PLAY22 PvsP&PvsDEAH!⑤
「いや、なに決めてんの」
ショーマの勝利宣言を聞いたツグミは、ひょっこりとデュランの背中から顔を出した。
それを見て――ショーマは『ん?』と首を傾げて目を点にさせながらツグミを見た。
ツグミは言う。
「確かに、ショーマが囮になってくれたからよかったけどね。事実上デュランのおかげでしょう? 機転も決めも」
「どどぅっ!? そ、それは俺がそれを繋げて」
「はいはい……」
はぁっと、溜息を吐いて肩を竦めながら言うツグミ。
ツグミのその光景を見ていたショーマはぐぐぐっと歯を食いしばり、握った手を震わせていたが……、それを見てグレグルは……。
――倒れている間にすごいことが起こっていたみたいだが、こいつ等は通常運転のようだな……。
和みながら溜息を吐く。
コウガはむぃに近付きしゃがむ。
むぃはそれを見て、ぐずぐずと泣きじゃくりながら言った。
「うぅ……、えっく、ずび。ご、ごめんな」
『ごめんなさい』――そう言いかけた瞬間、コウガはむすっとした表情で、ゆっくりとした動作で、右手を振り上げ……。
ごんっ!
「ふぎゃっ!」
むぃの頭に拳骨を食らわした。
それを見て、グレグルはぎょっと振り向いて見てしまった光景に驚いた。
むぃは頭を抱えながら「ふにゃ~っ」とふるふると、頭に生えている耳を垂らしながら、彼女は俯いて、震える音色で言う。
「なんでぇ~?」
その言葉にコウガは「うぜぇ」と言って……。
「泣くくらいなら、前に出るな。お前はサポートしかできねえだろうが」
「ふぎゅぅ……」
「そんな風に前に出るくらいなら、もっと言葉を考えてからものを言え。馬鹿かよ。まぁ……」
コウガはむぃの頭に手を置き――脳裏に思い浮かぶ三人の家族の風景を思い出しながら彼は言った。
「助かったとだけ言ってやるよ――むぃ」
「!」
その言葉を聞いて、むぃは顔を上げる。その顔には、涙で濡れている顔とぱぁっと明るく喜んでいる顔が合わさったそれが出ていた。
それを見て、コウガははぁっと溜息を吐いて、すっと立ち上がってから彼は、腰に手を当てて「らしくねぇ。うぜぇな」と言葉を零して、頭を掻いてむぃから離れようとした。
しかしむぃはそれを見て、ウキウキとしながら「え? 今なんて? 今むぃのことをむぃって! 初めてですよね? ねねね!」とピョンピョンっと跳ねながら、コウガの周りを跳びながら聞いていた。
それを、見て、グレグルはまた和んだ。
すると、倒れていたヴェルゴラを見ようと、グレグルは下を見た時……。
「あ!」
と声を上げた。それを聞いて、ショーマ達やコウガ達がグレグルを見た。
「どうし……たぁ!?」
「あぁ!?」
コウガがそれを聞こうとグレグルを見、ふと下を見て驚きの声を上げた。ツグミもそれを見て下を見た瞬間……、声を上げた。
グレグルは、ヴェルゴラが倒れた場所を指さして……、引き攣ったような笑みで彼はこう言った。
「――逃げられた」
そう。ヴェルゴラは逃げたのだ。
倒れた場所には、確かに血痕が残っている。まだ乾いていない。そしてそれはとあるところに向かって、太い一本線を作っていた。
それを見て、コウガは思った。
――気力、まだあったのか……。と。
それを見てデュランは「それもそうだろうな」と言った。
そして続けてこう言う。
「的確に急所を入れたと思った。しかし体中に入れていた武器が防具の代わりを果たしていたのだろう……、出血は多かったが、傷は浅いものだらけ……。我の力不足か……っ!」
「いや……、音も出さずに斬撃を繰り出すあんたはすごいと思うよ……?」
「言い訳がましいが、我は今……」
自身の力不足を嘆いて頭を垂らすデュラン。首無し鬼士であるがゆえに頭はないが……。それに対してツグミが励ましの言葉を投げかけた時……、それは突然聞こえた。
「こんのくそ種族がああああああああああああああああああああああああああっっっ!」
「「「!?」」」
「「!?」」
「! あ」
少し遠くから聞こえた声。誰も聞いたことがない声だったが、ショーマ達とコウガとむぃ。
そしてグレグルがその方向を見た瞬間、どばぁんという液体が落ちる音が聞こえ、一同は一瞬……、黙ってその方向を見てしまった。
「だ、誰か……、襲われている?」
「聞いたことがない声だったね……?」
「あのイカレ野郎か?」
「でも、あの人が向かった先とは真逆の方向です」
「なぁ……」
ショーマ、ツグミ、コウガ、むぃと言う順番で、各々が思ったことを口にした時、グレグルは声をかけた。それを聞いて、五人はふっとグレグルを見ると……。グレグルは言葉を放った。
今まで忘れていたけど。という言葉を先に言って、そっとその声がした方向に向けて指を指して……。
「――あの先、ブラド達が向かった方向じゃね?」
「「「「あ」」」」
すっかり忘れていた。そう誰もが思った。
デュランはその先に感じる黒い何かを察知しつつ、槍を持っている右手を、頭がない顔でちらりと見た。
その手には――鎧で覆われているにも関わらず、鎧を砕いた跡が残っていた。それも切り傷によって……、破壊されたそれが……。その手を見て、デュランは思った。
――なぜ、あの男がここにいたんだ? と……。
◆ ◆
その頃、シイナ達は……。
「はぁ。はぁ。はぁ……。ふぅ」
シイナは息を吐いて、今までこんなに走ったことがなかったので、息を切らしながらその光景を見て、驚いて、重ねて驚く。
彼が放った詠唱によって、黒い液体に潰されたランディは、その液体が引いたと同時に、地面に突っ伏しながら、ぶるぶると震えながら、呂律が回っていない口で、何かを言っていた。
「シイナくぅん!」
「っ!」
声がした方向を見ると、そこから来たのは――
手を振って笑みを浮かべているロフィーゼ。その後ろから来たブラドにコーフィン。
それを見てシイナは――「み、みなさ、ん」と安堵の息とともにそう言った。
それを聞いてロフィーゼはシイナに向かって走り、彼女は彼の前で止まった後……。
「あの技すごかったわねぇ! あれ貴方のスキルゥ?」
と、妖艶に微笑みながら聞いた。それを聞いてシイナは首を横に振って、後ろにいるコーフィンを見た後、彼はコーフィンに頭を下げてからロフィーゼとブラドを見てこう言った。
「あ、あれは……、こー、コーフィンさん、が渡して、くれたんです」
「あらぁ?」
「え? あの激ヤバボールを?」
「『大災厄の元凶』ナ? 俺モ効果ハ知ラン」
「無責任に渡しやがって! てかあれロフィがいなくなった時に見せていただろ? 俺達は黒い紐だったから使えなかったけど、なんでシイナに渡したんだ!? 使えなかったらどうしてたんだっ!?」
「マァナントカスルッショ」
「おいここに無責任な人がいます! 誰かこいつに天罰を! シイナもういっちょ!」
シイナが杖を見ながらそのことを言うと、ロフィーゼは驚きながら声を上げ、ブラドもぎょっと青ざめながらシイナとコーフィンを見る。
コーフィンはその詠唱の効力まではわからなかったらしく、首を振って言うと、ブラドはちゃんと考えてから物を渡せと言う。
しかしそれでも、仮面越しであっけからんとしてるコーフィンに、ブラドは苛立ってシイナに向かって言う。
シイナはそれを聞いて、首を横に振った。ブラドは「なんでっ!?」と抗議すると……。
シイナはふっと、ランディを見た。
三人もランディを見て……、絶句した。
ランディはぶるぶる震えながら、血走った目で辺りを手探りでまさぐり、嘴から泡を吹いて、呂律が回っていない口で何かを言っていた。
それから見るに異常。そして可哀想と思えるような攻撃……。よくよく見ると、足の先が石のようになっているのが見えた。
「きっと、こ、これは苦しめて、から、石化……。『石化』に、する詠唱……、です。だから、親しい人には、使いたく、無いです……」
シイナはそれを悲しそうに見ているのを見たロフィーゼは、なぜだろうか。くすりと、優しい笑みでシイナを見ていた。
ブラドはそれを聞いて頭を下げながら「うんごめん」と謝罪した。
「そうじゃのぉ。確かに謝った方がいいぞぉ? そこの鳥男よ」
刹那。
どこからか声がした。
四人はそれを聞いて、すぐに武器を構えた。
誰の声でもない。あろうことかランディの声でも、ショーマ達の声でもない。
別の声が聞こえた。
誰もが背中合わせになって、背中を守りながらその声を辿ろうと耳を澄ます。だが、どこにもいない。否――
「背中と背中合わせにおしくらまんじゅうかのぉ?」
彼らの背後……。四人の背中の隙間から声が聞けた。
若い青年の声だ。
それを聞いて、ダンッとその場から逃げるように飛んで、その声がした方向に体を向けた。だんっと地面に着地し、武器を構える四人。しかしその場所にいたのは――普通の人間だったのだ。
服装は明治の服装にも見える。緑を基準とした着物に、中にはワイシャツのような服。袴に草履。頭には肌色のハンチングと言った独特な衣装を着ている少し跳ねた黒髪が印象的な散切り頭の狐顔の青年だった。
狐の顔ではなく、狐のように目が細く、そしてゆるく弧を描いたにやけ顔。
青年はシイナ達を見、そして首を傾げて、腰を右に曲げて「ん~?」と言いながら、にやにやした笑みを崩さす彼は言った。
「なんじゃラン坊よ。お前さんやられてしもうたのか。じゃから言ったじゃろうが。儂の言うことを聞いとけとな」
「だ、じゃ、じゃま、ふぇ……っ!」
震える口で、呂律が回っていない音色で言うランディ。
それを見た青年は「あーあ」と肩を竦め、にやにやした笑みと困った顔と混ぜたような顔で言った。
「これはすごい人じゃて。狼のワン坊に、蜥蜴と森の一族の混血坊。鳥……、かと思ったらお洒落さんじゃったか! ほほぅ、そして……妖艶別嬪さん。もうちっと胸が大きければカモンじゃったんじゃがのぉ……」
それを聞いたロフィーゼは顔を顰めて、手に持っていた殴鐘をぐっと掲げ、わざとじゃらりと音を出した。
それを聞いて青年は「うひゃおぅ!」と声を上げてぴょんっと一歩引いてから……。冗談だと弁解する。そして青年はふぅっと息を吐いて――
「『ぴょーん』」
と間の抜けた声と共に、そのままとんっと軽く跳躍した。
が、軽く、という言葉は不適切だった。軽く跳躍した動作だったが、青年はそのままびょーんっと跳び跳ねるように、シイナ達の頭上を飛んだのだ。
動作とその行動に違いがありすぎる。
それを見てシイナ達は絶句し、見上げることしかできなかった。
青年はそのままランディが倒れているところに着地して、誰もいない場所を見てから……。
「クロっちー。ぺぺくーん」と呼んだ。
その声を聞いてなのか、青年が言ったと同時に……、ばぎんっと空間に二つの罅が入った。
四人はそれを見て、更に驚きに顔を染め、バキバキと出てくるそれを、見ることしかできなかった。
最初に出たのは……、黒くて長いマフラー。黒いロングコートと言う服装で、そして黒い前髪で片目を隠して、口元をマフラーで隠している、目つきが悪くて、針金のような細身の男。
次に出たのは、ギョロ目で黒くて地面についても余るくらい長い長髪。前髪までも長いそれを真ん中で分けている。体にはつぎはぎの後に、手首の上からひじの間の両腕が不自然に膨らんででこぼこしている。上半身青白い裸で黒いズボンに裸足。足の脹脛のところが異常に膨らんででこぼこしている。針金のような男よりも二倍は大きい顔色が悪い異常な男だった。
「お呼びですか――? リーダー――」
黒い男がそう言う。青白い左腕を使って、すっと会釈しながら。
それを見た青年は「クロっちは固いのぉ」と肩を竦めて困ったように笑う。そして……。
「うくくうくううく。ぽぽぽっ。ぽおおっぽぽぽっ!」
顔色が悪い男はシイナ達を見て、顔にべったりと両手を着けて、がりっと爪の後を残すように、ぎぎぎっと下におろしながら。彼は言った。
「おぽおぽおおぽおおぽお。わんチャン、ぶーてぃふぉー。りざーどぅ、とり、とり、とりとりとりとりとりとりの唐揚げキャアアアアアアアアアアーッッ! フォオオオオオオオオオオオオオオッッ!」
下唇の内側をさらけ出しながら、笑ったり、怒ったり、泣いたり、そして奇声を上げてぐるんぐるんっと腰を使って、頭を振り回していた。
……まるで支離滅裂。それを聞いて、四人はぞっと悪寒を感じながら、男を見ていた。単刀直入に言うと、気持ち悪いと思ったからだ。
それを見て、青年は「あーすまなんだ」と言って……。
「こいつはちぃっとばかし頭がこれなんじゃ」
「いや、これ……。頭がそれと言うか」
「とオオオオオオかアアアアアアアアアアげエエエエエエエエエエエエエエいいいいいいいええええええええええーっ!!」
「うるせぇっ!」
ブラドがそれに対して言うと、顔色が悪い男はそれを遮るように、己を抱きしめながらがくがくと足を震わせて、ブリッジをしながら叫んだ。
それを聞いてブラドはつい突っ込んでしまう。
「まぁこやつらは儂の部下と言うかふれんどと言うか」
「ヴアアアアアアアアアアアアディイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!」
「すいませーん! そこで奇声を上げている奴の声で全然聞こえませーんっ!」
とうとう怒りながら突っ込んでしまったブラド。
いったい何しに来たんだ? そうコーフィンが思った時……。
「ぉおーい!」と遠くから声が聞こえた。
それを聞いて。四人はその方向を向くと、遠くから手を振って走ってきたショーマに、後ろから来たデュラン達を見て、シイナは安堵した。そして……。四人は思った。
――忘れてた。と。
誰もがそう思っていた。気が緩んでいたから……。反応が遅れた。
誰もが、ショーマ達に向かって駆け出すそれを、見ていなかった。
「「「「え?」」」」
「お?」
四人はそれを見て目を疑い、ショーマはそれを見て足を止めてしまった。
目の前に来たあの顔色の悪い支離滅裂の男の、奇襲に。
ぐっと振り上げた拳を見て、ショーマは刀を抜刀しようとした。しかし……。
ぼごごごごごごんっ! と、細かった腕が一気に膨張し、そこだけがいびつ鍛えられた手になった瞬間、ショーマはびくついて手を止めてしまった。
「あくま、あくま、あくまあくあくまあくまあくまあくまでもんでもんもでんもでもんでもんでもんでもんでもんでもんきるきるきるきるきるきるきるきるきるきるきるきるきるキィリングフォーミィイイイイイイイイイイイイイイイイッッッッ!」
ぶつぶつと早口で、狂気の笑みで言う男。その間に、ぼんぼんっと膨れ上がる腕。バツンバツンに膨れ上がった腕は、ショーマに向かって、ぶつかろうと……、いいや、振り下ろされようとしていた。
それを見て、デュランはショーマの首元を掴んで、後ろに放り投げ、自分が前に出て迎え撃つ。
「デュランッ!」
「兄貴!」
ツグミとショーマが叫ぶ。デュランは槍を手に持って攻撃しようとした時、じくりと、腕が痛み出した。デュランは「ぐっ!」と唸り、男はそのまま大きく大きく成長した腕を、そのままデュランやみんなを巻き込むように振るい上げようとした時――
「――『春一番』」
ブワリと吹き上がる風。それを見て誰もが驚いて固まってしまう。
「ピギュギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?」
その中心で、風の餌食となった――竜巻の餌食となった男は、叫び声を上げながら風によってランディ達がいるところに放り投げられた。
それを見たデュランは……。
「お前も、か……?」と聞いた。
上を見て、彼は親しみを込めた音色でそう聞いた。それを聞いてか上から声が鼓膜を揺らす。
「お前もか? それは変でしょうが。この場合……久し振りとかそう言った挨拶はないのかしら?」
そう言いながらふわふわと降りてくる女性。
それを見たシイナ達は、言葉を失ってその人物を見た。
その女性は顔に狐のお面を着けている薄桃色が混ざった銀髪の長髪。それはふわっと三つ編みされていている。服装は赤い巫女服。靴は鉄製のブーツで、手に持っていたのは桜模様が彩られている扇子。それをぱんっと閉じて彼女は言った。
「始めましてのお方に、お久し振りのお馬さん。私は『12鬼士』が一人、『桃源の巫女』と言う通り名があります……、キクリと申しますわ」
以後、よろしくお見知りおきを。
そう女性――キクリは言った。