死なれると……ちょっと困る
「さて。いつまで意識を保ってられるのかしら?」
「……ウチが……っ、死んだら……ハァハァっ……困るんじゃ……ないん?」
傷口を押さえつつ、痛みに耐えながら、ウチは強がりを吐く。
「まあ、死なれると……ちょっと困るけど。そんときは、もう一体が居るし、何とかなるわよ」
発砲で熱を帯びた銃身を気にしながら、白衣のポケットに銃をしまう。
「それより、失血した場合に人間と同じ反応をするのかどうか……、その経過観察が出来る事の方が有意義ね」
「アンタ……は…っ…ハァハァ……っ、悪魔っ……か?」
ウチは息も絶え絶えになりながら、卵先生に毒づく。
先生は、そんな事意に介せずとばかりに、メモとペンを取り出す。
本当にウチの観察を執るつもりらしい。
「さて問題です。人間は、体内の血液の30%を失うと、深刻なショック状態になっりゃいます。悠紀ちゃんの体重から試算するに、悠紀ちゃんの血液総量は3000cc。床に零れてる血液量は、だいたい500cc。洋服に染みこんでる量が200ccと仮定した場合、あと何分で悠紀ちゃんは失血ショックを起こすでしょう?」
まるで学校で授業をしているかのように語ってくる。
例題にされて非常に不愉快だが、この人の言う通りなら、ウチはもうすぐ失血性のショックを起こすんだろう。
それが、どのようなものかは、経験したこともないから分からないが……
「ヒント。腎臓は大変多くの血液が流れる器官です。もし銃弾が腎臓を損壊した場合、出血量は甚大で、適切な処置をとらない限り数分程度で意識混濁に陥ります。そして何より、腎臓が傷つくと、尋常じゃないほど痛いです。じんじょうだけにね……くくっ」
……ヒントでも何でもない……
ウチを不安に陥れて愉しんでるのだ。
……ちくしょう……毒づいてやりたいが、もう声も出せない。呼吸をしているだけでも辛いのだ。
この人の言う通り、腎臓に当たってしまったんだろうか……
「先生ね、子守歌は苦手だけど、眠くなるような話だったら得意なのよ」
今度は、子どもに昔話を読み聞かせるように語り始める。
「むかーし、むかし、ほんの数年前。あるところに、偉ーい先生が居ました。その先生は、とーっても頭が良くて、人々のためになる研究をしていました。ですが、あるとき、先生は研究を止めてしまいました。その後、先生は大切な研究成果を山の中に隠し、人々の前から姿を消してしまいましたとさ」
……なんの、ヤマ場もオチもない話だ。
面白くもなんともない。
「あ、これじゃ、ヤマ場がないわね。……ま、いっか」
……気付いたか……バカめ……
「だいぶ症状が進んでるね。悠紀ちゃんの唇、真っ青だよ。鏡見せてあげられないのが残念ね。……あ、もう瞳孔が開いちゃってるから何も見えないか」
寒い。唇が寒さで震えているのは分かるが、手足などは、ほとんど何も感覚が無い。
両手で押さえていた脇腹も、まるでそこは自分の体ではないかのように異物感があるだけで、もう痛みも何も感じてはなかった。




