PLAY24 幻想の地での喧嘩祭り③
それから、私はアキにぃに「大丈夫だよ」と言った瞬間、アキにぃは元に戻って笑顔で言ってくれたので、アキにぃの心配は無くなった。
キョウヤさんはそれを見て怪訝そうにアキにぃを睨んでいたけど……、私はそれを見てどうしたんだろうと思って見ているだけだった……。
その後すぐマズガさんはまたすぐどこかへ行ってしまった。
ベガさん曰く……、なんでもいつもの日課らしくて、ギルディさん、オイゴさん、マズガさんはまたすぐどこかへ行ってしまった。
私達も行こうとしたのだけど……、ヘルナイトさんが辺りを見回しながら私達を止めて、こう言った。
「見られているようだ。どこからかはわからない……。今は迂闊に動かない方がいいだろう……」
その言葉を聞いて、ヘルナイトさんのその気配が無くなるまでの間、その場所で待機をすることになった私達。
アキにぃはそれを聞いて「そんなことを気にする暇はないだろう?」と肩を竦めながら言うけど、シェーラちゃんは違った。
「アクアロイアの兵士か、あるいは『六芒星』の可能性があるわ。『ネルセス・シュローサ』だってことも想定したら、私達が向かう先を気取られてはいけない。今はここで一休みしましょう。そこにいる蜥蜴の男のためにも」
そう言ってキョウヤさんを見ると、なんだろう……。腰に手を当てて項垂れながら溜息を吐いているキョウヤさん。
「キョウヤ? どうした?」
「うっせ、シスコン……ッ!」
あ、キョウヤさん怒っている。尻尾がもうバシンバシンッとしなっている。
それを見ていたシェーラちゃんも……、「あいつ怒っているわね」と頷きながら言った。
私はそれに対して、驚きながら頷いた……。
内心、すごい洞察力……、と思いながら……。
「すまないが……、少しの間」
「ええ。先ほどからわたくしも感じていました。幸い。こちらの話は聞き取れていないようですし……、少々お話もしたいと思っていましたの。特に、女性同士で――」
ベガさんはにこっと上品に微笑みながら、私達女二人を見て言った。
結局なのだけど、その気配が消えるまで私達は待機を強いられてしまった。
しかしこれは好都合な話だったと思う。
ヘルナイトさんはその場所で気配を感じながら周りを歩いて、散策しているように歩く。
キョウヤさんは胡坐をかきながら、ふぅっと息を吐いてリラックスしている。
アキにぃはライフル銃の手入れをしていた。
そして私達女三人は、湖の近くで座っていた。私が真ん中だとすると、左がシェーラちゃん。右がベガさん。
透明度がすごくて、その湖を見ながら近くでピョンコピョンコと跳んでいたナヴィちゃんを見て、私は控えめに微笑みながら「楽しい?」と聞くと、ナヴィちゃんは「きゅぅ!」と鳴いてピョンっと跳ねた。
それを見た私はくすっと微笑んでその頭を撫でる。
ナヴィちゃんはくすぐったそうにリラックスしながら「きゅきゃ~……」と鳴いて、ふわんっとした表情でその手に身を預けていた。
「それで、聞きたいことって何?」
シェーラちゃんは体育座りをしてベガさんに聞いた。私はベガさんの顔を見ると、ベガさんは湖に足をつけながらこう言った。
「それは簡単な話で、あなたはここに来て、なぜあのご神体の近くにあの子達……、いいえ、あの瘴輝石を置いたのですか?」
その言葉に、シェーラちゃんはむっとした顔になって、声を荒げながらこう言った。
「それはっ。あの湖に入った状態だったら、誰かに持ち去られるかもしれないと思って」
「なぜ?」
「盗まれたら嫌でしょうがっ。換金されたり、あとは悪いことに使われたり」
「わたくし達は」
ベガさんは平常な声だけど、声量を上げたような声で、私達に……、特にシェーラちゃんに対してこう言った。
「いいえ、わたくし達だなんて言葉は不躾であり、この地にいる聖霊族にとって失礼極まりませんわ。ですが、聖霊族は元々、人のためにその力を尽くす一族です。死霊族はその意志に反した存在」
「!」
それを聞いて、私はヘルナイトさんの言葉を思い出す。
聖霊族は、人間が大好きだから……、その力を、魂を人間のために使うと……。
シェーラちゃんはそれを聞いて、むっとした顔でこう反論する。
「だから、それがどうしたのよ……」
「あなたが行っていることは、聖霊族にとって冒涜行為ですわ」
「ぼ、ぼうと……っ!」
その言葉には、静かに怒りを含ませたようなそれで、ベガさんは私を挟んでシェーラちゃんを見た。
シェーラちゃんはそれに対して、ベガさんに突っかかるようにしてこう声を荒げた。
私の肩を掴んで寄りかかったので、私は「わ」と驚きながらよろける。
それを見たナヴィちゃんは、ぴょんっと私に膝に乗って避難した。
「悪いやつらに使われたらどうするのっ!? 現にアクアロイアではその瘴輝石の売買までされているっ! それだったら使わない方がましだと!」
「売買は、確かに許されませんわ。しかし、この場で置き去りにされている瘴輝石……、もとい……、聖霊族の気持ちを考えたらどうですの?」
「っ」
「………あの」
「「!」」
私はやっと、口を開いて二人に言った。
すると二人は私を見降ろし、シェーラちゃんはすぐに私から離れて「ごめん」と、小さい声で謝った。それを聞いた私は首を振って控えめに微笑む。
大丈夫だよ。と言うように。
私はベガさんの方を見て、そっとその鎖帷子に嵌められている瘴輝石に触れて言った。
「実は……、さっき言えなかったんですけど、私」
「わかっていますわ」
と言って、その石が嵌められているところを見て、ベガさんは言った。
「その石、エディレスの瘴輝石でしょう? 見るからに、あなたにとても感謝しているようですわ」
一目見てわかりましたわ。とベガさんは言った。
それを聞いた私は、驚いて目を見開いたけど、シェーラちゃんはそんな私の肩を掴んで、その石を凝視した後……。
「あんた……、それ……」
「あ」
すごく、低い声だけど、驚いているようにも聞こえるそれ。
それを聞いた私は、一瞬考えたけど……こくりと頷いた。
シェーラちゃんは驚いた眼をしてそれを見たけど……、ベガさんはそれを見ていたのか……。
「わたくし達は死霊族。死んだ人間の魂が瘴輝石に入った存在で、結局は魂だけの存在。肉体となる憑代が生きていれば、その肉体の持ち主の魂とせめぎ合う。それで勝てば肉体が手に入る。それを延々と繰り返す……。まさに外道の所業。ですが、どういった原理でそうなったのか、今でもわからないのです。ただ、未練があってなのか。それとも……、怨みがあってなのかは……。生き過ぎたわたくし達には、わからない結果ですわ」
「……………………………………」
「……………………………………でも」
私はそれを聞いて、きゅっと胸の辺りに握り拳を作って黙っていると、シェーラちゃんはじっとベガさんを見てこう聞く。
「それなら、なんで生きているの?」
その言葉に、ベガさんは自分の体をぎゅうっと抱きしめながら、悲しい音色でこう言った。
「この体はすでに、年齢三百九十六歳。つまりはもう人間の寿命をとうに超えてしまっている身体。既にガタがきているのです。死体だから……、もうこの体の持ち主に語りかけることはできません。しかし、わたくしはこの体の人物の記憶を見て、生きて、わたくし達なりに恩を返そうと、そう思ったのです」
「思った……?」
その言葉に、私はベガさんの顔を覗き込むようにして聞くと、ベガさんは自分の頭を指さしてこう言った。
「わたくし達はほかの人間の体を乗っ取る時、その時人間だった人物の記憶も共有されます。まぁ、他人の体を乗っ取っているんです。その時共有された記憶と魂が混ざって、自分でも理解できないようなことをしてしまうことがありますの。すぐに慣れますが……」
「慣れちゃダメでしょ」
「ふふ、そうですわね……。当り前な話ですが……、その記憶を見て、わたくしは思ったんです。なぜ――死霊族は人を殺しているのかと……」
些細なものでしょう? と、ベガさんは自嘲気味に笑って、そして続けてこう言った。
「その些細な疑問は、死霊族にとっての綻びとなり、今まで正しいと思っていた白が、黒という疑問を抱き、わたくしはあのお方に聞きましたの。『なぜ、人を殺してまで、わたくし達は生きているのですか?』と……」
!
私はそれを聞いてはっとする。
クロズクメが言っていた、あのお方のことなのかな……?
そう思ってベガさんの話を聞く。
「聞いたところで、何も得られず、どころか放り出されて殺されそうになると言った結末。ですが……」
ベガさんはふっと微笑みながら、まんざらでもない笑みでこう言った。
「これはこれで……、いい機会だと思いましたの」
「いい機会? 人のことを知るとか、そんな人生旅みたいな?」
シェーラちゃんが少し嫌味っぽく言ったのか、ツンっとした顔でそう言った時、ベガさんはくすっと上品に微笑んで――
「それも然りですが……、わたくしは知りたくなったのです。自分のルーツと言いますか、死霊族のルーツ……、大まかに言えば」
と言って、ベガさんは口を開いてこう言った。私達が一瞬、疑問を抱いたけど、この疑問を口にすることができないような、今まで考えたことがなかったような……その言葉を……。
「なぜ……『終焉の瘴気』が現れたのか。です」
□ □
「なぁにこそこそしてんのさぁ」
「「っ!?」」
「っ! 下がって!」
突然。
というか、私達はいつも不意打ちを食らう気がしてきた。でもそんなことは今考えても仕方がない。
突然私達の目の前に来た太い何か。
それはキョウヤさんのようなしなっているもので、キョウヤさん以上に太くて長いものが、私達を叩き殺そうとして、ゴッと風が来るくらいの勢いで来た。
ベガさんは私達を抱えて、湖に足をつけていたのに、すぐに立ち上がって後ろに下がろうとしたけど、『ズッ』と何かが擦れる音が聞こえた。
私はその音がした下を見た。ベガさんの足は濡れていたから、拭かずに立ち上がったせいで滑ったのだ。ちょっとしたひと手間を抜いたせいで、今ピンチに陥っている私達。
その太い何かも私達ごと吹き飛ばそうとして来る。
でも――
シェーラちゃんは持っていた剣のうちに一本を引き抜き、それをぴっと迫り来る何かに向けた瞬間――
「属性剣技魔法――『豪焔刺突』」
ぽわっと剣先が赤く染まって、その太くてしなっている何かに当たった瞬間。
ボォンッッ! と、花火に比べたら華やかさがないけど、弾けるように爆破した剣先のそれ。
それが当たって、しなっていたそれがぐわんっと上に向いて、ぶんぶんっと当たってしまい焦げたことろの熱を冷まそうと振っていた。
「ぎゃあああああああああああっっっ! あっつうううううういいいいいいっっ!」
遠くからそんな叫び声が出ているのを聞きながら、私はそれを見て言葉を失った。
私達に襲い掛かってきたのは……、キョウヤさんと同じ尻尾だけど、ピンク色の鱗が印象的な……、蜥蜴ではない。それは……。
蛇の尻尾だ。
「あちちちちちっ! ったくぅ! なんでいつもいつも私はあんたのような小娘の尻尾を追いかける仕事ばかりなのよぉ! 尻尾焼かれっぱなしだと焼き蛇になるってぇ!」
と言いながらしゅるるるるっとその尻尾を引いて行く誰か。ベガさんはそのまますたっと地面に着いて――シェーラちゃんを見てから……。
「忝いですわ」と頭を垂れてお礼を言った。
それを聞いてシェーラちゃんはにっと挑戦的に笑って……。
「そう言った言葉、私イギリス人だけど好きよ」
と言ったシェーラちゃん。
それを聞いた私は、シェーラちゃんはイギリス人なんだと思いながら、ベガさんに降ろしてもらって、二人は前に出て、シェーラちゃんは剣を、そしてベガさんは大剣を引き抜いて、それを何と片手で構えながら構えた。
にゅにゅっ。すごい怪力だ……っ。
そう私は内心、驚きながらそれを見ていると……。
――ごんっ!
「!」
突然耳に入ってきた鈍器を殴るような音。ううん。違う。これは……。
金属に向けて殴った音?
その音を聞いた私は、そのまま首を左に向けて動かすと……、そこにいたのは……。
私をかばいながら守っていたヘルナイトさん。大剣を盾にして持って、何かと闘ってる。
そしてヘルナイトさんの左右には――槍を持って構えているキョウヤさんに、アサルトライフルを持って構えているけど……、片腕がだらんっとぶら下がっている状態になってるアキにぃがいた。
「ヘルナイトさん! キョウヤさん! アキにぃっ!」
私は三人の名前を呼んで、すぐにアキにぃに向けて手をかざして――
「『部位修復』ッ!」
と言った瞬間、白い靄がアキにぃを包み込んでいく。
それを見たアキにぃははっとして折れているであろうその腕を見て、私がいる背後を振り返った。
それと同時に白い靄が消えて、修復完了の合図を示した。
アキにぃはすぐに腕を見て、ぐっぐっと握ったり開いたりを繰り返し、ぎゅうっと折れていた腕の手を握って……。
むあっ。
「?」
なんだろう……。今一瞬だけど、アキにぃの体からもしゃもしゃが出てきた……。
それも見たことがないもしゃもしゃ……、緑や青、赤や黒が混ざった……、初めて見るもしゃもしゃ。
そう思っていると……。突然アキにぃは私に背を向けて――
「ハンナは隠れててっ!」と言った。
それを聞いた私は、驚きながらも、思考が定まっていない中で、アキにぃに聞いた。
「ど、どうし」
「敵! しかもプレイヤーで」
アキにぃは早口で、短い言葉で何かを言おうとしたとき……、私には見えていた。
アキにぃはしゃべることに夢中だったのか、一瞬判断が遅れた。
だって、目の前に一瞬の隙に……、つぎはぎの体の男がアキにぃの前に出て、ぐっと握り拳を作った右手を、振り降ろす構えで、アキにぃの頭をかち割る構えで立っているだなんて、誰も予想だにしなかっただろう……。
でも……、それを見てか。
「――ふっ!」
その拳は振り降ろされると同時に、キョウヤさんの横の槍の攻撃が男の腕にゴンッとあたり、軌道が逸れて、アキにぃの左脇に、その拳が振り降ろされ、そして地面が盛り上がった。
――めごっ! と、それは大きな轟音で、それくらいの威力で、振り降ろして殴ろうとしたのだ。
その場所を見て、私は絶句し、シェーラちゃん達もそれを見て声をだしことを忘れ、アキにぃはヘルナイトさんに引っ張られて何とか命を取り留めた状態で、それを呆然とした目で見ていた。
ヘルナイトさんとキョウヤさんは、未だに冷静に武器を構えながら……、目の前にいるつぎはぎの男に向かって聞いた。
「お前……。誰だ」
そんなキョウヤさんの言葉に対して、目の前にいた痩せていたけど、意外と筋肉が引き締まっている半裸で、顔や腕が継ぎはぎだらけの、頭にはねじが刺さっているジーパンと皮の靴を履いた、よく映画とかで出るゾンビのような姿をした大人の男の人が、ヘルナイトさん達の前にいて、「けらけらけら」と引き攣った笑みで笑いながら立っていた。
それを見ていたキョウヤさんは、小さく舌打ちをしながら「ダメだ。こりゃ完全にぶっ飛んでるな」と言った。
それを聞いて、ヘルナイトさんは冷静に「だが、お前たちの知り合いでは」と言いかけた瞬間。キョウヤさんはその言葉を無理やり遮るように「違いまっすっっっ!」と叫んだ。
必死な形相で……。
確かに、お知り合いじゃないけど……、そこまで否定することかな……?
そう思っていると、シェーラちゃんはそのつぎはぎの人を見て、こう叫んだ。
「そいつは『ネルセス・シュローサ』の幹部よ!」
「はぁ!? こんなぶっ壊れ野郎がっ!?」
その言葉に驚いたキョウヤさんは、その人を見て、指をさしながら突っ込むと、シェーラちゃんは頷いて続けてこう言う。
「その男はアンデッドのムサシ! 常人じゃあり得ない筋力の持ち主! そいつは外国でも指名手配されている……、組織の掃除担当!」
「掃除担当って……、そっち路線なっ!」
「そっち? とは……」
「見た通りのそれだよっ!」
……さっきからアキにぃは何も喋らない。今喋っているのは、キョウヤさんとヘルナイトさんだけ。一体どうしたのだろう。そう思っていると……。
「ムサシィー。あんたも限度考えなよー」
「っ! あんたは……っ!」
シェーラちゃんが声を荒げて言った。それを聞いて、私はシェーラちゃんが見ている前を見た。そこにいたのは……、MCOでも見たことがある姿のショートヘアーの女性だった。
上半身は普通のショートヘアーで、兵士が着るような簡素な鎧に、長袖を着ているつりあがった目が印象的な女性。でも……、下半身は異常で、足がない。じゃない……。そこは、蛇の尻尾だったのだ。ピンクの鱗がすごく目立っているその尻尾。
さっき私達を襲おうとした尻尾と同じだ。
……焦げているところがあるから……。
その人はきっと、MCOでも多かった種族……、魔獣族ラミアだ。
メグちゃんから聞いた話だと、その種族は女限定の種族で、男限定の種族もいるようだ。その中でも最も多い種族が、ラミアなのだ。とのこと……。
その人はシェーラちゃんや私、あろうことかベガさんをじとっと見て、すぐにむっとした顔をして、指を指しながらこう言った。
「むかつく……、私にはないものを持っている女達がむかつくわ……、あぁもぅ! なんでネルセス様は私にこんなやつらの抹殺を命じたのかよくわからないっつーのっっ!」
「っ! ネルセス……」
その女の人の言葉を聞いた私は、まさかと思い、シェーラちゃんに聞くと、シェーラちゃんは頷きながら
「そうよ! こいつも『ネルセス・シュローサ』の幹部の一人! 嬲り殺しが大好きな拷問嫉妬女ユースティスよ!」と言った。
「拷問嫉妬女……」
……今少し思ったこと……、シェーラちゃんの説明に、ちらちらとシェーラちゃんの感情も入っている気がするけど……。今はそんなことを考えている暇はない。
私は手をかざしてみんなのサポートに徹していると……。しゅんしゅんっと、尻尾を鞭のようにしならせていたユースティスさんがこう言った。
「ったく……、ネルセス様の命令じゃなきゃこんなところに来なかったのになぁー。まぁ、簡単な仕事だからいいけど。ねぇ、単刀直入に言聞くけど……」
ちらっと私を見て――その人はこう言った。
「あなた――ハンナでしょ?」
「っ!?」
その言葉に、みんなが驚いて、私が一番驚いた。ユースティスさんは私の表情を見て、にっと、笑って……、狂気的に、ホラーのような狂気的な意味で私を見て……、尻尾をしならせてこう言った。
「あんたは邪魔なの。だから、ここで――」
殺す。
最後にハートマークが出そうな言葉を言った瞬間――
「っ!?」
私の視界は揺らいだ。痛みはない。でも、温かい。冷たいのに温かいっていう矛盾が生じた。私は真っ白になって、一瞬記憶が飛んだ瞬間、はっとして上を見上げると……。
「ハンナ――無事か?」
その言葉を言ったのは、大剣を片手に私を反対の手で横抱きにしていた――ヘルナイトさんだった。
私はそれを見て、つい安心してしまったのか……、微笑んで「うん」と頷いてしまった。
「……熱いわね」
「……紳士で、騎士の鑑ですわね」
そんな二人の言葉を聞くことすらできない。というか聞こえなかった。
でも、それを見て、私がいた場所に蛇の尻尾を叩きつけた場所を見たユースティス。
そこは地面がひしゃげて、もう岩の小さな壁ができている。それを見て……、ユースティスは私を睨んで……。
「ちょっとおおおおっっ! なんなのよそれ! 私だって一度もされたことがないっ! 羨ましい! なんであんたのようなブスが!? 羨ましい! 羨ましいっ! 羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましっっ!」
バリバリと頭を掻きむしりながら、鬼の形相で私に向かって怒鳴っているユースティス。
私はそれを見た瞬間、ぞぞっと背筋を這う何かを感じて、そっとヘルナイトさんの鎧の胴体に手を触れた。
触れただけでは何も起こらないけど……、それでも気休め……、にはなる。と思う。
そう思っていると、ヘルナイトさんは私を抱く力をぐっと込めて、アキにぃやキョウヤさんがいる方向を見て叫んだ。
「二人とも――すまないが」
「言いたいことはわかったぜ!」
ヘルナイトさんの言葉を聞いて、キョウヤさんは振り向かずに槍を持っていた右手を上げて、そしてユースティスがいる方向をも見て、アキにぃもアサルトライフルを構えながら、余裕のない声で、こう言った。
「――この二人を何とかしよう」
その言葉に、シェーラちゃんは力強く頷いて……、もう一本の剣を引き抜いた後、彼女はぴんっと背筋を伸ばしてこう言った。
「そうね。この二人は幹部でねちねちしているから、ここで少しお灸をすえないとね」
「お灸とか言うな。あとお前の私情も混ざってんぞ」
あ、キョウヤさんが言ったってことは……、私の思っていたこと、当たった。
そう思っていると、ムサシはたぁんっと跳躍して、ユースティスがいるところに着地して「けたけたけた」と笑いながらぎちちちっと口裂け女のように、口が裂けるのではないかと思うくらい笑って拳を構えていた。そしてユースティスは尻尾をしならせながら私達に向かって――
「ボスの命令により、メディックハンナ! お前をここで殺すっ!」
と叫んだ。それを聞いてみんなが武器を構えて、ベガさんも一緒に構えて……。
「助太刀いたします」と言った。
私も手をかざして、ヘルナイトさんの腕の中で援護をしようとした時……。
ばがぁんっと――大きな轟音を聞いて、私は後ろを振り返った。
そこにいたのは、木を薙ぎ倒し……、轢き潰しながら来た上半身黄色と銀色が混ざった鎧を着た大男なんだけど……、下半身がなぜか『ぎゃこぎゃこ』と音を立てて動いているキャタピラのような機械の下半身を持った、筋骨隆々で毛が濃いアフロヘアーのおじさんがマズガさん達を吹き飛ばし、「ぐあははははっ!」と哄笑しながらこう叫んだ。
「帝国に逆らう者を見つけたりっ!」




