PLAY21 それぞれの出会い①
ハンナ達が一週間という長い船旅を満喫している時……、アルテットミアではとあることが起きていた。
これは……、優雅な一週間を満喫しているハンナ達の背景で起こった出来事。
その伏線となる物語。
◆ ◆
ハンナ達がアクアロイアに向かった直後……。
ショーマ、ツグミ、そして『12鬼士』が一人――デュランはハンナ達が最初にいたギルドの椅子に座りながら目の前にいたギルド長マースの話を聞いていた。
ショーマとツグミは椅子に座り、デュランは人馬なので立ちながらその話を聞いている。
マースの表情は……、微笑んでいるが黒い何かを感じるそれだった……。
「あなた方の冒険者免許を拝見しました。ツグミ様はまぁまぁ良しとしましょう。問題はショーマ様」
「うっす」
ショーマは手を上げて返事をした。
それを見たツグミは内心苛立ちながらこう思った……。
――その怒りの矛先はお前なんだよ。と……。
マースはショーマを見て、黒い微笑でこう言った。
「あなた……所属は?」
「ソードマスターです」
「それで、なぜ刀や槍術のスキルを?」
「いや、かっこいいじゃないすか。てか、なんかそれが駄目なんすか?」
コテリと首を傾げて、はて? という声が出そうな顔でショーマは疑問の声を上げる。
それを聞いていたデュランは、頭がないそれで頭を抱えた。
対照的に――ツグミは心で舌打ちをした。
デュランとツグミの心境を知らず、未だに首を傾げているショーマの話を聞いたマースはにっこりとしたまま……。
「いえ、それは個人の自由です。こちらであれやこれやと意見を挟むなんて、そんなお恐れたことはしません。しかし……」
と言って、マースはずいっと黒い笑みのままショーマに顔を近付けた。
ショーマはそれを見てぎょっとして驚く。
ツグミはそれを隣で見て、すっと体を傾けながら逃げると……マースはこう言った。
「滅茶苦茶でしたね? あなたの戦い方」
「え?」
ショーマは首を更に傾げた。そしてうーんっと腕を組んで思い出す。そしてすぐにはっとして……。
「あぁ! あの鬼みたいなやつを倒そうとした時ですか? いやーあれは流石にやばかったなーって」
「ほほぅ。となると、あなたはソードマスターなのに剣の扱いをまるで理解していないと……?」
「え……?」
――あれ? 嫌な予感……。
ショーマは本当に遅すぎると言われてもおかしくないような時に、彼はマースのその顔を見て、顔を引き攣らせながら聞いた。恐る恐る……、マースに聞いたのだ……。
「あ、あのー……、どしたんすか?」
するとマースはすっと顔を離して、そしてショーマとツグミ、両方の顔を一瞥し、腕を組んで見ていたデュランの方を見て……。
「誘い卿――お時間はありますかな?」
「? あ……。あぁ、まぁ、あるな」
だろう? とデュランは二人を見て言う。それに対して二人は互いの顔を見合わせて、首を傾げていたが、すぐにデュランを見て頷いた。
それを見て、デュランはマースに言う。
「ということだ。まさかと思うが……」
と聞くと、マースは頷いて、微笑みながら……。
「ええ、します――」
とはっきりと言った。
それを聞いて、デュランは再度、深い溜息を吐いた。
それを交互に見て、何を言っているのだろうとショーマとツグミは思った。
その時、ツグミはふと、受付を見た。否、この場合は見てしまったの方がいいだろう……。
ツグミはその受付の所を見て、また首を傾げて、顔を顰めて見た。
受付では……、震えたり、互いの顔を見ながら抱きしめ合って泣いている人など、まさに恐怖そのもので自分達を見ているのだ。どう見ても変という言葉しか出ない。
――どうしたんだろうと思って、ツグミはマースを見上げる。
するとマースはすっと踵を返して、ギルドのドアに向かって歩みを進めた。それを見て、二人は「「あれ?」」と声を上げる。
マースはドアに手をかけながら、二人がいる方を振り向いてこう言った。
「それでは、場所を変えましょう。ゆっくりと話がしたいので」
その言葉にギルドの外へと足を進めるマースを見て、二人は首を傾げながらマースの言われるがまま立ち上がり、ギルドの外へと足を進めた。
それを見てデュランは溜息と共に二人の後を追いながら、一人の受付の思ったこととシンクロするようにこう思った。
――死ぬな。二人共。と……。
そして、ギルドの外。
そこは比較的安全なところで、魔物もあまりいない場所。そよそよと優しい風が吹いて、草木を揺らして暖かい空気を運ぶ。そんな場所で……。
じゃきりと、光る剣の先。
それはマースが持っている剣のワッペンを大きくしたそれで、『硝子』の魔女である彼にしか使えない道具である。
そんな彼は、左手に剣を持ちながら右手を後ろに回して、フェンシングのように構えながら、目の前にいる……、木刀を持ったまま固まり、あろうことか両手両足に重りのような鉄のそれを着けられているショーマとツグミを見て、こう言った。
「今から私はあなた方の喉笛を突きます。それを木刀で弾いて私から剣を落とせたらあなた方の勝ちです。尚私は真剣に襲い掛かりますのでご了承を」
「「多分死ぬと思うますけどいいんですかぁギルド長ーっっっ!!」」
二人はあまりに唐突な展開に叫んだ。
しかも鉄が重すぎるせいで動けないこの上ない。というかこれは動けずに死んでジ・エンド。である。
「なんで俺等はこんな突然無理ゲーの餌食になっているんですかっ!? そっちは真剣で俺等は木刀! これ圧倒的に俺達ユーアーデッドっすよっ!? この先の未来に進めませんて!」
「ご安心を、私の時は小枝で、お父上は正真正銘の完全装備でした」
「そっちの過去話じゃなくて! こっちの残機の話っ!」
ショーマはぐっと木刀を両手で掴もうとしたが、あまりの重さに手が動かないことに驚きながら、自分の命の危機を感じてマースに抗議した。しかし聞く耳を持たないマース。
そんな彼に助け舟……、否、自分の助け舟を出すように、ツグミは直立不動でマースの抗議した。
「ぼ、僕はサモナーなんで関係ないからショーマだけをしごいてくださいっ!」
「てめぇええええっっ!」
自分だけ逃げようとしたツグミ。そんな彼に怒りを露にしたショーマ。だがマースはふむっと頷いて……。
「ご安心を、これはあなた様達の戦闘の基礎を叩きこむ講習です。これを行うと体力も上がります。サモナーであろうと、あなた様の体力は4です。つまり体力がないではありませんか。ちゃんとそのことも考慮して、サモナーでも簡単に体力と魔力がなくても戦える術を。そしてショーマ様はそんな支離滅裂なお下品な剣術を叩きなおすために」
「聞いて聞いてっ! 僕そんなにいりませーんっ!」
「ざまぁみろ! あとお下品って俺の戦い方がっ!? あ、ちょっと待て……。これ俺達完全に死亡フラグ成立……?」
……今の時代、死亡フラグは古い言葉ではあるが、案外広く知られている言葉だ。その言葉を言って、ショーマとツグミは青ざめながら……、ばっととある方向を見た。
そこには、立ちながら腕を組んでみているデュラン。
二人はデュランに――
「「ヘルプッ! デュランさんっ!」」
助けを求めた……。しかし……。
デュランはすっと腕を組んでいた左手を解いて、そしてすっとサムズアップして、彼は言った。二人に対して……、心を鬼にして……。
「――グッドラック」
「「裏切り者ぉおおおおおおおっ!」」
……見捨てられた二人は、泣きながら叫ぶ。
それと同時に……、マースはダッと駆け出して……。
「それでは、実践開始です」といって、ぼっと空気が爆ぜるような音を出しながら、剣を突く。それを見た二人は、動けないという拷問を受けながら……。
「「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」」
……死んではいないが、断末魔の叫びをあげた……。
デュランはそれを見ながら、先ほど思い出したことを頭に浮かべて、その地獄の特訓を見ていた……。
――マースクルーヴ。
『硝子』の魔女にして……、ギルド随一の剣豪。
右に出る者はいないと言われている剣の達人……、しかもストイックとなると……、ショーマのあの滅茶苦茶な剣技を見て、いてもたってもいられなくなったのだろうな……。二人共……生きるんだぞ。あのスパルタから……。
と思いながら、異国で行われる祈りの儀式――両手をすっと合わせて、少し会釈しながら彼は二人の武運を祈った。きっと……、どこからか『ちーん』っと言う音が聞こえるだろう……。そんな音を出しながら、デュランは二人の無事を祈った。
「「合掌するなぁああああああっっ!!」」
◆ ◆
そんな地獄のような出来事から一日があったある日のこと……。
アルテットミアにはギルドと言うものがない。
しかしクエストは受けれるようになっている。
その理由は簡単だ。アルテットミアの城が大きなギルドとなっていて、アルテットミア王がギルド長の役割を担っている。
公国アルテットミアのすべてのこと、そしてギルドのことをすべて執り行っているのが、アルテットミア王なのである。
言葉では表せないほどの多忙なのである。
そんなアルテットミアの城の一室、特に広い空間となっているそこが、ギルドのクエスト受付室である。
赤を基準として作られた床、明るく日の光も入り、まるでそこがギルドではないような豪華さも備わっている。しかも宿泊部屋や露店も完備。朝食昼食夕食までも備わっている……。今でいうところの、ホテルのようなそれであった。
エレン達はそこを拠点に仕事をしながら、初日の忙しい日を送っているが、他の冒険者だっている。
このアズールの冒険者も然り、プレイヤーでもある冒険者もたくさんいた。
その中で、一人の白いローブにフードを深く被っている人物がいた。
「お? なぁ」
「!」
一人の白いバングルを着けている冒険者が来た。フードの男は少しだけ顔を上げて、その冒険者を見た。冒険者は陽気に笑いながらこう言った。
「お前もプレイヤーなんだろ?」
「一緒に行動しない?」
そう言いながら後ろから女の剣士が現れた。話しかけてきた男は騎士のような恰好をしていて、ローブを羽織った青年はその言葉に対し、そっと口を開いて……、どくどくなる心音を押さえながら。
(落ち着け。落ちつけ。大丈夫。あの時だってつっかえつっかえだったけど……言えたじゃないか)
そう言い聞かせながら、彼は言葉を発した。
「あ、あ、えと、う、あ」
その言葉を聞いて、二人のプレイヤーは顔を顰めた。
ふざけているのか? そう思ったのだろう……。だが青年は慌てて手を振って、わたわたしながら……。
「あ、ち、が……、う」
そう弁解したが……。
「もう、なんだかその気じゃないみたい」
「そうだな……、話しかけて悪かったな」
「あ………………」
ローブの男は手を伸ばして制止をかけようとした。
しかしそれを見向きもしないで、二人の冒険者はいそいそとどこかへ行ってしまった。
ちらりと……、その青年を奇異なものを見るような、不快感丸出しの目で。
それを見た青年は、落胆してしまった。情けないと、自分を叱咤した。
(またこうなった。なんで普通に言えないんだろう……)
(なんで、おれはこんな病気を抱えてしまったんだろう……)
そう思いながら、彼はすっと立ち上がって、そのギルドを出ようとした。
すると……。
――とん。
「あ。すまない!」
「っ!」
肩がぶつかったので、謝ろうとした。青年はぶつかった人を見て口を開けようとした。
しかしその前に、ぶつかってしまった人――エレンを見て、彼は言葉を発することができなかった。
緊張ではない。
ただ……、またああなってしまうのが、怖かった。
委縮してしまった……。
青年はすっと頭を下げて、そそくさと出て行ってしまった。それを見たエレンは、首を傾げながら彼は……。
――お急ぎ……? だったのかな。
そう思いながら……早速アルテットミア王から直々のクエストを受けるために、必要な道具に仕入れを済ませようと、ギルドに入って行った。
そして青年はというと、息を切らしながら走っていた。アルテットミアを出て、彼は行く宛てはないが、近くにあるアムスノームに向かって走っていた。
走って、走って、走って……。
彼は走っていた。
ぐちゃぐちゃの感情を掻き消すかのように、木々を掻い潜りながら彼は走った。
(なんで、おれはこんなものを抱えてしまったんだろう……)
(おれは普通とは違う)
(普通でなければ、普通に生きること何て、できないのか……?)
(そんな、資格がないからなのかな……)
(なんでおれは、吃音症になってしまったのだろう……)
走りながらぐっと口元を手で隠した青年は、込み上げてくる感情を抑えながら、それでさえも振り払うように走って、走っていた。
早く一人になって、この気持ちを何とかしたい。
そう思った時……。
――どんっ!
「きゃぅんっ!」
「わ」
――どさっ!
何ともお約束のような展開。しかし場所が森林なだけあって、そんな何かが始まるトキメキの展開などはない。
青年は走りながら木の横を通って行こうとした時……、声からして女だろうか、その人にぶつかってしまい、二人共尻餅をついてしまったのだ。
ふわっとフードが取れる。
そして青年は目の前の女の人を見て、慌てて口を開こうとした。
「あ、ご、ご、め、な」
しかし、つっかえつっかえのそれを口にした時……、青年はぐっと口を噤んでしまった。ああ、まただと思いながら……。
しかし女性はすっと立ち上がろうとして膝に手を付けて、妖艶に立ち上がりながら乱れてしまった髪を耳にかけて――
「ごめんなさいねぇ。わたしぃ、前見ていなかったわぁ」と、女性は言った。
イブニングドレスに身を包んだ女性がぶつかった青年をじっと見た瞬間……、彼女は申し訳ない表情からぱぁっと明るい笑顔になり、歓喜のそれで青年を見ながらこう言った。
「あらぁ! あなたぁ――犬人の亜人なのぉ!? しかもかわいぃっ! ぴくぴくしているぅ!」
「うぅ」
その言葉に青年はフードから現れてしまった赤黒い髪と一体化しているような赤黒い犬の耳をぴくっとぴくつかせながら、不覚にも顔を赤くして照れてしまった……。
アルテットミアとアムスノームの国境近くの森林で偶然出会った二人のプレイヤー。
元オヴリヴィオン・ロフィーゼと、ハンナに助けられた犬人の青年。
彼らの出会いはもしかしたら――運命の導きなのかもしれない……。




