希望と失望
「悠紀ちゃんって、そっち系の趣味だったの??」
「……?」
「そうだったんだ……知らなかった……。ていうか、だから時々変な事言うんだね。そっか……そうなんだ……」
一人でうんうんと頷きながら納得している姫乃。
ウチはその反応に一抹の不安を覚えつつ、何をどう取り繕えば良いのかを必死で考える。
姫乃は何の勘違いをしているのか……?
ウチの体の秘密に何か感付いたのだろうか?
そっち系の趣味とは、もしかしてこの女装に気付いたとか……
キンコンカンコン♪
朝のHRを告げるチャイムが鳴り響く。
「わかった! あたし応援するから!!」
ウチにウインクを残して、くるっとスカートを翻しながら姫乃は席に走る。
ただ呆然と立ち竦むウチ。
何を応援してくれるのだろう……?
もしかして、この体のことを理解して、受け入れてくれるのだろうか??
だとしたら、もう、こんな女装して学校へ来るという生活からも脱却できるのではないか?
姫乃を皮切りに、クラスにも受け入れて貰えるかもしれない……
ウチの中で、何か小さな希望の光が生まれたような気がした。
「あ。先生みえたよ。席に着く着くー」
クラスの誰かが警告を発する。
「はいはい、静かにするー 朝の会始めるよ」
あっという間に先生が到着した。
クラス全員が慌ただしく着席する。
「こら、明星悠紀。早く席に着きなさい」
先生に名指しで着席を命じられる。
急いで席に着いたウチの視界に、見慣れぬ大人の姿がちらっと映る。
白い半袖ワンピース。落ち着いた紺色のタイトスカート。
短めにキリっと決められた濃い紫の髪色。
そして、博士のような縁の太いメガネ……。
教育実習の名札を付けた、ボーイッシュな若い女の人……
そう。教育実習の先生は、綺麗な女の人だった。
……
……
……え?
教育実習の先生って……女の人……!?
『悠紀ちゃんって、そっち系の趣味だったの??』
しどろもどろになりながら、顔を赤らめて必死に取り繕うその姿は、まさしく恋する乙女を木の陰から見守る親友のもの。
……つまり……
ウチは思いっきりイスから転げ落ちた……
姫乃は、ウチを、何か特別な性癖の持ち主であると勘違いしたらしい……
……あ、いや、中身は男子だから、女の人を好きになったら、その方が正常なわけだけど……
ていうか、恋愛だとかそういうの、全然興味ないし!!
まだ思春期前だっつうの!
「おーい、明星。大丈夫か? まだ寝ぼけてるんじゃないのか?? 目を覚ませー」
クラスがドっと笑いに落ちる。
イスから転げ落ちた痛みより、希望の光を失い奈落の底に落とされ、皆の笑いものにされたという心の痛みが大きいわ……。