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PLAY21 それぞれの出会い④

 シイナは後ろを見て、絶句した。


「ぎゃあああああああああああああああっっっ!」


 体中に草や泥を着けて全速力で走ってきた少年もといショーマと、その背後から少年を襲おうとしている魔物集団――グランドボア十体を見て、ロフィーゼは口に手を添えて「あらまぁ」とさほど驚いてはいないがもう片方に手に殴鐘『鉄の処女(コクーン・メイデン)』を手に持って構える。


 コーフィンもペストマスクを着け、二丁の『KILLER』と『ブルーファング』の二丁を手に持って構える。


 シイナは「う、あ……っ!」と声を上げて持っていた杖を構えた。


 その杖は『闘牛角杖』というもので、前にダンジョン――鉱焔洞宮(こうえんどうきゅう)で姿を現し、アキの詠唱で倒した『焔暴牛』の角から作られた杖である。


 主な効力として火の攻撃力が上がるだけのそれだが、シイナはただ資金がなかったがためにこれを買っただけなのだ。


 決して深い意味があったわけではない。ただの資金不足であったがためである。


 閑話休題。


 シイナはその杖をショーマ――ではなく、シイナから見て右の方向に走って来ているグランドボアに向かって……。


「ど、ど、状態異常(ドラック・マジック・)魔法(スペル)――『足止め(レッグ・スタン)』ッ!」


 スキルを発動した。


 発動と同時に右にいた三頭のグランドボアがビキッと、まるで足が攣ってしまったかのような音を足から出して、ズテン! ズテンッ! とドミノ倒しのように転んでいく。


 三頭のグランドボアはウゴウゴと足を動かそうとしているが……、じたばたしているだけで動けない状態だ。


 足もぶるぶる震えている。


 その光景は足が攣ったかのようなそれだ。


 それを見た他のグランドボア達は、足を止めてそれを見て慌てて『ぶぎ。ブギギ』と唸って、近くにいる仲間に話し合うように顔を近付けていた。


 それを見て、シイナはほっと胸を撫で下ろす。


 すると……。


「シイナくぅん、ナイスゥ!」


 ロフィーゼは片手に持っていた殴鐘をぐんっと振り上げた。


 シイナはそれを聞いて「へ?」と声を上げた瞬間……、ロフィーゼは手に持っていた殴鐘の付け根と取ってのところをぐっと伸ばして鎖を出す。


 そもそもそれは鎖でつながっているものなので、これが本来の姿だ。それを砲丸投げのように一回ぶぅんっと風を切る音を出して振り回した。


 自分が駒の軸になりながら、一回転して――


 そしてその後、タンッと小さく跳躍して――ロフィーゼはそのまま回していたそれを上に向けて、その反動を利用して……、ブンッと力いっぱい振り降ろした!


 刹那。


 シイナから見て左にいた四頭のグランドボアは風を切る音を聞いて――何かが来ることに気付いて、鳴き声を上げながら慌てて上を見上げたが、遅かった。


 めしゃり! と、大きな破壊音が聞こえた時には、もうロフィーゼの一撃は終わっていた。


 シイナと、慌ててスライディングして難を逃れたショーマはそれを青ざめながら見る……。


 地面が凹むくらいの威力が高い殴鐘の叩きつけを受けたグランドボア。そのまま黒く変色してぼふぅんっと黒い煙と靄を出して消滅してしまった……。


(お、恐ろしい……っ!)


 シイナはロフィーゼを見て思ってしまったが……、ロフィーゼはくすっと妖艶に微笑みながら……。


「あらぁ? なんだか思ってたより弱かったぁ。強いモンスターって聞いていたんだけどぉ……?」


 と、口元に手を添えて、くすくす笑いながら言ったロフィーゼ。


 それを見て、シイナは尻餅をつきながら絶句してロフィーゼを見上げていた……。


 だが、全部倒したわけではない。


 まだ六頭もいるのだ。


 それを見て、シイナはすぐに杖を構えて……。


「ど、状態異常魔法――『麻痺(パラライズ)』ッ!」


 杖の先が黄色く光ったと同時に、残りのグランドボアは「「「「「「プギィンッッ!」」」」」」と鳴きながら、体をびくつかせてゴロンッと倒れてしまった。口から泡を出して、びくびくと震えている。


 それを見たショーマは、目をキラキラとさせて「すげええええっっ!」と立ち上がって感動していた。


 コーフィンはすかざす二丁の拳銃の銃口を、そのグランドボアの脳天目掛けて……。


 パン、パン、パン! パン、パン、パン!


 二丁三発ずつ銃弾を放った。


 その銃弾はショーマの体の脇や足の下をすり抜けるように向かって、ショーマが感動している隙に、グランドボアの脳天や蟀谷(こめかみ)、額に銃弾をあてた。


 ぽっかりと穴が開いたと同時に、グランドボアの体か黒く変色し、ぼふぅんっと黒い煙と靄を出して、ぼとぼとと素材を落として消滅した。


「お、おおぉ! すげぇ!」


 ショーマは振り返ってロフィーゼ達を見ながらだだだっと近づいて、さっきまでの恐怖が嘘のようなキラキラとした目で、ロフィーゼ達を見て聞いた。


「あんた達強いっすね! 一体どんな訓練してんすか!?」


 その言葉に、三人は首を傾げて……、コーフィンがショーマの興奮を宥めるようにして、落ち着いた音色でこう言った。


「イヤ、訓練ナンテシテイナイ。トイウカオ前何ガアッタンダ?」

「おぉ!? カラスの仮装っすかそれ! あ、何があったって、俺はこの近くで拷も……違った」


(今拷問って言いかけた?)


 シイナはショーマの言葉を聞いてぎょっとしていたが、会話には挟まなかった。


「この近くで訓練してて……」


 ショーマはすっと自分が走ってきた方向を指さして言った瞬間……、はっとして「あぁ!」と声を上げた。それを聞いた三人はぎょっと驚いてショーマを見る。


「どぉしたのぉ?」


 ロフィーゼがショーマに疑問の声をかけえると、ショーマはロフィーゼを見て、慌てながらこう言った。


「あ、あの別嬪さん! この先に俺のつれと言うか、友達と兄貴がいるんすよ! はぐれちまったみたいで……! とりあえずありがとうございました! 助けてくれて!」


 ショーマは頭を下げてお礼を述べると、ロフィーゼはくすくすと妖艶に笑いながら……。


「いいのにぃ。というかつれってぇ」と笑いをこらえるように言うと、コーフィンはショーマを見て言いたいことがあったが、言わないでおいた。


 そしてショーマは頭を上げて、シイナを見た。


 何とも純粋な目でシイナを見ていたから、シイナはすっと目をそらして……、「あ、あ、の」と言った瞬間だった。


 ショーマはにっと笑って、表裏のない犬歯が見える笑顔で。


「特にあんたのおかげで、俺助かりました! ありがとうございまっす!」と、頭を下げてお礼を述べた。


 それを見てシイナは……。


 驚いた。


 それがシイナがショーマに対して出した感情で、初めて聞いた言葉で、初めて……。


「あれ?」

「!」

「ア」


 ショーマは何も言わないシイナに疑問を抱いて顔を上げて、ロフィーゼは驚いてシイナを見て、コーフィンは『お?』と腕を組んでそれを見ていた。


 シイナの、ボロッと目じりから出た透明な液体を見て……。


「え? あれ……? 俺何か悪いことでも……?」


 ショーマはぎょっとして、わたわた、あわあわとしながら、ウゴウゴと空中を彷徨っている手で、シイナにどうしようかと模索し、何も思いつかないので藁にも縋る思いで二人を見た。


 その困った顔を見ても、二人はシイナを見ていたのでショーマには気づいていない。


 もちろん……。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「「「「?」」」」


 四人は突然暗くなった周りを見て、それが自分たちがいるところしか暗くなっていないことに気付き、最初にコーフィンが見て、すぐに散弾銃の『アダルター』を出して構えたが、シイナとロフィーゼは、それを見て固まってしまい、ショーマは……。



「うっそおおおおおおおおおおおおおおおおっっぅ! マザーイノシシィィィィッッッ!?」



 そう。


 彼らの背後に出てきたのは……、グランドボアよりも三倍の体長である……、グランドボアの進化系魔物……。


 グランドビッグボアであった。


 牙も大きく、岩の体には傷が多く残っており、あろうことか左目が隻眼となっている。そんなグランドビックボアを見て、ショーマはマザーと頭にポンッと出てきた言葉を言ったのだが、そうではないということが目に見えていた。


「しかも片目がないっ! 駄目だこれっ! これはやばいやつだ!」

「片目がないだけでそんなにぃ?」


 ロフィーゼは頬に手を添えて疑問の声をショーマに投げかけるが、彼女の顔にも油汗が浮き出ている。これはやばい。それはロフィーゼも感じていたのだろう。


 コーフィンがそのまま銃をうとうとしたとき、グランドビックボアはじろっとコーフィンを睨んだ。その瞬間グランドビックボアは……。



「ビギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!」



 ごぉっと風圧が生じるような咆哮を上げた。


 それを受けてショーマは驚いたまま固まってしまい、シイナやコーフィン、ロフィーゼは風圧に耐えながら身構えていた。


 これは、グランドビックボアが持つ技――相手を威嚇して、そのままスタン状態にする……。


弩威圧(どいあつ)』である。


 ただの威圧に思われるが、これを使うと十パーセントの確率で麻痺が発生するという付加効果がある。


 それを受け、シイナはそっと杖を出した。このスキルを使っている隙を突いて付加しようとしたのだ。


「ど、状態異常――」


 しかし……。


 ぎろっとグランドビックボアはそれを見て、ぐっと前足に力を入れる。


 後ろ脚がぽこっと膨らんだ気がしたが、気のせいではない。それはグランドビックボアの特徴で、彼らは突進をする時、一撃必殺をするために脚力――主に後ろ脚が異常に発達しているのだ。


 グランドビックボアは足に力を入れた瞬間――


 ダンッと駆け出した。


 その先にいた――シイナに向かって。


「っ! あ」


 シイナはスキルの発動を言おうとしたが、あまりの突進の速さに驚いてしまったこともあって、シイナはスキルの発動をいったん止めてしまった。


 そのせいでシイナはぐらんっと、後ろにバランスを崩してしまった。


 瞬きした時には、もうグランドビックボアは目の前に。


 目と鼻の先だ。


 それを見たシイナは……、絶句し、ぐっと目を閉じて……。




(死ぬ――!)




 そう認識してしまった。しかし……。





「だあああああああああああああああああっっっ!」





「っ!?」

「あっ!」

「オ前ッ!」


 目の前で聞こえた声。それをきいたシイナは目を開けて視界をクリアにした。そして、驚いて目を疑った。


 彼の目の前で行われていたのは……、ロデオだった。


 ロデオと言っても、簡単な話……、叫んだショーマがグランドビックボアの上に跨って、逆立っている毛を掴んでいるだけなのだ。


 グランドビックボアは「ブゴォッ!」や「ブギィィッ!」と声を張り上げながら、ずたんずたんっと、人間か垂直跳びをするように、馬がピョンピョンっと跳ねるように跳び上がりながら、ショーマを振り落そうとしていた。


 ずたんずたんっと言う音と共に、近くにあった木が倒れ、土が耕されていく。鳥も逃げるように飛んでいく。


「ちょっと! あなた危ないわっ!」


 ロフィーゼが慌てて声を張り上げて、ショーマに降りろと促しても、ショーマは降りなかった。むしろ……。


「このまま放さんぞぉおおおおっ!」

「聞ケ馬鹿野郎ッ!」


 コーフィンも慌てて言うが、シイナはそれを見てそっと立ち上がりながら……、ショーマを見た。


 自分にはできなかったこと……、自分の命を顧みずに、立ち向かう。


 あのアルテットミアで出会った少女と同じように、ショーマも自分の危険を顧みずに、今こうして、初めて会った人を助けようとしている。


 常識に欠けている。ばかげている。そう誰もが思うだろう……。しかし……。


「何のお返しもできてねえのに……このまま全員死なせて、たまるかってのぉおおおおっ!」


 ……ショーマは叫びながら、手に持っていた黒い石を握って、少し上を向いて「えーっと」と考えていた。それをみて、ロフィーゼやコーフィンが慌てて「降りろ」と促してても、ショーマは降りなかった。シイナはそれを見ることしかできなかったが……、ショーマを見て、思った。


(なんで、そんな風に、動けるんだろう……)と……。


 すると、ショーマははっと思い出したかのように驚きながら、ショーマが来た方向を見て頷いた後……ショーマはシイナを見て……。


「あのー! お兄さぁんっ!」

「っ!?」


 突然呼ばれたので、シイナはぎょっとして驚いた。そんなシイナを見て、ショーマはこう言った。


「俺が隙を作りますんで! そのまま状態異常の足を止めるそれを使ってくださーい!」


「え?」とシイナは驚いた声を呆けた声と共に出して……、シイナはショーマを見上げて言った。


 震える声で、つっかえつっかえの声で……。


「で、でも。おれ……」

「それじゃ行きまーす!」

「えっ!?」


(聞く耳持ってないっ!?)


 シイナはショーマの行動に驚かされながら、ロフィーゼはショーマが持っている何かを見て、はっとしてコーフィンに耳打ちをした。それを聞いたコーフィンは小さい声で「ナルホド」と言って頷く。


 そして二人は互いに別々の方向に向かって走ってしまった。


 コーフィンは深い森の中へ、ロフィーゼはシイナの背後に回って……。


「シイナくんっ!」

「!」


 ロフィーゼはゆったりとした口調ではない、真剣な口調で、シイナに言った。叫んだ。


「そのまま『足止め』を使って! わたし、支援のスキル使えるからっ!」


 シイナはそれを聞いて、ぐっと杖を握る手に力が入ってしまった。もし、もしも、これで失敗したら……? もし、もしこれで、自分のせいで…………。


 そう思った時……。


「シイナくん」


 ロフィーゼは言った。シイナに向かって。


 シイナはその顔を見て、目を見開いて見た。驚いたからだ。


 ロフィーゼの目は、あの時見た……、ふわりとした、妖艶な笑みで、彼女はシイナに向かって……、優しくこう言った。



「――うまくいく。落ち着いて、わたしが保証するから……。()()()



 がんばれ。


 誰も、言ってくれなかった。


 言ってくれたのは、自分の親だけだった。


 シイナはそれを聞いて、ぐっと杖を握って、そして……。そっと杖を、未だにロデオをしているグランドビックボアに向かって定めた。


 それを見てショーマは頷きながら、のそのそと暴れるグランドビックボアの頭まで毛を掴みながら匍匐前進して、額のところまで進んだところで……ぐっと、マースに持たされていた黒い瘴輝石を握って――


「えっと……、マナ・エクリション――『威嚇火花』ッ!」


 彼はその言葉を唱えた瞬間……。


 グランドビックボアの額付近で、ばちんっと大きな火花が発生した!


 グランドビックボアはそれを見て、瞬きをしていなかった目にその火花がちょんっと入った瞬間……。


「ブギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」


 口から涎が出るくらい、痛みを体現しているかのようにグランドビックボアはびょんびょんっと跳ねた。まぁ、目に火が入ったのだ。それは痛いだろう……。


 それを見て、ショーマはすぐに「とぅ!」と、特撮のスタンドマンのように跳んで逃げると、シイナはそのグランドビックボアの足元を見て……、狙いを定める。



 じっと狙いを定める。


 グランドビックボアが、地面に両足を付けるその時まで……、ロフィーゼも殴鐘を構えたままじっとその時を待っていると……。


 グランドビックボアは跳ぶことをやめて、地面に顔をぐりぐりとこすり付けた。


 それを見たシイナは、すぐにすぅっと息を吸った。ロフィーゼもすぐに片手に持っていた殴鐘をブンッと振って、『ゴーン』という音を出して――


「『付着強化(バインダァ・)(ベル)』ッ!」


 シイナに向かってそれを放った瞬間、シイナの体にオレンジの靄が体を包んだ。そしてシイナは――


「状態異常魔法――『足止め』ッ!」


 と言った瞬間……、びきっとグランドビックボアの足から歪な音が聞こえ、それを感じて、血走った目で驚いたグランドビックボアは、足を動かそうとした時、びきっと動かない足に驚きながら、あのグランドボアのように、ずだぁんっと大きな音を出しながら――転んでしまった。


 ぶぎぶぎと狼狽しながら、足をばたつかせて立とうとするが、動かない。


 それを見たシイナは、ほっと胸を撫で下ろし、後ろから来たロフィーゼは、そんな彼の顔を覗いて、フフッと妖艶に微笑んだ。


 ショーマも逃げてシイナの近くに来た。ショーマはぐっとサムズアップして、汗を流しながらシイナに向かって笑っていた。


 それを見て、シイナはまた、内心ショーマやロフィーゼを見て、思った……。


 否。これは彼が初めて感じた心境だ……。


 シイナは思った。


(なんで、初めて会ったおれを、信じて、背中を任せたんだろう……)


 確かにそれは疑問だろう。


 初めて会った人を見て、背中を預けるような言い方をして任せて、そして信じているような言い回しで、自分にまかせた。


 それは、はたから見ればおかしい話だ。もしかしたら囮にして逃げようとしていたのか? と思っていたが、それもない。この二人は――そんな裏の顔を隠していない。


 それはわかった。見てもわかる。だからこそ、シイナは本当に疑問に思った。


(なんで、あんなことを言ったおれを、信用してくれたんだろう……)


(意味が、分からないな……)


 そう思った瞬間、グランドビックボアはぐっと顔を疼く目るように丸まって、そのまま、自分の自慢の牙の狙いを、シイナ達に向かて定めて……。


 ブゴオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!


 と、咆哮を上げて、ぐんっと顔を上げた。


 ただ顔を上げただけだが、横に倒れている状態で、なおかつ自分には体から生えている牙がある。ゆえにこの行動だけで、人を三人も突き刺せる。


 そう思ったのだろう。しかし、ショーマは気付いていた。森の奥から見えた、黒い鎧を。


 だから……、彼は何もしなくてもよかった。なぜなら……。


 ――バァンッ! と来た音と、頭に感じた痛覚と熱い感覚。そして……。



「――『無音の一閃(サイレント・キル)』」



 音なんてなかった。でも、切れた。視界が二つに分かれた。そしてすぐに、意識がふっと消えたグランドビックボア。


 ショーマの背中に突き刺さろうとした牙が、横にすぱんっと切れた。


 きれいな刺身の斬り方だ。


 それを見て、シイナ達は驚いた顔をしてみることしかできなかった。


 ショーマは、にっとして後ろを振り向いた瞬間……。


「遅かったっすね!」と言った。


 それを見て、彼が来た道から来た一人の首なし人馬は持っていた血の付いた槍をぶんっと振るいながら……、ショーマを見て、静かに苛立った声でこう言った。


「お前が勝手に行ったからだろうが」

「あれ?」


 ショーマはぽかんっとして頭を掻き、間抜けな顔をして驚いていた。しかし首なしの人馬の男はフゥッと息を吐いて……。


「しかし、見つかって何よりだが……、先を越された」


 と言って、体をとある木に向けて言った人馬の男。その方向は大きくそびえ立っている木だが、その木の枝にいた散弾銃を構えているコーフィンを見て言った。


「……これでは」


 背後でどんどん黒く変色し、顔が斜めに真っ二つになったグランドビックボアを見ずに彼は言った。


「――『12鬼士』の名折れだ」


 そう言った瞬間、ショーマ、シイナ、ロフィーゼと、『12鬼士』が一人のデュランの背後で『ぼふぅんっ』と黒い煙と靄を出し……、グランドビックボアは消滅した。

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