PLAY18 アストラと言うチーム①
そして、現実からまたMCOの世界に戻る。
しかし今回話す内容はハンナ達の話ではない。
ハンナ達がアムスノームで戦いを繰り広げている時……、とあるところでもそれほど大きくはないが戦いがあった。
その場所は――エストゥガである。
その場所で一体何があったのか、今から語ろう。ハンナ達がいない場所で行われたことを――
これは、ハンナ達がいないところで起こった――もう一つの戦いである……。
◆ ◆
「ねぇねぇ! あなたがデザインした服、すごくかわいいねっ!」
「え? ああ、うん」
「もしかして……、デザイナーになろうとしているの? 私もなの!」
「そ、そうなんだ……」
「ねぇねぇ、提案なんだけど……」
すっと目の前に出された手を見る。そして目の前の彼女は言った。
「――お友達になりましょう? ライバル兼友達! 私も、デザイナーになろうとしている卵なのっ! 一緒に目指そうよ!」
「………うん」
その手を見て、手をぐっと握ったもう一人の少女……。
(初めてだった)
(こんな暗い性格で、絵しか取り柄がないあたしを、見てくれた。その才能を、競うものとして見て、あたしに友達になろうって言ってくれた)
(嬉しかった)
(趣味の競い相手が欲しかっただけかもしれないけど……、それでもよかったんだ。あたしは……)
(だって、あたしにはそれしか取り柄がない)
(その取り柄を受け入れてくれただけで……)
(よかった……はずだ)
(なのに……)
「――お前なんて、いなければよかったっ!!」
「――っ!」
ガバリと起き上る。
窓の外は曇りの空だが明るい。とある少女はその外を見て、あぁ、朝か。と思いながら、べっとりとしている首元を腕でぐっと拭った……。
湿り気がひどい。
そう少女は思った。
体中についている汗が、先ほどの夢のリアルさを思い出させる……。
否、それはきっと、過去の回想なのだろうか……。
――なににせよ。おばあちゃんだ。これじゃ……。
――昔の思い出を夢で見るとか……、馬鹿みたい……。これじゃ……。
『グットモーニィイイイングッッ! マスター!』
「!」
そんなことを考えていると……、彼女の背中から黒いどろどろとしたそれが出て、それは何かの形を形成して突然彼女の前に出る。彼女の背中と連結されながらそれは出た。
『今日もいい朝、デェス!』
朝からハイテンションで決めた牧師のようなそれは、少女を見てハイテンションのまま言った。
それを聞いていた少女は、ふぅっと溜息を吐いて……、今まで座っていたベッドから降りながら言った。
「おはよう。服着替えるからちょっと中に戻ってて――『無慈悲な牧師様』」
そう言って、服を手に持って着替えようとしたのは――リッパーのシャイナ。
シャイナの言葉に『無慈悲な牧師様』は陽気に『イエッス!』と答えてだんだん黒く変色した後、どろっと泥のようになってシャイナの背中からズズズッと言う音を立てシャイナの体に入っていく。
シャイナはそれを見て、何も感じないそれを見ながら……。どぷんっと全て入るまで待っていた。
それを見たシャイナは、すぐに服を着替える。
シャイナは服に足を通して……、先程見た夢を思い出す。
その夢は……、彼女が最も見たくなかった夢であり……過去でもあった。
「もう、見たくないのに……」
そんな、彼女らしくない弱音を吐きながら、シャイナは今日も一人でクエストに出かける……。
それと同時刻……。
◆ ◆
「ん、ううんっ! ぬぅうううううううううっっ!」
腕をグググッと天井に向けて目一杯伸ばし、唸りながらベッドの上で硬くなった体を伸ばす少女。紫の髪を肩まで伸ばしたミディアムヘアーの少女。
髪の毛はぼさぼさとしているが、少女はそのままベッドの上から窓の外を見る。
窓の外は晴天……、ではなく曇り空。
しかしそんなこと関係なかった。
少女はバンッと窓を開けて、外の空気を吸って、一気に吐いて……。
「ふーむ! やっぱり朝一番の空気はどんな天気でもおいしいっ!」
あ、でも雨はいやかな? と言いながらくすくすと自分で言ったことに対して微笑んでしまう。
窓枠に体を預けながら、外で働いている鉱石族の人達に向かって……。
「おはようございまーす!」と大声で挨拶をした。
下で働いていた鉱石族の男二人は、上にいる少女に気付いて――
「おぉ! おはようモナちゃん!」
「今日も元気だなぁ! 今起きたのか?」
大きな手を振って挨拶をした。その光景を見ていた少女――モナは笑顔で窓枠に手を付けて、言った。
「はぁい! 今からクエストに行きまーす!」
「そうか! 最近魔物も活発になっているからな! 気を付けてくれよ!」
「はーいっ!」
と言って、モナは窓を閉めて服を手に取った。
彼女はモナ。今現在……エストゥガでクエストをしながら……はぐれた友達を探している……。
しかし、今になっても、友達の情報は……、ゼロ。
そんな彼女だが、全然諦めていなかった。
その二人のことを思いながら、モナは思う。
――情報がないということは、死んだって思っては駄目。きっと生きている。きっとまだこのゲームの中にいる。思い込みは駄目だ。ノノコもねこんも……、きっとどこかにいる。
――クエストをしていくうちに、見つかるかもしれない。
――そう信じる。
――諦めたら、駄目だ。
そう言い聞かせながら早四日。
結局、何日も経ちながらも探しているのだが、大体のところは探した。しかし見つからない。
他の土地にいるのかもしれない。そう思うのが普通だが……。モナは何か嫌な予感を感じていた……。
それは、ここに来て三日目の時からだった……。
モナはぶんぶんっと頭を振るう。そして一気に着替えていく。
モナは服を着終えて、部屋にあった鏡を見る。鏡にはぼさぼさの髪の毛のモナが写っている。
モナは頬をぐっと押し潰すようにして、ぐにぐにと頬を抓っては押して形を変形させていく。
「う、う……。むむむ」
顔をぐにぐにと抓ったりしていき、やっとにこやかな顔にできたことで、モナは腰に手を当てて「よし!」と頷いた。自分に言い聞かせるように己を鼓舞して――
……実際のところ、こんなことをしなくてもいいのだけど、これは彼女の気持ちの問題なのだ。
こうでもしないと不安や疲れの表情が出てしまう。
それは駄目だと彼女が無意識に思ったからこそ、毎日朝一番にこの顔の体操をしているのだ。
モナは部屋から出て、階段を下りて行き――下の階のギルドにつくと、彼女はそこで待っている人達に挨拶をした。それも、笑顔でだ。
「おはようございますっ!」
その言葉に返事をしたのは……。
「お。モナちゃんおはよう」
「おはようさん。よぉ眠れた?」
「おう! おはようだな!」
冒険者パーティー『アストラ』の、エレンとララティラ、そしてダンの三人だ。
今モナは、この三人と一時的なパーティーを組んでクエストを受けている。クエストを受けながら、モナは一人、深夜遅くまで、友達の行方を捜している……。
◆ ◆
「うーん……。どうするかなー……」
エレンはテーブルに並んだ魔導液晶を見てごちった。
それを見て、四人でテーブルの椅子に座り、魔導液晶を取り囲むようにして見ている。
テーブルにあるのは緑と黄色一つずつ。そして赤が一つと……。まぁまぁのクエストだった。
エレンはその魔導液晶を見て、最初のセリフを吐いたのだが、エレンは腕を組んで、それを見てこう言った。
「うーん……。どうするか……」
「何度言うねん」
そのエレンの優柔不断のような発言に、ララティラは厳しく突っ込んだ。
「それ今ので三回目や。というかここはお金稼ぐため、そしてリスクを避けるために赤の討伐クエストを受けた方がええと思う」
と言いながら、ララティラは赤い魔導液晶を手に取って言う。赤い魔導液晶を開いて、その内容を読み上げる。
「えーっと……『赤ガリムバチ三十五体討伐。期限は受理してから三日で報酬は十万L……、このハチはこの季節になると大量発生します。目標討伐以上を倒した場合でも、+一匹で百Lの追加報酬』って……、なんやこれっ!」
ララティラはその魔導液晶を見て驚きの声を上げた。それはただ単に、お金のことについてである。
「こんなんやったら割に合わんわっ! なんで追加で百L? そんなもんお手伝いで稼げるようなもんやわっ!」
「そうなんだよ。だからここにいる四人で分け合っても、きっとその分の仕事をしなければいけない……。って俺は思ってて……」
ララティラの言葉に、エレンははざっと溜息を吐きながら項垂れる。
それを見ていたモナは、申し訳なさそうに手を上げて……。
「あのー……、私報酬なしでもいいですよ? 私一時的なもんですし……」
「いや、そうとはいかない」と、エレンはモナに対して冷静にこう答えた。
「一時的とは言っても、同じクエストを受ける仲間でもある。その時は誰かが別だからお前報酬なしってわけにはいかない。平等に分ける。これが普通なんだ」
その言葉を聞いて、モナはすっと手を下げる。
身を引いたということではないが、エレンのその冷静さにある真剣な目と音色、眼差しを見て……、モナは反論する気が起きなかったのだ。
もっとも反論なんてする気はなかったが、からかい半分に「そんなお気を使わずに」と言いたかったのだが、それもできなかったモナ。
モナは内心エレンを見て思った……。
――エレンさん、今まで見た大人の中でも、すごく特殊ってわけでもないけど、普通っていう感じじゃない……。強いて言うなら……。
――何かを、隠しているような……。
そう思っていると、今度はダンが黄色い魔導液晶を手に取って、席を立った。
「よし! これを受け」
「ハイダンさん待ったぁっっ!」
それを持って受付のところに行こうとしたダンに向かって、大声で突っ込んで止めるエレン。その顔は緊迫したものが含まれていた……。ララティラも前のめりになって手を伸ばしてダンに聞く。慌てながら聞く。
「それ黄色やで? なんで何も中身を見ずに受付に行こうとしてるんやっ! 中身見てからにしとけ、ド阿呆!」
「え? だってよぉ……、黄色だろう?」
ダンはきょとんっとして、指に挟めているそれを見せながら言うと、ダンはエレン達を見てこう言った。
とてつもなく笑顔で、周りにキラキラしたものが出そうな、そんな穢れのない笑顔で彼は言った。
「強いやつと戦えるってことじゃねえのっ!?」
「そんなキラキラした顔で言うな馬鹿っ!」
「もぉいいから見せぃ! うちらで判断するわっ!」
その言葉を聞いて、ダンは「おぅ」と言いながらしゅんっとしながら黄色い魔導液晶をエレンに手渡した。受付の人達ははははっと笑いながらダン達を見ていた。
ちなみに受付の人はみんな鉱石族の男である。
それを見ていたモナは、くすっと微笑みながらダンを見てこう思った。
――ダンさんは戦闘が大好き……、戦闘狂でも可だけど……。無邪気な餓鬼大将みたいで気さくに話せる。
そしてララティラを見て……。
――ララティラさんは『アストラ』のお母さん的な感じ。すごく大人っぽいところがあって、憧れる……。ボディ的にも……。
そう思ったモナは三人の和気藹々とする光景を見て……、いいなぁ。と思ってしまう。
三人は最初から一緒で、今もずっと一緒にいる仲良しの三人。
それはこんな状況になって一緒にいるモナだからこそ、わかることなのだ。三人はそんなこと一ミリも思っていないが……、それでも、モナにとってすれば羨ましいことであり……、一抹の妬みでもあった。
モナやハンナ、キョウヤは友達と一緒にいたはずだった。
しかし今ははぐれている。
なのにこの三人は一緒にいる。
変だ。
そうモナは思い、一瞬、ほんの一瞬あったが疑った。
まさか……、誰かが……?
と思ったが、すぐにその思考を遮断し、その思案も消し去った。
そんなことありえない。私はいなかったけど、サラマンダーの浄化を手伝ったみんなだ。だからそんなことありえない。
そう言い聞かせながらモナはエレン達と一緒にクエストを受けて過ごしてきた。
「えっと……『ビックバジリスク討伐。期限は受理してから七日で報酬は百万L……、このバジリスクは石化の能力を持っているので、石化無効のアイテムを持って受けることを進める』…………って! やっぱダメな奴やったわっ!」
「ダンやめよう。これは無理がある」
「おおぅ……」
「そんな泣きそうな顔をするなっ! 勝負がすべてじゃないんだからさ! んじゃ……、討伐を受けるってことでいいな?」
「おうっ!」
「急に元気になった……。元気なだけに現金だなぁ……。ごめんな、ティラにモナちゃん」
「!」
モナは現実に引き戻されてはっとする。
どうやらダンが持っていた魔導液晶を見て、ララティラが内容を見て駄目だと断念し、エレンも賛成したがダンのなんとも可哀そうな顔を見て、エレンは罪悪感を抱いたのだろう……。やむなく赤の討伐クエストを受けることにした。と言ったところを見て、モナは慌てて笑顔になって頷きながら。
「あ、はいっ! もちのロンです! うん!」
そんな笑顔を見ていたエレンは、首を傾げ、モナに顔を近付けた。
「お? ほよ?」
モナは驚きながらどうしたんだろうと思い、エレンを見る。
ララティラはそれを見て、柄にもなく顔を赤くしてわなわな震えている。ダンは陽気に赤い魔導液晶を手にスキップしながら受付に向かっている。
モナは驚きながらエレンを見て、エレンはそんなモナを見て……。
「モナちゃん……。無理してないか?」
「へ?」
唐突な言葉。
それを聞いたモナはきょとんっとしてエレンを見た。エレンはそんな彼女を見て、次にこう聞いた。
「友達のこともあるんだろう? 気になっているのに、俺達のクエストに付き合わせて悪かったと思ってる。よかったらでいい。何かあったら気にせず俺達に言ってくれ。できるだけ協力はするから」
――エレンさんは優しい。
そうモナは思った。
確かに疑うようなことはあるけど、それ以前にエレンさん達はいち早くみんなをまとめようとしていた人だ。疑うこと自体がバカだったのかもしれないけど……。
そう思って、モナは見た。
自分の、その見切りの速さを呪いながら、彼女は思った。
この人は、何か悲しいものを抱えている。と――
「よし! 受けたぜ!」
「早いわー。なんで討伐になるとこんなに手際がいいんやろうか……」
ダンが陽気に笑顔で戻ってきたところを見たララティラは『やれやれ』と言いながら立ち上がり、すぐにその場所に向かおうとするダンに付いて行くように歩もうとしたが、エレンとモナを見て――
「行くで。お二人さん」
にこっと微笑んで声をかけた。
それを聞いたエレンははっとして「あ。ああ」と言って、モナを見て聞く。
「――行くか?」
その言葉に、モナはにこっと微笑んだ。
何の曇りもない笑顔で彼女は言った。
「はいっ!」
そう言って彼女は椅子から立ち上がり、三人の後を追うようにクエストに出かけた。
これが……、運命の出会いの始まりだと、誰も知る由もなかった。