腹が減っては……
太陽の明るさにも目が慣れてきた。
陽に照らされつつある部屋の中を見渡す。
飾りっ気もない、ごく平凡な純和室の六畳間。
特に何も増えていないし、減ってもいない。
机の上に、日めくりカレンダーと一冊のノートが置いてある。
まず、ウチが取るべき行動は……
「はらへった……」
お腹の虫が今にも鳴きそうだ。
食べ物を求め、ふらふらと部屋を出る。
半裸で眠りこける有機物の始末は、後で考えよう。
我が家の周囲は森だ。
住宅街からは数百メートルほど離れた場所に建てられた、古い木造の建物。
ウチら家族は、そこで住んでいる。
もともとは神社の御堂に使われてた建物で、家の広さはかなりある。
静かだと思ったら家ん中には誰も居なかった。
兄弟が多いので、割と騒がしい事か多いんだが、どうやら皆して外出しているらしい。
留守となると、もしかして何にも食べるものがないんじゃないかと心配したか、台所に行くとオニギリがちゃんと準備されていた。
ユウキへ、という書き置きまである。
間違いなく、自分用に準備されたものだ。
誰が準備してくれたのか知らんが、これなら遠慮なく頂ける。
ちなみ、オニギリの中身は、サケとコンブだった。
なかなか渋い選択だ。作ったのはオトンだろう。
オニギリを胃袋に流し込む。
お茶なんて高尚なものを沸かしてる余裕は無い。
それくらい空腹なのだ。
飲み物は水道水で十分。
大きめに握られた三つめのオニギリに手を付けた頃、ようやくお腹が落ち着いて来た。
お腹が落ち着いて来たら、後回しにしていたことを思い出した。
そう。
「トイレいかな……」
■
用を足し終えてスッキリしたので、部屋に戻ることにする。
もうオネショは卒業だ。
大切なことだからもう一回言う。
……いま卒業した。
襖を開けると、そこにはさっき放置した少女が、同じ姿のまま眠り込んでいる。
眠りこける少女を、自分が寝ていた布団の上へと移動させた。
起きたときとは態度を変えて、怪我なんかをさせないように、優しく、優しく。
次に眠ったとき、布団に運ばれるのは自分だ。
この子を雑に扱ってアザでもつけたら、ウチが寝ている番に仕返しされる。
そう。これは、いわば、ギブアンドテイク……? winwin?
……ちくしょう、ぜったい無言の脅迫ってやつだよな。
髪から漂うマシェリのニオイ……。
イライラっとして心臓がどきどきする。
同じ石けんを使っとるんだけどな……不思議だ。
心を落ち着けて、深呼吸をしながら寝かせ付ける。
ちなみに、目が覚めた時に押しのけたアレはただの事故。故意じゃ無い。
……絶対に事故だ。故意じゃない。
寝ているコイツを放置したまま、ウチは机の上に置かれたノートを開く。
パラパラっと、ページをめくって、自分の書いたページを開き、傍らの日めくりカレンダーと見合わせる。
どうやら、3日ほど寝ていたようだ。