PLAY22 PvsP&PvsDEAH!④
そんな激闘から少し時間は遡る……。
ヴェルゴラはコウガを見て、腹部の武器庫からすらりと研いだばかりの肉切り包丁を取り出した。
それをぶん、ぶんっと、まるで素振りでもするかのようにヴェルゴラは歩みを進め、コウガに向かってこう言った。
「家族を殺し、あろうことかその罪を認めない異常者。典型的な犯罪者の弱音だ」
「っ!」
その言葉を聞いて、ショーマとツグミ、そしてむぃは顔を驚愕に変えてコウガを見た。
コウガの目に映ったのは……恐怖に染まり、騙していたのか? そんな困惑が入り混じる顔三つ。
――まぁ、初めてだもんな聞いたの。てか、これを察して言わなかった俺も俺だ。
そう思いながらコウガは言う。ヴェルゴラに向けて……。
「ということは、お前の狙いは……」
「十中八九。お前だ――周防高鹿」
「っ!?」
俺の、名前……? 話したことねえよな……。何で知っていやがるんだ……?
こいつまさか……、知っている?
コウガはそれを聞いて内心、心が荒れていた。
それもそうだろう。
突然出会った人物に名前を、しかもここでは明かされることがない現実の名前を言われたら誰だって驚くだろう……。
それを聞いたツグミはヴェルゴラを見て声を荒げてこう聞いた。
「あ、あんた……っ! まさかハッカーッ!?」
「いいや」
ヴェルゴラは即答と言わんばかりの返答と同時に首を横に振って……、続けてこう言った。
「このゲームの中に紛れている監視者に聞いた」
「かんししゃ?」
ショーマだけは何が何だかと言う感じで首を傾げ、あへっと顔を緩ませていた。それを見たツグミは苛立ってショーマに近付き、足を踏んづける。
めりっと、小指を折る様な、いいや厳密には小指があるところを踏んづけた。
「あだあああああっっ!」
ショーマが激痛で叫んでいる間に、ヴェルゴラはコウガを見て言う。
「監視者は、RCの社員で、簡単に言うと私服警官のような立場だ」
「私服……、っは。誰からそんなことを聞いたんだよ。てか、お前の話に出ていた中では、そんな奴は……」
「シュレディンガー」
ヴェルゴラははっきりと言って、更にこう言う。
「そいつは元々RCの警備員だったそうだ。拘束の棒があるだろう? それを使うのに長けていたので、社長直々に雇った。死に際のこのことを言っていたよ。他にもこのゲーム内に何名か、プレイヤーとして紛れ込んでいる。一般人や監視員。そして……」
その言葉と同時に、ヴェルゴラはじろりとコウガを見て、彼は言った。
冷たく、そして射殺されると連想しそうな目つきで、彼は言った。
「――犯罪者もだ」
それを聞いていたツグミは、混乱しながらも打開策を練っていた。
彼は頭が回る方だ。しかしこの場合は違う。混乱のせいで、的確な打開策が浮かばないのだ。
――なんだよそれ! なんで今になってそんなことを言うのさっ! てか監視者って!
いやだ――!
――デュランはなにしてんだ? 外で監視しているって、内部が絶賛乱戦です!
殺されたくない――!
――いやいや何とかしないと、あの人は所属なんて関係なしに武器を振るう!
コウガって人は犯罪者! このまま逃げよう――!
――いやいやいや! そんな悲観的なことはなしだ! あぁ冷静になれ僕!
僕だけ逃げれば――
「~~~~~~~~~~~~~っっっ!」
ツグミはぶんぶんっと顔を振って、両頬をバァンッと叩いた。
ひりひりとくる頬の痛み。さっきまで思考と悲観が交差していたが、それも消えて、今では思考が勝っている状態になった。
ツグミは再度思案する。
――えっと、今僕等は絶賛絶対絶命中。
――そして明かされた監視者、そしてコウガさんの犯罪者は除外。あとで聞けることだしね。
――今はこの状況をどう打破するか。
――考えても思い浮かばない。なにせあの人はすごい反射神経がよすぎる。そして体にはいくつもの武器。これはきっと、腕からも出していたから、腕や足にもあると想定しておこう。
――あの人の力は異常だ。
――なにか、種が……。
と思った時、ヴェルゴラはぐりんっと、ツグミを見た。
甲冑から覗く……、死んだような、それでいて貯めていた殺気を吐き出すように見ているその目を見て、ツグミは体をびくつかせて、そのまま尻餅をついてしまった。
中てられて、怖気づいてしまったのだ。
「ツグミッ!?」
ショーマが彼を見て、心配の声を上げるが、ツグミは返事をする余裕などなかった。
ヴェルゴラはツグミに対してこう聞いた。
「俺の違和感に気付いているのか?」
「っ!?」
その言葉に、ヴェルゴラは自分の鎧を『ゴンゴン』と叩いて、彼はこう言った。
「この鎧は『紺廉鎧』。またの名を『諸刃鎧』とも言われている」
「もろば?」
「もろは……、だよ」
ショーマが頭に疑問符を浮かべてきょとんっとしていると、ツグミは力なく突っ込む。
まぁ、突っ込む気力もないのに、突っ込みをさせようとしているショーマを見て、ツグミは静かに苛立ちを募らせる。ヴェルゴラはそれを見、聞きながら話を続けた。
「……、諸刃鎧。諺で言う、『諸刃の剣』と同じもので、これを着て戦いを行うと、体力が二百五十減るが、攻撃力が百増える。ドーピングもどきの鎧だ」
「………………、そりゃぁ……」
それを聞いていたコウガは、「っは」と乾いた笑みを浮かべて、彼はヴェルゴラに対してこう言う。
「今の場合じゃ……、武力が1上がるようなもんだ。で? 今どれくらいなんだ?」
「今か? 犯罪者に言うことではないが、冥土の土産として教えておこう……。今の俺の武力はカンスト。数値で言うと、四千五百と言うところか……。さて、これでお前に話すことはもうなくなったな」
そんなことを言いながら、ヴェルゴラはコウガを見て足を進める。
コウガはツグミを見て、頷くと、ツグミはそれに対して首を傾げた。一体何をするのだろうという顔だ。コウガはそれを見て、無視に徹した。
「それで?」
ずしゃっと、ヴェルゴラはコウガの前で、歩みを止めてこう聞いた。
肉切り包丁を上に上げて、彼はそのコウガの頭をかち割ろうとした時……、彼は、コウガを見て――
コウガはその胴体に、左足を踏み、そのまま右の膝で彼の胴体に蹴りを入れた。
ばがぁんっと砕ける刃物や武器。
バラバラと落ちる武器の破片に、体に突き刺さった拍子に零れ出る血。
そしてヴェルゴラは「グゥッ!?」と唸って、体をくの字に曲げる。そしてその衝撃に耐えられなくなり、そのまま後ろに跳んでしまいそうになったが、それをなんとか耐えて、ずずっと足を使って踏ん張る。
「っち!」
コウガは膝から血を流しても、痛みに耐えて舌打ちをしてから、片手に持っていた苦無を投擲する。
それを見て、ヴェルゴラはそれを難なく手で掴んで、逆手に持って自分のものにする。
ヴェルゴラは苦無でコウガの目を突き刺そうと、コウガはヴェルゴラの首に忍刀の刃を食い込ませようとして……。
ギィンッと、互いの刃がかち合うようにせめぎ合った。
金属の反響音はショーマ達にも聞こえて、コウガはショーマを見て……。
「おい馬鹿餓鬼!」
「んなっ!? 誰が馬鹿餓鬼っすか!」
「馬鹿だろうがお前! お前ら二人、ここから離れろ!」
「「っ!?」」
驚くショーマ達をよそに、コウガは目で周りを見回し……。
あ? と内心驚いてみた。
それもそうだろう。なぜなら、彼らの近くに、あの子がいなかったのだ。
コウガは慌てながらもその子を探して、ヴェルゴラの肉切り包丁の攻撃を避けながら、彼は探した。
――いねぇ!
――どこだ!? あんの餓鬼っ!
「ちょこまかと、逃げるな犯罪者。断罪ができないだろうが」
しかし、その捜索を許すほどヴェルゴラは甘くない。ヴェルゴラは肉切り包丁のほかに、左足の鎧のつなぎ目から長いものをずっと取り出した。
それは……、ダーツの矢だった。普通のダーツよりも針は長く、且つ鋭く尖っている代物のダーツだった。
ヴェルゴラはダーツの矢をぐっと剣を持つように持ち、それをコウガの目元に向けて勢いよく突き刺そうと刺突を繰り出す。ダーツなので、グーパンチを繰り出しているようにしか見えないが……。
「っ!」
コウガはそれを見て驚きながら、そのダーツの矢を見てしまい、まずいと直感した。
避ける? 否、そんなことができないだろう。
足を払う? 否々。そんな余裕はない。
ならどうする? 解答として……、それは……。
「――死」
「こんのバカチンがぁ! ですぅ!」
「「「「っ!?」」」」
突然だった。か弱く、幼い声が響いた。
それを聞いて、ヴェルゴラはコウガの目を潰そうとしていたそのダーツを持っていた手を、あと一ミリで突き刺すというところで、止めた。
コウガはそれを見て、ぶわっと来た風圧に驚きながら、ふっと……彼から見て右にいた――
むぃを見た。
むぃはぶるぶると震えながら、猫の手で服を掴んで、否にも見気だしたいという気持ちを抑えながら、彼女はヴェルゴラを見上げて、目に涙を溜めていた。
それを見て、コウガは疑問を抱いた。
――なんでこいつは、泣いてるんだ? と。
むぃのその顔を見て、なぜ泣いているのか疑問を抱くように見たヴェルゴラは、ずんっとむぃに向かって、一歩前に進んだ。
それを見てコウガははっとして「おぃ! やめろっ!」と声を荒げるが……、ヴェルゴラは腕に隠していた針を取り出して、それをコウガの向けて投擲した。
それを見たコウガはすぐに避ける。
避けたと同時に、ずしゃっと転んでしまったコウガを見降ろし、ヴェルゴラはただ淡々と、冷淡に……。
「――黙れ異常者」
それだけ言った。
それを聞いて、コウガはぐうの音が出ないようなしかめた顔をして、ヴェルゴラを見上げていた。
ショーマはただ、それを聞いていた。
聞いていただけだった。
ヴェルゴラはむぃに視線を写し、彼は小さいむぃに聞いた。
「なぜ邪魔をした?」
むぃは喋らない。それを見て、ヴェルゴラは小さく舌打ちをして、腕の鎧のつなぎ目からフォークを取り出し、それを……。
すっとむぃの額に、ぴったりとつけた。
「むぃちゃんっ!」
ツグミが声を荒げて叫ぶと、むぃはそれを見ずに、むぃはヴェルゴラを震えながら、涙を溜めながら彼女は、震える口で、声で言った。
「だ、ふえ。だって……っ! まち、間違ってる、から……!」
「? 何を言っている?」
その言葉に、ヴェルゴラは反論する。突き付けながら反論する。
はたから見れば……、拷問にも見えた。
ショーマは、そう思った。
「だって! コウガさんはいい人ですぅ!」
そんな状況でもむぃは張り裂ける気持ちを爆発させるように、彼女は泣きながら大声で叫んだ。
ヴェルゴラはそれを聞いて、耳触りと言わんばかりに顔を甲冑越しで顰めた。
「コウガさんはぁ! えっく。むぃが寝れないときにずっと寝ないで一緒にいてくれて! うぅ! むぃが危ないと感じたら、すぐに背中に隠して戦って! ふええ。 全部全部自分よりも他人を優先にしている人でした! グレグルのおじちゃんからも聞きました! コウガさんは、親を失っているって!」
「ああ。それはこいつの凶行で」
「違うんです! 濡れ衣なんですぅ!」
「?」
むぃの発言にヴェルゴラは目を細め、ツグミも「え?」と首を傾げ、ショーマはそれをただ聞いて、コウガは……。
絶句した。否――驚いて固まってしまったのだ。むぃは続ける。そんなコウガたちを無視して……。
「濡れ衣は、人に罪をなすりつけられて捕まってしまうことって聞きました……っ! コウガさんは違うんですぅ! コウガさんが、一番の被害者なのに……、そんなに、そんなにぃ……」
ずびびっと、彼女は鼻を吸って飲み込むと、彼女はすぅっと息を吸って、彼女は、涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、ヴェルゴラに向かって叫んだ。
「そんなにいじめて、楽しいのかこのやろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!」
うわんうわん泣いてしまったむぃ。よほど怖かったのだろう。そんな彼女の叫びを聞いたのか、コウガは驚きのあまりに、愕然とし、そして……、なんだろうと、思ってしまった。
――あんな風に言われたのは初めてだな。
――世間じゃ、俺の家族はエンドーじゃなくて、俺が殺したってことになっている。
――冤罪、なんだけど……。
――まぁそれでいいと思っていたしな。俺がエンドーをぶっ殺せれば、それでいい。
そう思っていた感情は、とある青年の言葉によって、薄れた。
それを思い出し、コウガはさらに、あのサラマンダーの浄化が済んで、エンドーは牢屋に入れた時、コウガは毎日監視に来て見ていた。
その時エンドーはこんなことを言っていた。
『いくら君がこんなことをしても、世間は僕の味方だ。君の味方はいない。というか、僕は善人、君は悪人。家族殺しに疑いをかけられた時点で、君は、世間から見放されたんだ』
それを聞いて、コウガは――
知っている。と思った。
誰も味方がいなくてもいい。自分が復讐を果たせればそれでいいんだ。
そう思っていた気持ちが、むぃの言葉で、さらに薄れた。
簡単に言うと……、嬉しかった。と言った方がいいだろう。
コウガはそれを聞いて、微かに、ほくそ笑んでした……。
何でほくそ笑むのかはわからないが、顔に出てしまった。その感情が……。今になって……。
ヴェルゴラはそれを聞いて、ぐんっと手に持っていた肉切り包丁を掲げた。そしてそれを見て、コウガはぐっと体制を整えて駆け出す。
むぃはそれを見上げて、震えながら泣いて、べたんっと尻餅をついた。
ツグミも手を伸ばして駆け出そうとしたが、それは遅かった。
「そんなことを言うために、そんな無駄な時間を使わせたのか?」
と、冷たく言うヴェルゴラ。
それを聞いたむぃは、カタカタ震えながら固まってしまう。ヴェルゴラはそんな彼女を見降ろし、肉切り包丁を握る手に力を入れて……。
「無駄だったな」
それだけ言って、彼は勢いよく包丁を振り降ろした!
「てめえええっっっ!」
コウガが叫ぶ。むぃは目をぐっと閉じると同時に……。
――バギィイイイイイイイイイイイイイイイイイインッッ!
「っ!?」
ヴェルゴラは、砕けた包丁を持っていた手をもう片方の手で押さえながら、目の前を見た。
そこには――ヴェルゴラとむぃの間に入るように、刀を振るった形で構えていたショーマが、そこにいた。彼は、俯いた状態で黙って、ツグミとコウガはそれを見て、驚きながら見ていると、ショーマは、小さく……。
「なんで、聞かねえんだよ」
「? なんだと?」
ヴェルゴラが聞くと、ショーマはぐっと、右手に持った刀を上に上げて、そして一気に振り降ろす。それは、刀についた血を振り払うような動作で、彼はそんな動作を何回もしながらこう言った。
「あんたは何で、この子の言葉を信じねえんだ?」
「子供の言うことだ、信じられないのが普通だ」
「俺は――信じる!」
「?」
はっきりと言ったショーマの言葉に、ヴェルゴラはぎょっと微かに驚いた。
ショーマはブンッと振るっていた刀を、ヴェルゴラに向けて、彼は顔を上げる。顔に浮き出ていた黒い刺青が、独りでに彼の顔を、体を覆うように蠢く。
それを見たヴェルゴラは、一瞬引いてしまったが、ショーマはそれでも、ヴェルゴラから目を離さずに、こう言った。
大声で、言った。
「俺は信じる! むぃちゃんが言った言葉を。こんなにむぃちゃんのことを思いやっている人が、人を殺すなんてありえねえ話なんだよ! あんたの目が風穴ってだけで、何も見えちゃいねえんだっ! 少しでも、耳を傾ければ、誰だって分かりあえる! 自分だけが正しいんじゃない。少しは、人に歩み寄れよ! 馬鹿野郎っっ!!」
そう叫んだショーマ。それを聞いて、ツグミはくっと笑って……。
「それは、あんたの目は節穴か? でしょうが」と、杖を構えながら言うツグミ。
それを聞いてコウガは首を横に振った。
――マジで、信じちまうのか。あいつ。
そう思って、頭に手をやり、抱える。手で隠れ、マスクで隠れた口元は……、僅かにゆるく弧を描いていた……。
「単調な判断だ。そんなの何の得にもならない」
「いやだね! 俺はこれが性に合っている!」
んべっと舌を突き出して言うショーマ。それを見て、ヴェルゴラは苛立ったように、腰のところから長いナイフを取り出した。
「うへぁ! まだ持っていたっ!」
ショーマはうげっと言いながら言うと、ヴェルゴラは舌打ちをして――
「お前のような餓鬼は嫌いだ。あの時出会った役立たずの天族の女の方がましだ。メディックだから囮に使える」
と、彼はふとコウガを見て、ショーマから視線を外した隙に言った。
すると――
ふっと、ヴェルゴラの前が暗くなる。それを見て、ヴェルゴラは前を見た瞬間、目を見開いてしまった。
そう。彼の目の前には、ショーマが刀を振り上げて、ヴェルゴラを切ろうとしていたのだ。
ヴェルゴラはそれを見て、すぐにナイフでそれを受け止める。
ぎぃんっとナイフと刀の金属音が響き渡る。それを聞いて、ヴェルゴラはショーマを見た。ショーマは段々顔を黒く変色させながら、それと連動していく力に、ヴェルゴラは驚きながら見ると、ショーマは、怒りを含んだ音色でこうった。
「お前……、はなっぺにも、何かしたのか……?」
「なにを」
「はなっぺがいたのに、みゅんみゅんを傷つけたのかって、聞いてるんだあああああああっっ!」
ショーマは片手に持っていた鞘で、ヴェルゴラの顎に向けて、下から突き上げた。
ごぉんっと受けたヴェルゴラは、「うがぁ!」と声を上げながら後ろにふらついた。ショーマはそれを見てばっとその場から離れ、下に潜り込んでいたツグミは、杖を使ってヴェルゴラのひざ裏に、ごんっとそれを押し付けた。
要は膝かっくんである。
それを受けたヴェルゴラは「うぉっ!」と転んでしまった。
ツグミはたたっとショーマに近くにより、ショーマと肩を並べて怒りの眼でヴェルゴラを見降ろしていた。ショーマとツグミは、言葉を合わせながら、こう言った。
「「お前は許さない。みゅんみゅんと、はなっぺを/はなちゃんを傷つけた罪は、重いっ!」」
「っ! ううううあああがああああああああああっっっ!」
ヴェルゴラはぐっと腹筋を駆使して立ち上がる。しかし――
目の前は、銀の世界。
否――
ばんっ!
「っだ!」
ヴェルゴラは顔面に当たったそれを受けて、顔を押さえながら地面に寝っころがって転がる。その一部始終を見ていたコウガは、っはっと笑いながら……。
「遅せーよ。グレグル」と言った。
そして、ヴェルゴラの目の前に盾を挟みいれていたグレグルは、ぷっと口にたまっていた血を吐き出して、彼はこう言った。
「こう言う真打は、遅く起きて活躍するんだ」
そう言うと……、遠くから『だかか、だかかっ』と蹄の音が聞こえてきた。それを聞いて、ツグミははっとしてその音がする方向を見て、喜びの表情でこう叫んだ。
「来たぁ!」
それと同時に――
「見入れ視入れ診入れ。我は全てを見通す目を持つ一族也」
どろどろと、夜空が赤く染まっていく。それを見たコウガとむぃ、そしてグレグルは、それを恐怖の目で見ていたが、ショーマとツグミはそれを見て……。
「「――きたきたぁ!」」
と喜びながらその空を見て叫んだ。
蹄の音が大きくなっていくにつれて、その声も大きくなってくる。
「我思うは絶対なる我の領域支配。我願うは――我が眼中に、塵一つの障害物を無くし、我に全てを見通す力を与えん」
どろどろと赤く染まった空に、歪な形の、まるで口元に弧を描いたようなそれが浮かび上がり、そして……、デュランはざっと叢から出て、手に槍を持って、颯爽と姿を現した。
デュランは声を張り上げて叫ぶ。
「――『世界を見る魔眼』」
そう言ったと同時に、空に出ていたそれが、ばかんっと開いた。
大きな大きな、目が現れたのだ。
「ひゃぁ!」
むぃはそれを見て、コウガに駆け寄ってぶるぶる震えながらしがみついた。それを見て、コウガはそっと彼女の頭を撫でた。
そんな空を見て、ヴェルゴラは「な、なんだあれは……っ!」と、狼狽していると、デュランはダカカッ! ダカカッ! と駆け出していく。
それを見て、ヴェルゴラは近くにあった使えない槍を引き抜いて、それを両手でしっかりと掴んで――
「ううううぬうううああああああああっっ!」
声を張り上げながら、振り回した。
しかし、デュランにはそれがスローモーションのように見え、彼はそれを見て、がっと……。
馬のジャンプで躱した。
「っ!?」
ヴェルゴラはそれを見て、絶句した。コウガやむぃ、そしてグレグルも驚いていたが、デュランは難なく着地して――
「二人共掴まれ! 乗れっ!」
と、手を出して、二人に言った。
それを聞いて、最初にショーマが手を伸ばして、デュランの手を掴んで、次にショーマがツグミの手を掴んで、一緒にデュランの馬の背中に乗った。
ダガガッ! ダガガッ! と駆け回るデュラン達。それを見て、ヴェルゴラはすぐに腕に隠していたナイフを取り出そうとした時……。
「ショーマァ!」
「うっす!」
デュランはショーマの手を掴んで、そのまま右前脚を、ぐっと踏ん張ったのだ。スピードを落とすようなそれで、デュランはそのまま急停止と残った加速を利用して、時計回りに、右前脚を軸に、ぐるんぐるんっと回って、ショーマを振り回した。
ツグミはデュランにしがみついて、デュランはそのまま――
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!」
ショーマを投擲した!
それを見て、三人は絶句して唖然としていた。
ヴェルゴラはそれを見てぐっとナイフを手にした後……、持った右手に力を入れて……。
「舐めるな。ガキがああああああああぁぁぁっっ!」
と、ショーマの左目にそれを突き出した瞬間、ショーマは。
その右手に、手をついて、そのまま乗ったのだ。
それを見たヴェルゴラは唖然として、その光景を見ていた。ショーマはそのままぴょんっと跳んで逃げて……。
「――『無音の乱切り』」
それと同時に来た手の痛みと熱さ。
鎧を貫通し、その切り傷から吹き出す血を見て、ヴェルゴラはずたんっと膝をついた。
囮となったショーマは地面に足を着け……、ぐるんっとヴェルゴラを見て彼は胸を張ってこう言った。
「あんたには、それがいい薬になる! これで、俺達の、勝利だ!」