PLAY21 それぞれの出会い⑥
ぱちっと、グレグルが熾した焚火が鳴る。
すでに外は夜となり、満月が丁度ショーマ達の真上に出ていた。
開けた場所を見つけたのはコウガで、焚火を取り囲みながらロフィーゼとむぃが作ったムニエルが乗った皿を手に持ち、今日初めて出会ったみんなは雑談に花を咲かせていた。
この集りをしようと言った発端者は――ロフィーゼ。
「こんなにプレイヤー同士が集まったんだものぉ。日本にもこう言った言葉があるじゃなぁい。『旅は何とか』って、だからこうして出会えたのも運命と思ってぇ、もう遅いしぃ、みんなでキャンプをしながら楽しみましょぉ」
とのことで、最初こそコウガは「うぜぇ」と言いながら拒否したが、グレグルは冷静に宥めながら夜になると魔物が活発化し、暗い状態で歩くのは当たり前な話危険で、うっかりと言う場合もある。
そのことを話した時コウガはそれでも拒否していたが……。
「コウガさんっ! むぃはグレグルさんの意見に賛成ですっ!」
その言葉でコウガはあっさり折れた。
それを見たシイナはむぃのことをコウガの妹と勘違いしていたが、兄妹ではないことを聞いた時は目が飛び出そうになった。大袈裟な話だが……。
そんなこともあって、今日だけの戦いと言う殺伐としたことを忘れてオフ会のように話そうということになったのだ。
デュランはそのような話が苦手なようで、彼は少し離れたところで見張りを志願し、今はここにはいない。今焚火を取り囲んで座っているのはプレイヤーだけ。
時計回りに……。
ロフィーゼ、むぃ、コウガ、グレグル、ブラド、ショーマ、ツグミ、コーフィン、シイナ。
はたから見れば異色の風景に見えるが、彼らの空気は穏やかだった。
「はぁい。これから疑似オフ会をはじめまぁす」
「疑似って」
「ウエーイッッ!」
ロフィーゼの言葉にグレグルは冷静に突っ込み、ショーマが胡坐をかきながらその膝の上にムニエルを置き、両手を上げて返事をした。
それを見たむぃも、近くに皿を置いて「いえーいっ! ですぅ!」と笑顔で猫の手を上げて言った。
それを見ていたコウガは、むぃを見た後、そっぽを向いてしまう。
シイナは手に皿を持ったまま俯いてしまっている。
それを見ていたツグミはシイナの肩を叩きながら「えっと……、シイナ、さん?」と呼ぶと、シイナはびくっと顔を強張らせてシイナを見た。
それを見たシイナはぎょっとしたが、すぐに通常の顔に戻って、ショーマを指さしながら……。
「あのバカ五月蠅いでしょう? すみません、あいつ……、馬鹿っっっ! なんで」
「何でバカを強調したんだっ!?」
わざとなのだろう。ツグミは思いっきりバカと言うところを強調して、大声で言ったことで、ショーマはツグミを見て唇を尖らせた状態で突っ込む。
それを見たブラドやむぃがお腹を抱えて笑い出し、ロフィーゼやグレグルもくすくすと笑っていた。
シイナはそれを見て、驚きを隠せなかった。
その光景が、あまりにも明るく見えて、温かく感じたから……。
彼が忘れかけていた、その光景を……。
「デハ、最初ハ言イ出シッペノロフィーゼダナ」
「……っていうか、そのカタコトってキャラなんですか?」
「……ソコノ小僧ハスゴク失礼ダゾ? 社会人ニナッタラ絶対ニ出世デキナイ人ダカラナ。トアル事情ダ」
そうコーフィンが言うと、ツグミが目を点にしてコーフィンのことについて聞いてきたので、コーフィンは少し真剣な音色で言って、注意もした。
ロフィーゼは手をパンパン叩きながら「はいはぁい」と言って、そっと手を上げて彼女は妖艶に微笑みながらこう言った。
「わたしはロフィーゼでぇす。人間族のトリカルディーバでぇ。アムスノームにいましたぁ」
「へぇ。トリカルディーバか、そう言うイメージがある」
ツグミはツグミはほうほうと首を振りながら言う。それを聞いてコーフィンはふっと鼻で笑って……。
「……殴ラレルトコブガデキル」
「何か言ったかしらぁ? コーフィン……?」
コーフィンの言葉に、ロフィーゼは黒い笑みを浮かべて、ぐっと右手で左手を握りながら『ゴキゴキ』と、威嚇のようにそれを出す。
それを見て、コーフィンは明後日の方向を見ていたが、他の初めての人達は「ひぃいいいい」と、情けない声を出していた。
グレグルとコウガは、青ざめてみていたが……、むぃはそんなロフィーゼを見て……。
「すごい人ですっ! 戦うお姉さまですっ!」
と、なぜかはわからないが、彼女は目をキラキラさせながら、ロフィーゼを尊敬の眼差しで見ていた。それを見てコーフィンはぎょっと驚きながら固まった。
ロフィーゼはそれを見て、いったん固まったが、すぐにうふっと妖艶に微笑んで……、両手を解いて、片手を自分の頬に添えながら、彼女は微笑んだ状態で……。
「あらぁ。むぃちゃんは褒め上手なのねぇ」と、上機嫌に微笑みながら言った。
それを見て、驚きながらコーフィンとツグミは内心……、綺麗にハモるようにこう思った。
――スゲェなこの子っ!
むぃに賞賛の意を唱えた。
「はぁい次の人ぉ」
ロフィーゼは隣にいるむぃを手差しして言う。
むぃはそれを見て「はいっ!」と元気よく挙手して、立ち上がってこう言った。
「むぃはむぃですっ! えっと、猫人の亜人で……、シャーマーですっ! こう見えても十歳ですっ!」
「ヴェッッ!? 十歳っ!?」
誰もがむぃのことを聞いて、ぎょっと驚いた。それはコウガも驚きで、ブラドはむぃに聞いた。
「てか、むぃはなんで十歳なのにこのゲームを? 小学生とかはVRゲームの規制厳しいじゃねえか。オンラインゲーム全般は十五歳以上の人しか使えねえって規制されているのに」
「あ、それはですね……」
と言いながら、むぃは自分の頭を猫の手で指さしてこう言う。
「むぃは病気なのです。頭の」
その言葉に、みんながぎょっとして驚く。コウガも驚いて、むぃの顔を見ながら……。
「おい、何で言わなかった……? 病気だったらなんで率先して無茶なことを」
「おーおー。待て待てコウガ、むぃの話は終わってねぇぞ」
コウガは詰め寄ろうとしたが、グレグルに肩を掴まれて静止させられてしまう。コウガはそんなグレグルを睨んで「……んなもん関係ねえだろうが」と毒を吐き捨てるように言う。
「あ、あー! そう言った身体的なものじゃないです。むぃの病気はちょっと、特殊だってお医者さんが言っていました」
むぃは慌てて弁解した。
その言葉にショーマは「特殊?」と、腕を組んで首を傾げていると、むぃはその言葉に頷いた。
「むぃの頭……というか脳みそが、人より少し小さいんですけど……。記憶力がすごいんです。でもその記憶を保存する場所が小さいから少なく、記憶する量が多すぎると熱を出して倒れてしまう病気だって言っていました」
「なんだそりゃ」
ブラドが頭に手を回して言うと、コーフィンはその言葉を聞いて、はっと思い出したかのように、むぃに聞いた。
「……メモリ・バング症候群カ?」
その言葉にむぃ以外が首を傾げていたが、むぃはその言葉に「あ、そうです!」と言って……。
「日本語では『膨張記憶集荷不病』という病気で、むぃはその記憶の整理もかねて、ゲームをしながら専属の管理員さんが、むぃの記憶を整理してくれていたんです。病気の治療と、ワクチンの開発のために、このゲームに参加していました。あれ? 黒髪のお兄さんには難しすぎましたかね……?」
むぃは汗を流しながらショーマを見て言う。
ショーマはあまりに膨大な難しい情報を聞いて、耳や鼻から煙を出しながら、頭をショートさせていた。
ツグミはそれを見ながら、ショーマの肩を叩いて、むぃを見て……。
「ごめんね。こいつ本当に馬鹿だから」
「あ、はぁ……」
それを聞いてむぃはおずっとしながら頷く。
それからも、話は続いた。
「コウガ。人間のシノビだ」
「それだけかよっ! もっと言え馬鹿や」
「あ?」
「すいません」
ブラドがコウガの紹介に対して異を唱えたが、それに対してコウガも対抗したのか、じろっと睨みつけた。その瞬間、ブラドはその場で正座をして、頭を下げた。小さく謝罪も言って……。
「グレグル。巨人族のパラディン。守備が欲しい時はいつでも言ってくれ」
「頼もしいっ!」
「こう言った生命線の守りは必要不可欠だしね。どこかの命知らずにも教えたいよ……」
「ツグミくん……?」
グレグルの話を聞いて、ショーマは目を輝かせながら言うと、ツグミはうんうんっと頷いて、ショーマを一瞥しながら、黒い発言と笑みを零す。その雰囲気を感じ取ったショーマは、ひきつった笑みでツグミを見た……。
「俺はブラド! エルフと蜥蜴の魔人で、ソードマスターだ!」
「おぉ! 同類きたぁ!」
「同じ所属なんだなぁ! お前、スタイルはどんな感じなんだ?」
「えっとっすね……、刀スキル槍スキル、あとは」
「ちょっと待て、なんか剣スキル以外の言葉が最初に出た。お前どんなスキルの無駄遣いしてんの?」
ブラドは自分を親指で指さして生き生きとした表情で言うと、ショーマはそれを聞いて興奮した面持ちで言った。
ブラドはショーマを指さしながらそんなスタイルなのかを聞くと、ショーマは思い出しながら指折りで言うと、それを聞いたブラドは内心……。
あ、これは考えてないパターン。と、少しだけ悲しくショーマを見たとか……。
「自分はショーマっす! ソードマスターの悪魔族で、運動が毎回五でした!」
「成績のね、でも他はオール一」
「……逆にとることが難しい評価だな……」
ショーマがシュビッと手を上げて元気よく自己紹介をしたが、ツグミはそんな紹介を聞きながら嫌味半分で通知表の評価を零す。
それを聞いたグレグルは、顎に手を添えながらうーんっと唸って難しい顔をした。
レア種族でもある悪魔族よりも、成績の方に話が進んだことでショーマは手を上げたまま、難しい顔をして固まっていた……。
「そして僕はツグミです。ハイエルフのサモナーで、今はマースさんのもとで拷問されています」
「正直ニ言ッタナ」
「あ、そう言えばマースのおっさんは?」
「急用ができたって言ってギルドに戻ったよ」
ツグミは微笑みながら黒い発言も加えて自己紹介を涼しい顔でいた。それを聞いたコーフィンは驚きながら内心……、大物になりそうなやつだな……。と思った。
しかし、ふっと、ツグミを見て唐突にマースのことを思い出したショーマは、今いないというか、さっきまでいなかったマースのことについて聞くと、ツグミは「あぁ」と言ってマースのことを簡単に話したのだ。それを聞いたショーマは「ふぅん」と頷きながらはぐっとムニエルを頬張る。
そして最後に……。
「俺ハコーフィンダ。元々ハオヴリヴィオント言ウトコロニイタガ、今ハロフィーゼト一緒ニ行動シテイル。マァ王様ニトアルコトヲ頼マレテココニ来テイタンダガナ。一応人間族ノスナイパーダ」
「とか何とか云いながら、最後に『ふふん』って威張るんじゃねえ」
最後にコーフィンは自分を指さしながら自己紹介と自分の仕事のことを言った。
最後にふんっと胸を張って言ったので、コウガはそれを見ながら苛立った顔で突っ込んだ。
「そのマスクってなんなんすか? おしゃれっすか?」
「アァ。コレ、取ッチャッテモ、イイノカ……? 後悔スルヨ?」
「いやいや! ああいった仮面着けている奴はやべー顔を隠しているってジンクスがある! やめとけ!」
「う、うっす……っ!」
ショーマはコーフィンのマスクを見て、少し興味を示して指をさしながら、欲を言えば取ってもらおうかなぁと思っていたが……、コーフィンは低い声で囁くように言うと、ブラドはショーマの肩を掴みながら慌てて止める。
ショーマはコーフィンから出る黒いオーラを感じたのか、怖気づいたように引いた……。
まぁ、コーフィン自身ユーモアでやったことなのだが……。
それを見てロフィーゼはくすくすと笑って……。
――うんうん。和やかねぇ。と思いながら、彼女は隣にいる人物に声をかけた。
「それじゃぁ、最後の大とりぃ……、あ、あらぁ?」
ロフィーゼは首を傾げた。ショーマやブラド達もその方向を見て、あれっと首を傾げた。
なぜなら、ロフィーゼとコーフィンの間にいた、シイナがいなくなっていたのだ。
それを見て、コーフィンは「ア」と思い出したように、ロフィーゼに言った。
「ソウ言エバ、アイツ少シ頭ヲ冷ヤスト言ッテ向コウニ行ッテシマッタゾ」
◆ ◆
その開けた場所から少し離れた……、満月が見える平地で、シイナはその中央を陣取るように座って自分の両手を見た。
そして溜息。
(あんな楽しそうに……、見てていやになるな……)
(何であんな提案を、おれはいいって言ったのに……、なんだが、嫌味で見せつけられているみたいで……)
そう思いながらシイナはまた溜息を吐く。
(ここに来てからずっと、こんな感じだな……)
(引き取られてからもずっとこんな感じだったけど……。なんとか喋ろうとしたけど……、結局空振りで……)
そう思っていると、後ろからがさりと音が聞こえた。
シイナは犬特有の耳をぴくんっと動かして、すぐに近くに置いてあった杖を手に取って、後ろを振り向きながら杖を突きつけようとした――だが、彼の背後にいたのは……。
「あらぁ……、なんか、たそがれたかったぁ?」
と、申し訳なさそうに現れた――ロフィーゼだった。
シイナはロフィーゼを見て、安心しほっと胸を撫で下ろして、そのまま杖を地面に置いた後、すぐにふいっとそっぽを向いて彼女に背を向けた。
「あ、あの……、な、な、に、しに……?」
そう聞くと、ロフィーゼは「うーん」と顎に指を添えながら、彼女は少し肩をすくめてこう言う。
「……聞いてもいい?」
伸ばすような言葉ではないその声に、シイナは一瞬間を置いたが、頷く。振り向かずに……。ロフィーゼはそんな彼を見て、少しだけ何かと重ねて見たからなのが……、ほんの少し、悲しい笑みを浮かべて……。
「――わたし、もしかして……、余計だったかしら?」
と聞いた。
その言葉に、シイナは無言を徹しようとした意志を、一瞬だけ歪めて、彼は、口を開いた……。
「は、い」
その言葉に、ロフィーゼはきゅっと口を噤んだ。が、それも一瞬で、すぐににこっと微笑むそれに変えた。
「そうね、確かにわたしは余計なお世話をしちゃったかもしれないわね。シイナくんを思ってやったことが、あだになっちゃった」
「な、」
「?」
「なん、で」
シイナは、口を開いて――
ぽつり。
本当に一言をぽつりと吐くように、ぽつり、ぽつりと……、言葉を紡いだ。
「お、おれ、に、構、う、んで、す、か……?」
それは、疑問だった。赤の他人で、ついさっき会ったばかりの人物に対し、抱き着いたり、話しかけたり、励ましたり、そして……気にかけるのだろうか……。
それが心のしこりとなっていたシイナは、ロフィーゼに聞いた。
それを聞いたロフィーゼは、うーんっと後ろに手を組んで、そして彼女は……。
「似ていたから、かしら」
「?」
その言葉に、シイナは少しだけ顔を上げて、ロフィーゼの話を聞いた。
「あのね、私は元々オヴリヴィオンっていうパーティーにいた。そのチームは、アズールを支配しようとして、この近くにあるアムスノームを暴力で支配しようとしていた」
「………………………………………」
「その計画を発案したリーダーが、自分のことしか考えていない人だった。だから、犠牲も多くて、わたしの双子のお姉ちゃんも、犠牲になった」
「……………………………っ」
「そのお姉ちゃんの恋人が、あなたと同じ目をしていた」
「?」
そのことを聞いて、シイナはぞっとしたが、最後の言葉を聞いて、疑問を抱いた。
その言葉が変だと思ったからではない。その時の、ロフィーゼの音色が……、水分を含んでいるかのような、鼻声になったからだ。そのあとすぐに鼻を啜る音が聞こえた時、ロフィーゼの音色は元に戻っていた。
彼女は話を続けた。
「重ねてごめんなさいね。でもね……、本当に、そんな目をしていた。その人は、復讐のために、すべてを捧げてきたと思うの、生きているのに、死んだ目をして……、ずっと生きてきた。まるで、自分を責めて、すべてを否定して、ストレスを抱えているみたいな、そんな目」
「……………………………………」
「シイナくんもそうだった。悲しい目で、苦しい言葉を放って、やっとわかったの。あなたは……、諦めかけているって。頑張っているのに、誰も認めてくれない。誰も自分を見ていないって、すごく伝わったの」
だから。と――ロフィーゼは言った。
かつんっと前に進んで、ヒールの音を立てて……、彼女はシイナに向かって進む。シイナは動かない。
動こうと思わなかったから。
ただ……、驚いて、感情がぐちゃぐちゃになって……。
――カツンっと、ヒールの音が、シイナの背後で聞こえた。
ロフィーゼはシイナの後ろで止まって、そっとしゃがんで――
彼を、後ろからぎゅううっと覆いかぶさり、抱きしめた。
シイナはそのぬくもりを感じて、目を見開いて驚いた。ロフィーゼは抱きしめながら、頭にこつんっと、自分の顎を乗せるようにして、彼女は微笑みながら言った。
優しく、落ち着かせるように……。彼女はこう言った。
「シイナくんの頑張りはいつか伝わる。わたしはすぐにわかったんだもの。コーフィンだって、あんな顔になってすごく苦労したって言っていた。誰だって、人と違うところはあるわ。障害だって、きっと乗り越えられる」
(言われたことがなかった)
「ううん。絶対に乗り越えられる。頑張りやさんな貴方だもの。乗り越えられる。こんな言葉は、王道って言われてもいいわ。でも、言える。自分を信じて、生きていきましょう。こんな状況だからこそ……、笑うの。ふさぎ込んでいても、何も始まらない」
(こんな風に、してくれたことなんて、無かった……)
「ぎゃふんっと言わせてやろうって気持ちで、当たっていきましょう。わたしもその時、協力する」
ぐっと、ロフィーゼはシイナを抱く力を強め、彼女は優しく言った。
シイナの気持ちを、汲み取るように……。
「だから……、これだけは言わせて?」
「…………………………………」
「あなたは、ここにいてもいい。だから、そんな悲しいことがあったら、全部言ってもいい。今はわんわん泣いちゃえ」
「う」
ぐっと、込み上げてきた感情が、決壊した……。
否、ロフィーゼが抱きしめた時から、決壊はしていた。ボロボロと零れる涙を拭わす、彼は体育座りになって、自分の膝を抱えながら声を殺すように泣く。
それを聞いて、ロフィーゼはぐっと、彼を包むように抱きしめる。
(初めてだった。そんなことを言われたのは)
(お父さんにやお母さんがいなくなった後、誰も俺のことを気に掛ける人はいなかった)
(たぶん、おれは誰かに構ってほしかったのか、それとも、ただおれの愚痴を聞いてほしかったのか、わからない。でも……、おれはこのぬくもりに、甘えたいって思った)
(恋愛的なそれじゃない。おれはずっと、誰かに見てもらいたかったんだ。だれか、おれのそばにいてほしかったんだ。我儘なことだけど、おれは……一人が嫌で、ずっとねちねちしていたんだ……)
(馬鹿なのはおれだった。こそばゆいけど……、おれは)
「人間と犬のセンチメンタルなんて、あくびが出るよ」
そう、二人以外の、ショーマ達以外の声が、空から聞こえた。
◆ ◆
――ずしゃりと、焚火が揺らめくような轟音が、キャンプ場に響いた。
それを見て、ショーマとツグミ、むぃとコウガは顔を顰めて、目の前にいる紺色の鎧を着た男を見た。
男の鎧は血で濡れており、手に持っていた羽根がついた槍も、羽根もろとも血で赤く染まっていた。それを見て、コウガはちらりと、遠くで大の字になって倒れてしまったグレグルを見る。
頭にあの『デス・カウンター』が出ない。それを見たコウガは男を見て聞いた。
「お前……だれだ?」
その言葉に、鎧の男がこう言った。
――同刻。
「なんだ、ありゃ……っ!?」
「…………………アンナニ沢山モ……ッ!」
ブラドとコーフィンはロフィーゼのことが心配になって来てみれば、案の定と言うか想定外なことが起こった。それを見て、二人は武器を構えながらその空中にいる敵を見上げると、彼らは言ったのだ。
ロフィーゼ達はそれを見て、絶句しながらその光景を見ていた。
満月を背にして飛んでいるのは、鳥と人間が合わさったような姿の――鳥人族だ。
カラスのような黒い羽毛と首に下げている灰色の瘴輝石が五つはめ込まれている首飾り。腰巻に鋭利な鉤爪。鋭い黒い瞳孔がシイナ達を捉えながら両手に生えた翼で羽ばたき、周りには彼を守りながら飛んでいる怪鳥をステージの飾りのように見立てて、鳥の男は言った。
「死霊族――『鳥と共に戦う』。ランディ。どうだい? 美しいだろう?」
「俺は……、ヴェルゴラだ。お前達と同じ……、プレイヤーの一人だ」
運命とは時に残酷で、いたずら好きだ。
善の出会いがあれば、悪の出会いも然り。
ショーマ達の方ではヴェルゴラが。
シイナ達の方では死霊族のランディが、運悪く出くわしてしまった。