PLAY02 二つ名の騎士⑤
ギルド長は話している間にも頭を下げて、私に向かって謝った。流れるように真っ直ぐな謝罪の態勢を私に見せながら……。
何もできない私と言うか……、本来は偉そうにする権限を持っている人が一介の……、ただのメディックに頭を下げることは絶対にありえないと思う。
あ、でもこの世界にとってすれば私は希少の所属だからどうなのかわからない……。でも、この行動を私にするということは……、きっと大事なのだろう……。
そんなことを思っている内に話は進む。ギルド長は頭を上げて私のことを真っ直ぐな目で見据えながら、ギルド長は言ったのだ。
「浄化するのでしたらこちらでクエストを申請します。その名も……」
ばっと手を広げて、ギルド長ははっきりと宣言するかのように私に向けて言ったのだ。
「最も難題と言われています……、極クエスト『浄化』――『八神』の浄化、そして……『終焉の瘴気』の浄化です」
□ □
「極……? 凄く……難しいそれ、ですか?」
聞きなれない言葉を聞いた瞬間、一瞬目を点にしてしまったけど何とか頭が働きだし、その頭でなんとか理解できたことを口にした私は、ギルド長に聞いた。
後から考えたら、『終焉の瘴気』は未知のなにかで、大袈裟に言うと……、世界崩壊レベルのそれなのだから、やばいのか……な? うーん。
そう思いながら聞いていると、ギルド長は頷きながら即答した。イエスの言葉を――
「本来クエストとは、いくつかに分かれているんです。採取クエスト。とある魔物の討伐クエスト。素材を入手してほしい特殊討伐クエスト。未知の大地の探索と調査をする探索クエスト。そして凶悪な個体討伐の極クエストと分けられているんです。そのクエスト達成に比例し、経験値と報酬を与えるシステムなのです」
ギルド長の口からべらべらと出てくるゲームの用語。メグちゃんから聞いたクエストの言葉がどんどん出てくる。システムも同じだ。内容も全部同じで、経験値も報酬も全く同じだった。そこだけはゲームに忠実なんだな……。そう私は思った。
でも、極クエストだけは聞いたことがなかった。
私達は前まで、討伐と採取などで、経験値を稼いでいた。だからここまで来れたのだろうけど……。それでも、極と言うのだから……、きっと恐ろしいクエストなのだろう……。
ラスボス討伐に、『極』クエストを入れるのだから。
「その、極クエストは……、どんなものなんですか?」
「ええ、それはですね……。この世界には独特の進化を遂げている――罠にかけた人間を食べて知識を蓄え、それを自分で学習して使う生命体……『摂食交配生物』という恐ろしい生命体がいるんです。それの討伐や、他にはその地帯にはいない生物の討伐なども請け負い、クエストとして受け付けます」
「………摂食、交配」
言葉だけでは、あまりピンッと来ない。
でもギルド長の言葉でそれはわかってしまった。食べる。それは――きっと……。
………ぞっとすることを考えてしまった私は、首を横に振ってその想像を掻き消す。それを考えてしまったら、絶対に後悔してしまうと、想像だけで恐怖が出てしまうと思ったから、私は首を振ってその思考を強制消去する。
ぶんぶんっと、首を振りながら――
「いかがされましたかな?」
「っは。だ、大丈夫です……続きを……」
ギルド長の言葉で現実に戻った私は少し不快感を味わいながらも、説明を続けて欲しいと促す。
若干申し訳なさもあったので、せかせかと促しのそれをかけると、ギルド長は頷いて「解りました」と言い――
「クエストの受理やクエスト成功、失敗、そしてクエスト受理破棄をする場合、この冒険者免許が必要となります」
ギルド長さんは私のカードを手に取って、それを見せながら説明を続けた。
それを再度見て……。私は……。
「……やっぱり運転免許証」
「はい?」
「っは!」
思わず声がっ! 私はすぐに口を塞いでぶんぶんっと首を横に振ってから慌ててギルド長に「す、すみません……っ! 忘れて続けてください……っ!」と、恥ずかしながらそう早口で言う。
ギルド長は首を傾げていたけど、それでも冷静に説明を続ける。
「この冒険者免許ですが……、表面は冒険者の顔認証、名前、年齢、種族と所属。そしてレベルが記されています」
「あ――本当だ」
よく見ると、私の名前と年齢の横に、ちゃんと『LEVEL:45』と書かれている。あとは……と思いながら私は書かれているであろうその箇所を目で追う。けど……、それは書かれておらず、私は首を傾げながらもう一度冒険者免許に目を通すと、ギルド長は私に向けて「あぁ」と思い出すような声を出して……。
「あぁ、もしや身長や体重の項目を探していたのですか? 伝えることを忘れてしまいまして申し訳ございません。昔は記述されていたようですが、何分この免許は偽装ができないがゆえ、特に女性の方にはお気に召さなかったようで……」
「………………あぁ」
そう、少し申し訳なさそうに言うギルド長。それは確かにと思いながら私は何も問い詰めなかった……。
同じ女として……、体重の真実は伏せておきたい派でもあるから……。
それからギルド長はおほんっと切り替えを行うように咳ばらいをすると……。
「それで、本題はこの裏面」
と言い、すっとカードの裏面を見せてくれた。そこには……何だろう……。英語でMORUGU (和訳するとモルグ)と書かれていて……。
HP:3(体力3,124)、MP:10★(魔力45,892)、ATK:3(武力364)、DEF:7(硬力798)、INT:1(知力126)、IND:7(制力799)、KAR:10★(神力2,587)、器力(HIT:6(命中率623)、SPE:5(素早さ582)、LUC:8(運801))合計60★Ⅱ
と、私の冒険者免許の裏に書かれていた……。
そう言えばさっき、受付の人がモルグ云々言っていたような……。
「これは……、私のステータス?」
そう聞くと、ギルド長は頷いて。
「そうです。それも、その御年でカンストを二つも所持。これは天族、悪魔族特有の力のバランス。そして……、魔力数値が四万越え。本来あなた様の年齢とレベルなら……魔力値はカンストしても、三万と言うところなのです」
そう言われても……。
私は首を傾げながら聞いていた。そう言われても、私は普通にプレイをしていたはずだった。なのになんでこんなリアルに近い世界になると、こうもエラーのようなことが……。
「……実感がありませんか……。だとしたら……、その魔力値の異常な数値があって、詠唱結合書はあなた様を……」
「そうなると……。私よりも魔力値が三万の人なら、だれでもよかったのでは……?」
「先ほども言った通り――詠唱結合書は、あなたを選んだ。良く言う……、『刀は持ち主を選ぶ』と同じようなものです」
「物が……人を……?」
よく言うとは言うけど、本当にそうなのか。そう思った私だけど、話は続いた。
ギルド長は「これはクエストを受ける時に必要であり、あなたの身分証明でもあります。失くさないでください」と言い、それをトレーに置いた。次に手にしたのは……、緑の万年筆。それを手に取り……。
「次に、冒険者免許を発行したお方にしか渡していません。これは魔導液晶地図――ヴィジョレット・マップです」
「ヴぃ……ヴぃしょ……」
「魔導液晶地図です。言いにくいですかね?」
そうギルド長はうーむっと唸りながら頭を捻って言う。それを聞いた私は「いいえっ」とすぐに返答し――
「噛んだだけですっ」と答えた。
それを聞いて、ギルド長は「そ、そうですか」と驚きながら私を見たけど、もう一回こほんっとえづいて――説明を続けた。
「この魔導液晶地図は、この世界――アズールの世界地図となり……、地図の出し方は……」
と言って、片手に持っていたペンの、天ビス(書くところを出す『カチッ』と言うあそこ)を押すと――そのペンの先が伸びた。
ちょっと伸びたら直角九十度で曲がり、伸びて伸びて、そしてとあるところで直角に曲がって、少し伸びたら曲がって、それの繰り返し。そして天ビスのところで連結するようにくっつくと、長方形の骨組みが出来た。
その長方形の図形の中で、ブオンッと緑の画面みたいなものが出てきた。そしてすぐに地図が出てくる。私からも見えてしまう。液晶だけのそれが。
「おぉ……」
「これが魔導液晶地図です。これはここ周辺の地図となっていまして。詳細を知りたい、近くの街やダンジョンを知りたいという時は、この魔導液晶に触れて、こう広げるようにすると、映像が変わり、ここ周辺とダンジョンがわかるようになります。街の詳細は文字に触れれば、そこの詳細が分かるようになります」
「………………タブレットみたい」
「? たぶれっと?」
「あわわわっ! 無視してくださいっ! こっちの話しです……っ!」
「?」
また口から出た言葉を塞いで、話しを続けてもらおうと促す。
でも、言ったことは事実……タブレットと同じそれだった。
ギルド長が持っているそれも然り、操作方法もピンチイン(文字が見えないときに使う人差し指と親指の動作。これを使うと画像や文字が大きくなる)やタップ。
ほとんどがタブレットのそれだった。
でも、このゲームの世界にはないようで……、ギルド長は「たぶれっと……、うんてんめんきょしょ……、異国にはいろんなものがあるのだな……」と小さい声で(聞こえているけど……)言うギルド長。
ギルド長はえっと……ヴィジョレット・マップの……、ボールペンでいるグリップのところを押すと、マップは消えて、すぐにボールペンに戻った。
「最後に――」
と言いながら、ヴィジョレット・マップを置いて、最後に手に取ったサイコロサイズのそれを手に取って、それを見せて説明してくれた。
「これはクエスト専用の魔導液晶です」
「……クエスト、専用?」
元々、クエストはカーソル・ウィンドウで詳細を確かめるのだけど、今回はカーソル・ウィンドウが使えない。ゆえにクエストの詳細を確かめるそれが、その四角いサイコロサイズのそれなのだと認識した私。
「それで、クエストを?」
「はい――察しがいい」
そう言いながら、ギルド長はサイコロのとある面にある、出っ張ったボタンを押す。
押した瞬間に、サイコロサイズが独りでに大きくなる。平たく、そしてスマホサイズのそれに。地図と同じように、後ろからでも見えてしまうそれだった。
それをそっと手に取ったギルド長は、それを見せながら言う。
「これは極クエストの詳細が記載されていまして、ここでクエストの状況が把握できます。箱の色は赤が討伐。緑が採取。特殊討伐は黄色。探索が紫。極クエストが白となっています。これはのちに受け付ける『終焉の瘴気』の浄化のクエスト詳細です」
よくそれを見ると、えっと……。
クエスト名:『八神』の浄化。『終焉の瘴気』の浄化。
期限:無期限。
報酬:己が願うものを一つ(パーティーや徒党を組むのなら、それぞれ一つずつ)。
補足:『八神』の浄化について。これに対してはその場から近い『八神』の浄化を優先にしてください。一体浄化が終わりましたら、次の『八神』の詳細を更新します。
……だった。
つまり……、そう思った私は、ギルド長に聞く。
更新もするというところを見て……。
「これは、もしかして……」
「ええ。我々ギルド総勢で、あなたのサポートをします」
サポート……。それを聞いた私は、どっと来たプレッシャーを受けた。それは、滝のように一気に流れ落ちたかのような……。それくらい……、この世界では重大で、命を賭けているとういことが、ひしひしと伝わってきた。
「希望であるお方の、少なからずの助力です……。我々はあなた方のように、魔力がない。故に、機械や魔道機器に頼るという抗いしかできない。だからこそ、力がある人に、頼るしかないんです」
俯いて言った言葉。その言葉は、真剣なそれもあったけど、申し訳ない。そして不甲斐無い。何より悔しい。それが感じ取れた。膝に置かれた手が、震えていた……。そして、力一杯、己の手を握っていた。
まるで――さっきまで非力と言っていた私と同じだ。
私のような女の子に強要する申し訳なさ。
自分は非力だから何もできない不甲斐無さ。
自分は何もできず、ただ指を咥えることしかできない――無力による悔しさ。
――ああ、そうか……。
失礼ながら、私はわかってしまった。
――この人達は、藁にも縋る思いで、私に縋った。
――力がない自分だけど、ほんの一握りでもいいから、力になって、故郷を救いたい……。
現実でのうのうと生きていた私達とは違う……、こんな逆境の時代を、終わらせようと……。
抗っているんだ……。
さっきまで、非力だ。無理だ。出来ないと弱音を吐いていた自分が、恥ずかしくなってきた。
非力なのは、みんな同じ。
でも、力になりたい。皆同じ気持ちだった。
持病で苦しそうな身内のために、力になって何かをしようと同じで……。
何とかしたいんだ……。
「…………わかりました」
「!」
ばっと顔を上げて、ギルド長は私を見た。
その目はまるで希望を見出した――そんな安心と感動と……、安堵。諦めないでよかったという……、安堵。
「――受けたい。ですけど、今は同行を決めている兄がいて……、その人と話し合って決めたいんです。いいですか?」
時間は取りません。それを条件に――私は、アキにぃ達がいるところに向かった。
でも――
□ □
「オーケー行こう」
早かった。そして行動も早かった。
ギルド内――アキにぃがいるところに着いた私。
その時皆……ううん。モナさんとアキにぃ。そしてエレンさん達三人だけしかいない。他の冒険者さんも何処かへ行ってしまい、そしてプレイヤーの人達もその場にはいなかった。
なんでも冒険者免許を持った後で、早速誰かが『八神』の情報を入手したらしい。
それを元に、さっき私を囮と言っていた、威圧が凄かった人――ゴーレスさんらしい。その人は受付に向かってその『八神』の討伐を受けさせろと言ったのだけど……。
受付の人はそんなクエストはないと言った。
それを聞いたゴーレスさんは堪忍袋の緒が切れたのか……、その人の胸倉をつかんで怒鳴りながら殴ろうとした。
アキにぃ曰く……。その人は
『なんだそりゃ! 使えねぇコンピューターだなっ! 俺が受けるってんだから、無理にでも受けさせろ! それがお客様に対する態度なのかっ!? えぇ!?』
でも、それを見ていた――受付のリーダーさんが来て、その喧嘩の仲裁に(ううん。一方的なそれだった)入った。
リーダーさんの名前はリオナさん。その人はこのギルドでも有名な人で、何でもギルド長の娘らしい。実力も本物。
会話の内容は聞いていないけど、アキにぃ曰く、口論ではその人の圧勝だった。らしい……。
ゴーレスさんはそのリオナさんの言葉通り、討伐クエストに、アキにぃ、モナさん、エレンさん、ララティラさん、ダンさんを残して行ってしまったらしい……。
「まぁ……事実上の仲間外れだね」
俺は嫌だったから、良かったけど。と肩を竦めて言うアキにぃに、私はその場にいたアキにぃにさっきギルド長と話したことを説明すると……、上に至る……。
「え? いいの……? だって、危ないかもしれないんだよ……?」
「それはここに来てから充分それは知った。と言うか、ハンナはもし、俺が断ったら――一人で行こうとした?」
「う」
ぐぅの音も出ないとはこのこと……。図星。という言葉も該当する。
アキにぃの目を見ると、その目には迷いがない目で、真直ぐ私を見ていた。
「俺は許さないよ? だって、妹が危ないとなったら、居ても立っても居られない」
私の頭にとんっと、手を置いたアキにぃ。
そして――アキにぃは言った。優しい音色で、兄は言う。
「受けるのなら、俺も一緒に行く。それが絶対条件」
良いね? と言ったアキにぃに、私は――
「……、うん。宜しくね」と、頷いて言った。
すると――
「その話だけど……俺達も同行してもいいかな?」
突然横から声が。それは割り込むようなそれで――私とアキにぃの横顔を見るかのように、エレンさんが聞いてきた。アキにぃは驚きはしたけど、エレンさんを見て聞いた。
「えっと……、なにが、ですか?」
「俺達も同行してもいいかなって言っているんだ。なにせ――同じ仲間外れのよしみだし。それに――」
一時期、人は多ければいい。と、エレンさんは言った。そんなエレンさんの笑みを見たアキにぃは、警戒しているのか、そっとエレンさんを見て聞く。柔らかい音色で、喧嘩腰ではないそれを……。
「……、もしかして、何かよからぬことを?」
「いいや違う。ただの一時期のそれなんだ」
エレンさんは真剣に言う。続けて後ろにいたララティラさんが会話の間に入り込むように……、肩を竦めながら言う。
「話を聞いていたんだけど、エレンは二人が心配なのよ。二人でできるようなものじゃない。それは最低パーティーメンバー全員で行かないといけない。最低でも、五人か、六人でね」
「……………………………協力……?」
「正式には――徒党を組もう。と言っているんだ」
エレンさんはアキにぃに向かって提案と言わんばかりの言葉で言った。ある言葉を残しながら――
徒党。
メグちゃんが言っていた。
パーティーメンバーは最高六人までチームを組むことができ、前衛三人、後衛三人で戦うことが最もオーソドックスなものだ。でも、強敵相手なら戦力は限られている。だから、仲がいいプレイヤーと一時期、大きい人チームとして――協力して戦う。それが徒党。
メグちゃんはあまりいなかったらしいけど……。
それを聞いた私は、話を聞き続ける。
「要はな! こいつは心配だって言っているんだっ!」
ガハハハッと笑いながら言ったのは――ダンさん。頭を掻きながら、豪快に笑い……。
「エレンは子供が大好きでな! 迷子センターのお兄さんみてぇだろっ!?」
「ダン、話しの腰を折るな」
「小さいガキが公園で遊んでいると、それを和んで」
「ダンっさんっっっっ!! それ以上は言うなっ! 俺が変な大人みたいに見えるから!」
「はぁ? 違うのか?」
「認識違いだっ! そう言う目では見ていないっ! ただ小さい子を見たら誰だって和むだろっ!?」
……ダンさんの爆弾発言。
エレンさんにとってのそれを言ったのだろう。エレンさんは慌てながら顔を赤くして、ダンさんに訂正を訴えかけている。
ダンさんはきょとーんっとしてそれを聞いていて、ララティラさんはそんな二人を見て「しまりないわー」と呆れながら呟くと――
私達に近付いて――
「だから、これはただのお人よし。ただの心配屋の提案なの。私も心配よ? だって、二人でこの広大な土地を歩くって……、結構大変じゃない?」
それを聞いてもなお、アキにぃは警戒をしている。
ララティラさんはそれを見て、うーんっと口元に指を添えて考えてから……。口を開いた。
「報酬は二人にやるから、私達はただのお節介として同行する。これでいいかしら?」
その言葉に、アキにぃは顎に曲げた人差し指を添えて、考える。それを見ていたララティラさんは「あ」と思い出したかのように、少しだけ上を見上げ――
「モナちゃんは私達と同行することになっているから」
と言うと、ララティラさんの背後から出てきたモナさんは、私を見てブイッとピースサインを出して笑顔で私を見ていた。
「はぁ」
長い長い思案をしたアキにぃ。諦めのような溜息を吐いて……、アキにぃは、ダンさんともちゃもちゃと言い合いをしているエレンさんの名を呼んだ。
エレンさんは口論をいったん止めて――アキにぃをみる。アキにぃは口を開いた。
私の出る幕はなかった、その提案に――
「――わかりました。本当に、一時期だけ。です」
……渋々、と、呑んだ。
「――おう、よろしく。えっと……」
「アキと、妹の、ハンナです」
と、アキにぃは私の頭に手を置いて代わりに自己紹介をしてくれた。私はエレンさん達を見て、頭を下げながら「よろしくお願いします」と言った。
「うん。宜しくな。アキくんにハンナちゃん」エレンさんが明るい声で言う。私は頭を上げて見ると……、ダンさんが私に近付いて――
「しっかし、礼儀正しいなぁ! お前! 昔の俺とは大違いだっっ!」と、ガシッと私の頭を掴むように手を置いて――ぐりぐりぐりと捻じ込むように撫でた。
痛い、いたい……。あたたたっ。
痛みで顔を歪ませていると、ララティラさんがダンさんに――
「いや、やめなさいよっ! 背が縮んじゃうからっ! 後アンタと比べても全然比べようもないからっ!」と、静止をかけた。それを聞いたダンさんは、「お? すまんな!」と豪快に笑いながら私の頭から手を離す。最後の言葉には、反論しなかったけど……。
私は頭を抱えながら「い、いえ……」と目を回しながら言う。
するとモナさんが近くに来て――
「いやったぁ! 少しの間だけど、一緒だね! よろしく!」と私の手を掴んで、ぶんぶんっと上下に振って笑顔で言ったモナさん。
……アキにぃは少し複雑そうだけど……。正直、二人はきついと思ってしまった私がいる。
これからのクエストは、本当に危険が伴うそれだろう。
二人だけだと、その危険も倍増する。
だから、エレンさん達の優しさが、私にはすごく――温かく感じられた。
その優しさを見た私は……、こんな状況でも、苦しんでいる人がいたら……、手を差し伸べたい。
そう――我儘で、願望めいたそれを願った……。
その後、私は受付に向かい、極クエストを受けると言った。
受付の人は――さっき受け付けていた人と違っていて、黒い髪を束ねて後頭部で団子にしている唇がふわっとした人だった。その人は私の冒険者免許を受け取り、そのまま何処かへ行ってしまった。そしてすぐに――
「――お待たせしました。魔導液晶です」と、笑みを浮かべて白いサイコロのそれを手渡してくれた。
私はそれを手に取って、「ありがとうございます。行ってきます」と言って……、回れ右をした時だった……。
何故あんな言葉を言ったのは――わからないけど、言わないといけない。そう思った。直感だった。
「あのっ」
「?」
受付のリオナさんが私に向かって叫んだ。そして――
「先ほどのゴーレスさんですが、本当は言ってはいけないんですけど……、スライムの討伐に、この先のダンジョン:『泥炭窟』に向かいましたっ! 丁度その先の『エストゥガ』に『八神』がいると聞いて、そのクエストを受けたんです。でも、いやな予感がするんです……。あそこ、つい最近妙な噂を耳にしたんです……。言おうと思っていたのですが……、行ってしまわれたので……。その洞窟に、この土地にはいない魔物が住みついたらしく……っ。合流したら教えてください」
……それを聞いた私は、リオナさん。優しいな。と思ってしまった。
ああ言ってゴーレスさんに説教していたらしいけど、それでも冒険者でも――人として、初めての人に対して心配な面があるのだろう……。
特にゴーレスさんは……。
それと――と、リオナさんは私に向かって言った。
「――この世界を、アズールを、お願いしますっ!」