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荒地に咲いた一輪の  作者: 井波
錆色の空
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第18話 葬儀

 それからは、色々なことがありすぎて何があったかよく覚えていない。

 あちらこちらに連れて行かれ、難しい書類にサインをし、大勢の人に会った。好意的な視線を向けられることは殆ど無かったが、『良い子の第三王子』のお陰で目立った軋轢もなく将軍の遺言は履行された。将軍の親族など面倒な人たちが口を挟む暇も無いほどの過密スケジュールだったのだ。

 なにせ、将軍の亡くなった数日後には国王の名代を務めたダールによって叙任式が執り行われ、その日の午後には将軍の葬儀。当のレオナすら呆気に取られているうちにすべてが終わっていた。

 馬鹿っぽくみえてもダールは有能で、ファズは切れ者だという事がわかった。そしてダウィは胡散臭さが増した。



 そんな怒涛のような日々が一段落したのは将軍の葬儀を終えてからだった。急な事だったのと戦が終わったばかりで治安に不安があったこともあり、貴族の葬式だというのに高貴な方々の参列は無かったが、泣きくれるセイダの市民や軍人達が次々に訪れ、故人の人柄が偲ばれた。

 やがて人々が墓地を去り、最後に残ったのはダールとファズ、将軍と親しかった第二連隊の者たち、そして将軍の城で働く者たちだった。

 ようやく一息ついて肩をほぐしていると、人垣の向こうに金色の髪が見えた。

 少し離れた場所からこちらを伺っている彼は、そういえば今日一日見ていない。

「ダウィ! こっちに来ないのか?」

 駆け寄ってみて驚いた。

 この日ダウィが纏っていたのはいつものざっくりした服ではなく、東方の民族衣装。緩やかなラインの貫頭衣は真っ白で、金の髪と瞳が良く映える。

「お前、どうしたんだよ」

「喪服なんてコレしか持ってなくてさ。でも、この国じゃ喪服は灰色なんだったよね」

 ダウィは新しい墓の周りで酒盛りをする男達を見やった。

 数十人の屈強な男達が全員灰色のマントを羽織り酒を酌み交わす姿は、離れた場所から見ると一種異様な光景だ。

「ええと……この国の葬式じゃ酒を飲むんだっけ?」

 ダウィのつぶやきに、レオナは苦笑した。

「そんな訳ないだろ。葬儀はさっき終わったよ。

 第二連隊の生き残りたちが『将軍は泣いたって喜ばねえ! 将軍ならこんな時どうする! 酒だ酒 !! 』なんて騒ぎ出してさ」

 ダウィも苦笑しながら、後手に持っていたものを取り出した。

「まあ、そんな事だろうと思って、これ」

「ガディアーダ! 北の銘酒じゃねえか!」

「手土産くらいはね。

 でも、奴らしばらくどきそうにないな。また後で来るよ」

 ダウィが背を向けようとするのを押しとどめ、レオナは唇を尖らせた。

「どこ行くんだよ」

「俺みたいなのが居ても邪魔だろ?」

「邪魔じゃないから来いよ」

「ちょ、レオ――」

「レオナー!」

 ダウィの言葉を遮ったのは、酒盛りの真ん中で酒瓶を抱え込んで手酌するダールだった。

「レオナ、何やってんだよ、喪主がいなきゃ始まらねえだろ!

 ――あぁ? そこにいるの、ダウィか? お前もこっち来い!」

 皆すでにだいぶ呑んでいる。

 ダールの隣に座っていた男などは、ふらふらと立ち上がると高そうな酒瓶をひっくり返し、墓石にドプドプと掛け始めた。

「ボルディアーの親父ぃぃ――」

 墓石を抱えて泣き出した男の醜態に、レオナは溜息をつく。

「あれ、シグマじゃねえか。ったく、副連隊長だろ。いい加減にしろよな――」

「すっかり溶け込んでいるね」

「え?」

「貴族も騎士も向いてないとか言ってたけど、うまくやっていけそうだなって。

 ねぇ。レオナ・ファル・テート『連隊長』」

 レオナはあの唇の片端だけをあげる笑い方で返した。


「まあな――」

第3章 「錆色の空」 終

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