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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

オカルトメンヘラ女と幽霊

作者: 多分駄文(タブンダブン)

初投稿です。

遥か空高くに浮かぶ薄雲越しの上弦の月。

その朧気な月の光を頼りに、暗い林道を少女――ルミ――が歩く。


女学生のルミは林間学校として、田舎を訪れていた。

田舎は田舎でも県内の奥地、クソとドが付く程の田舎である。多分、平成を通り越して昭和に取り残された場所なのではなかろうか。

自動販売機の一つもない。


学校行事としての林間学校はいたって普通である。

昼間はカレー作りやクラス別のレクリエーションを行った。

ルミ個人の感想としては、これらを一泊二泊してまで体験する意義を感じない。

だがしかし、学校社会の歯車として、そつなく与えられた役割をこなし、人並みに参加できた。



……問題は、消灯して就寝する時間に起こった。


古臭い蛍光灯を消し、布団を川の字ならぬ田の字に並べ敷いて、ルミがいざ眠らんとしたその時。

暗がりで誰かがぽつりと呟いた。



「ね え 、 恋 バ ナ し よ う よ」



後はドンチャン騒ぎだった。

教室では男子の目を気にしていた女子一同のタカが外れた。

部屋中でクラスメートがキャピキャピと、誰かイケメンだの誰のアソコが大きそうだのを談じ始める。

早く寝たかったルミにとってそれはまだいいのだ、布団をすっぽり頭まで被って寝ればいいから。

しかし、眠ろうとするルミに更なる試練が立ちはばかる。



恋バナで盛り上がり、催眠めいた興奮と狂気が部屋を支配し始めたのだ。


隣人の罵詈雑言が飛び交い、各々がこっそりと持ち込んだお菓子が布団の上に飽和する。

挙げ句の果てには、枕投げが始まった。

キャアキャアと喚きたてるクラスメートの様子は、猿であった。


この状況で眠ることが出来たら、それは『の』から始まる国民的眼鏡男子だけである。


暴徒らを諌める度胸のないルミは、狂乱の宴を聞き付けて注意しに来た見回りの教師の顔面に鉄アレイ入りの枕が直撃する様を見て、

「おい誰だ雪合戦で雪玉に石を仕込むような真似をはたらいている奴は」

と思いつつ、修羅の巣窟を脱出したのだった。


そういった経緯で、ルミは独り、暗い林道を散歩してるわけだ。



林道はろくに整備されておらず、悪路な上に電灯もない。空気は、夏の夜にしては涼しく、むしろ寒くすらあった。

いかにもナニカが出てきそうな雰囲気である。



ルミが幽霊でも出そうだと思ったからか、丁度その時、後ろから、



「恨めしや……」



と、女のおどろおどろしい声がすぐ耳元で聞こえる。

ルミが反射的に振り返ると。

そこには長髪を前に下ろして白装束という、絵に描いたかのような幽霊がいた。

ルミは「キャー」と、あらんかぎりの声を張り上げる。


幽霊はというと、予想通りの反応を見せる少女に満更でもない様子だった。長髪から見え隠れする口元がニヤリと歪んでいた。

が、悲鳴に続くルミの台詞、

「幽霊って実在するのかー!」

で、幽霊は頬を引きつらせてしまう。

ルミの悲鳴は黄色い部類のものだった。


「握手していい?」

「あ、うん……」


幽霊は状況もわからないまま、頭が真っ白になりながら言われるがままに手を差し出す。


「うわ、握手出来ない! 手がすり抜ける! ……じゃあ、ツーショットいい? ……うわ、幽霊だけ写ってない! 本物だー!」

握手を試みたりスマホで自撮り写真を撮影したりと、やりたい放題やってから、ルミは幽霊に質問する。



「……それにしてもどうしてこんな場所に?」

「……いや、ここら辺に住んでるし……」


この辺りで殺されたのかと、一人で納得するルミ。


「で、どうして『恨めしや』とか言うの? ヒトが憎いの?」

「そりゃあ、ねぇ……。地球の限りあるリソースを浪費するし環境を破壊するし……」

「地球に優しい幽霊!」



普段は、厭世的でクール、悪く言えば暗いメンヘラ少女として通っているルミは、キャラ崩壊するほどに興奮していた。

一方、幽霊は、とんでもないキ○ガイにちょっかいをかけてしまってぞ、と今すぐにでも帰りたい風である。


「じゃ、じゃあ、私は帰るから……」




幽霊がそそくさと退散しようとする。

それに待ったを掛けるルミ。


「私もついていく!」



人間関係に、自分に、嫌気がさしていたオカルトメンヘラのルミは、ジャージのポケットから常備品のカッターナイフを取り出して、おもむろにそれを己がのどに突き立てた。


血管から溢れ出る血に溺れるかのようにゴボゴボ……と声を出す。


どうやら即死は出来ないらしい。

しかし、ここで執念を見せるルミ。


一回で死ねないならば、死ぬまで刺すまでだと言わんばかりに、のどを何度も何度も滅多刺しにした。


15回目の刺突でルミはようやく力尽きた。

崩れるように前のめりに倒れた少女の顔には、一仕事終えたかのような満足げな笑みが浮かんでいた。






それを唖然とただ見るだけの幽霊。


「私、ヒトが死んだら幽霊になるとか一言も言ってないんだけど……」


幽霊は、先程まで前に下ろしていた髪を左右にわける。

彼女は、誤って野良猫を轢き殺してしまったかのように、きまりが悪い顔をしていた。

そして、ルミだった物から視線を外すと、初めから存在しなかったかのように、何処かへと消えた。





野晒しのルミの肉塊。



それでも、彼女の表情は穏やかであった。


貴重な時間を潰してごめんなさい

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