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荒地に咲いた一輪の  作者: 井波
錆色の空
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第8話 年年歳歳

 救護テントの前でしばらく待ってみたが、ダールが出てくる気配は無かったので二人はファズに別れを告げて先に部屋に戻る事にした。

「夜将軍の部屋に参りますので」

 なんていうファズの言葉を背に受けながら。


「――今夜も宴会みたいだな」

「レオナ、楽しそうじゃないね」

「旨い酒出ねえもん」

 実家で酒の醸造を行っている為、酒に関しては舌が肥えているレオナである。酔うためだけの酒は好まない。

「旨い不味いじゃ無いんだよ。ここでの酒なんて今生きている事を喜ぶ酒なんだから」

「そりゃそうだけど、旨い方が良いだろ」

「まあね。……ところで、レオナはどんな酒が好きなの?」

 少しだけ、考えた。

 故郷で造っている酒は大きく分けて四種類。果実を原料としたものが二種類と、穀物を原料としたもの。そして、それを蒸留したもの。穀類を原料とするものは市井にも出回るし、蒸留前のものならば村人でも口にできる。

 しかしレオナが好きな酒と言えば――


「ヴィガ」


 果実から造る、ほのかな甘みの深紫の液体。独特の花の様な芳香が通の間では高く評価されている。

 が、造られている地域が非常に狭いため、あまり一般には流通していない。

「ヴィガ……」

 博学な青年もそれがどんなものだかわからないのだろうか。しばらく視線を宙にさまよわせる。

「……たしか、微かに赤みがかった濃い紫の……そう、甘くて少し酸味があるヤツだ」

 その言葉に、レオナは少なからず驚く。

 名前だけでも知っている人間は少ないのに味まで知っている者など。

「そういえばこの国でも生産されているんだっけ。ええと、確かラディオラ地方?」

「ああ。オレの生まれた所。よく知ってたな」

「俺も酒は好きだから」

 ダウィは照れたように鼻の頭をかいた。


 昔は食事代わりにしていた、とまで言う。浴びる様に飲んでも余り酔う事の無い体質なんだそうだ。

 どうりで酒豪の域に達している将軍や王子達と飲んでいても酔った姿を見たことが無い訳だ。レオナは一人納得した。

「ダウィほどじゃないけどさ、オレも小さい頃から酒は飲んでたよ」

 それは、味を覚える為。次の年には今年よりも良い酒を造る為。

 村の誰もがそうするように、将来は家を継いで酒を造るのだと思っていた。


 果実の成る木を幾度も接木して、花粉をつけ、鳥たちから実を守り、そして収穫をする。秋の終わりに行われる収穫祭では村中から集めた果実を娘たちが踏み、樽に詰め酒を造る。毎年毎年大した変化もなくそんなことが繰り返される。そして、いつか愛する人と結婚して子供を成し、やがて家族に看取られてこの世界から消えていく―――何百年にも渡り、先祖達が繰り返してきた生き方。

 そんな平凡な人生を歩む予定だったのだ。それなのに今、自分は生まれ育った村から遠く離れたこんな場所で生きるか死ぬかの生活をしている。

「今年のヴィガは、甘いのかなぁ」


 ――そして、両親は元気だろうか。




*レオナが住むのは15歳で成人と認められる国で、飲酒に年齢制限はありません。

*日本はお酒は20歳から。法律は遵守しましょう。


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