PLAY23 アクアロイアの現実と謎の少女③
それから私達は……とある小屋に入っていた。
「汚くてごめんなさいね」
そう言って、私達をここまで連れてきたその子はテーブルの椅子の私達を促す。ヘルナイトさんも一緒にだ。
その小屋の中は確かに埃っぽかったけど、生活感が溢れている場所だった。
強いて言うなら汚なくない。
たった一室しかないその空間にベッドに食卓テーブルとイス。あとは流しとソファ。
ミニマリストとまでは言われないけど、最低限の物しか置いていない。
それだけのものだったけど、それだけあると生活感が出ていると感じてしまう。
私とアキにぃ、キョウヤさんは椅子に座ろうとし、ふわふわの子もぽすんっとテーブル乗ったけど……、ヘルナイトさんは手をすっと出して……。
「私は立ったままでいい」と言った。
それを聞いたその子は『ふーんっ』と言ってからはっきりとした言葉でこう言った。
「確かに、図体がデカいあなたが座ることはできなさそうね。でもお茶は出すわ」
ツンッとした言い方だけど、くるっと流しに向かって手をひらひらと振って行ってしまったその子。
かちゃかちゃと引き出しから湯飲みを取り出して、薬缶に……。
「属性剣技魔法――『水剣』」
と言って、剣を引き抜いてその剣先に溜まった水を薬缶に入れる。こぽこぽと入って行くその光景を見ながら私達はじっと見ることしかできなかった。
次にその子は薬缶を剣を持っていない手で掴んで持ち上げた後、その剣の先を薬缶の底に『こつんっ』とつけて……。
「属性剣技魔法――『火剣』」
ブワリと赤くなる剣。その熱により薬缶の口からふわりと湯気が出てくる。
その子はその湯気がだんだん白い霧と言うよりも、白くて触ると即火傷を負いそうな蒸気を出すところを見て、「よし」と言いながら剣を収めて、湯飲みにこぽこぽと入れていく。
それを見ていた私達は……、呆気にとられていた。
「……スキルって、あんな風に使うこともできるんだな……」
すげえな……。と、キョウヤさんは小さく呟いて、私達はそれに対してうんうんっと頷いた。
「何言っているの」
その子はお盆に湯飲みを五つ乗せてきて、私達の前にことんっと湯飲みを置きながら、全部置いたところで自分も椅子に座って私達を見て言う。
「だってここ、水道もガスも電気もないもの。その時スキルを使うとすごく便利なのよ。使ってないの?」
「……いつもは、ギルド住まいで」
そんなことをアキにぃが言うと、その子は驚きながらこう言った。
「へぇー。ギルドっていくつもあるのね」と……。
その言葉に、私達は首を捻って、何を言っているのだろうと思ってしまった。
それを見て、その子ははっとして、頬を指で掻きながら……。
「そう言えば挨拶が遅れたわ。私はシェーラ。人魚族とマーメイドソルジャーの魔人族。ソードウィザードよ」
その子――シェーラちゃんは右手首を見せながら紹介した。それを聞いて、私も自己紹介をした。
「あ、私はハンナです。天族の……、メディックです」
「アキ。エルフのスナイパー」
「オレはキョウヤだ。蜥蜴族のランサーだ」
「そう、よろしく」
とシェーラちゃんは頭を下げて言う。ツンっとした顔は崩さないけど……、ヘルナイトさんを見てシェーラちゃんは言った。
「そして……、E……、じゃないわね。『12鬼士』のヘルナイト。よろしく。私はシェーラよ」
「ああ、よろしく」
ヘルナイトさんも頭を下げたところで、シェーラちゃんは私達に聞いた。
「単刀直入で聞くけど、あなた達はこのアクアロイアに来た理由は、なに?」
その言葉に、私達は互いの顔を見て、頷いて――私がトップバッターのようにシェーラちゃんの顔を見て、口を開いた。
「実は……、信じられないかもしれないけど……。私達リヴァイアサンを浄化しに来たの」
その言葉に、シェーラちゃんは怪訝そうに眉を寄せて……、少し怒っているような音色で……。
「浄化? 討伐じゃなくて?」
「えっと、実はね……」
私はシェーラちゃんに、『終焉の瘴気』のことや、『八神』のことも全部話した。
それを聞いていたシェーラちゃんは、ふぅんっと頷きながら聞いていたけど、その中に真剣さも含まれてて、気怠そうには効かずに聞いてくれた。
話を終えて、アキにぃはシェーラちゃんに聞いた。
「だから、俺達はリヴァイアサンを浄化しないといけない。それはクリアするためでもあるけど……」
その話を聞いて、シェーラちゃんは腕を組みながら「そうなの」と言って。すぐに私達を見て――
「でも……、リヴァイアサンに会うのは至難かもしれないわね」
「? 至難……?」
私は疑問符を頭に浮かべながらシェーラちゃんに聞く。それに対してキョウヤさんも疑問に思ったらしく……、キョウヤさんはシェーラちゃんに聞いた。
「何でそうはっきりと言えるんだよ。てか最初から思っていたんだが……。この国はどうなってんだ」
その言葉に、シェーラちゃんはうーんっと唸りながら、ドレスのポケットに手を突っ込みながら、とあるものを取り出した。
それは――魔導液晶地図。
久し振りのそれを見た私は、シェーラちゃんがそれを開いて、地図を出した後、それをくるりと回して、私達に見せるようにテーブルに置いた。
椅子から立ち上がってそれを見る私達。ふわふわくん (仮称) も見て、ヘルナイトさんも覗き込んだ。
魔導液晶地図に出ていたのは――菱形の大地だった。上半分が茶色の大地。下が緑の大地となっているもので、諸国と言われても諸国に見えない大地だった。
「アクアロイア諸国って、菱形だったんだな……」
キョウヤさんがそれを見て驚きながら言うと、ヘルナイトさんがその大地を見てこう言った。頭に手を抱えながら……。
「この大地は、色んな小さな国が長い年月をかけて大きく形を形成した、島の集合体の島なんだ」
「あぁ。火山噴火による大地の増加か」
アキにぃがはっとして言うと、ヘルナイトさんは頷く。
「そうだ。そしてその噴火を利用した観光地が、下の緑の大地……『水の大地』アクアロイアのユワコクと言うことだ」
「噴火を利用って、日本と同じことをするんだなぁ……」
キョウヤさんがそれを聞いてうんうんっと頷いていると、シェーラちゃんはとあるところを指さした。
そこは、海に近い、左下のとある森。そこを指さして、シェーラちゃんは言った。
「ここが今現在、私達がいるところ」
と言って、そのままつーっと指をとあるところまでなぞって進めていくと、灰色の大地のところで止めた。そこを指さして、シェーラちゃんは言う。
「この灰色の大地――拡大すると水の都市アクアロイア。この街の祭壇に、リヴァイアサンが祭られているわ」
「……ダンジョンとかじゃないんだな」
そう言ったキョウヤさんの言葉に、シェーラちゃんは『へぇ』と言いながら――
「サラマンダーやライジンは、ダンジョンにいたの?」
「うん。二対ともダンジョンの最深部に」
「王道ね。でもこのリヴァイアサンだけは唯一の切り札だから、アクアロイアの王……『弱肉の臆王』は重宝しているってこと」
「………王様が?」
その言葉に、私は疑問を抱いた。
確かに『八神』はすごい存在だけど、その存在を重宝してまで隔離する必要があるのか?
そしてなぜ王様はそんなことをするのか。
その疑問は、アキにぃとキョウヤさんもしていたらしく……、二人はシェーラちゃんを見てこう聞いた。
「なんでそんな風に? 普通のダンジョンの奥にいればいいんじゃ……」
「それが駄目なの。というか、アクアロイアの王様は、とある目論見を立てているのよ……、あるパーティーの入れ知恵によってね……」
腕を組みながら顔をしかめるシェーラちゃん。それを聞いたヘルナイトさんは、シェーラちゃんを見て「入れ知恵?」と聞くと、シェーラちゃんは頷いて、とあることを口にした。
「このアクアロイアの現状を見た? というか目に余るような異常な光景だったでしょ?」
「あ、ああ……」
キョウヤさんが頷いて、私はそのことをもい出して、ぎゅっと自分の胸のところで、手を絡めて祈るようにしてしまう。それを見たのか、ふわふわくんは心配そうに見上げて「きゅぅ~」と鳴いていた。
それを聞いて、私は控えめにふわふわくんを見ながら微笑んで、「大丈夫だよ」と言う。それを聞いたのか、ふわふわくんはほっとして「きゅぅ!」とにこっと笑ってきた。
「そうね……、あなたも被害者だものね」
シェーラちゃんはふっと悲しそうに笑いながら、ふわふわくんの背中を撫でた。それを感じたふわふわくんはふにゃっと笑いながら「きゅきゃ~」とリラックスしていた。
シェーラちゃんは言う。
「この大地、アクアロイアは現状バトラヴィア帝国が牛耳っているわ。支配率で表すのなら……、バトラヴィアが九半で、アクアロイアが残り」
「比で表すのなら絶望的な数値だけど……っ!?」
その言葉に、アキにぃは驚きながら身を乗り出してシェーラちゃんに聞く。シェーラちゃんはそれを聞きながら頷いて……。
「現に、アクアロイアの国民は、バトラヴィア帝国の奴隷と化しているわ。この国はバトラヴィアの国になりつつあるってこと……」
それを聞いて、だんだんだけど、わかってきた気がした。
あの港で働いていた人達、そして青黒い兵士は、アクアロイアの人達。
そして黄色と銀色の鎧に、レズバルダさんは、バトラヴィア帝国の人。
関係的には、バトラヴィアの方が上のような関係だった。
シェーラちゃんの言うとおり、アクアロイアの国民は、バトラヴィア帝国の言われるがまま、奴隷国家と化しているということなのだろうか……。
私はぎゅっと手を絡めて、俯いてしまった。
こんな現状に怒りを覚えたけど……、悲しさの方が勝っていて、私は複雑な感情を抱いていた。
救いたい気持ちはすごくある。でもこの状況を変える力が、私にはあるのか?
答えはノー。ない。
動かすとなると、国家の力が必要になるだろう……。そうなると、私やみんなの力があっても……、無理なんだ。ここに来て、再度味わう無力。
私が俯いていたからか、そっと肩に置かれる何か。
それを確認しようと顔を上げると――
「……大丈夫か?」
ヘルナイトさんは心配そうに見降ろし、私の肩に手を置いていた。
それを見て、私は……。
とくり。と――
心臓から変な音が聞こえて、私はすぐに頷いて「だ、大丈夫です……」と手を振って誤魔化した。それを聞いたヘルナイトさんは、「そうか……」と言って、私の肩に置いていた手をそっとどかした。
私は熱くなった顔を手で扇ぎながら、シェーラちゃん達を見ると……。目を点にして、見てしまった。
シェーラちゃんはじとっと目を座らせて私を見て、キョウヤさんは和みながら温かい目で見て……、アキにぃは目から血を流して「ぐぎぎぎぎぎぎっ」とヘルナイトさんを見ながら歯を食いしばって歯軋りをしていた。
それを見て、私は首を傾げ、ヘルナイトさんは「どうしたんだ?」と聞いていた……。
……………………………それから、アキにぃを何とか正常に戻して……。
「話を戻すと」
とシェーラちゃんが話を進めてくれた。
「そのこともあってアクアロイア国民は今の王様に対して不満を抱いている。『この国の今は異常だ』とか、『おかしい』とか。『クズの集まりのバトラヴィアなんて滅べ』とか、最も多い言葉は、『バトラヴィア死ね』。『殺してやる』とかが多い。アクアロイアの国の在り方を見て、『六芒星』っていうテロリスト集団に加担する多種族やアクアロイアの住人が多いって聞くわ」
「っ」
その言葉に、私はぎゅっと口を噤んでしまう。さっき港で起こったあれがそれなのかもしれない。そう思っていると、キョウヤさんは腕を組みながら頭を捻って――
「なんでそんなことに……」
と言うと、その言葉に対して、ヘルナイトさんがこう答えた。
「きっと……、『六芒星』の思想に、中てられたのかもしれない」
「あて?」
キョウヤさんはコテリと首を傾げて、目を点にして繰り返すと、アキにぃはそれを聞いて、はっとしながらヘルナイトさんにこう言う。
「そうか。よくあるその人の思想がかっこよくて、そこに入ったっていう……」
「それもあるが、最も有力的なのは――『国の在り方を変えるために、自分達の国を作るために』行動する。これが一致し、『六芒星』に入ったんだろう……。彼らはアルテットミアの国民だ。バトラヴィア帝国の全国民を、必ず皆殺しにしようとする……」
それを聞いた私ははっとして思い出した。
あの時確かに、『六芒星』が来た時、労働していた人達は、武器を持って、バトラヴィア帝国の兵士達を威嚇していた。それはまるで、用意周到に計画されたかのような行動だ。
まさか……、密かに、計画していた?
バトラヴィア帝国の人達を、一斉に殺すために……。
ぎゅううっと握る力が強くなって、私はすぐにその場所に戻ろうとしたけど……。
「やめておいた方がいいわ」
とシェーラちゃんが、私を止めた。
私は振り返って、シェーラちゃんを見て聞いた。早くいかないと……、もしかしたら。そんな不安が私を包み込んでしまっているけど、私はいても経ってもいられなかった。
こんなことをしている場合じゃなくて、早く向かって助けないとと思っていたから……。
「なんで……? だって、あそこには……」
「ええ。バトラヴィアの人と『六芒星』がいるけど……、バトラヴィアは早々やられない。というか、秘密兵器を持っている集団よ。早々やられないと思うわ」
と言って、シェーラちゃんは溜息を吐きながら腕を組んで……、私に向かって冷静に、きつくこう言った。
「でも、あなたが今すべきことはそれじゃないでしょ。最後まで私の話を聞いて」
「っ……………………、うん……、ごめんなさい……」
その言葉を聞いて、私はびくっとして、そして一旦考える。冷静になって、さっきまで私は無我夢中になって助けに行こうとしていた。シェーラちゃんの言葉が正しいのなら、生きていることになる。
私はすぅっと息を吸って、吐いてから謝った。
それを聞いて、キョウヤさんは困ったように笑ってから――
「まぁ、気持ちはわかるぜ。アキは少しドウドウ」
と言いながら、アキにぃの肩を叩きながら、また「ぐぎぎぎぎぎ」と、シェーラちゃんを見て唸っていたから、キョウヤさんはドウドウっと宥めていた。
シェーラちゃんはそれを聞いて、頷きながら続けてこう言った。
「このアクアロイアで調べて分かったことだけど、このアクアロイアの領土も少なすぎる。首都アクアロイアにユワコク。あとは雨の監獄街マドゥードナだけ。あとはバトラヴィアの領地で砂地なの」
「おいおい。今物騒な言葉が飛んできたけど? 監獄って何?」
「アクアロイアの国王は、かなり頭を悩ませていたらしいわ。その時現れたとある冒険者達……、もといパーティーね。その集団にこんなことを言われたそうよ」
シェーラちゃんはクイッと顎を引いて、こう言った。
「『リヴァイアサンを使って、バトラヴィアを征服するんだ』って。そうすれば誰もが王様の言うことを聞くからって」
それを聞いた私達は絶句してシェーラちゃんを見て聞いた。
唐突な征服宣言に、誰もが驚きを隠せないだろう……。
確かに欲王と臆王では、きっと歴然とした大差がある。それを補わせるために、まさか、リヴァイアサンを使う? 神様で、守り神なのに……?
そう思うと、結論からして……。
狂っていると思った。
アクアロイアの人達も、バトラヴィアの人達も、王様も、そのパーティーも……。
「そ、そんなことを、なんで……?」
私が聞くと、シェーラちゃんは肩を竦めながらお手上げという状態でこう言った。
「そんな詳細はわからないけど、でもやばいことはわかる。幸いなことに、まだ王様はリヴァイアサンを完全に制御できていない」
「は? 制御?」
キョウヤさんがシェーラちゃんの言葉に疑問を抱いて、半音高いそれで聞くとシェーラちゃんは私達を見て聞く。
「あなた達は浄化をしたいから、アクアロイアに向かいたいんでしょう?」
それを聞いたアキにぃが前のめりになって、元の顔に戻ったところでシェーラちゃんに「当たり前だろう? 俺達は浄化のためにこの国に来たんだから」と言うと、シェーラちゃんはにやっと口元に弧を描いてこう切り出した。
「なら――私も一緒に同行するわ」




