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PLAY19 アルテットミア④

 その叫び声よりも前に時間を遡る……。



 ◆     ◆



 ハンナ達が出た後、マースとダンゲル、マティリーナに……、二人の国王は目の前で面と向かい合いながら彼等は話していた。


 アムスノーム国王は元からこのためだけにここに来ただけで、アクアロイアの件もついでのようなものだった。


 アルテットミア王はアムスノーム国王に聞いた。


「それで、此度の件で、国王に戻ったのなら……、通り名はどうする気だ? 父上から聞いた『無垢の信王』は、もう名乗れないであろうが……」


 そう言うと、アムスノーム国王ははっと鼻で笑いながらにやりと顔を歪ませて彼はこう言った。


「長年一人旅に興じてきた身じゃ。元々王に戻る気はなかったが、可愛い弟の頼みでもある。なぁに……、簡単にこう名乗ろうかと思っておる。『奔放(ほんぽう)見王(けんおう)』の方が、いいかのぉ」

「ふふ。確かに、王の身を捨て、自由奔放に旅をして世界を見てきた。『奔放の見王』。相応しい名だ」


 アルテットミア王はくすっと、甲冑越しで微笑みながら言った。


 それを聞いて、アムスノーム王は後ろを向き、マース達に聞いた。


 これでいいのかと。


 その言葉を聞いた時、三人は何も答えなかった。


 それは肯定を意味し、アムスノーム王はそれを見て頷き……。


「さてさて。それではじゃがな……」

「言いたいことはわかる。あの天の少女のことであろう?」

「………ご明察じゃ」


 と、アルテットミア王の察しの速さを内心褒めながら、アムスノーム国王は言った。


 その言葉に三人のギルド長の顔に緊張が走る。ごくりと、どこかで聞こえそうな雰囲気だ。


 アムスノーム王はこう言った。




「――近日にも、()()()()を開こうと思っておる」




 国王会議。


 言うなれば国会のようなもので、アズールで起こった出来事に対してどう対処をするのか、どうするのかということを話しあう。簡単に言えばそうだが……。


 それが開かれるのは……、もう何百年ぶりの話でもあった。


 前に開いたのは……、『終焉の瘴気』が現れた時である。


 それを聞いたアルテットミア王はふむっと唸りながら、王はアムスノーム王を見て聞く。


「それは……、確かに話したいことでもある。しかし今回のことも踏まえてだ。アズールではまずありえない……、魔王族の血を引いた亜人が現れた。それも今回の国王会議で話をしたい」

「その件に関して……、エストゥガギルドのダンゲルブよ」


 アムスノーム国王はくるっと振り向いてダンゲルを呼んだ。ダンゲルは小さく「は」と軽く会釈をして、彼は答えた。


「昨夜冒険者による暴動がありました。しかしそれを止めたのが、『アストラ』という冒険者パーティーに、そこに一時加入していた人間族のモナという少女。そして昨日来た暗殺者の女――シャイナがそれを鎮圧してくれました」

「その時、暴動があったがゆえに、覚醒してしまったのか?」


 と、アムスノーム国王はじっとダンゲルを見た。


 それは少し威圧を込めたそれだったが、ダンゲルはそれを気にもせず、彼はこう言った。


「と思われます」

「思われます……? なんだいその言い方は」


 マティリーナは彼のその曖昧な言葉を聞いて、ぴくっと眉を顰めながら聞くと、ダンゲルはじっと黙ってしまった。それを見て、誰もが思った。


 こいつ、またどっかに行っていたな。と……。


 ダンゲルの悪い癖を知っているマースは、はぁっと頭を抱えて溜息を吐いた……。


「まぁ、そう言った個性があっていいではないか」


 と、ははっとほくそ笑むアルテットミア王。


 それを聞いていたアムスノーム国王はじろっとアルテットミア王を見て「何言っとるんじゃ。甘たれが」と毒を吐く勢いで言った。


 それを聞いて、アルテットミア王は四人を見て……、静かに言う。


「……となると。アムスノーム国王……。此度の会議ではきっと……」

「ああ」


 と頷いて、アムスノーム国王は更にこう続けた。


「アズールの王全員参加の予定だ」


 予定じゃて。と、アムスノーム国王はかかっと乾いた笑みを浮かべて言う。それを聞いていたアルテットミア王は……、すっと甲冑越しで目を細めて言う。



「……アクアロイア・水の国の『弱肉(じゃくにく)臆王(おくおう)』、ペトルデルト王。砂の国の『略奪の欲王』ガルゼディルグト王。アノウンの魔の大地唯一の人類であり『孤高の無王(むおう)』と言われているナム王。雪の大地の『戦乱の軍王』モトミヤ将。ボロボ空中都市の『英知の永王』アダム王。天界フィローノアの『悲愛の涙王(るいおう)』メザイァ王女。そして、ラ・リジューシュの『創生王』……。私達を含めて九人の国王が集まる……。となると、アムスノームも……」



「いいや、今は逆に感謝しとるんじゃて」


 アムスノーム国王は言う。


 それを聞いていたギルド長三人もそれを聞いて、驚いた顔をして見ていた。アルテットミア王はアムスノーム国王の言葉を聞く。


 アムスノーム国王は言った。


「そのことがあって、わしは世界を歩んだ。見れなかった世界が見れ、あの者達に出会って、そしてライジン様が救われた。まぁ結果オーライ。ということじゃのぉ。物は考えようじゃ。年を食うとこんな風に考えてしまうこともある」


 それを聞いて、アルテットミア王はくすりと甲冑越しで微笑む。


 ――やはり、あなた様は相応しいです。王としての、寛大な器を持っている……。


 そう思っていると、マース達は王二人の名を呼び、そして三人同時に頭を下げてこう言った。


「我々も、国王様たちの護衛を担ってもよろしいでしょうかな?」


 マースの言葉に、アムスノーム国王はふむっと言って……、少し考えてからこう言った。


「まぁ、初めからお前達の護衛がなければ始まらん。お前さん達は異種の存在。そして頼れる存在じゃ。お願いできるかのぉ」


 その言葉に、三人はすっと頭を上げて、そして、同時にこう言った。


「「「言わずとも!」」」


 それを聞いて、アルテットミア王はふっと微笑む。


 ――鉱石族と人間……。皆種族は違えど、こうして手を取り合っている。

 できるはずだ。


 だから想う。


 ――いくつかの国で、種が違うという意味で差別しあい、そして迫害、軋轢を繰り返す。


 ――私は許せない。そのような対等の命を、ただ血が違うだけで捨て置くことが。


 ――私は、変えてみせる。皆が手を取り合って、異国のように色んな種族が助け合う世界を。


 願っている。願いながら、アルテットミア王は思い描く。色んな種族が手を取り合って、笑い、助け合う世界を。


 あの()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そう思った時だった。


 ――バァンッ!


「王よ!」

「!?」


 一人の兵士が入ってきて、彼はガシャガシャと音を鳴らしながら入ってきた。


「何事だ」アルテットミア王は聞く。すると、兵士ははぁはぁっと息を切らしながら、息も絶え絶えと言っても過言ではないような面持ちで言った。


「て、敵襲ですっ!」

「! まさか……!」


 兵士の言葉に驚いてしまうマティリーナ。まさかとアムスノームの地下牢獄に入れている冒険者を思い描いたが、それをすぐに消し去る。


 ありえないからだ。


 なにせ、厳重な鍵を使って閉じ込めているのだ。解除できるわけがない。


 そう思っていると……。ダンゲルは兵士に向かって「まさか……、隣国の敵襲かっ!?」と聞くと、兵士は首を横に振った。


「ならば……死霊族か」


 マースが冷静にそう聞いたが、それに対しても首を横に振って……。兵士は震える口で、ある単語を言った。





六芒星(ろくぼうせい)ですっっ!」





「「「っ!?」」」

「「!」」


 その単語を聞き、二人の王は驚きに顔を染め、アルテットミア王はじいやことザムバに向かって叫んだ。


「私は外に出る! ザムバ――アムスノーム国王を!」

「了解しましたぞっ!」


 びしっと敬礼するザムバ。


 それを見て、アルテットミア王は三つ又の槍を手にして、兵士が入ってきた門に向かって駆け出した。


「すまない! 話はあとだ!」

「わかっとるわい。老兵はここで待機じゃて」


 と言いながら、すでにここにいないギルド長三人と、今向かってしまったアルテットミア王の武運を祈って、アムスノーム国王はふぅっと、老人二人しかない謁見の間で、溜息を吐いて腰をとんとんっと叩いた。



 □     □



 叫び声を聞いた私は、先ほどのマイリィの言葉を頭の片隅に追いやって、聞いた単語を復唱した。


 六芒星。


 それは聞いたことがない言葉ではない……。


 たしか……上下の三角を重ねて……、魔除けとしての図面でもあったはず……。


 それを聞いてか、ヘルナイトさんとリッキーマジシャンさんは驚いたそれに雰囲気を変えて……、すぐに向かおうとしていた。


「あ。どうした?」


 キョウヤさんが聞いたけど、ヘルナイトさんはたった一言……。


「すぐに向かわねばっ!」と、珍しく慌てた様子で言った。


 それを聞いてエレンさんは「どうしたんだ……?」と首を傾げていたけど……、すぐにそれは消える。


 海の向こうから……、というか貿易の交渉が行われていた停泊所の所から急いで走ってきた人達。


 それを見て驚きを隠せない私達。


 ここにいることが場違いのような……、そんな温度差を感じながら……。私はその人たちの顔を見た……。


 そして目を疑った。


 泣いていたから……。そして、停泊所のところから感じた……、燃え広がるような青黒いもしゃもしゃに、火柱のように出る赤黒いそれと、オレンジが勝っているもしゃもしゃを感じた。


 それを見て、感じた私は……思わず、無意識だった。


「! ハンナッ!」


 アキにぃの声を聞かずに、私は停泊所に向かって走っていた。


 みんなの声が聞こえていない状況で、私は走った。


 走りながらも、肩に当たったり押し出されそうになりながら、私は感じていた……。


 泣きながら走っている色んな種族の人達。


 怖がって走っている人達もいて……、停泊所についた私は……。


 思わず口元に手を当てて……、言葉を失ってしまった。


 そこはアムスノームとは違った……、異常な風景。


 辺り一面が、倒れている人の血や、泣き叫ぶ姿で埋め尽くされてて、さっきまでの賑わいが嘘のような光景。


 それを見て、騒動を起こした人物達を見た。


 複数人で刀や剣、ナイフを持って――逃げ遅れた人達の髪を掴んでは、下劣な笑みで遊んでいるかのように刃物を見せつけている……、赤黒い六芒星の大きな印をつけた仮面をつけている……、ネクロマンサーとは違った忍び装束のような黒い服を着た人達。


 その中央にいた二人は、それを見ながら話していた。


 叫びを聞きながら、それを見物するように……。


「あーあ。こりゃ半分死んだかもな。てか……ここまでするかとかねぇ?」


 と、簡易な布製で作られた黒い服に黒いローブで体を覆っているけど、背中にはギターのようなものを背負っている……耳が長くて褐色の肌が印象的な、少しだけ縛れる髪をうなじの近くで縛ってオールバックのようにして、顎髭を生やした気怠そうな男性がそれを見ながら口に咥えていた……、弦を引くための爪をクイクイと上げながら言うと、隣にいたその男以上に大きな人が、ふーんっと鼻息を荒くしてこう言った。


「知れたこと。オデ達が総べる世界だからな。オデ達の世界に不必要なやつは……、ここで排除するだけだ。オデは考えたぞ」

「はいはい……。よいお考えで。はぁ……、なんでおれがこんな男と一緒なんだろうな……」


 私はその大きな男を見て……驚きを隠せなかった。それは……魔物……。でも、人の言葉をしゃべっている魔物だった。


 その魔物は顔がデカく、頭の髪はないけど、大きく尖った鼻にぼうぼうに生やした手入れをしていない顎鬚。その顔よりも大きな膨らんだお腹に強靭そうな筋肉がついた両手と両足。腰には獣の皮で作られた腰巻しかついていない。手には大きな大きな赤黒く変色している棍棒を持っていた。


 それを見て、私は言葉を失った。


 その魔物は……()()()()()()()()()()()()()()()……。驚く他はなかった……。


 すると……。


「ぐわっ!」

「ぎゅぃえっ!」

「「?」」


 右の方から唸るような、潰れたような声が聞こえて、その方向を見ると、仮面をつけていた人達が倒れてビクビクしていた。


 そしてその人達の目の前にいたのは……、白いローブにフードを深くかぶっている男の人が、角が生えているような杖を持って、震えながらその二人組に向かって……、小さく、小さく叫んだ……。その人の背後には……小さい……子供達が……。


 私も走ろうとした。けど……。


「?」


 あ、足が……、震えて、いる……?


「や、や……、や、め……ろ」


 フードの人が、小さく小さく叫んだ……。


 でも、その叫びは恐怖と言う名の壁によってフィルターがかかったかのように、うまく声が発せられていない。それを見ていた長い耳の男は、その人を見て『あららっ』と難儀そうに眉を顰めてこう言った。


「おじさんはそんな怖い人なのかなー? おじさんはそんなに怖い顔していない……。あ、いや……、ここにいる魔物のおっさんが……、って、ありゃりゃ?」


 と、耳の長い男は隣にいた魔物を指さしていたけど……、魔物の男はずんずんっと白いローブの人に近付いて、べろんっと大きな青い舌で唇を舐めながらこう言った。


「ほほぅ。オデには向かうのか? 子犬風情が」

「っ! ………………っ」


 それを見てより一層震えたその人は、それでも杖を持ったまま逃げない。震えていることがわかるくらいなのに、逃げない。


 それを見て、魔物はにやりと笑って大きな腕を上げた。手に持っていた棍棒を上げて……。


「お前達犬の種族は弱い。きゃんきゃん喚き、主人に尻尾を振って従ずる卑しい種族。オデ達の方が強く、そして誰にも負けない」


 魔物は言った。


「戒名は――なにがいい? お前に戒名を与えてやる」


 そう下劣な笑みを浮かべて、そしてぐっと棍棒を握る力を強めていた……。



 やめて。



「お前に相応しい戒名(かいみょう)は……、ぽちだ! そうだぽちがいいっ! うわはははっ! 決めた! お前の戒名は――」

「あーらら。自分で選ばせてやるって言っていて、これなの? 結局自分勝手だねぇオグトは」



 おねがい。やめて。



「ぽちに決定だああああああああああっっっ!」


 振り降ろされる棍棒。


 それを見て、固まって見上げてしまったローブの人。


 暴れまわる人達……。


 逃げて、泣いて……、苦しんでいる人達。


 私は、私は……っ!




「――だめぇっっ!」




 あらん限り叫んだ。


 たぶん、初めて大声で叫んだと思う。それでも、私はあらん限り叫んで……、周囲の気を一気に引き寄せた。魔物の目を、耳の長い男の目を、ローブの人の目を、そして……仮面をつけた集団の目を……。


 引き寄せた。


 はぁ……っ。はぁ……っ。と荒い呼吸を整えながら私はそれを見て、ぎゅうっと胸の辺りを握り締めた。服を巻き込むほどのそれだった。


 言ったけど……この先のことを考えて、いなかった……。


 私に気づいた複数の仮面の人達は……、私を見て指をさしながら――


「て、天族だっ!」

「しかも相当な魔力を有しているっ!」

「まさか……、ラージェンラ様以上の……っ!?」


 誰もが驚く中、私はそれを見渡すことしかできなかった。


 でも……。


 ずんっと、私の前が暗くなった。


 影が差したかのようにそれは右から伸びてて、私は右を見上げると……、そこにいたのは……。


 さっきまでの下劣な笑みを浮かべたそれではなく、憤怒そのものの顔で棍棒を振り上げていた魔物が私を見て……、怒りの音色でこう言った。


「忌まわしき――天族めがっっ!」


「っっ!」


 棍棒が一気に振り降ろされる。それを見た私はぐっと目を瞑ってしまった……。

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