PLAY24 幻想の地での喧嘩祭り④
「ギルディ! マズガ! オイゴ!」
ベガさんが驚いて叫んだ。
叫んだと同時に、ずしゃっと転がる三人。
それを見て私はすぐに「い、いま回復……っ!」と言った瞬間、私ははっとした。
エディレスとクロズクメと対峙した時……、私の『浄化』を受けて、すごく苦しんでいた。
そもそも死体である彼らにとって私の回復スキルは……、最も苦手とするものではないのかと思ってしまった。
しょーちゃんには回復スキルをかけてもちゃんと回復したけど、メグちゃんはそのことでこんなことを呟いていた……。
『アンデッドとかに回復スキルを間違えてかけたとしても……、絶対に大ダメージだから一石二鳥なんだけどねー』
と……。
それを思い出してしまい、私はその手を伸ばすことを躊躇ってしまった。
それを見ていたヘルナイトさんは、私を見てか――
「ハンナ――心を痛めることだと思うが、今は目の前の敵に集中だ。辛いだろうが、頑張ってくれ」
そんなヘルナイトさんの叱り……というか喝なのかな。それと優しさを聞いて、私は見上げて頷いた。
今は……、目の前の敵に――
「ぐあっはははははははっ!」
「っ!」
でも、マズガさん達を突き飛ばした下半身がキャタピラの男は豪快に笑った。それはもう……、びりびりと振動するかのような豪快っぷりで大声だ。
私はそれを聞いて、一瞬……、ほんの一瞬脳裏に移されたノイズと笑い声と重なってしまい、耳を塞いだ。
それを見たアキにぃは怒っているのか、その人を見て銃口を突き付けながらこう言った。
「お前……っ!」
「んぅ? お前は……、なるほどなるほど!」
大男は豪快に笑いながら『ガガガ』とキャタピラーを動かしながら私達に近付き、アキにぃ達に向かって指をさしながら言う。
「お前はあのレズバルダと同じひ弱種族の者かっ! おおぉ、難儀だ難儀だ! そんな力がないのに吾輩に立ち向かおうとはなっ!」
その言葉に、アキにぃは過剰に反応したのか……。
「な、何言って――!」
「アキよせっ!」
キョウヤさんは前に出てその人に向けて右手に槍を乗せながら、反対の手でその人の向かってこう言い放った。
少し怒っているような、そんな音色で……。
「お前、何者だ?」
「んん? 蜥蜴に名乗るなどしたくもないわっ! っぺ!」
大男はキョウヤさんに向けて唾を吐こうとしたけど、その唾を難なく避けて、キョウヤさんは……、目を閉じた状態で黙っていた。
それを見て、私はキョウヤさんが少しずつ怒っていることに気が付いた。
怒りのもしゃもしゃはさっきまで小さかったのに、今では少し大きくなっている。
それを見た私はキャタピラの人を見て、そしてユースティス達を見た。
これは……、たぶん挟み撃ちと言う展開だと思うけど……、ユースティスはキャタピラの男を見て、溜息を吐きながら面倒くさそうにこう言い放った。
「ちょっとー、なんでバトラヴィアの奴らがこんなところにぃ? 自分主義のくそ国家のぉー……。めんどくさー……、ネルセス様の命令なら、喜んで殺すのにー。はぁー」
「けたけたけた」
ムサシはけらけら笑いながらびくびくと体を震わせていたけど、それを聞いていた大男は、びきっと額に青筋を立てて、怒りの眼でユースティスを睨みながら怒声を上げた。
「ぬかせぇっ! 性悪蛇女めがぁっ! 崇高なる我が国バトラヴィア帝国を愚弄するかぁっ!」
ぐあっと来たその声と覇気、なにより感情を受けて、私はぐっと耳を塞いでしまった。
塞いだその時、突然移された映像。
なんなのか覚えていない映像みたいだけど、私はそれを見て、こう思った。願った。
思い出したくないから、消えてよ……。と……。
自分でも何を言っているのかわからないもので、でも覚えていることだと認識できること……。それが指すこと……、それは。
覚えていたけど――忘れていたことであった。
怖い。怖い。こわい!
どんどん来る黒いもしゃもしゃ。そんな怖いという感情が、私を壊しに来る。
怖い! 怖い! 怖い!!
「こわいよ……」
「ハンナ?」
「こわいよ……っ!」
がくがくと震える。呼吸ができなくなる。体中の体温が冷える。それを感じながら、私はただ、恐怖に震えながら、耐えるしかなかった。
前にも、こんな状態に陥ったような……、そんな感覚を思い出しながら……。
その後のことは……、あまり覚えていないけど、暗い世界で、私は誰かに、助けを求めていた……。そんな曖昧な記憶が、私の頭に残っている……、そんな気がした……。
◆ ◆
「いやだ……っ! やめてよぉ……っ」
がたがたと、か細く呟きながら……まるで小さい子供のように、ハンナは耳を塞いでヘルナイトの腕の中で震えた。
「ハンナッ? どうした? 何があったっ!?」
ヘルナイトはそんな彼女を優しく揺すりながら声をかける。今までの凛とした声に、動揺が混じったその音色は、キョウヤやアキにとってすれば、初めて聞く音色でもあった。
「ハンナッ!?」
アキはその異変に気付き、彼女の名を呼ぶが……。ハンナは未だに耳を塞ぎながらがたがたと震え、ぎゅうっと目を瞑り――「いやだ……、怖い」と呟いていた。
ヘルナイトの異変も然り、ハンナの異変を見たアキは、動揺を隠せない状態でそれを見ていた。
シェーラはその光景を見ながら……、声を荒げて――
「何があった」
と言いかけたが……、彼女はハンナを見るために後ろを向いてしまった。そのせいで、『ひゅお』っと来た何かに反応することが、一瞬遅れた。
シェーラはその背後を見ようとした瞬間だった。
振り向こうとした先に太くしなった何かが迫ってきた。目の先にあったところは黒く焦げている。
そう、それはユースティスの蛇の尻尾である。それを見たシェーラははっとして、すぐに剣を突き出そうとした時……、視界のそれが突然揺らいだ。
否――何かの攻撃を受けて、その攻撃に対して失敗してしまったのだ。
「っちぃ! 何よそこの蜥蜴男っ! 邪魔しないでっ! ネルセス様の命令でシェーラとハンナって餓鬼を殺さなきゃいけないのにぃ!」
ユースティスは声を荒げながら、目尻に涙を溜めてシュルリと尻尾を自分のところに戻しながらその殴られた個所を撫でて、殴った人物に向けて怒鳴った。
それを聞いた殴った人物……、ぶんっとその長い槍を振るいながら、キョウヤは苛立った表情でその槍を肩に置いて、こう言った。
低く、そして苛立ってはいるが、冷静さを保っている……、そんな音色で……。
「ネルセスネルセスってうるせえんだよ……っ。そんなのその人の願いやお願いが大事だってのか?」
「キョウヤ――言っても説得しても無駄よ。この幹部達の思考のほとんどが、思想が――」
まるで呆れているような音色で言うシェーラ。
キョウヤの言葉を聞いて、説得する試みなのだろうか……。そうシェーラは思っていた。しかし彼女は呆れながら首を横に振って、キョウヤに対して言う。それを聞いていたアキは、キョウヤとは対照的……、否。感情的なのだろう。アキは怒鳴る。
「そいつらはぶっ殺す! そしてあっちの筋肉クズもぶっ殺すっ!」
「筋肉クズ……」
その言葉に、ベガはぎょっとして、表情こそ変わっていないが、驚きながらアキを見た。
が、そう言われた筋肉クズ……、もといバトラヴィアのアフロヘアーの大男は、ぎりっと歯を食いしばりながら、アキに向かってぐあっと吼えた。
吼えた……というよりも、怒鳴った。
「貴様ぁああっっ! 吾輩をバトラヴィア帝国掃討軍団団長ガルディガル・ディレイス・グオーガンと知っての狼藉かぁっ!」
「知らねえよぉクズがぁっ! ハンナを怖がらせるようなことを言いやがってっ! 後でお前はミンチにしてやるからなっ! 覚えとけっ!」
汚い言葉上等。くそくらえ。
そんな言葉が似合うような言葉を、鬼の形相で、そして指をさして怒鳴ったアキ。
それを見たベガは、ふっと、おかしくなって笑ってしまう。
キョウヤは首を振りながら……、あれはもうだめな領域だ。修復不可能のシスコンだと、頭の片隅で諦めながらも、ユースティス達から目を離さないように睨み続ける。
シェーラはそれを聞いて、小さく「バカみたい」と呟いた。そしてふっと、ハンナを見たとき……、目を細めた。それはやばいなと言う、小さな焦りだった。
――さっきの怒鳴りで震えが増した。
――メディックって聞いたから、サポートしてもらおうと思っていたのに……。
――あれじゃぁ、無理にサポートなんてさせられないわ。
――あのバカは馬鹿で怒鳴って周りが見えていない。ううん。あれは焦っているのかしら……?
――怒鳴ったら怖がるってこと、わかってないの……?
――兄妹なのに……。
そうシェーラは思って、キョウヤを見てふと思う。
こいつだけは、冷静だと。
そんなことを思われているともつゆ知らず、キョウヤはユースティスを見て「で? 答えは?」と聞くと、彼女はそれを聞いて間もなく、そして即答ともいえるような速さで彼女は答えた。
「大事よ。他なんて無意味。いらない。知ったこっちゃない。そしてその質問でさえも無意味。私はネルセス様がいればそれでいい。ネルセス様だけがすべてなの。ネルセス様万歳。ネルセス様以外クズ。いらない。ゴミに入って廃棄されろ。以上。他は?」
その言葉に、その無情な言葉に、自分はネルセスの言うことさえ聞けばいいような支離滅裂とした言葉。
それはある意味一途で、それはある意味洗脳めいた狂信的発想。
それを聞いて、バトラヴィアの兵士である――ガルディガルの言葉にも苛立っていたキョウヤにとって、怒りの導火線は、もう残り少ない状態だった。
キョウヤは槍を握る力を強くする。そして彼は……、にゅるにゅるとしならせる尻尾を、地面に向けて――
「そう言う奴らだから」
ばしんっと、苛立ちをぶつけるかのように、地面に向けていつものように叩きつけようとしたキョウヤだったが、その前にシェーラがそれを止める。
キョウヤは彼女がいる後ろを振り向き、シェーラはそんなキョウヤを見て、腕を組んで言った。
「そいつらの思想や思考は……、もう壊れているの。全部がネルセスのためなの。こいつらにとって、他なんて知ったこっちゃない。だから……説得なんて、甘いことは考えないで。今やるべきこと……」
シェーラはじっと、ユースティスとムサシを睨んで、彼女は剣を二本抜刀した。そして、しゃきりと両手にしっかりと、その剣を構えた状態で彼女は凛々しく、はっきりとした音色でこう言った。
「それは――そいつらを倒す事よ」
「……………………殺しはなしな」
そんなキョウヤの、怒りが収まったようない音色を放ちながら、キョウヤは槍をすっと、流れるように構える。それを見て聞いたシェーラはにっと笑って……「当然よ」と言い放った。
「二人ともぉ……、早くそいつらをころ」
「「倒すんだよ/のよ」」
「いやなに甘いことを」
「ハンナに嫌われても知らねーぞ」
「わかったっ!」
「はえーな。おい……」
アキも来て、ハンナを殺そうとするユースティス達を屠ろうと提案しようとした時、キョウヤとシェーラは何も相談していないにも関わらず、すぱりと声を揃えて突っ込んだのだ。
それを聞いたアキはぎょっとしてなんとか説得しようと、手振りを付け加えて説明しようとしたとき、ここ何日かでアキが何者かということをなんとなく熟知したキョウヤは、小さくぼそりと言うと、アキはすぐにライフル銃を構えて鬼のような目で言う。
それを見て聞いたキョウヤは、アキの視界の狭さにシスコン具合の異常性を垣間見て、引き攣りながら呆れた目で、突っ込んだ……。
それを見たシェーラは、なぜだろうか……、くすっと微笑んでしまう。
しかし、と思い……、シェーラはふっと背後にいるバトラヴィア兵を見た。
彼は下半身のキャタピラーを「ギャルルッ!」とフルスロットルさせながら待ち構えている。
この状態では、挟み撃ちになってしまうだろう。そう思ったシェーラだったが……。
「そこにいる御二方をどうにかするのですね?」
そう言ったのは、今まで放さなかったが、武器を構えたまま立っていたベガだった。彼女の言葉を聞き、そして行動を見て、キョウヤは横目で彼女を見て――
「おいっ! お前まさかと思うが……っ!」と聞くと、その言葉にベガは頷き……。
「ええ。この兵士は、わたくしたちが何とかします」と、はっきりとした音色で言った。
それを聞いて、キョウヤは何を言っているんだと言わんばかりに槍を構えながらも彼女にこう問いただした。
「んな無謀なことを考えるなって! 今は一人で――」
「言いましたわ。わたくし達で、この男を何とかすると」
その言葉を聞いて、キョウヤははっとして辺りを片目だけで見た。見える範囲ではあるが……、そこにいるべき人物達がいなかったのだ。
シェーラも、アキも、ヘルナイトも見て――ガルディガルはその言葉にふんっと鼻で笑いながらベガに向けて指をさし、「ぐあはははっ!」と笑いながら馬鹿にするようにこう言ったのだ。
「ほざけ元凶の使いよっ! 貴様の仲間は、吾輩が屠ったではないかっ! よく見ろ! 吾輩の周りに、無残にも無様にも転がって死体と化して……、んぅ?」
ガルディガルは周りを見て、ようやく理解した。というか、遅い理解であった。
彼の周りにマズガ達がいなかったのだ。誰も倒れていない。
それを見て、彼は「はて?」と、頭を指で掻きながら、「どこに行ったのだ?」ときょろきょろと辺りを見回しながら探していると……。
――ドォンっという爆発が。
――バチィっという電気の音が……。
「あがぁっ!?」
と、ガルディガルの背後から、ガルディガルの背後を襲うように、彼の背後が赤と黄色の光に包まれた。
それを見て、アキとキョウヤ、シェーラが驚いた眼をし、ベガはくすっと優雅に微笑みながら……、彼女は「ね?」と首を傾げて言った。
ざざっと、彼女の前に立って、彼女を守るように各々の武器を構える――
レイピアを構え、フェンシングのような構えで立っているギルディと。
両手に大きな機械の手袋を嵌めて、そこから煙を放っているマズガ。
そして、ずんっと、彼らの中心に立ったオイゴ。それを見て、彼女は大剣を構えながら――
「わたくし達四人で――お相手いたします。助太刀無用ですわ。この兵士は……、否、バトラヴィア帝国は、ずっと探し続けた人達でもありますの」
その言葉に、キョウヤはふと、何を言っているのだろうと思っていたが、ベガがヘルナイトの方を振り向いて、彼女は彼に向かって言った。
「鬼神様。あなた様はそこにいる大切な方を守ることに専念してくださいな。互いにあなたの助太刀など無用でしょう」
ね? と、彼女はアキ達を見る。アキはそれを聞いて、こくりと頷きながら――
「ああ、こいつらの相手は……、任せろ」
と言って、アキはヘルナイトの方を向いて、彼は言った。
「ハンナを――頼む」
そして、すっと――驚くヘルナイトをしり目に、彼はユースティスとムサシを、キョウヤとシェーラと共に武器を構えて、臨戦態勢で睨みながら、彼は言った。
「今までは、ヘルナイト達の戦いに対応していたけど……。この戦いだけは違う。教えてあげるよ。これが――プレイヤーの戦い方だってやつを、ね」
そう言って、アキ達は武器を構える。
ユースティスとムサシは、にやりと狂気に笑みでけらりと笑いながら、にゅるっと、ダッと駆け出す。
それを見たヘルナイトははっとして――
「待――っ!」
「湖」
ヘルナイトの言葉を遮って、ベガはヘルナイトに向かって言った。
彼女は言う。
「湖の、瘴輝石達を……、守ってほしいのです。あなたにしかできません」
お願いします。そう目で訴えるベガ。
それを見て、ヘルナイトはふっと己の腕の中で震えているハンナを一瞥し、ぐっと意を決したように頷き……。
「助太刀はできない。それでもいいな?」と、ベガに聞いた。それを聞いて。ベガはくすっと微笑みながら……「ええ」と頷き――
「最初から、そうしてほしいものですわ。おいしいところを奪ってしまうお方には、すこし外野で戦いを見てほしいものですわ。わたくし達の戦い方を」
とすこし小馬鹿にするように言う。
しかし、彼女自身、馬鹿にはしていない。強いて言うのなら、ハンナを見ての言葉。
誰かが傍にいてやった方がいい。それに適しているのは――ヘルナイトだけだと、ベガは見解したのだ。
だからこそ、さっきも言ったのだ。大切な方と言って――そして湖に沈んでいる石や、そして上空で浮いていた依り代の配慮。それは……、彼女なりの、同胞を思っての言葉でもあった。
それを聞いたヘルナイトは、その言葉を肯定として解釈し、頷いてから――
ぐっと彼女を抱えたまま。湖に向かって駆け出す。
ヘルナイトに対して、そのような言葉をお願いをすること自体……、失礼極まりないのだが……、彼女は頼んだ。
きっと、できると思ったから――
ヘルナイトなら、ハンナのアークティクファクトにつけられた、その石なら――
ヘルナイトはばしゃりと、湖の中心に立って、そっと腕に収まっているハンナを見て、大剣を元の鞘に戻して、そっと、彼女の瘴輝石に触れる。
こつんっと、指先で触れて――
「――すまない」と凛としているが、申し訳なさそうに謝って――唱えた。
「マナ・イグニッション――『癒しの台風』」
唱えた瞬間――ブワリと、ハンナとヘルナイトを取り囲むように出てきた台風。
その台風は、アルテットミアよりは規模が小さすぎる。しかしその規模でいいのだ。
ハンナと自分、そして瘴輝石を守る範囲。上の憑代の木の実を守るくらいの規模で、包むように取り囲むだけでいいのだ。
大きすぎたら味方が戦いずらくなり、小さすぎたら――もしかしたら瘴輝石を傷つけてしまう。
それを踏まえて、ヘルナイトは使う。瘴輝石の力を――エディレスの力を使う。
二人や石達を取り囲むように、湖の中と外を境界線にして渦巻く台風を見て、シェーラは見上げながら「すごいじゃない」と驚きと感動が混ざった声を上げた。
それを聞いていたアキは――ジャキリとライフル銃を構えながらこう言った。
「まぁ――初めは俺達も驚いた。天変地異かと思ってね」
「そう。まぁ、ゲーム側と言うか、こっち側はそうかもしれないわね」
シェーラはすっと前にいるユースティスとムサシを見、フゥッと息を吐く。
キョウヤはシェーラに向かってこう聞いた。
「で? お前なんだか『ネルセス・シュローサ』のこと知っているけど……、それって何か? 弱点とか、知っている方か?」
「まぁ……」
と、彼女は肩を竦め、そして冷静にこう返した。
「一部ね。で、その一部の中に一部がこいつら。毎回対峙しているから覚えてしまったわ」
「それは御愁傷様。そして――」
とアキはしゃがみながら、尻尾をしならせるユースティスと、肩をグルングルンッと回し、肩を温めているムサシを見ながら、彼はキョウヤとシェーラに向かって言った。
「それじゃ――PVPのお約束……、弱点提供お願いします」
「ええ」
アキの言葉に、シェーラは迷いのない目で頷く。
それをじっと見ていたベガは、目の前にいるマズガ達に向かってガルディガルを見ながら、彼女は言った。声を張るように、お腹から声を出して、そして彼女は三人に言った。
「ギルディ。マズガ。オイゴ。お相手はバトラヴィア兵ですわ。しかし臆することはありません。そして、三つの約束――覚えていますわね」
そう彼女が聞くと、各々……、まるで口裏でも合わせていたかのような口ぶりで――
「一! 悪しきものなら逃げずに戦うっ!」
マズガがガコンッと自分の拳を勝ち合わせながら言い。
「二。己が力を過信しない」
ギルディがすっとレイピアを自分の目の前に向けて、そのまま構えながら言い――最後に……。
「んがっ!」
と、オイゴは言うが、諸事情により彼自身言葉を発することができない。しかし、それを『三』と汲み取った二人は――声を揃えてこう言った。
「「人を殺さないっ!」」
その言葉を聞いて、オイゴは頷く。そして――ベガも頷いて……。
すらりと刀を引き抜いて、それをガルディガルに向けて指をさすように――彼女は挑発的な笑みではあるが、敢えて挑発しない言葉でこう言ったのだ。
「元特攻隊――参りますわ」
その言葉にガルディガルは下半身のキャタビラを『ギャルルルルッ!』とふかしながら、大声でこう言った。
「ぐあはははっっ! 至高なる万物の種族――人間族に刃向う瘴気の死徒っ! ここで殺して、晒し者に処するわっ!」
◆ ◆
幻想の地で――二つの喧嘩祭りが始まった。
これが一体、どういった展開になるのか……、まだ誰にもわからない。
勝つのか、負けるのか、それとも……、引き分けか。その予想は誰にも予測できないだろう。




