PLAY24 幻想の地での喧嘩祭り⑤
「なぁに一著前に弱点提供してんのよっ! させるかよぉ!」
最初に動いたのは――ユースティスだった。
ダッと駆け出す……。ではなく、にゅるにゅると左右に蛇行し、蛇のように進みながら彼女はシェーラ達に向かって駆け出し、ぐぅんっと尻尾をしならせながら――
「――『蛇鞭』ッ!」
ぐるんっ! と――左回転に回りながらその尻尾の威力を上げて振り回す。
よくよく見れば単純明快な攻撃。しかし回転したことによって威力が上がる。スピードも然りだ。だが避けれないわけではない。
キョウヤはそれを見切り、左から来る蛇の攻撃を槍で防御しながら構えた瞬間……。
ふっと、前の視界が暗くなる。
キョウヤはそれを感じ、目だけで前を向いた瞬間――はっと声を漏らしかけた。
そう。その蛇の攻撃だけならまだよかった。
しかし目の前から来たムサシの拳の振り上げを見て、彼は思った。
――不意打ち! 蛇の攻撃はフェイクかっ!
キョウヤはそのまま尻尾をしならせ、急速に後退しようと尻尾をしならせる。しかしその行動も見切られていたかのように――
しゅるりと、キョウヤの尻尾に蛇の尻尾の先が絡まっていく。
「っ!」
キョウヤはそれを見て、尻尾の自由が利かないことに驚き、感覚でそれを感じる。ユースティスは言った。
「きゃははははっ!」
と笑いながら――
「あんたのことは隠密の奴らから聞いているっ! あんたはその尻尾を使って逃避戦法や特攻に使うって! 私とは違うけど……、あんたは尻尾の使い方がなっていないね……っ! 最初は、あんたの頭からぁ! ムサシィ!」
「ケラケラッ!」
ユースティスは叫ぶ。ムサシは振り上げた右拳に力を入れて、キョウヤの頭をかち割ろうとしていた。
キョウヤは舌打ちをしながら尻尾の拘束をどうするか足に力を入れながら考えていた。
それを見て、シェーラは「情けないわね」とごちりながらすっと両手に持っていた剣を振り上げる。
「なにしてんだっ! そんな剣で」
「ええ、でも一応言っておくわ。この剣は――」
普通じゃないわよ。
そう言った言葉にアキは首を傾げようとしたが……、シェーラはそれを阻害するようにこう言葉で遮った。
「私はムサシの方を! あんたはユースティスの尻尾を!」
「っ!? あ、オッケイだっ!」
と、アキははっとしてシェーラの言葉を聞く。
言われた通りと言うよりも、アキは銃口をキョウヤの尻尾に絡めている蛇の尻尾を狙い、彼は焦点を定めた。
シェーラは振り上げた二つの剣を一回離して柄と鍔の間、つまりはその境目を握るように握り直した。
刹那。かちっと音が鳴ったと同時に――
じゃらっと――剣先が、刀身がぐにゃんっと歪んだ。
「「っ!?」」
キョウヤとアキはそれを見て、ぎょっとして驚いた。
まぁ普通の人が見れば、それは剣先が壊れてなくなったのか? と思うのが普通だ。
しかし、消失ではなく歪んだのだ。
歪んだという言葉もおかしいかもしれない。
シェーラはそれを見て、そしてそれを振り回すように『シャランシャランッ』と音を鳴らしながら振り回す。
その音を聞いて、そして前髪の先が少し切れたところを見て、アキはそれをよく目を細めた見た。
すると――シェーラの周りをぐるんぐるんっと、まるでユースティスの尻尾のようにうねっている光るものが見えたのだ。
アキはそれを見て、はっとした。
前に見た……、みゅんみゅんが使っていた武器の一つと同じ動きだったから。
「まさか……っ!」
と言いながら、彼はシェーラの攻撃を見ていた。
シェーラはその武器を振り回しながら、スキルを発動させる。
「属性剣技魔法――『豪焔」
『ひゅんひゅんっ』と音を出しながら、彼女の周りを飛び交うそれが赤く光だし、仕舞にはぼぉっと小さい火の軌道を放ちながら――彼女はその武器の矛先を、キョウヤを攻撃しようとしているムサシに向けて……。
「鞭』ッ!」
ひゅんっと空を切る音と同時に放たれる炎の鞭の攻撃。
それを驚きながら見ていたアキだったが――シェーラの「よそ見しないでっ!」と言う叱咤の声を聞き、彼ははっとしてキョウヤの尻尾を絡めている蛇の尻尾の先を狙って……。
バァンっと銃弾を放った!
その最中、ライフル銃の中からひび割れる音が聞こえたが、今はそれどころではない。
アキはそれを見て、そして銃弾がちゃんと軌道に向かっているかを確認した。
ユースティスはそれを見て、すぐにその尻尾の拘束を止めて、しゅるんっと自分のところに戻したと同時に、ユースティスはムサシに向かって――
「――回避っ!」と叫ぶと……。
「っ! ケラァ!」
ムサシはそれを聞いて、しなって攻撃してきたシェーラの攻撃を見て、空中でその攻撃を見ながら……、彼は避けたのだ。
「でぇっ!?」
キョウヤはそれを見て驚いて見てしまう。アキもそれを見て、驚きながらこう思った。
――あの軌道が読めない鞭の攻撃を、シェーラだってあんなに振り回しているにも関わらず……、汗ひとつもかいていない……っ!
――バケモンかよっ!
そう思いながらシェーラを見るアキ。そして驚きに驚きを重ねる羽目になってしまう。
彼女は、驚かずにその剣の鞭をしならせながら、無表情にそれを見て、ふっと微笑んだのだ。
まるで、それを予測していたかのような顔だ。それを見て、アキは何を考えているのか、シェーラは一体何を考えているのかと思いながら、困惑しながらもシェーラを見て思った。
感想からして……、理解不能である。
ムサシはその攻撃を避けて、空中で鞭の剣に親指を押し付けながら、それを足場にしてだんっと後ろに跳躍した。
そしてユースティスの近くに降り立ったと同時に、キョウヤもアキ達のところに戻って、一言――
「わりぃ!」と言った。
その言葉に対して、シェーラは凛々しく微笑みながら――
「いいえ。十分よ。というかラッキーだったわ」
と言った。
「ラッキー?」
その言葉に対して、アキはシェーラを見て聞く。
その言葉を聞いて、シェーラはすっと、ムサシ達を一瞥しながら、彼女は今得た情報をアキ達に伝えた。
「ええ、今ので何となくだけど……、あいつ等の戦法が見えたの。というか、流れってやつかしら」
「え?」
何を言っているんだ? そう思ったアキだったが、キョウヤはうーんっと唸りながら、槍を構えつつ、シェーラ達を見ないで彼はこう聞いた。シェーラに向かって――
「それって……、命令する側と、される側がいるってことか?」
「え、命令……?」
その言葉に、アキはどういうことなのかと聞こうとした時……。
「おしゃべりはやめてほしいんだっつーのぉ!」
ユースティスはぐわっと振り上げた尻尾を使い、アキ達に向かってそれを力一杯叩きつけた。
バシン! バシン! バシン! バシン!
バシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ!
と、縦横無尽に、叩きつけた後もすぐさま叩きつけるように、横から上から斜めから後ろから、閉じ込めるように尻尾の攻撃を繰り出す!
これは――
「ユースティスの十八番。『蛇踊り』まぁただ縦横無尽に叩きつけを繰り出すだけよ」
シェーラはその攻撃を避けながら、地面を滑りながら身軽に蛇の尻尾に乗りながら説明する。
キョウヤはその攻撃を槍で受け流しながら「単調だな……」と、呆れながら溜息を吐いて言う。
アキは……。
「いやいやっ! 何華麗に避けて受け流してんのあんたらっ! 俺は一般社会人だから、避けるのも必死なんだって! くそぉおおおおおっっっ! っだぁああああっっ!」
アキはと言うと……。
簡単に言うと、紙一重で躱しては、躱しきれずにその攻撃を受けてダメージを負う。
アキは思った。こんな時、ハンナのスキルがあればよかったと……。そしてアウトドアむかつくと……。
肝心のハンナは、ヘルナイトと一緒に、瘴輝石に風の壁によって閉じ籠ってしまっている状態だ。
それを目の端で見ていたアキは、ぐっと口を噤んで、そして奥歯をきつく噛み締める。
と同時に、彼の目の前を通り過ぎる尻尾を、「どうぉ!」と驚いて叫びながら、後ろに後退しながら避ける。
その最中でも、シェーラはその尻尾の攻撃を避けながらこう言う。
「そして彼女さえいなければムサシは何もできない。頭パーだから自分で考えることができない奴だから、その際脳味噌となる人材は必要なの。つまり彼と組むなら二人一組ってこと」
「頭パーって……」
キョウヤはそれを聞きながら、その蛇の攻撃をしながら、その間を縫うように迫ってくるムサシを目の端で捉えて、その拳の攻撃を捉えながら、後ろによろけて、拳の攻撃を逃れる。
それを見たムサシは「ケラケラ?」と首をくりんぐりんっと左右に振りながら傾げていると――
「――後退よっ!」
というユースティスの声が聞こえたと同時に、ムサシは後退して尻尾の攻撃の中に紛れて消える。
それを見ながら、キョウヤはすぐに体勢を戻して、また槍で防ぎながらシェーラを見ないでこう言う。
「何となくだけど……、オレも察したわ。あいつ力の方は相当だけど、あれだな……」
「ええ。馬鹿よ」
「オブラートに包んだのにこのガキんちょは」
シェーラのはっきりとした音色に、キョウヤはイラついた音色で突っ込んだ。
それを聞きながら、必死に避けているアキ。
銃を発砲しようにも弾には限度があるのと、撃ってしまうと二人に当たってしまうかもしれない。
そして撃つ余裕など今の状況にはないこともあって、彼は避ける一手で必死に走りながらシェーラに聞いた。
「で!? 弱点ってのは!?」
その言葉に、シェーラははっきりとした音色で、汗ひとつかかずに、彼女は言った。
「はっきり言うと、ムサシは物理には強すぎる。防御が異常に高い。でも属性の耐性は全くない。ユースティスも同じだけど……、一つ……、盲点があるわ」
「盲点……っ!? なにっ!?」
アキは聞いた。
するとシェーラは口を開いて、彼女がいるであろうその場所を見て……、シェーラは目を細めながらこう言った。
「――あいつは氷に弱いわ」
「氷……。変温で、蛇だからか?」
そのキョウヤの言葉にアキははっとして耳を傾ける。
シェーラはキョウヤの言葉に「ええ」と頷きながら続けてこう言う。
「たぶんね。だからあいつ、私が氷が得意だってことを知ってから、目の敵にしているの。面倒くさいけど……、蛇って焼くとおいしいのに。蒲焼っていう食べ物に」
「そう言ったスタミナ料理は後程な」
シェーラがそう言いながら避けているのを見て、キョウヤは溜息を吐きながら気怠そうに突っ込むと、ふと肩に触れられる。
キョウヤはそれを感じて、ふっと振り向くと――
「いいこと思いついた」
と、アキは口元の口角を吊り上げながら、彼はキョウヤに言った。
それを聞いてキョウヤは首を傾げていたが、アキはどこに跳んで避けているのかすらわからないシェーラに向かって――
「シェーラッ! お前、氷属性が得意なんだって!?」
「? ええ」
その言葉に頷いたシェーラ。それを聞いてアキは一人で頷き……、二人に対してこう言った。
「なら、いいことを考えたから」
と言って、彼は即座に出していたのであろうアサルトライフル『ホークス』を出して、それを地面に向けて、キョウヤに向かって小さい声で――
「―――――」
「! わかったっ!」
キョウヤはアキに言葉を聞いた後、尻尾をしならせて、地面の向けてその尻尾を叩きつけながら飛んだ。そして跳んで避けているシェーラを捉え、そしてそのまま――
「ひぇっ!?」と、シェーラが可愛らしく叫んだ。
キョウヤはシェーラの胴体を抱え、そのまま横抱きにして尻尾の攻撃を避けながら、遠ざかっていく。
「ちょっと! 何して――」
シェーラが苛立ちながら、顔を赤くしてキョウヤに向かって怒鳴ろうとしたとき、キョウヤはそれを聞きながらも、言葉を遮るように――
「いいから、今から言うことをしろっ!」
「っ!? 策があるの?」
そのシェーラの驚きの言葉に、キョウヤは頷き……「アキが言っていたがな……」と付け加えて、彼はこう言った。
「名付けて――『遭難作戦』っつってた。今から言うことをしてくれってよ」
なんていうネーミングセンス……、すごください。そうシェーラは内心呆れて聞いていた。
そんなことも知らずに、アキは地面に向けて、『ホークス』で何発も発砲した。
ババババババババババン! と――
辺り一面にそれを発砲し、地面に当たった瞬間……べたぁっとした粘着性があるそれが顔を出した。
アキがよく使っている『トラップショット』である。
それは土煙のせいでよく見えなくなっており、アキはその弾をいくつか放った後、煙に紛れるように消えていく……。ユースティスはそんなことも知らずに、ぶんぶんっと振り回して叩きつけながら攻撃を繰り返していた。が――
――べたっ!
「っ!?」
尻尾から頭に向かってきた不快感。それは尻尾に何かがついたという不快感であり、よくある何かを踏んだ的なそれをユースティスは感じた。
――べたついている……っ!
――これは……、あの銃を持っていた餓鬼のスキル!
――スナイパーだったのかっ! しかも……、スキル詠唱なしにっ!
――クソッたれがっ!
そう毒を吐きながら、ぐっと尻尾を掴んで引っ張る。しかし微動だにしない。動かない。
「っ!? う、ぐぅうううっ! ぎぃいいいいっっ!」
体重を後ろにかけても動かない尻尾。かなりの量が尻尾に付着してしまったのだろう……。それを感じたユースティスは、ムサシがいるであろう、自分から見て、右斜め前を見て――
「ムサシッ! 来なさいっ! 取ってっ!」と、慌てて叫ぶ。
それを聞いたのか、ムサシがびょんびょんっと跳び跳ねながらユースティスがいるところに戻って来て、彼はけらけら笑いながらユースティスの尻尾を見て、そしてその尻尾を掴んで、大きなカブのように引っ張る。
「っ! うぐぐっ! うぎぃいいいいっっ!」
正直、ムサシは力加減ができていない。しかしそこまで頭が回るムサシではないので、ここが我慢して、その尻尾自由をどうにかしようと、ユースティスは我慢して、歯を食いしばりながら耐える。
みちっと、尻尾の先から音が聞こえた。それを聞いて、ユースティスはそっとその尻尾の方向を見た瞬間、目を疑って――
「ムサシッ!」と叫んだ。
ムサシはそれを聞いて、尻尾から手を放して――目の前から来た人物に向かって、両手でその顔を横から潰そうとした。
目の前から来た人物――それは……、キョウヤだった。
キョウヤは右手に持っていたそれを、ぐるんっと背中を柱に見立てて、後ろからグルンッと振り回しながら、彼は言った。
「『旋風槍』」
するとキョウヤの刀身に風が纏い、彼はそのまま右手から左手に持ち替えて、それを一気にムサシに向けて振り下ろす!
ムサシはそれを見上げて、腕で顔をガードすると……。
どぉんっと鈍い音が放たれる。キョウヤの槍と、ムサシの腕から。それをみていたユースティスは、はっとしてキョウヤの攻撃を見る。
――え? と、彼女は困惑した。なぜなら……。
キョウヤは刀身で攻撃してない。スキルを使ったにもかかわらず、彼は刃がついていない先で、ムサシに向かって攻撃したのだ。
それを見て、ユースティスははっと鼻で笑いながら、勝ち誇ったように「きゃはははっ!」と笑いながら引っ張りながらこう言った。
「バッカだねあんたっ! そんなことをしたらせっかくのスキルも台無し! そしてMPの無駄だっ! ネルセス様の言うとおり、所属を持っている人は馬鹿ばっかだ! 私達魔獣の力を持った人が、最強なん」
「あぁ。これか?」
キョウヤはユースティスのセリフを遮りながら、彼は背中の刃の方を見て、言った。刃に纏わりついた風は、まだ発動したまま、風を纏いながら渦巻いている。それを見て、キョウヤはすっと、ユースティス達を見てこう言った。
「――お前達には使わねェよ」と言って、ダンッと後ろに後退したキョウヤ。
それを聞いていたユースティスは、背後から感じたそれを察知して……、彼女は即座に振り向いた。
背後から現れたのは――シェーラ。
シェーラは両手に剣を持って、双方から冷たい冷気を放っているそれを、ぶんっと振り上げて、ユースティスに向かってそれを上から串刺しにするように、彼女は掲げた。
それを見て、ユースティスはムサシを見て――
「ぼ、防御!」と言った瞬間……、シェーラはその言葉と同時に……。右手に持っていた剣を、振り下ろし――
「属性剣技魔法――『氷塊剣』ッ!」
氷のスキルでユースティスの両手を切断しようと振り降ろす!
しかし、その前に現れたムサシによって、それは遮られる。
シェーラはちっと舌打ちをする。それを見て、ムサシは「ケラケラッ」と笑いながら手がカチコチに固まったとしても、それでさえもものともしないでぎゅっとその刀身を握る。ふわりと、冷気が漂う。
「きゃはははっ! そのスキルで私を葬ろうとしたのっ!? 無駄だっつーのっ! 私にはムサシと言う壁がある! これであんたを殺して、あそこで閉じこもっているハンナを殺せば……、私はネルセス様のご意志に添えられる! 感謝されるっ! ありがとうね――シェーラ」
ぎゃはぎゃはと狂気の笑みを浮かべて嗤うユースティス。
それを聞いていたシェーラは、内心苛立っていたが、それでも彼女は、ずっとムサシの手から剣を無理やり引き剥く。シェーラはそのままダッと地面に足をつけて、駆け出し――
「ううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっっ!!」
叫んで、あらん限り叫んで、ムサシに向かって氷のスキルを纏ったそれを、高速で、二刀流で斬り込む。
しかしムサシはアンデッド。
ちょっとやそっとでは引かない防御力を持っているので、彼はけらけら笑いながらシェーラの斬撃を手で捌いている。
人間離れしている所業だが……、ユースティスは確信していた。ムサシが勝つと……。理由など簡単。
シェーラとは何回も戦ったが、一回も負けたことがない。勝ったことはないが、撒いているのは事実。つまり……、勝てないから逃げるということ。だから今度は勝てる。
これ以上――ネルセスを失望させないために。
そうユースティスは思い、すっと腕をさすった。
「…………………………?」さすって、違和感を覚えた。
――あれ? なんだかここ、冷えるな……。さっきまで暖かったのに。
そうユースティスは思ったが、だんだんその冷えが強くなる。ユースティスは己を抱きしめ、そしてさすりながら温める。それを見ていたシェーラは――にっとゆるく口元に弧を描いて……。
「頃合いね――」と言いながら、タンッとそのまま攻撃を止めて、後退して消えていく。
ムサシはそれを見ながら、コテリと首を傾げていたが……、ユースティスを見て、目の色を変えてしまう。
ユースティスは……震えていた。
かちかちと口元を動かし、ぶるぶると震え、己を抱きしめながら、正常に機能していないのか、震えている手を動かそうとして、青ざめながら彼女はその場で、しゃがんで、蹲りながら震えていた。そして……彼女はすでに尻尾が動けるはずなのに、それをしなかった。その理由は……。
「さ、寒い……、動けない……。気怠い……、冷たい……っ!」
それだけ。それだけで彼女は動けないまま、何もできずにいた。
それを見て、ムサシはおどおどしながら焦りの顔でユースティスを見ていたが……、何もできない。
なぜ? 命令がないから。
考えることができないムサシにとって、ユースティスは最強の頭脳――脳味噌だったのだろうがそれが機能しなくなった。
にっと、煙の中で挑発的に微笑んだアキ。そして彼はその中で、独り言のようにこう言った。
「ユースティスは蛇。シェーラが言っていた氷の弱い。これを掛け合わせて、付け焼刃だけど考えた作戦。まずはキョウヤに最初の囮をしてもらいながら、シェーラに氷のスキルを出す準備と、隙を作ってもらう。準備ができたらキョウヤをそのまま一時退場してもらって、次のステップの準備をする。シェーラが攻撃を仕掛けたら、キョウヤは土煙に紛れながら気付かれないように、ユースティス達の周りを回りながら、冷気を逃がさないように、風の壁を作ってもらう。その間に、シェーラはムサシに攻撃しながら、氷の冷気を出しまくる。シェーラが肌寒いと思った瞬間に後ろに逃げてもらって、はい終了」
アキはカタカタ震えているユースティスを見て、はっきりと言った。
「これぞ『遭難作戦』。変温動物は、極度に寒さに弱いからね」