卵先生
キンコンカンコン♪
給食の時間だ。
各々が机をくっつけて、グループ会食の準備をする。
ウチもそれに従い、机を動かす。
クラス中がキィキィガタガタと机を引きずる音で騒がしくなる。
小学生用の学校机は頑丈で軽量に作られている。ウチらのような子供でも移動が出来るように。
……とはいえ、机の中に教科書とかノートを入れていると、これが案外重い。
「よいしょ……よいしょっ!……うーん、重いぃぃ……」
案の定、姫乃は机の移動に苦しんでいた。
いつもの光景である。
ウチが手伝ってあげようと声をかけようとしたその時……
「どけよ。俺が運んでやるから」
ウチと姫野との間に入ってきた大地が、机の重さに悲鳴を上げていた姫乃から机を奪い取ると、ひょいっと持ち上げて軽々と移動させる。
「あ、ありがと……」
姫乃は大地の親切に、少し驚いた様子でお礼を言う。
「ん。構わねーよ」
目線も合わせず、さも当然の事をしたように、自分の席に戻っていく。
ほほう……大地って、案外イイ奴だな。
■■■
移動されたテーブルの上に、姫乃はテーブルクロスを広げる。
給食係がテーブルを回りながら給食を配っていく。
準備がだいたい整った頃、教育実習の卵先生がウチらの所に近づいて言った。
「わたしも、ここで一緒に食べて良いかしら?」
「どうぞどうぞ、是非ともご一緒しましょう。」
姫乃が笑顔で答えると、さっとウチと姫乃との間を卵先生のために広げる。
「ありがとう。それじゃ遠慮無く」
教育実習の先生は、開けられたウチと姫乃との間に、自分の給食を置いた。
他の子達も、珍しい先生のゲスト参加をワイワイと喜んでいる。
■■■
「あたし、姫乃佳弥って言います。この子は明星悠紀ちゃん。卵先生のことが大好きなんですよー」
「そう。それは嬉しいわね。わたしも皆のことが大好きよ。実習期間中ヨロシクね。」
実習の先生は満面の笑顔で応えると、姫乃とウチに握手をする。
「はじめまして、ヨロシクね。明星くん」
「先生ったら、昨日から教室にいるじゃないですかー、初めましてなんて大げさぁ」
ウチは先生の手を握り返しながらそう答える。
たぶん、これが正解の回答だ。
卵先生も、笑いながら「そうだよね」って答えた。
給食を食べながらの楽しい談笑。
先生の年齢とか、好きなタイプとか、学校の先生になろうとした理由とか、色々な事を質問する姫乃。
それらについて、卵先生は
「女の人に年齢を聞くのはダメよ」
とか、
「姫乃ちゃんだってお年頃になったらわかるわよ」
とか、
「姫乃ちゃんは好きな男の子のタイプは? もしかして大地クン?」
とか、見事な回答……じゃなくて話題転換で重要なポイントをかわす。
……さすが大人の女性だ……
ただ一つ。
先生になろうとした理由については、少し目つきを真面目にして語った。
自分の尊敬する先生に憧れてという動機だった。
小学生のウチには、まだそういう目的意識ってのは全然無い……。
いつか、大人になったら見つかるものなのだろうか。