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5話 会議は踊る手のひらの上で

 リーゼンべレク統一帝国は皇帝の専制政治が敷かれていて、国家の行動のすべての決定権は皇帝にある。

しかし、皇帝も人である限り、全ての物事を一人で決定を下すことは難しい。

 そこで、考えられたのが統一帝国評議会と呼ばれる、皇帝が必要だと感じた時に必要だと思う人間を集めて会議を開き意見を聞き入れる仕組みが有った。

 この評議会は規模は時と場合により様々で、今日この場に集まっている人間の数はここ数年でも多かった。

集められた人間を大まかに分けると、統合陸軍の上級将校。

 秘密警察と諜報機関の性質を併せ持つ統一帝国全土保安警察の士官。

さらには、外交を一手に担う外務局の主要な幹部。


「皇帝陛下ご入場!!」


 声が聞こえると共に統合陸軍の将校と保安警察の士官達は一斉に立ち上がり、同じタイミングで敬礼した。

 外務局の人間は少し送れてタイミングもバラバラでは合ったが立ち上がった。

 全ての人間が入り口に注目する中ゆっくりと男が歩いてきた。

 彼こそがリーゼベレク統一帝国初代皇帝にして世界最強とも言われる国家を作り上げた男。

大帝ジーグベルトその人であった。

 ジークベルトは自らの為に用意された他より高い位置にある、椅子の前まで行き眼下の人間をぐるりと見渡した後座った。

 評議会の参加者達もそれを確かめると着席する。


「諸君、我が国とラティーシア帝国の間にローヘン地方の領有権問題が発生している。

これに対して我々の姿勢を明確に決定する事にした。

諸君の意見を聞かせてもらいたい」


ジークベルトの言葉に、最初に立ち上がったのは外務局の初老の外交官だった。


「かの地は土地も貧しく、ただの山ばかりで鉱石も取れません。

兵士の血を流すほどの価値もないかと……」

「この売国奴め!!」


 外交官が言葉を言いきる前に野次が飛んだ。

発言を途中で侮蔑的な言葉によってさえぎられた外交官が怒鳴る。


「誰だ!! 今の侮蔑は許しがたい」

「だまれ、本当のことを言うのは侮辱とは言わない」


席の中から若い将校が立ち上がる。

彼の顔わ怒りで赤くなり、声からは興奮している事を伺わせた。


「神聖なる統一帝国の領土を戦わずして手放せとは笑わせる!!

陛下、我らが祖国の領土を掠め取ろうとする北の蛮族どもに軍事力の差を思い知らすべきです!!

問題を解決できない無能な外務局と違い我々統合陸軍は速やかに問題を解決してご覧に入れましょう」


 軍部の将校たちから拍手が上がる。

それとは、対照的に外務局からは様々な野次がとぶ。


「狂った戦争屋が貴様はそこまでして、戦争がしたいか?

貴様らは何人、殺せば気が住むのだ」

「敗北主義の元、売国行為を繰り返す貴様らとは違う。

口だけは立派だか貴様らの本性は銃声に怯えて逃げ回る臆病な家畜の豚だ」


軍事も若い将校を中心にそれに応戦し会場は一気に騒がしくなった。

子供じみた罵声が飛交い評議会の進行は完全に止まった。


「ミューラ、お前はどう考える?」


 皇帝の声は不思議と会議場全体に広がった。

今まで罵り合っていた将校と外交官達が静かになる。

ゆっくりと今まで沈黙を保っていた将軍が立ち上がった。

 黒い髪に黒い目、女性のようにか細く彼は何処か中性的な雰囲気を放っていた。

全ての人間の注目が集まる中、ミューラは口を開いた


「私の見解にではかの土地には戦列歩兵の1個小隊おも犠牲にする価値は無いかと思います」


 軍部の人間がミューラを驚いた用に見つめる。

彼らから見ると後頭部を殴られると言ったところだろうか


「ですがかの地を、いえ我が国の領土を明け渡した事で失う物は1個軍団を失ってでも守る価値があると思っています」

「何ですかなそれは?」


置いた外交官が問いかけてくる。


「ユ二アス経済圏」


 その言葉に外交官が一度にうろたえる。

 ユ二アス経済圏とは統一帝国が周辺国、中でも統一帝国と同じ用にユ二アス教を国教とする国の独立を保障する見返りに統一帝国に有利な条件で貿易協定を結ぶ事で作り上げた経済圏で、それが統一帝国にもたらす利益は莫大なものだった。

 しかし、それは統一帝国が経済圏にある国を守る為なら戦争すら辞さない事を前提にで成り立っているものであり、

 もしリーゼベレク統一帝国が、戦わずして領土を明け渡せば各国はリーゼベレク統一帝国が自国を守るかどうか疑心を抱き経済圏は崩壊する可能性がある。



「どんな条件なら、周辺国は統一帝国が領土を明け渡したと見る?」

「さあ、情報操作は保安警察の領分ですので専門外の私にはわかりかねます」

「はっ、専門外ね」


 皇帝の言葉がいきなり荒くなった。

機嫌が悪くなったのでは無く、ただ評議会が長引き態度を取り繕う気力がなくなってきたのだ。


「まあ良い、保安警察」


更に皇帝の態度が荒くなる。


「保安警察を代表いたしまして、ヨルク・フォン・ハウサーがお答えいたします。

我々の影響力低下を利益とする数カ国はイメージダウンを狙う事も考え合わせますと七割は無いと厳しいと思われます」


皇帝はすっと椅子から立ち上がった。


「外務局は七割で相手を譲歩させるように外交努力を続けろ以上だ」


皇帝はそれだけ言うと去っていく。

 軍人達は慌てて立ち上がり皇帝に敬礼をする。

他のものは立ち上がり目を下に向けた。


****


ミューラは評議会が終ると外に出てさっそく懐からキセルを取り出した。


「禁止されていないとはいえ、ここでは控えろ」


 後ろから停止の声がかかる。

ミューラは無視して火をつけて一服した後に振り向く。


「クラウス、君は何かにつけ口うるさ過ぎる。

部下に嫌われるよ?」


 ミューラの後ろに居たのは、銀髪の髪をオールバック気味に整えた青い目の神経質そうな男だった。

クラウス・アルヴィア・ドゥーク・フォン・シュトルフ。

 かつての5大公の一人で、アルヴィア公国最後の国主。

統一戦争時5人の大公の内、唯一皇帝側で参戦し統合陸軍で最初に上級大将に任命された男だった。


「部下に好かれる為に規律を乱すなら、私は部下に嫌われて結構だ。

それに、その灰はどうするつもりだ?

まさか庭にでも捨てるつもりではないだろうな?」

「クラウス、君が私を探していたのは小言を言うためかい??」


ミューラがあからさまに話を逸らした。

これ以上は言っても意味が無いと悟ったシュトルフはミューラに本題を持ちかけた。


「皇帝陛下のお考えをお前はどう読んでいる?」

「あれは、元から戦争するつもりだ」

「……そうか」


 二人の横を侍女か通り過ぎる。

その時にコンコンコンと靴のつま先で三回床を叩いた。

 二人は顔を見合すと頷き侍女の後ろをついて回った。

しばらくすると侍女はある部屋にワインを持って入っていった。

 二人もその部屋に入る。

 すると中には皇帝ジークベルトの他に、陸軍長官、参謀本部長官、陸軍情報部隊総司令官、など陸軍の重鎮、評議会に参加していなかった将校たち、さらには保安警察の長官も座っている。

ミューラは一番奥に座る皇帝を見ていった。


「対ラティーシア戦争の作戦会議室は此方かな?」


ジークベルトも黒髪の将軍を見ていった。


「遅いぞ早く座れ」

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