言葉に、首を傾げながら、銃から目を離してしまった。


 キョウヤはそんなアキを見て、そして、視界の端に写ってしまったその姿を見た瞬間、キョウヤはバチィンっと尻尾の弾きを利用した急加速を使って、アキに手を伸ばして――


「逃げろっ!」と叫んだ。


 アキはそれを見て、横から来た拳に気付かずに、彼はその状態をキープしてしまっていた。


 キョウヤの声を聞き、やっとその状況に気付き、前を向いた瞬間……。


 あ、やばいと思った。そして死を覚悟した。


 目の前には――狂気と憤怒、そして悲痛が入り混じった怒りの眼と表情で、獣のような雄叫びを上げながら殴りかかろうとするムサシ。


 それを見たアキは、目の前に来たその拳を見て、自分の顔面にそれが来ていることを察知して、避けようにも避けれない状況を悟って……。


 ――マジかよ。顔面壊されたら……、部位破壊(ゴア)どころじゃない……。即死だ。


 ――てか走馬灯回った。


 ――あ、これって俺……、死ぬ?


 そう思ったアキは、クリアで急加速で回っている思考とは裏腹に、スローモーションのように遅く来る拳を見ながら……、彼はこれが、死ぬ前のスローモーションだと悟った瞬間……。思った。


 ――ごめん……。ハ。


 と思った瞬間だった。


 ガァンッと、同時に、ベガの方から――アキの方から、その音が聞こえた。


 それを聞いて、ベガとアキは、その目の前で起こった現状を整理していた。目の前にあるのは……、拳。


 しかしその拳は、自分には届かずに、目の前にあるのかわからないが、半透明なそれによって、二人には届かずに、ぐぐぐっと力を入れても、その半透明の壁によって遮られてしまう。


 その壁は、アキやキョウヤにとってすれば、見覚えがあるそれだった。


 アキはそのまま、土煙が消えたと同時に、湖の方に向けて、ゆっくりと首を動かす。オルゴールの人形のように、ゆっくりと……。


 そして、目を見開いて……、言葉を零す。



「ハンナ……」



 □     □



 アキにぃが私を見て、呆然とした顔で驚いていた。シェーラちゃんやキョウヤさんは、私を見て安心と驚きが混ざった顔で見ていた。


 マズガさん達は私のそのスキルを見て、驚きを隠せないで私を見て、ベガさんも私を見て、表情こそわからないけど、目が驚きを物語っていた。


 私は両手を、ベガさんに、アキにぃに向けて――『強盾(シェルラ)』を発動させた。


 前までは、ゲームシステムのせいか……、同時に使うことはできなかったけど、今は同時に発動できる。それのおかげで、二人を助けることができた。


 湖に浸かっている足は、ひんやりと冷たくて心地よかった。肩にはナヴィちゃんがいて、すりすりとこすり付けながら「きゅきゅぅ!」と鳴きながら甘えてきた。


 そして――見上げると……。


「ハンナ。平気なのか?」


 そう聞いて、私を見降ろすヘルナイトさん。私の後ろにいて、私を見降ろしているヘルナイトさんの音色は、安心と不安、そして……、ほんの少し……悲しさが混ざっているような……、そんな音色で聞いてきたヘルナイトさん。


 私はあの時、突然の怒鳴り声に驚いて、そのあとのことは覚えていないけど……、なんだかヘルナイトさんが傍にいてくれたことは、何となくだけど分かって、気づいた時――ヘルナイトさんが私を抱きしめてくれていたことには驚いたけど、でも鉄特有の冷たさに含まれるぬくもりを感じて、なぜだろうか……。



 安心してしまった自分がいた。



 私はそっとその場から離れて、ヘルナイトさんにお礼を言うと、ヘルナイトさんはちょっと驚いていたけど……、それでも顎を引いて――


「よかった」とだけ言っていた。


 そしてヘルナイトさんは私に指をすっと出して……。


「石に触れる」


 と言って、私はその状況を理解するまもなく……、降ろされたと同時にヘルナイトさんはエディレスの瘴輝石に触れる。すると――私達を守るように出ていた風が、どんどん勢いを失いながら消えていく。


 私はそれを見ていると……、ふと、私はアキにぃが視界に入って、それを見た瞬間、手をかざしたけど……、ナヴィちゃんがある方向を見た瞬間、「きゅきゃぁ!」と大きな声で鳴いて、私達に知らせてくれた。その声を聞いて、横目で見ながらそれを見た瞬間、ベガさんを見た瞬間……。


 私はその方向にも片手をかざして――お願い、出て。と願いながら……。


「『強盾(シェルラ)』ッ! 『強盾(シェルラ)』ッ!」


 と、叫んで、アキにぃ達を守った。そして、アキにぃの声を聞いて冒頭に至る。


 みんなが驚いているその顔を見て、私は申し訳なさそうにして、控えめに微笑みながらこう言った。


「ごめんなさい――サポートできなくて」


 その言葉を聞いてなのかはわからない。でも、アキにぃはそれを聞いて、ほっと息を吐いているのが見えた。


 アキにぃから感じた暖かい色のもしゃもしゃは……、安心したそれだった。


 けど――



「このぉおおおおおおおおおおおおっっっ!!」

「ぎゃぎゃぎゃああああああああああっっ!!」

「うがあああああああああああああっっっ!!」



 バトラヴィアの兵士と、ユースティスとムサシが私に向かって一斉に襲い掛かってきた。


 話し合っていたわけじゃない。これは偶然。


 私はそれを見て、はっとして後退しようとした時……。


 トンッと当たった背中の冷たさ。そして――


「――『影剣(かげつるぎ)』」


 と言ったヘルナイトさんは、アルテットミアでオグトに対して使った……、剣を二本にするあの技を使って、両手に大剣を持って私の前に立った。


 それを見て、私はヘルナイトさんの背中を見て、頼もしいと思った反面……、少し、不安になった。


 ヘルナイトさんから感じたもしゃもしゃに、赤に混ざっている青が気になったから……。私は手を伸ばして何かを言おうとした時……、ヘルナイトさんは私を見ないで――


「ハンナ」と言って、迫ってくるその三人から目を離さないで……、こう言った。



「――安心してくれ」



 その言葉に、聞いたことがあるようなデジャヴを感じながら、私は伸ばした手を引っ込めて、そしてぎゅっと自分の胸元に手を添えながら、頷いた。


 すると、私の肩に乗っていたナヴィちゃんがぴょんっと私の肩からヘルナイトさんの肩に向かって跳んで登る。それを見た私ははっとして――


「ナヴィちゃんっ!」と叫んだ。


 帰っておいで。そう言い聞かせるように……。


 でも、ナヴィちゃんはそのヘルナイトさんの肩に乗った瞬間、ぴょんっと真正面から来たムサシに向かって、飛びついた。


 ヘルナイトさんは、左右からくるユースティスと、バトラヴィア兵士に向かって、刀身の刃がある方向ではなく……、大剣の腹を使って、一旦()()()()()()()()()()()後――


 ()()()()()――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ごふっと血を吐いたユースティスとバトラヴィアの兵士。それを見て、空中で剣をクロスさせたヘルナイトさんは、その場で剣を元の掴み方に戻して、そのまま一気に振り降ろして――


 がんっ! と、二人の顔面に、剣の腹で殴ったのだ。


 それを見た私は、驚いて口元に手を添えていたけど、それと同時に、ナヴィちゃんはぐぐぐっとふわふわの体を丸めながら、力を入れている。


 それを見ていたみんなは何をするのだろうと見ていて、ムサシはそれを好機と見たのか、ぐんっと左手の拳を振り上げた瞬間……。ナヴィちゃんはぶわりと体を光らせて、そして――


「グキャアアアアアアアアアアアアッッッ!」


 あの時港で見たドラゴンになって、ナヴィちゃんはムサシを大きくて、爪が生えた手を押し出すようにして伸ばして、そのままムサシを張り手で突き飛ばすように攻撃した。というか……突き飛ばした。


 べぎゅりと、変な音が聞こえたけど……、吹き飛んでいくムサシを見ながら、私達は驚きで口を開けたまま、それを見て、放物線を描きながら飛んでいくムサシが、どこかの森に落ちたところを見たとき、ナヴィちゃんは天に向かって――


「グアアアアアアアアアアッッ!」と、勝利の咆哮を上げたのだった……。


 私はあまり参加できていない、その勝負に対して……。



 □     □



 それからバトラヴィアの兵士のガルディガル……さん。で、いいんだよね? 前のように()()()()()()さんのような間違いはしたくないし……、あれ? なんだか違和感が……。


「こちらの不注意で、ご迷惑を」


 とベガさんはすっと頭を下げながら謝った。


 私達はあの戦いが終わった後、あの三人をぐるぐるに縛ってから、この先にあるユワコクのギルドに移送することになった。空の瘴輝石にその三人を入れて……。


 今思ったことだけど、空の瘴輝石って……、道具だけじゃなくて人も入れることができるんだ……。そう私は内心驚いていた。


 でも運ぶのは私達の役目。


 なぜならベガさん達はネクロマンサー。人前にでしまうと、最悪殺されてしまうから……。


 その言葉を聞いて、私は首を横に振りながら申し訳なく「いいえ。私の方こそ、何もできなくて……」と言うと、ベガさんはそんな私を見てなのか……。


「ですが……、あなたは一時的に乗り越えました。黒い何かから」

「?」


 黒い何か。それに対して私は首を傾げていたけど……、ベガさんは顔を上げた私に向かってすっと手を突き出して「ふふ。忘れてくださいな」とやんわりと言った。


 それを聞いて、私は首を更に捻らせながら何のことだったのだろうと思っていたけど……、ベガさんは私達に向かって、こう言った。


「今回のことがあり、わたくし達は怨敵の一人を討つことができました。討つと言っても、殺してはいませんわ。それでも……、倒せた。それだけで、この肉体が喜んでいる気がしますわ」


 ね? と、背後にいる三人に向かって聞くベガさん。三人――ギルディさんは頷きながら、まんざらでもない顔で納得していた。


 それを見て、シェーラちゃんは聞く。


「それで? あんた達はこれからどうするの?」


 その言葉に、ベガさんは湖があるこの地を見て……。静かに、そして優しい音色で、こう言った。


「ここで守りながら、戦う力をつけて行こうと思っています」


 それだけだった。


 曖昧だけど、すごく大きい何かを抱えているような、そんな言葉。固い決意。それを聞いて、私は頷いて――何も言わずにその言葉を汲み取った。


「まぁ、今回は『遭難作戦』に感謝だな」

「? 遭難……? それって名前? すごく変な気がする」

「あ、そなの……? えっと、これをつけたのは……、まぁ、いいか」

「??」


 キョウヤさんが頭に手を抱えながら言うと、私はその名前に対して違和感と言うか……、なんというか……、変だと感じたので聞くと、キョウヤさんは引き攣りながら顔を青ざめて、アキにぃの方を見ながら何かを言おうとしていたけど……、何も言わなかった。


 そのあとなんなのかと聞くけど、キョウヤさんは口を割らなかった……。むむむ? 一体何が……?


 すると……。


「――見苦しいところを見せた。すまないな」と、ヘルナイトさんの声を聞いた私は、その声がした方を振り向くと、ヘルナイトさんはベガさんに対して申し訳なさそうにして謝っていた。


 ベガさんはそれを聞きながら……。ふっと微笑み――右手を出して、拳を作り、そのヘルナイトさんの鎧の胴体に『こん』と軽くジャブを繰り出しながら、こう言った。


「どんな種族であろうと、弱いところ、強いところがありますわ。いいところと悪いところは表裏一体。つまりは誰にだって欠点がありますわ。最強と謳われても……、結局は命ある生物。得意不得意がありますわ。今回は不測の事態。それも――わたくし達が引き起こしてしまったことですわ」

「む」

「というか。わたくし達は死霊族ですのよ。これを世間の人達が見たりしたら、奇異な目で見られること間違いなしですわね。ふふ」


 その言葉を聞いていた私は、ふと、青いもしゃもしゃを感じて、その方向を見ると……、シェーラちゃんが、少しだけ、悲しそうに俯いている光景が見えた。


 それを見て、私はシェーラちゃんに声をかけると、シェーラちゃんははっとして、顔を上げたと同時に、ツンっとした元の表情に戻って――


「なにかしら?」と聞いてきた。


 それを見た私は、控えめに微笑みながら「ううん」と言った。


 それを見たシェーラちゃんは、ツンっとそっぽを向きながら、私に向かって言ったのだろう。シェーラちゃんは、小さい声でこう言った。



「……、あんたも、無理って思ったら無理はしないで、しゃがんで守られてなさいよ……」



「?」


 最後の方がよく聞こえなかったのでもう一回聞き返そうとしたけど……、シェーラちゃんは「なんでもないっ」と言いながらずんずんっとこの地の出入り口に向かって歩きだし……。


「行くわよっ! アクアロイアはまだまだ先なんだし!」


 と怒りながら言った。


 私はそれを聞いてぽかんっとしていると、キョウヤさんはそれを聞きながら、ベガさん達に向かって「じゃあな」とにひっと笑みを浮かべて手を振りながらシェーラちゃんの後を追う。


 ヘルナイトさんのベガさんに頭を下げながら後を追い、私もベガさんの方を向いた。そして――


「あ、ありがとう……、ございます」


 と四人の顔を見てお礼を述べた。


 それを見ていたベガさんはくすっと微笑みながら――


「そう言った言葉は、すべてが終わってからですわよ」


 と言って……。


「それでは、旅のご無事をお祈りしています」

「何かあったらすぐに言えっ! 俺がぶん殴ってやるからなっ!」

「んがぁ!」


 三人が手を振りながら言った、前に見たネクロマンサーとは違う。人間のような笑顔で。


 それを見て私はホッコリとして微笑み、頷きながら言った。


「――はいっ」


 こうして、私が知らない間に繰り広げられた戦いは一旦幕を閉じた。


 でもバトラヴィア兵と出くわしたことにより……、この後起こる砂の国の長い戦いがゆっくりと、ステージの幕を開けるように始まろうとしていた……。


 そんなことすら知らない私は……、そんな未来が起こることなど知らない私はシェーラちゃんの案内の元……、アクアロイアに向かって歩みを進める。



 ◆     ◆



「そう言えば、あなたはなんですか?」


「あなたからは……、異様な何かを感じますの。わたくしの勘ですが……」


「進言しますわ」


「――今すぐ、()()()()()()()から離れなさい。さもないと……」




「――一番傷つけたくないあの子を……、精神的にも、肉体的にも苦しめ、傷つけてしまいますわ」




 ベガはそれを……、あろうことか、一番大事にしている……、とある人物に言った。

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