メークアーーーップ!
時計を見ると、そろそろ登校準備をする時間だ。
ウチは登校準備には、結構時間がかかる。
特に入れ替わり初日には準備は多い。
さっきのように日記を読んだり、シャワー浴びたり、相方を安全な場所に寝かせておいたり……
着替えたり、荷物をランドセルに詰めたり、体操服のジャージを準備したり……
そして、鏡に向かって、リップを塗ったり、ツケマ付けーたり、ヴィックを被ったり、気持ちを切り替えたり……
……
そう。
理解<わか>って頂けるだろうか?
ウチは、
いま、
性別という壁を乗り越える。
■■■
数分前に鏡の前に座った、小学生の男の子は、
今やドコからどう見ても、小学生の女の子になった。
……それにしても、化粧が手早くなったよな……ほんと慣れって怖い……。
見た目を整えると、自然と気持ちの切り替えができてくる。
髪を手櫛でとき流して鏡にウインク。
「あはっ♪」
鏡に向い、女の子っぽく、テヘッと笑顔。
……笑顔がひきつっとる。まだ修行が足りん……。
笑顔に違和感が出なくなるまで、同じ事を繰り返す。
五回くらい繰り返す。
もう大丈夫だ。
ドコからどう見ても……
ゴンッ!
ウチは鏡に向かって正拳突きを放った。
(……どうしてこんなコトしなならんの……)
女装しなくてはならない理由は、あんまり思い出したくない……。
今の学校に転校してから、ウチらはこの不思議な体のことを隠している。
一人の生徒として扱われるように……。
この不思議な体の現象を正直に伝え、学校生活を送っていた頃もあった。
先生達の哀れむような態度。クラスメイト達から注がれる好奇の目。
ウチらを気味悪がって追い出そうとする、大人達の露骨なまでの嫌がらせ。
何度かの嫌な経験を経て、ようやく落ち着いた生活が今のコレだ。
鏡に拳をたてたまま、そんな思い出を思い返すと、女装程度で安定的な生活が出来るなら……と、いまの生活を始めた頃、つまり初心を取り返してくる。
大きく深呼吸をして心を落ち着けると、ウチは再び笑顔の練習を始めた。
登校時間までには、心の調整を終えなくては。