PLAY20 非道な戦いと救う力④
「お、オーヴェンッ!」
叫ぶオグト。
今まで見たことがない驚愕のそれだったけど、シャイナさんは鎌を反時計回りに振り回すように、ぐっと振りかぶりながらオグトの死角に入って……。
「状態異常呪術――『毒の鎌』」
と言った瞬間、鎌を覆うような紫の靄。それを見たオグトははっとしてすぐに棍棒を振り上げて攻撃しようとした時……。
バァンッと、棍棒に穴が開く。
それは銃弾が当たったから穴がというか、風穴のようなそれが開いた。
振り上げた棍棒を見て、目を疑うように、銃弾が来た方向を見たオグト。
そこには……、赤い屋根の上で銃を構えているアキにぃ。
「アキにぃ!」
私が叫ぶとアキにぃはぐっとサムズアップしていた。
それを聞いてオグトは「ウグアアアアアアッッ!」とアキにぃに向けて叫んだけど……。
「余所見……、するなぁっ!」
シャイナさんがぐあっと鎌を振り回して、そのまま――
ざしゅっとオグトを体に斜めの傷を入れるように切り傷を残した。
傷が浅いからか、血はあまり出なかった。
でも、オグトはそれを受けて、うぐっと唸り声を上げたと思ったら、そのまま膝をついた。
それを見て、私は驚いたけどすぐに納得した。
そう、ポイズンとは毒。つまり……、オグトは今、毒状態なのだ。
顔色を紫に染めているオグトは、唸りながら立とうとしていた。
けど、その前にアキにぃはライフル銃を構えた後、オグトの周りに銃弾を放った。
放ったと同時に、当たった所に白いトリモチが銃弾が当たると割れて出てくる。
『トラップショット』だ。
それを見てオグトは更に苦い顔をする。なにせ、周りにはトリモチがついている。そして毒状態。
言うなれば逃げ場がない。絶対絶命……。
それを見て、私はさっきまであったむかむかする感情が消えて、今ある感情は……。
不安というものではない……。
そう、疑問だ。
虫のいい話だけど、『六芒星』のやり方はひどい。
けど、今思うとなぜこの『六芒星』は種族として見られなくなったのか、話しあえば、それはわかると思う。
みんなで理解し合えば、話し合えば、それはそれで、いい話なのでは……?
そう思ってしまった。
悪い人達だけど……、それでも不満があるから世界を変えようとしている……。
私達はそれを聞かないで、力でねじ伏せようとしている……。
どっちが非道なことをして、どっちが正しいのか……。ちょっとわからなくなってきた……。
そしてさっき、オーヴェンから感じたあのもしゃもしゃは……。
青黒いもしゃもしゃの中にある……、ぐちゃぐちゃした色の数々。
あれは……、悲しさの中にある色んな負の感情が混ざった色。なんでこうなってしまったのかという……、行き場のない感情だ。
そう思っていると、オグトは咆哮を上げながら立ち上がり、そのままぶんぶんっと棍棒を振り回した。その振り回した拍子に風が吹き荒れ、トリモチがいくつかはがれて飛んで行ってしまう。
「あ! うそっ!?」
アキにぃが驚くと同時に、アキにぃはすぐに銃を構える。切り替えが早いアキにぃを見て、私はすごいと感心してしまうけど、オグトはダッと駆け出して、私に向かって棍棒を振り上げて……。
「こうなったら貴様だけでも食うっ! 貴様を食えばすべてが回復するっ! オデの勝利だっっ!」
そう言って、私に向かって駆け出してくるオグト。私は一瞬どうするかと考えてしまった。
なぜ? ここで『盾』を張ればいいんじゃないか?
そう思うはず。
でも、私はさっき思ったことが頭に引っかかっていた。
だから、聞きたかった。
何があったのか。なぜそこまで私達……、というか、種族を恨むのか。それを聞こうとした時……。
「うおどりゃあああああああああああっっ!」
しょーちゃんが私とオグトの間に入り込んで、右手に持っていた刀を振るいながら、オグトの顔にそれを突き付けようとした。それを見てオグトはぐんっと右に倒れながら避ける。
でも、オグトの目の下の皮膚がずりりっと音が出るような裂け方……、切れ方をして、ぶしっとそこから血が噴き出した。
「なに、はなっぺを食おうとしてんだ……っ!」
と言いながらしょーちゃんは左手に持っていた刀の鞘を逆手に持ったままダッと駆け出して、怒りをぶちまけた。
行動と共に体中から出る黒い靄と共に、そして、体に刻まれている刺青がひとりでに大きくなって、しょーちゃんを包み込む。
私達はそれを見て驚いていたけど、当の本人のしょーちゃんは気付いていない様子で、そのまま走り込んで、オグトに向かって――
「はなっぺを……、みんなを――傷つけるなぁああああああっっっ!!」
ザシュッとオグトの腕を浅く斬り、刀の鞘でオグトの首元に向けて殴り、右足の膝でオグトの顎に向けて膝蹴りを繰り出し、左足を使ってオグトの横顔にけりを入れる。足刀だ。
そんな攻撃をバラバラに繰り返して行くしょーちゃん。受けているオグトも驚きながら、攻撃できずに迷っている。
それを見て、誰もが思っただろう……。
私も、最初は驚いた。だから、私は慣れたから言わないけど……。
「滅茶苦茶っ!」
アキにぃがそう突っ込む。
そう、滅茶苦茶なのだ。
滅茶苦茶すぎるのだ。
しょーちゃんはソードマスターになったばかりだけど……、それでも足を使ったり、挙句の果てにはやり投げのように使っていたこともあった。
全てにおいて滅茶苦茶だけど、それで勝ったことも結構あったのだ。
しょーちゃんの、その何かに縛られないそれは、案外すごいことなのかもしれない、でもオグトはそれを受け続けながら、毒になっていても……。
「まだ、だ……っ! まだだ!」
と、しょーちゃんの足刀をガシッと、棍棒を持っていない手で掴んだオグト。驚くしょーちゃんに、シャイナさんも驚いて叫ぼうとしたと同時に……。
オグトはしょーちゃんの足を……。
「――『悪魔喰』ッ!」
――ばぐんっ!
「…………………しょーちゃんっ!」
私は驚愕と絶望のそれで、しょーちゃんを見た。
しょーちゃんの足を掴んでいたオグトは「ぐあはははっっ!」と笑いないながら、最後の一欠片も残さないようにばくんっとそれを口に放り込んで、ちゃんと咀嚼しながら食べていた。
それを見て、誰もが青ざめただろう。しょーちゃんは解放されたことで地面に落ちようとしていた。
オグトはそれを見て哄笑しながらこう言った。
「無様だ悪魔よ! お前は草場の陰でオデ達がこの弱いやつらを淘汰して喰う姿を、その眼に……、は?」
哄笑しながら言ったオグトだったけど、そのあとすぐにしょーちゃんのことを見た瞬間――オグトは目を疑ったような音色の声を出した。
私も、ぱっと口元を押さえて……、込み上げてきたそれを噛み締めるようにそれを見て、みんなの驚くそれを見ながら、しょーちゃんを見た。
ヘルナイトさんとトリッキーマジシャンさんは、まるで知っていたかのように武器を構えていた。
しょーちゃんはダンッと地面に着地して、オグトを見上げた。
ちゃんと、両足で立って――だ。
「お、お前……っ! なぜ、足が生えている……っ!?」
その言葉に、しょーちゃんは言った。
「今まで俺、気付かなかったというか……、今ここに来て気付いたんだよ……。俺には――」
部位破壊は効かないっ! できない! 生えるから! と――
部位破壊は、腕が骨折したり無くなってしまうことを指す。
でも、しょーちゃんは足を食われたにも関わらず、すぐに新しい脚が生えたのだ。喰われたところは裸足で、そこだけ喰われたことが目に見えていたけど、足はぴんぴんしていた。
もはやホラーに見えたけど……、今の私達には、頼もしいものだった。
部位破壊ができない。
そして三回HPがゼロになっても復活する。
私からしてみれば……、しょーちゃんはヘルナイトさんに次ぐチートなのかもしれない……。
そう思った時……。
「離れろっ!」
ヘルナイトさんの声。私はすぐに駆け出して、しょーちゃんの手を掴んで、引っ張る。
「あでででででっ! はなっぺストップ! 自分で歩けるっ! え? ちょっと聞いてる?」
そんなしょーちゃんの慌てた声を聞いてても、私は精一杯に引っ張りながら引き摺って離れる。それと同時に、シャイナさんも離れると、それと入れ替わるようにヘルナイトさんとトリッキーマジシャンさんが前に出て駆け出した。
トリッキーマジシャンさんはすぐに止まって、指を指した状態で構えていた。
ヘルナイトさんは駆け出したまま大剣を持って――
「――『影剣』」
と言った瞬間、大剣が二重に見えた。
それは見間違いじゃなくて、本当に二重に見えて、そのまま本物の大剣の下に落ちた黒い姿の大剣は、反対の手に収まって、ヘルナイトさんは駆け出す。
二本の大剣を、両手に持ったまま。
それを見たオグトは、ぐぅっと唸って、棍棒を振り上げて叩こうとした。
そのまま一気に力いっぱい振り降ろされた棍棒だったけど、ヘルナイトさんは大剣でそれを切って粉々壊す。それを驚愕のそれで見ていたオグトは、ぐあっと口を開けて、ヘルナイトさんを食おうとした時……。
「――『魔力強制停止』」
トリッキーマジシャンさんが言って、そのまま指の先に出ていた小さな光をしゅんっと消すと……。
がちんっと、オグトの口がいきなり閉じて、それに驚いたオグトは両手でこじ開けようとする。でも……、開かない。
「っ!? ……っ! ……っ! ……っ!?」
オグトは開かない口で何かを言おうとしたけど、何も言えない。
それを見て驚いていた私達。みんなが驚いている時、トリッキーマジシャンさんはふふんっと鼻で笑いながら……。
「私は『12鬼士』ですよ? 矮小なあなた方とは違って、育ちもいいし覚えもいいんです! あなたの魔祖が『食』ならば、魔力を出すそれを遮断してしまえば……、あなたは何もできない鬼! 何も食べれない口になってしまったということです! 口が開かないというのも、不便ですね……」
トリッキーマジシャンさんは自分の胸に手を当てて高らかに言う。
それを聞いていた私は少し怖いと感じてしまった。
しかしそんなことを考えている暇はなく、ヘルナイトさんはその隙を突いて……。
ザシュシュ!
と、オグトの両手に深く切り込みを入れる。
オグトは「うぐぅ!?」と唸りながらよろけると、ヘルナイトさんはズンッと至近距離になるように近付いて……。
「――『影剣・黒桜華』っ!」
一気に畳み掛ける。
それを見た私は、そしてみんなが、それに見とれていた。魅入られていた。
その姿は、キョウヤさんと同じ流れるような斬撃。しかも踊るように斬っては、相手に攻撃する隙を与えないそれは、舞踊に近いものを感じた。
オグトはそれを受け続け、ぐぐぐっと口を開けようとして……、そして。
がぱんっと口を開けた。
「っ!?」
私はそれを見て、すぐ近くにいるヘルナイトさんに向けて、「逃げて」と言おうとした。
けど、ヘルナイトさんは攻撃しながら、私の方を振り向いて……。
何も言わなかった。けど……、言いたいことが、自然と分かった。
――大丈夫。
そう言いたいのだろう……。それを見て、私ははっとした。
ここにいない人がいる。そう――
そう思った瞬間……、オグトはぐあっと口を大きく開けて、ヘルナイトさんを食べようとしていた。それを見て、しょーちゃんは「ぎゃーっ! あぶねぇ!」と叫んで、近くにいたエレンさんも「避けろ!」と言って矢を放とうとした時……。
オグトはヘルナイトさんを食べる前に、びたっと動きを止めてしまった。
それを見た私は、はっとして周りを見渡す。
そして、やっと気付いた。
オグトの体に巻き付いている球体から出ている糸。そして、その糸を辿っていくと……、そこにいたのは……。
「――キョウヤさんっ!」
そう。キョウヤさんはにっと笑いながら、尻尾をバシンッと叩きながら駆け出す。その速さを目で追うオグト。ヘルナイトさんはその場から消えて、私の近くに来ていた。
そのあとは、キョウヤさんの土壇場で、フィニッシュ。
作戦は頭に入っていたけど、ヘルナイトさんのあの攻撃で、一瞬忘れてしまっていた私。でも、キョウヤさんの速さに翻弄されながら、ぐるぐると周りを見渡しているオグト。
キョウヤさんはぐるんぐるんっとオグトの周りを走りながら……、『圧縮球』を使って拘束していた。
すごい速さのそれはすぐに終わって、キョウヤさんはざっと止まる。
オグトはぐるぐる巻きにされて、肉に食い込む糸から、赤い血がトロッと出た。
「う。うぐおおおおおっっ!」
オグトは力んで引き千切ろうとしていたけど……、それを見ていたキョウヤさんは――
「ダンさんにモナっ!」と呼んだ。二人は駆け寄ってその糸を掴む。
そして――
「「ううううおおおおおおりゃあああああああああああああああっっっ!!」」
あらん限り叫んで、その掴んだ糸を持ったまま……二人は息を合わせて、キョウヤさんを軸に、三人でぐるんっと回った。私達は頭を下げて待機していた。
その力に振り回されるように、オグトはその糸に引っ張られ……。
グルングルンッと振り回される。
「ウグオアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?」と叫んで、成す術もなく振り回されるオグト。
そんな中、段々「ああああああっ!」という声が空から聞こえてきて、それを聞いていたキョウヤさんは……。
「離せ!」と叫んだ瞬間、三人は同時に糸を掴んでいた手を放した。そして砲丸投げのように飛んでいくオグト。そして……落ちてきたオーヴェンに向かって……。
「うごおおおおおっっ!?」
「あぁっ!? おい待て! 馬鹿来るな!」
ということが聞こえたと同時に……。
めしゃりと、オグトの頭がオーヴェンの胴に直撃した。
オーヴェンはそれを受けてげほっと咳込み、その威力に負けて……、そのまま大きな機械が立っているところに『ガァンッ』という金属音を出してぶつかる。二人一緒にめり込んだままその場で気絶した。
それを見て私は痛そうと思ってしまったけど……、みんなはそれを見て歓喜の声を上げた。それは勝利に対する嬉しさ。ヘルナイトさんはそれを見て、ふぅっと息を吐くとこう言った。
「……感情任せになっては、いけないな……」
その音色は、反省の色が混じったそれだった……。




