PLAY22 PvsP&PvsDEAH!⑥
「ほほぅ。『12鬼士』様がお見えに。しかも二人! 儂らはどうも厄日に憑りつかれとるようじゃな」
肩を竦めて言う青年。
それを聞いたキクリはくすっと微笑んだ後言う。
「あらまぁ。これはこれは、死霊族がお揃いで。というか……、そこで倒れているお鳥さんを助けに来ただけなのかしら?」
「そのまさかじゃて。儂はこう見えて日和主義。争いを好まん人柄じゃ」
そう言い、けらりと肩を竦めて笑った青年。
キクリもくすっと笑いながら更にこう言う。
「でも、お仲間さんは殺す気満々だったじゃない? それはどうやって反論するのかしら?」
「あれは儂じゃないもん。あいつは勝手に行動しただけじゃて」
「あらまぁ、どこまでも反論ばっかりね」
けらけらくすくすと言い合う青年とキクリ。それを聞いてショーマはぞっとした顔で……。
――やばい空間ができてる……。と、青ざめながら思い、シイナはそれを見て……。
――似たもの同士……? と、疑問の念を出した。
「それで?」
キクリは聞いた。
扇子をパンッと閉じ、それを口元に寄せながら彼女は聞いた。
「これからどうするの? 殺し合うのかしら?」
その言葉に、ぴりっと空間に緊張は張り詰める。誰もがそれを聞いて、気持ちを緩める人などいないだろう。だが青年は狐のような顔を崩さず……。
手上げて――
「降参じゃ」と言った。
それを聞いて、ショーマ達はあんぐりと口を開けて、シイナ達はきょとりと呆けてしまった。
デュランはそれを聞いて、キクリと隣り合わせになるように前に出て……こう荒げた。
「ふざけるなっ! 貴様等それでも」
「はいはい、お怪我しているお馬さんは黙ってて」
「ヌッ!?」
そんな彼の怒りを抑えながら微笑むキクリ。デュランは唸って肩を震わせた。
きっと、背後に『ガーンッ!』という効果音が出そうだ。キクリはそれを無視して、彼女は聞いた。
「そう。降参と言うことは、逃げるのね?」
「そうじゃのぉ」
青年は顎を一撫でして言うと、黒い服装の男を一瞥して頷く。
そんな青年の行動を見た黒い服装の男はこくりと頷いて、ランディを担ぐ。
支離滅裂の男は「うぴぴぴぴぴっぷぅ」と言いながらぐんっと立ち上がる。奇襲はしてこないようだ。
「それじゃ。儂らは上に言われたことを遂行するかのぉ」
青年は何かを思い出したかのように言う。
ランディは担がれたまま何かを言っているが、すでに石化が半分以上進行しているので、気力がもう尽きかけているのだろう。小さい声で何も聞こえない。
それを見て、キクリはシイナ達を見て、微笑みながらこう言った。
「ごめんなさいね。見ていたんだけど、手助けの必要はなかったわね」
「あれ? 今見ていたって……、こいつこそ高みの見物じゃねえの?」
「ソウ言エバ寝ッコロガッタトキニ、小サイ何カガ見エタ。蠅カナッテ思ッテイタ」
「言えよっっ!」
キクリの言葉に、ブラドはあれ? と首を傾げて言うと、コーフィンは今更思い出したかのように言う。
それを聞いて、コーフィンの肩を掴んで揺らすブラド。
すると……。
「あ、言い忘れとった。二つも」
と、青年は言い、青年はコーフィンを見て笑みを浮かべてこう言った。
「あんまりあの石を壊さんでくれよ? あの石は一応生きとるんじゃから」
「?」
その言葉を聞いてコーフィンは頭を捻る。まぁこの真実を聞かされた時、コーフィンはきっと後悔するだろう。それはあと少し先になる。
そして青年はくるっとショーマ達とシイナ達が見えるように前を向くと、青年は「えー。改めというか遅まきながら」と言って、彼はこう言った。
「死霊族――特攻隊隊長にして『文字を操る』ハンザブロウじゃ。よろしくのぉ。若人共」
「死霊族――特攻隊――『影を使う』――。クロズクメ――」
「ねねねねね死霊族のおおおおお……、特攻隊いいいいいいい、『うっかり壊す』のおおおおおお、ぺぺぺぺぺぺぺぺ、ペペロペ・ペロティ・ペエ。ぺぺぺぺぺぺぺぺぺ」
それを聞いたショーマ達とシイナ達は固唾を飲んで見ていると、青年――ハンザブロウは手を振りながらにやにやした笑みで彼は言った。
「それじゃあのぉ。皆さん方。また会える日を楽しみにしとるぞ」と言って……。
「『ドロン』」
と囁くように言うと、彼らの周りに黒い泥のような液体がぶわりと噴き出た。
それを見たショーマ達はぎょっとして驚いていたが、ハンザブロウはショーマを見て、すっと、狐の目の片目を、そっと薄く開けて見た。
ショーマはそれを見てはっとするが、ハンザブロウはそんなショーマを見て、笑みも、何もない無表情の顔で、彼はこう言った。
「それじゃぁの。悪魔のくそ餓鬼」
その音色は、まるで怨念のような音色。
それを聞いて、ショーマはぞわわっと背筋を這う何かを感じて、彼はぐっと口を噤んでしまった。
その時感じたのだろう。これが――恐怖と。
これが、殺気だと……。
その声を言い残して、ハンザブロウ達は、言葉通りに、闇に溶けるように消えて行った。
こうして……、運命の巡り合わせのような一日は――ひっそりと幕を閉じたのだった。
◆ ◆
「「はぁっ!?」」
次の日の次の日。
あの後ショーマ達は、朝を迎えて、グレグルがみんなに、「話がある」と言いだして、一旦みんなでエストゥガに向かったのだ。
シイナ達は関係ないと言っていたが、グレグルはこの場にいる全員に話があると言い出したのだ。
結局、シイナ達もエストゥガに向かったのだ。
そして激戦の疲れが溜まっていたのか、夕方エストゥガに着いたと同時に、みんなギルドの宿泊部屋で意識を手放した。
激戦――シイナ達はグレグルに。ショーマ達はブラドから話を聞いた。
元々ロフィーゼとコーフィンはシュレディンガーを追ってきたのだが、それも無駄足になってしまったので、コーフィン曰く……。
「観光ト思ッテ行コウ」と言い出したのだ。
――いや、それは観光じゃなくて……。と、ブラドは思ったが、心に留めておく……。
そして起床して……、グレグルはコウガとブラドにこう言いだしたのだ。
「お前ら――ここから出て行け」
そして、最初のセリフが出てきたということだ。
「なんだそりゃ!」
「何言いだすんだてめぇ」
ブラドは慌てながら聞いて、コウガは苛立った音色で、寝起きと低血圧もあってか、苛立ちが最高潮の状態でグレグルに聞いてきた。グレグルはそんな二人の感情など無視して……、彼はこう言った。
「お前らはここに甘えすぎたんだよ。だから自立と考えて行け」
「お前は母ライオンかよっ!」
「何言ってんだ……。俺はあのイカレ」
コウガが言った瞬間……。グレグルは手でその言葉を止めた。ただコウガの顔の前にその手を突き出しただけのそれなのだが……、コウガはそれを見て言葉を止め、グレグルは言う。
「そのイカレに執着しすぎじゃねえか?」
「……………あ?」
コウガはすっと目を細めて、グレグルを下から睨みつけて言う。
「お前何言ってんだ……? 執着するのは当り前だろうが……。あいつは俺の」
「ああ、知ってるって。だから行け」
「……意味わからねえって……っ!」
コウガはびきっと額に青筋を立てて、もう掴みかかろうかと手を出そうとしたとき、グレグルは冷静にこう言った。
「お前――あの鎧男に狙われていただろう」
「!」
その言葉に、コウガは手を止める。グレグルはそれを見て、にやっと口元に弧を描きながら彼は言った。価値を誇った顔で……。
「なら、ここにいたら迷惑になる。それにな、大事なむぃちゃんが危ない目に合うしなぁ……」
「ち」
コウガは舌打ちをして、彼は投げやりに言葉を吐いた。頭をがりがりと掻いて……、苛立った音色でこう言う。
「わーったよ。出て行けばいいんだろう」
その言葉に、グレグルは「ああ」と、にやりと笑みを浮かべながら……。
「むぃちゃんはあそこにいるショーマ達と一緒に行くって言っていたから、お前、あいつ等の保護者になって行け」
「あぁっ!?」
唐突な展開。
それを聞いてコウガはむぃがいるであろうその場所を見ると、むぃは仲良さ気にショーマ達と楽しく話している。
バッグを下げて、明らかな旅に行く気満々スタイルだ。
それを見てコウガはそのショーマ達に向かって指をさしながら、グレグルを見て怒鳴りつけた。
「なんだよそれ! お前嵌めたなっ!」
「何言ってるんだ? 俺はこのエストゥガに被害が出ないように言っただけだが?」
「こんのおおおおおおお~っっっ!」
ぐぎぎっと歯を食いしばって唸るコウガ。それを見て面白がるグレグル。ブラドはそれを見て半分呆れて見ていたが、コウガは大きく舌打ちをして……、溜息を吐いた。
「っくそ! しゃあねえなぁ! 行けばいいんだろう? 俺がここから出て行けば、エストゥガの迷惑にはならねえんだろうっ!?」
投げやりの言葉。それを聞いてグレグルは満面の笑みでうんうん。と頷く。コウガは舌打ちをして、一回ギルドに戻った。戻りながら彼は、グレグルに向かって指を指して――
「お前後でぶん殴ってやるからな。ぜってぇぶん殴ってやる!」と言って、まるで負け犬の遠吠えのように自分の部屋に向かって行った。
グレグルは内心……。俺はその前に逃げるけどな。と微笑みながら思っていた。
ブラドはグレグルに「な! 俺もそんな感じの……」と、少し期待した音色でグレグルを見上げていたが……。グレグルはブラドを見降ろし――
「お前は女性恐怖症を治せ。以上」
「あれっ!? 俺だけ理由が簡単っ! てかマジで言ってます提督!? あんな、女二人いるところに、俺を放り込むなんて!」
「いい薬だ。いいリハビリだ」
「殺生でっせ! 往生しますっ!」
わっと泣きながら抱き着こうとしているブラド。そんな彼を一瞥して、グレグルは足で彼の顔を踏みつけながら逃げようとしている。
それを見て、シイナは仲がいいなぁ……。と思いながら見て、そして……。
「シイナくぅん、いいのぉ?」と、ロフィーゼがシイナに聞いてきた。その後ろには、なんと『12鬼士』が一人のキクリが、二人を見て微笑んでいた。
彼女がなぜここにいるのかというと……、簡単な話……。
『暇だし、それに戦っているところを見て手助けしたいって気持ちのなったから、一緒に行こうかなーって思って。デュランやトリッキーマジシャンだって冒険者と一緒にいるし、一人って案外寂しいものだから』
とのことで、彼女はシイナ達と一緒に行動する運びとなったのだ。ロフィーゼはそれを聞いて快諾し、シイナも同意した。
彼女はMCOのとき、高等な回復スキルを持っていたので、いてくれると心強いという理由もあり、二人が快諾したのだ。
ちなみに……、コーフィンはこの場にはいない。彼はロフィーゼにだけ言伝を頼んで、どこかへ行ってしまったのだ。彼女に託した言伝。それは……。
『俺ガイルト面倒ダロウ? ソレニアムスノームニイル必要モナイ。オ前ダッテ心置キナク、アイツヲ探セルンダ。俺ハ一人デ一人旅ヲスル。ジャアナ』
それを思い出して、ロフィーゼはシイナに聞く。シイナはそれを聞いて「えっと……」と言ってから……。
「おれは、元々、一人でした。だから、お誘いされて、すごく、嬉しかったんです。こんなおれでも、いいのなら」と言ったところで、ロフィーゼはシイナの口元にそっと、人差し指を添えて、彼女は微笑みながらこう言った。
「――そう言ったお堅いことはなしぃ。でも、その言葉を受け取って、わたしはこう言えるわぁ。これからぁ、よろしくねぇ。シイナくぅん」
「は、い」
シイナは今更ながら妖艶なロフィーゼのその顔に驚いてしまったのか、顔を赤くしてそっぽを向きながら尻尾をへにゃりとくねらせ、赤黒い耳をピコピコと動かした。
それを見て、ロフィーゼは思わず……。
「可愛いわぁっ。ぎゅーっ」
「っ!?」
シイナに抱き着いて、その可愛さを自分の胸に閉じ込めてしまった。それを見ていたキクリは、くすくす笑いながら「あらまぁ」と、止める気など全然なく、それを和みながらしてみていた。
「見てねーで助けろぃっ! シイナカムバックだ! てかロフィ! これからどうするんだ!?」
「えぇ? えーっとぉ……」
「あ、その前にシイナから離れんしゃい。首締まっているのか青くなっている」
「一回アムスノームに戻ってぇ、それからかしらぁ?」
「えええええっ?」
シイナを抱きながら、ロフィーゼはうーんっと唸りながら言う。そんな二人を見ながら、これからは幸先不安だと、ブラドは落胆してグレグルを見ようとしたとき……、そこには誰もいなかった……。キクリはそれを見て、くすっと微笑んだが、誰もその光景を見ていなかった……。
「で?」
コウガも戻ってきたが不機嫌な顔をしてきたので、ツグミはぎょっとして「ど、どうしたんですか……?」と聞くと、コウガは……。
「今日から、むぃの保護者として一緒に行く運びになった」と、面倒くさそうに言った。それをきいたショーマははっと目を輝かせて……。
「それじゃ俺達のために一緒に戦うってことっすねェ!?」と言った。
「なんでそうなる?」
「よくわからんのですよ」
と疑問の声を上げたデュランに、ツグミは首を横に振って呆れながら言った、コウガはそれを聞いて、苛立った口調で「ちげぇよ馬鹿」と言って――
「俺はあの鎧野郎に狙われているから、ここを離れるだけだ」
「え? でも追い返しましたよ?」
「なんだよその野生動物のような言い回し……。また来る可能性だってあるだろうが……」
コウガとツグミ、そしてむぃの会話が少し、ほんの少しだけ弾んだその時――ショーマは思い出したかのようにこう言った。
「あ、俺らそいつを追います」
「「「「っはぁっっっ!?」」」」
これにはツグミやデュランも驚いた。というかみんなが驚いたのだ。
ツグミはショーマに詰め寄ってこう聞く。肩に手を置いて、考え直せと言わんばかりに彼の肩を振りながら……。
「何言ってるの? なんでそうなるの? もしかして頭イカレた? 馬鹿の上の位の、さらに大馬鹿になったの?」
「ディスりすぎだって! ちげーよ。あいつ……。倒れる前にこんなことを言っていたんだ……。『砂の国』って」
それを聞いて、ツグミはショーマの肩を揺らすことを止め、コウガ達はその言葉を聞いてショーマの話を聞く。ショーマは言った。
「そこって、アクアロイアにあるんだろ? だからもしかしたら……、はなっぺと出くわしたらって思って……」
俺らは狙われてるけど……。と、申し訳なさそうに言うショーマ。どうやら反省はしているようだ。それを聞いたツグミは、うーんっと上を向いて、空を見上げる。そしてすぐにショーマを見て、彼は言った。
「――僕も心配になってきた……」とぼそりと言った言葉に、コウガは頭を掻きながら言った。
「俺は目的とかねえから、お好きに」
「むぃもいいですよ! アクアロイア! 行ってみたいです!」
「……我もあの男のことが気になってな。珍しく意気投合したな」
コウガの言葉に続いて、むぃは元気に手を上げて言う。デュランも頭はないが頷いて言うと、ツグミはショーマを見た。
多数決的には……、イエスが四という結果だ。
残りの一票はどうなのかはわからないが、それを聞いてショーマは頷く。決意を固めた顔で――
「よし! まずはアルテットミアだっ!」
こうして……。
ショーマ達はアクアロイアへ。
シイナ達はアムスノームへと足を進めた。
そして、それぞれがハンナ達と出会うのは、もう少し先のことであった……。
◆ ◆
――ずりっ。ずりっ。ずるっ。
「う、がぁ……! あぁ!」
その頃、薄暗い森の中。そこは『腐敗樹』と『緑の園』の境界の森。ヴェルゴラは一人、一日中這いずりながら進んでいた。出血を抑えることなく、その道を赤く染め……。目的の場所などない。ただ遠くへ。遠くへと逃げるように進んでいくと……。
「しくじったのか?」
声が聞こえた。
ずしゃりと、地面を踏む音。それを聞いたヴェルゴラは、ぐっと起き上がるように地面に手を付けて、歩いてくる人物の顔を見ようとする。
ずしゃり、ずしゃりと踏む足音。それと同時に、ぼたたたたっと、草木を赤く染める血。
どんどん進んで、血を落としていく人物。
ヘルナイトやデュランのような騎士が着るような鎧だが、錆びて、使い物にならない。そしてその鎧の隙間から零れ出る大量の血。それはまさにホラー映画に出そうな殺人鬼のようで、腰に差している刀は錆びており、ところどころ綻びができている。その刀にも血がこびりついていた。
鎧の男が言う。
ヴェルゴラを見降ろし……。
「結局、そなたはしくじったのだな」
その言葉に、ヴェルゴラは返さない……。ただ……。
「断罪……、断罪……、だんざい……、ダンザイ……」
ぶつぶつと、壊れたレコードのように呟く。それを見て、鎧の男はすっとしゃがんだ。それと同時に、ばたたたたっと赤い血が草木を赤く染めていく。
それでも、鎧の男は言った。独り言のように、彼は言う。
「そんなに殺したくば……、此方がそなたに与えよう。此方の詠唱が一つ……『永遠の命の原水』を。そうすれば、そなたは断罪たる行為ができる。そして、最も断罪すべきものが多いとされる、砂の国に……、三人で向かおうぞ……。彼奴を、ヘルナイトを、殺すために……っ」
そう言った彼は、背後にいる人魚のような姿をした少女に顔を向けず、鎧の男は言った。
冷淡で、怨恨を込めたような冷めた音色で……。
「この『12鬼士』が一人……『終焉の厄災』……、ジエンドがな……っ!」
それから、あっという間に一週間が経った……。
□ □
私達の旅はどんどん加速して、知らない間に歪んでいた。
私が進んだ道が壊れていくように、グワングワンに歪んで……。
「お!」
「見えてきた」
「あれが、なんだ……」
「ああ」
キョウヤさんとアキにぃ、そして私がその島を船から見て言うと、ヘルナイトさんは頷いて、凛とした声でこう言った。
「あの島が――アクアロイア諸国だ」