PLAY18 アストラと言うチーム④
「あ、ちょっと! 待って!」
「~~~~~!」
その頃、モナとシャイナは走っていた。
よくある誰かを追うシーンであるが、今回は女子同士。何のトキメキもないそれだった。
無我夢中で一目散にエストゥガから出ようとは知っているシャイナを慌てて追うモナ。
シャイナは意外と速い。しかしモナも諦めていなかった。
モナはぐんっとピッチを上げて足の回転を早くする。
そして段々目の前を走るシャイナの背中が大きくなっていくにつれて、掴めると判断したのだろう。モナはぎゅんっと腕を伸ばす。
走っている彼女の腕を、強いて言うなら振っている最中の腕を掴もうとした。
のだが……。
「っ!?」
モナは驚いてしまった。
簡単な話、シャイナが走っていた足と止めたのだ。ぐんっと一気にそれが近くなり、そのままシャイナはグルンッと後ろを向いて……。
「しつぎゃんっ!」
「ちょにゃんっ!」
互いに互いの頭をぶつけ合い、まるで漫画のような展開がエストゥガの門の前で起こってしまった。
効果音で表すのなら……。
ゴッチーンッッ!
である。
「「~~~~~~~っっっ!」」
二人は膝をつき、地面に頭をくっつけ、痛みに耐えながら震えて悶える。
効果音があれなのだ。痛みや衝撃はすごいものだろう……。
シャイナはゆっくりと顔を上げ、涙目になりながら額にコブを作り、痛みに耐えながらこう言った。
「な、なんでこんなところまで……っ!?」
モナはそれを聞いて顔をゆっくりと上げながら彼女も額にコブを作り、涙目になりながら言った……。
「だ、だって……、私のせいでこうなったんだもん……っ! その、えっと……」
「……?」
モナは一瞬言葉を迷う。その理由は……。
――えっと、こういう場合は、えーっと……、けじめ……だと痛いものだし……。落とし前……あぁ! これも駄目だっ! えーっとうーんっと! こう言った場合はえーっと!
だらだらと汗を流しながら悶々考えるモナ。
どういった言葉が普通の言葉なのだろう。
そう言った言葉なら傷つけないだろう。変だと思われないだろう……。
そんなことを悶々と考えていると……。
――普通に、言いなさい――
「?」
また声がしたが、今度はあの震えるような声ではない。
温かくて、優しいけど、厳しいような、でも……嫌いじゃない。
そんな音色の声。
モナはその言葉を聞いて、目の前で頭を捻って見ているシャイナに向かって、言った。
「あ、謝ろうと思ってて!」
「ん?」
しかし、シャイナは一枚上手なのか、それともこれは普通ではないのか。モナはぎょっと驚いてシャイナを見た。
――えっ!? 違ったっ!?
そう彼女は驚きながら思ったが、シャイナはすっと座り、そして額を撫でて「いてて」と言いながらシャイナはモナに言った。
「あれって、あたしのせいでしょうが。あたしが勝手に激怒して、勝手に出て行こうとしたから、こうなった。それだけ。あんたが謝るようなこと、あったっけ?」
そう言われると、よく考えると……、確かに……、そんな気がする。
そうモナは思った。
しかし事の発端は……。
「で、でもさ……私の言葉でこうなっちゃったんだし……、なんか、ごめんね」
自分も座って頭を下げて謝る。
それを見ていたシャイナは、一瞬ぽけんっとして、そしてハァッと溜息を吐く。モナはそれを見てぎょっとするが、シャイナは普通に……。
「変」
「変っ!?」
その言葉に、モナは大変ショックを受けた。ガビーンっという効果音が出そうなショックである。
シャイナはフゥッとまた溜息を吐いて、そして辺りを見回しながらこう言った。
「ここって、門の前だよね」
「へ? あ、うん」
「ここ、通行の邪魔になると思うし、壁際に座って話そう」
「あ、うん……」
さっきまでのそれが嘘のように、シャイナは冷静にモナに言いながら、門の近くの岩壁を背に話そうと提案した。その提案に、モナは驚きながらも頷く。
――私とは違う。
モナは思った。
――私とは違って、冷静で、一部の知識しか知らない私とは違う。
ハンナちゃんやアキさん。キョウヤさんだって……、私とは違う何かを持っていた……。
私は……。
互いに隣同士に座って、そしてシャイナは体育座りになりながら彼女はモナを見て聞いた。
「あんたさ、なんでそんなに怖がっているの?」
「!」
自分の真意を突かれたかのような言葉、それを唐突に聞いたシャイナ。シャイナは言う。頬を指で掻きながら……。
「なんだろう……あたしと同じで、何かに囚われているというか、なんというか、あたしにはわからないことだろうけど」
「えっと、私はそんなに……、でもシャイナちゃんのこと、羨ましいと思っているなーって」
「なんで? こんな凡人じみた普通みたいなあたしが?」
「そこまでいうこと……?」
モナはシャイナの言葉を聞いて、そこまで自分を罵倒するのが好きなのか? と、正直思ってしまった。しかしシャイナは、モナを見て言った。少しうらやましそうな顔をして……。
「あんたって、仲間と一緒にいるんだね。羨ましい」
「へ? あ、エレンさん達? 違うよ」
とモナは首を横に振りながら違うことを言う。それを聞いて、見たシャイナはへ? と首を傾げて――
「違うの?」
「うん。元々いた友達がいたんだけど……、今私一人で、だからエレンさんたちと一緒に」
「……友達……」
その言葉に、シャイナはふっと、寂しい表情をした。それを見たモナは、頭に疑問符を浮かべて顔を覗きこむと、シャイナはモナの顔を見て、むすっとして彼女の顔をギッと見る。
「――っ!」
モナは驚きながら後ずさる。シャイナはそんなモナを見ながら、彼女はモナに聞いた。
「あんたって、その友達のこと、大事にしていないの?」
「へ? しているよ……?」
唐突な疑問に対し、モナは驚きながら答える。
その言葉に対してシャイナはじとっと見てから……「何で疑問形……」と小さく呟く。
そしてシャイナは言う。
「でも、自分が大事にしていても、他人の見解はそうじゃないとあたしは思う」
「?」
モナは頭に疑問符を浮かべながらどういうことだろうと思い、シャイナに聞こうとした時、シャイナはそれを察知したかのように、こう言った。
「――だってさ、友達って、平気で裏切るから」
その言葉に、モナは言葉を失い、そして頭が真っ白になるようなことを聞かされた……。
◆ ◆
毎度恒例となった回想編。
今回の主人公はシャイナ。
彼女ははたから見ても男勝りの印象であろう。
しかしその印象は後から根付いたものであり、彼女は弱い存在だ。今でもそれは変わらない。
なぜなら――彼女は今も恐れているから。
友を作ることを、大切なものを持つことを恐れているから……。
なぜ彼女がこうなってしまったのか、それを順を追って辿っていこうと思う。
彼女の現実の名は、淵縄五十鈴。
何とも可愛らしい名前ではあるが、彼女の人生は、本当に本人が言うような普通の人生である。
その人生で彼女はおとなしく、絵を描くのが好きな少女として人生を歩んでいた。
しかし中学校二年生の時――彼女は初めて、趣味を共有できる友ができた。
その友達のことを、シャイナは『るる』と呼んで仲良くしていた。
『るる』には夢があった。それはデザイナー。
よくファッションのデッサンを描くあれである。
五十鈴もその夢を持っていたがため、『るる』とはその方向でも気が合っていた。
二人はいつでも親友だ。そう二人は互いに思っていた……。
しかし、そんな二人の仲を簡単に引き裂く出来事が起こった。
それは……RCの『ファッションコンテスト』。内容は簡単なもので、自分が考えた服のデザインを、RC本社に送って、二重の審査で受かった人のデザインが、MCOの服のデザインに流用するもんである。どのデザインが採用されるのか、それはわからない。
しかし五十鈴と『るる』は、それに参加して、応募した。
「これで勝っても負けても、恨みっこなし! 実力なんだからね!」
「うん」
そう言って、二人は結果を待った。
結果としては……。
『るる』――一次試験落ち。
五十鈴――採用。
結果としては……最悪の結果だった。
五十鈴にとって、関係的に……最悪なそれだった。
「なんで……? なんであんたのショボイデザインが採用されるの……? 私の方が可愛かったはずなのに……、こんなの、ありえない……。審査員の目、節穴なんじゃないの……?」
「あ。あの……、ごめん。『るる』。でも、恨みっこなしって」
「何言ってんのさ! 採用されたからって調子に乗りやがってっ!」
そう言いながら、声を荒げながら、学校の教室と言うこともあって、周囲の目は奇異の目になり、五十鈴と『るる』を見ていた。
『るる』はいつの間にかであろうか……、彼女は手に何かを持っていた。
それを五十鈴に見せ、五十鈴は驚きと恐怖、そして不安に駆られながら後ずさった。
そして、五十鈴は目の前にいる『るる』に、震える口で後ろに下がりながら言った。
「ま、待って……っ! ねぇ、『るる』」
「気安く私の名前を呼ばないでよ……。あんたのせいでこうなったんだ……」
「え? え?」
どんっと窓枠にぶつかり、見ていた生徒達もその光景を見てまずいと思ったのだろう。ところどころから「やめておけ」という声が聞こえる。
しかし、『るる』はそれを聞かずにそれを手に取り、上に振り上げて、剣で斬るように彼女は叫びながら……五十鈴の右手に向けて……。
「――お前なんて、いなければよかったっ!!」
来たのは――その声と、右手の親指のところからくる熱と、ずくずくとくる痛み。
五十鈴は目を覚ました。頭も痛かった。
目を覚ましたところは病院で、五十鈴は頭を怪我していたみたいだが、幸い花壇であったがゆえに、そこがクッションの役割を果たしていた。
……右手に残った、大きな切り傷だけは、消えなかった。
親指のところが深く切れており、大事には至ってない様なのだが、精神的な問題だろうと言われた。
その言われた通りで、右親指が使えなくなっていた。動かなかった。
硬直しているようなそんな感覚。
温かいのに使えないのだ。
そこは『るる』が手に持っていたカッターナイフで切ったそれであり、彼女は突き飛ばしてしまったことにより、殺人未遂により逮捕された。学校も自主退学となり、五十鈴はあれ以来……『るる』と再会していない。
五十鈴はその時から、右手が使えない。そして友達を作っていない。
それは精神的なそれであると判断した医者は、とあるゲームをすることを推した。
そのゲームは、五十鈴が最もやりたくなかったMCOである。
最初は粗相をするくらい嫌悪感を抱いた。しかし五十鈴は思った……。
もしかしたら、『るる』もプレイしているのかもしれない。MCOは犯罪者の厚生目的でも使われると思い、彼女はしぶしぶ承諾した。
ただ再会するんじゃない。ただ会うだけ。一目見るだけ。それだけのために、彼女は暗殺者のシャイナとしてMCOにログインした。手のリハビリもあるが……、本当の目的は、『るる』のアバターに会って、真意を聞きたいだけ。でも、友達は作りたくない。
なんて矛盾した理由。その時からなのだろうか……、シャイナは壊れていたのかもしれない。
会うだけなら、一人でもいい。
だって、もうあんな思いはしたくない。
裏切られるくらいなら、仲良しな人なんていらない。
どうせ、利用するだけのそれで仲良くしていただけなんだろう……。
なら、あたしは一人でいい。
あたしは、ずっと一人で生きていく。
そう思い、リッパーシャイナは、今日まで一人で生きてきた……。
◆ ◆
だと思っていたのだが、このアップデートのせいで……。
『マスターは、一人ではない、デェス!』
今まで何も話さなかった、ただの戦闘兵のような『無慈悲な牧師様』が自我を持ってシャイナの前に現れたのだ。
それを聞いて、シャイナはぁっと溜息を吐き……、そして『無慈悲な牧師様』を見て言った。
「……あんたはあたしの影なんだ……。結局は自問自答って感じだから、あんたには関係ない。中に戻って」
『ノー、デェス』
「あぁ?」
たまに命令違反をする『無慈悲な牧師様』を見て、シャイナは苛立った音色を吐く。
それを見て、聞いていたモナは、くすっと笑って……口元に手を当てながらくすくす笑ってこう言った。
「なんか」
その言葉に、二人はふっとモナを見た。
そして、なぜだか『無慈悲な牧師様』の頬が、ぼっと赤くなった気がしたが、シャイナはそれを無視して、話を聞く。
モナは言った。
「こうしてみると……、二人が友達って感じがする」
「……ないない」
その言葉に対し、シャイナは即反論した。すごく冷めた目でモナを見て、更に重ねてこう言う。
「こいつはあたしの影なんだ。自分なんだよ? よくある自分を見つめよう的なそれ。というかあんたって変なこと言うよね? あたしそんなこと、一ミリも思わなかったよ」
そうシャイナが言うと、モナはふっとシャイナから視線を外し、自分の手を見ながら、彼女は言った。
「でも、友達のことは、逆に羨ましい」
「は?」
『ワイ?』
その言葉に、二人はきょとんっとしてモナに聞こうとした時……、シャイナはモナの異常に気付いた。
モナは、まるで心ここに非ずのように、死んだ目で自分の手を見ながら、ぶつぶつと何かを唱えるかのように言葉を紡いでいた。
「私には、そんな心を許して話せる友達がいるのかすら不安で、家のことも全く話さないし、私はその家のことを話した瞬間に嫌われることが怖かった」
「ねぇ」
「だって私は人殺しみたいなものだし、みんな私の過去を知ってしまったら、きっと後悔するし、幻滅する。一人はいやだ。でも生まれてよかったって、自分は必要とされなければいけない。私の居場所はあそこしかない」
「ちょっと」
「私は、私はわたしはワタシハ。私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は」
――茂菜さま。立ってくださいな――
――茂菜さま。戦いなさい――
――必要とされたいのなら、その手を汚しなさいな――
――ほら、汚く、汚しなさい――
――も な さ ま あ あああああ あああ ああああ あああああ ああああ あああ ああ あ あああああああ ああああ あああ ああああ ああ――
ブツンッッ!!
――茂菜。お前は好きに生きていい――
なんだろう……。
どろどろとする思考の中、モナは聞いた。
優しい音色を聞いた。
モナはそれを思い出そうと、黙って考える。それを見ていたシャイナは、おっかなびっくりになりながら彼女の肩に手を添えようとした時だった……。
『ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!』
「「『っ!』」」
エストゥガの町から、鉱石族達の悲鳴が聞こえた。
それと同時に聞こえたのは……、切り刻む音と発狂じみた笑い声。
二人は立ち上がって、シャイナはモナを心配しながら――
「行くっ!?」と聞いた。その言葉にモナは、頷く。
シャイナはそれを聞いて、頷いて駆け出した。モナもその後を追うように駆け出す。
その声がしたところには、すぐに着いた。
その場所は、鉱石族の仕事をした後休憩をする場所で、その場所は火の海……、ではなく……。
血の海であった。
倒れて血を流す鉱石族の人々。
それを見たモナはぞっとしてそれを見降ろし、シャイナははっとして、目の前にいる二人の男を見て、鎌を構えながら叫んだ。
「あんた達! いったい何をしているの!?」
すでに夜となっているエストゥガ。
その場所で、その鉱石族を蹂躙した二人の男はシャイナ達を見て言った。
一人は痩せ細って、腰には短剣を指していた盗賊らしい服装。ギョロ目に狩り上げた髪の男は手に血の付いた短剣を持って、ゲラゲラ笑いながらシャイナ達を見ていた。
もう一人は紫のカットシャツに黒いスーツズボン。そして腰には刀を差し、黒髪の長髪を後ろで縛って、前髪を左右均等に分けたような髪型をしている整ったか顔立ちの男が、刀の柄を掴んでにっと微笑んでいた。
一人はわからなかったが、モナはもう一人の盗賊らしい服装の男を見て息を呑んだ。
その男は、ゴーレスと一緒にいた……。
「あ! デスペンドさんっ!?」
……同時刻アムスノームでもテロが起こっていたが、エストゥガでも同じようなことが起きていたなど、ハンナ達は知る由もなかった……。