通学路の日常
「今日はスカートじゃないんだね?」
「そう……だね。今日はパンツって気分だったからね」
通学路で交わす姫乃との日常会話。
腹の下や、太股がスウスウして、気持ち悪いんだよねアレは。
「フリフリのスカートが、ぜったい似合ってるのにー」
「あは……そ、そんなことないよー。カワイイのが似合うのは佳弥みたいにキュートな子。ウチはキュートじゃないから」
女の子っぽく、両手を振って否定する。
咄嗟に、こういう仕草がとれるようになったのは、進歩として喜ぶべきか、悲しむべきか……
「キュートだなんてー。なんか照れちゃう。ありがとー」
姫乃は照れながらお礼を言う。
スカートをはかない理由は他にもある。
クラスの一部男子が、時々みせるスケベな目線が、かなりキツイ……。
若干早めの思春期を迎えた連中が、異性に向ける眼差しって、同性の側から見ると気持ち悪い以外の何物でも無い……。
姫乃との談話をしながら、学校へと近づいていく。
大人達の数はだんだんと減っていき、同世代たる小学生の数が増えていく。
「そうそう。話変わるけどさ、昨日の約束、ヨロシクお願いだよ」
「……え? 約束って……?」
「えーっ。とぼけちゃってマタぁー。昨日の約束だよぉー。忘れちゃったの??」
全然覚えてない。
というか、昨日の出来事を記憶してないのだから当然だ。
「えっと……ええっと……何だっけ??」
「もーっ。忘れちゃったの?? お買い物に……」
最後まで聞き終わる前に、ガシッっと背後から羽交い締めにされた。
「……っ!!」
「大地<だいち>クン!?!?」
ウチを背後から羽交い締めにした犯人を、姫乃は驚いた表情で大地と呼んだ。
大地はウチのクラスで一番のマセガキ大将気質をした男子だ。
大地に狙われたら最後。次に行われる行為は……
「悠紀の発育ちぇーっく! パイたーっち!」
言うが早いか、羽交い締めした腕はそのままに、手だけを両胸へとスライドさせる。
なんちゅう器用な……
ぺたり
うちの両胸に、大地の手がぺたりと張り付く。
さわさわさわ……
「!!!」
あまりの手際の良さ。そして絶妙な手さばき。
一瞬の出来事で、反応すら出来ない。
ウチは口をパクパクとさせて声にならない悲鳴を上げる。
むしろソレが幸いしたのか、「ギャーッ!」と女っぽくない叫び声を上げることは避けられたが……。
「ふむ。まだまだじゃのぉ。今後の成長が楽しみじゃ」
エロい爺さんみたいな口調で、うちの胸の感想を述べる。
胸板を触られたって、どうとも思わないと、ついさっきまで疑わなかったが、これは…キモイ…
羽交い締めにしていた大地の腕を跳ね退けて、胸元を押さえて屈みこむ。
……涙目で、若干の上目遣いを忘れずに。
「な……な、な……なにを……」
「なにするのよ大地クン! このエッチ変態ワンタッチ!!」
屈み込んだウチの頭の上を姫乃の振り回したバックがかすめる。
……ワンタッチは余分だと思う……
とか、思う節もあるが、姫乃の助けは嬉しいので、突っ込むことはやめよう。
……というか、へたり込んでしまったウチにそんな余裕は無いし……
「ヘッヘーん、姫乃の攻撃なんて痛くもかゆくもないぜ」
ポフッボフッとバッグを叩き付けられる衝突音……いや、効果音……。
細身の女の子が振り回すバックに、破壊力があるはずもなく、大地は片腕でガードを発動しつつ、余裕の表情で走り去る。
あっかんべー をして走って逃げてく大地
コラーっと両手を上げて、追いかけてく姫乃。
不快な感触と共に取り残されるウチ。
ここ数ヶ月ほど繰り返されている、日常の光景……。
そう、これが、ウチらの、ごく平凡な日常なのだ……。
何人かのクラスメイトが、屈み込んだままのウチに「大丈夫?」と気遣っての声を掛けてくれるが、それらに、全て「大丈夫。ちょっと驚いただけ……」と気丈は返事を返すウチ。
……けっこうダメージは大きいんだけど、ソレを言っても仕方ない……。
大きく深呼吸をして心を落ち着けると、ウチは手鏡を取り出して顔を確認する。
……笑顔とメイクが崩れてないかを確認するために……
……ちなみに、頬がピクピクと引きつってた……
今日は朝から気分の悪いことばっかりだ……。