PLAY19 アルテットミア①
あれからなのだけど、一日も経たずに私達は目的の場所に着いてしまった。
車の中は快適だったのだけど、アムスノームとアルテットミアはそんなに近いところにあるのか? そう私は思ってしまった。
ちょっとだけ……、車の旅を満喫したかったのも正直な心の声なんだけど……ね。
キキッと――車が止まる音が聞こえた。
「着いたよ。国王様、しばしお待ちを」
と言って、運転していたマティリーナさんは運転席から降りて、まるで専属運転手のように王様に近くのドアを開けて手を差し伸べてゆっくりと降ろす。
それを見ていた私達だけど、反対の扉から降りて外を見た瞬間。
最初に見たアムスノームと同様の興奮に満ち溢れた。
というか、溢れて……。ううん、溢れまくって……。
「わぁぁ……っ!」
まるでコップから溢れてしまったかのように、私は興奮と驚きの声を上げてしまった。
私達がいた場所はアルテットミアの門の近くで、その場所で辺りを見ただけでも絶景に近いそれを感じた。
向こうに向かってゆるい傾斜となっているそこに広がるのは青い海。
そしてその近くで行われている漁業の仕事。大きな船の数々。空には気球がいっぱい浮いていた。
何より赤いレンガで作られた明るい街の風景。
賑わう露店やお店。そこで一服や商品を探してワイワイ楽しんでいる人達。
街の中央には大きな銅像が建てられて、それはアムスノーム噴水の銅像と同じサリアフィア様だ。その広場で遊んでいる子供達。
それを見て、アムスノーム以上の活気さが私の心を高ぶらせていた。
「すごい……」
「アムスノームよりも活気に溢れているなー」
「この町……、もしかして……」
キョウヤさんがその風景を見て驚きと歓喜が混ざったそれで言うと、アキにぃは辺りを見回して、後ろにいたヘルナイトさんに聞くと、ヘルナイトさんは頭を抱えて思い出したかのようにこう言った。
「このアルテットミア公国の王……『不動の盾王』が建国した国。それがここアルテットミアだ。商業や貿易の要として、ここはなくてはならない街だ」
思い出した。そう言うヘルナイトさん。
それを聞いた私は「そうなんですね」と控えめに微笑むと、降りてきたアムスノーム国王と後ろで待機していたマティリーナさんが近付いて……。
「この町はいわばアズールの流通の要。この国がなければ異国の者の仕入れも何もできない。ここを中心に、色んな国に物資を運んでいるのじゃ」
「それに、どの国だってなくてはならないのは当たり前だ。魚だってアクアロイアから仕入れ、薬だってボロボ空中都市から仕入れ、王都からは物資を仕入れている。アノウンだってなくてはならない国だからね……」
それを聞いて、私はその商業の風景を見た。
遠くでよく見えないけど、色んな人が集まって何かを話している。でも……。
「……あれ……?」
と、私はとあるものを見て、疑問の声を上げた。
アキにぃは「どうしたの?」と私を見降ろして声をかけたのだろう。
私はある木箱を指さして言った。
「あの木箱の中……」
「? あ」
アキにぃも気付いたようだ。キョウヤさんはとっくに気付いたみたいで、それを見て「あぁ」と少し悲しそうにこう言った。
「あの木箱の中の魚……、半分腐りかけてるよな……?」
そう。
大きな木箱にはたくさんの魚が入っているのだけど、その中の魚は……、殆どが腐っているものばかりだった。新鮮とは言い難いものばかりだった。
国王はそれを見て、深刻そうに言う。
「あれはアクアロイアから仕入れたものだろうが、あれは廃棄だろうな……。ここ何年かはあんな感じでな、国王を一時期やめてから色んな国を旅してきたが……、アクアロイアやアノウンは異常だ。特にアクアロイアは砂の国と水の国……、どの国でも飢餓が発生している」
「飢餓って……、困窮ってことか?」
キョウヤさんが聞くと、国王は「うむ」と言って……。
「そうだな……。しかし砂の国は違う。貴族の者達がそれを独占しているという、ある意味異常の困窮だ。裕福な者達はそれを見世物のように嘲笑っている……。世も末だが、アルテットミアはまだいい方だろうな」
それを見たヘルナイトさんは、少し俯いて考えてしまった。それを見た私は、すぐに察してしまった。
きっと、自分を責めている……。と。
私はそのヘルナイトさんの手を取って、ぎゅっと握る。
大丈夫。
そう言い聞かせるように……。すると……。
「? ?? ん? んん?」
キョウヤさんは突然上を見上げて、目を凝らして見る。
それを見たアキにぃは「どうしたの?」と聞くと、キョウヤさんはじっと上を見上げたまま、小さい声で迷いながら……。
「……鳥? でもだんだん大きく……、あれは、あ?」
「いや、一人で納得しないで。なに? ねぇ」
アキにぃも上を見上げて、私も見上げて、ヘルナイトさんも見上げて……マティリーナさんと国王も見上げた時……、私達は目を疑って、ごしごしと目をこすって、再度確認する。
……見間違いじゃない……。
それは、太陽を背景にして――どんどん大きくなってくる。虫かな? そう私は思ったけど……。よくよく見たら、手足? みたいなものが……。
「鳥人間……、だったら翼あるか。じゃああれって、へ?」
と、アキにぃはぎょっとして驚いた瞬間、キョウヤさんは叫んだ。驚きと共に叫んで……。
「人ぉっっっ!?」と、叫んだ瞬間、私はやっと認識できた瞬間、驚いて口を開けて、「え?」と呆けた声を出してしまった。
上から落ちてきた人物達を見て……。私は驚いて声を上げてしまった。
「「「「ぎゃあああああああああああああああああああああっっっっっ!」」」」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!」
「はぁ、何でこんなことに……」
「ぶあっはっはっはっはっはっは! 失敗失敗だ!」
「このままだと、死ぬかもしれないな……。私」
なんだか声が聞こえた気がしたけど、その前に私達の真上から落ちてきたのは……。
「エレンさん達とシャイナちゃん! それに、ダンゲルさんにマースさんと……」
「トリッキーマジシャンッ!」
そう。
エレンさんとララティラさん。そして互いを抱きしめ合っているモナさんとシャイナさん。アトラクションに乗ったかのような歓喜の声を上げて喜んでいるダンさんに、大笑いして胡坐をかいているダンゲルさん。それを見て呆れているマースさんに、腕を組んで私達を見た奇抜な衣装で、ピエロの印象がすごく強い……、ヘルナイトさんと同じくらいの長身の男の人は。私達を見上げ……、というか、見降ろしているのかな……?
そんな状態で私達を見て、そしてヘルナイトさんを見た瞬間……、ぎょっと仮面越しで驚いて……。
「あああああーっっ! ヘルナイトオオオオオッッ!?」
大きな声で叫んだ。
それを見ていたヘルナイトさんは、すぐに右手を出して。その掌を空に向けて片手で受け止めるように広げると……。その掌に集まる風。
ふわんふわんと、小さな竜巻を起こしながらだんだん大きくしていくと……。
私達はその風のせいで服や帽子が飛びそうになり、押さえながらそれを見ていると……。
「被害を出すんじゃないよっ!」
マティリーナさんの声を聞いてヘルナイトさんは頷いて、エレンさん達を見上げて唱えた。
「――『嵐爆乱』」
と言った瞬間、手に集まっていた小さな竜巻が、一気に膨張して吹き荒れた。
でもそれは、私達のところと、エレンさん達が落ちてきている上空でしか起こっていなくて、他の所には被害なんて出ていない。むしろ近くにいた人達はそれを歓声を上げて見上げて驚いていた。
サーカスのような、イリュージョンを見るような目で……。
私は上を見上げる。そして、目を疑った。
風はエレンさん達を包み込むように、優しい風を前後左右に起こしながら、ふわりふわりとパラシュートのようにゆっくりと落ちて、エレンさん達はその風の中で驚きながら揺り籠のようにゆらゆら揺れて落ちていく。
私はそれを見て、ヘルナイトさんを見上げる。
ヘルナイトさんは普通に、みんなを見上げて……、安心していた。
顔が見えなくてもわかる……。安心している顔を見て、私はくすっと、微笑んでしまった。
風がだんだん弱くなって、エレンさん達はすたっと地面に足を着けた。
それを見ていた国の人達は、『おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!』と拍手と共に歓声を上げた。
それを聞いてヘルナイトさんはただ手を上げただけだった。
私は降りてきたモナさんと、なぜか一緒にいるシャイナさんに走って近づきながら……。
「モナさん! シャイナさん……っ!」
と言うと、モナさんは疲れ切った顔を……あれ? モナさん目が変だ……。
なんだか無限大の記号のような模様が出ている……。
それを見ていると、モナさんは覇気のない音色で「ハンナちゃん……?」と聞いてきたので、私ははっとしてすぐに「ふえっ? ど、どうしたんですか?」と聞くと……。
互いに抱きしめ合いながら、生気を失った目でモナさんとシャイナさんは……、同時に……。
「「殺されかけた……」」
「だ、だれに……?」
……それ以上は追及してはいけない。そう私の直観が囁いて、私はすぐに冷や汗を流しながら……。
「あ、えっと……、何でもないです……」と、二人に言った。
エレンさん達の方を見てみると……。
「ダンゲルさんと一緒にいてはいけない……。そう俺は教訓にしたよ」
「うちも……、味方に殺されかけるっていう……斬新な経験をしてもうたわ……」
「ララティラさんとエレンさんの目が死んでいる……っ!」
「よほどいやな体験だったんだな……。あのおっさんは例外だけど……」
エレンさんとララティラさんの目を見てアキにぃはぎょっと驚いてみたけど、キョウヤさんは納得したように頷いて、そしてキョウヤさん達の背後で興奮冷め止まぬという言葉が正しいような、ダンさんが大きな声を上げて「楽しかったぜー!」と言いながら喜びを表現していた。その近くで、国の人達が喜びながら煽っている……。
すごい光景だ……。
その光景を見て、私は一際人の目を引き付けているそれを見て、信じられないものを見たかのように疑いながらそれを見た。
メグちゃんから聞いた……。『12鬼士』が一人の……。
トリッキーマジシャン。
その人はヘルナイトさんに向かって指をさしながら何かを怒鳴っていた。
「またあなたが横取りしたのですか!? いい加減にそう言った横取りはやめてもらいたいものです! 私だって『12鬼士』の端くれ! ちゃんと風の魔法くらいは使えますけどぉ!?」
「だが、トリッキーマジシャン。お前は付加強化の魔法が得意だったはずだ。それに風の魔法は使えないはず……」
「そう言った『自分の魔法の方が適任です』なんて言い方やめてもらえますぅ!? 私だって修行して風の魔法習得しましたぁ!」
「む……そうか。それはすまないことを言った」
「こんの天然鬼士団長がぁ!」
「?」
ヘルナイトさんとトリッキーマジシャンの話を聞いて、なんだか和むなと思っていると……、国の人達は二人を見て何かを話していた。
「あれが……『12鬼士』」
「魔王族でサリアフィア様直属の鬼士様……」
「魔力がない俺達じゃ到底及ばない領域の存在……」
「スゲーな! やっぱすごいぜ『12鬼士』! サリアフィア様もスゲーけど……、同格にすげー!」
話を聞くに、すごくかっこいいというイメージ固めて、そしてかっこいいというイメージで話しているような話を聞いて……、なんだか胸の奥が苦しくなった。
ヘルナイトさんは、あんなに自分の不甲斐なさを嘆いて、他人には何も言わないで、心の中で押し殺していた……。きっと、トリッキーマジシャンさんだってそうだ。
誰も……、その人の気持ちを知らないで、自分で作り上げたイメージで、話している……。
知っている人にとって、それは酷なことだろう……。
私はそれを聞いて……、胸の奥からズクッと痛くなった……。
胸に手を当てても、穴なんてない。でも苦しいし、痛い……。
考えすぎ? と思ってしまうけど……、それでも、痛い。
なんで?
「そう言えば……」
アキにぃの声がしたので、私はアキにぃの方を見て話を聞いた。アキにぃはエレンさん達を見てこう言った。
「なんでエレンさん達は空を?」と、きっとさりげなく聞いているんだけど、エレンさんは思い出してしまったかのように項垂れながらも説明してくれた。
「実は……、昨日モナちゃんが敵と戦ってな。シャイナちゃんも一緒に戦ってくれたんだが……、その時モナちゃんがこんな目になってしまったから、すぐにアルテットミアに向かおうとダンゲルさんが何の説明もせずに急いでいたのか……、瘴輝石を使ってマースさんのいるギルドに飛ばそうとしたんだけど……、なぜかこうなんだよ……。しかも、二回目……」
「な……」
キョウヤさんが納得したように言うと、エレンさんとララティラさんは頷いた。
私はモナさんを見る。モナさんは確かに……前とは違う目となっていた。
シャイナさんはきっと流れでこうなってしまったのだと思う。
私はそれを聞いてモナさん達に申し訳なさそうにこう励ました。
「た、大変だった……ですね」
「「マジで死にかけた……」」
「がっはっはっはっは! すまなんだ!」
と、ダンゲルさんは腰に手を当てて豪快に笑いながらこう言った。それをジト目で見ているマースさんとマティリーナさんを無視して……。
「モナどのの目を見て、まさかと思ってな! そのような知識に長けているアルテットミア王に会って話を聞こうと思ってな! それにエレンどの達のことについても話したいことがあったし、急いで話した方がいいだろう!? それで奇才卿も見たと言っているのだ! 連れてって話した方がいいだろう!?」
「善は急げって……、このこと?」
エレンさんの言葉に、ララティラさんは小さい声で「迷惑や……」と言って……。
「あたし、絶対にいらないでしょうが……」と怒りを含んだ音色で言うシャイナさん。
けど……ダンゲルさんはララティラさんのところから聞いていないのか……、ずんずんっとどこかへ足を進めて「さぁさ! 往こうぞ!」と急いでいるみたいで豪快に笑いながら行こうとしたけど……。
「待てダンゲル」
「ダン坊」
「おぐ、マースにマティリーナよ……。どうしたんだそんな剣幕な顔をしてからに……」
「私は一回死にかけたんだぞ? 言うことがあるだろう?」
「あたしゃどうでもいいがね……、ダン坊。また先走ってからに……、悪い癖を治せって言われているだろう!?」
「うぐぐ」
マースさんとマティリーナさんが声を上げて、ダンゲルさんを止めた。
というか……、マティリーナさん、今ダンゲルさんのことをダン坊って……?
それにダンゲルさんの方が年上に見えるのに……、なんでダンゲルさんが叱られて、そして目上のように二人は喋っているんだろう……。
怒っているからもしかしたら怖気付いてしまったのかもしれないけど……。
そう思っていると、アムスノーム国王は私達を見てこう言った。
「さて、どうやら目的は違うが……、一緒に行った方がいいかもしれんな」と言ってからモナさんをも見て、国王は私達を見て言った。
「まぁ、答えはきっと一択。すぐにわかる。さぁ行くか」
と言って、国王は続けてこう言った。
「――メディックの御嬢さんのこと、『12鬼士』のこと。そしてアクアロイアに行くための手続きなどもしないといけんだろうが」