危機
「あ、あたしも一緒に入って良い?? こういう服の着方ってこつがあるんだ。教えてあげるよ」
「だ、だめ! 絶対ダメ! 開けちゃダメ!!」
「ぶぅー 残念……。じゃ、三十秒で着替えてね♪ いーち、にーぃ、さーん……」
カウントダウンを始める姫乃。
……なんて無茶を仰る
ウチはリボンの隙間に隠れていたボタンを探り当てて、亜光速で着替えを始める。
「……じゅーご、じゅーろく、にじゅうく、さんじゅう! おまたせー入るね♪」
数字をすっ飛ばしてカウントを終えると、カーテンの合間からニュッと顔が入ってきた。
「!!!」
ウチは、ちょうどキュロットパンツにを下げたところで……
「きゃぁーーーーーー」
悲鳴と共に姫乃が目を覆う。
……いや、指の合間からは、キラキラとした眼差しが輝いたまんまだが……
……見られた!
めっちゃ、まじまじと、見られとる!!
「悠紀ちゃん、それって……それって……!!」
頬を赤くして、うちの下半身を指さして、驚きの表情。
目を輝かせて、視線の先を指さす。
「え……っと、これは……その……」
言い訳に戸惑うウチ。
「それって…… それって…… “ふんどしパンツ” だよね!! すっごい! かわいい!! 」
「……え? そっち?」
「女の子用のふんどしってのが流行ってるって聞いてたけど、本物だぁ! ねね。もっと見せて!」
「いやぁあぁぁぁぁ!!」
腿の辺りまで下げたキュロットパンツのせいで、走って逃げる事も出来ず、ウチは必死で前を隠す。
姫乃に指さされたピンクの下着用ふんどし。ゆったりとした着心地でお気に入りなんだが……
めっちゃ見られとる!!
あかん!!
是が非でも、こっちだけは見られたらいかん!!
「どうなってるの? それって紐が解けたりしないの? 肌触りはどう? 触ってもイイ?。 ねえねえ、見せてー 脱がせてー 被らせてー」
興奮気味の姫乃さんが、とてつもなく変態的発言をして迫ってきます。
「ひ、姫乃ちゃん……お、落ち着いて……」
「だーいじょうぶ、痛くしないから。ほんのちょーっと、一瞬だけだよ……」
ハァハァと荒い息をしながら迫ってくる姫乃(狂)さん。
やられる!
殺されると書いて殺<や>られる。
ドンと背中が鏡にぶつかる。
もう後ろは無い。
逃げ道は完全に塞がれている。
どうする悠紀!
もう、カミングアウトしかないのか!?
諦めるのか!?!?
今までの苦労を全て水に流すのか!?
走馬燈の如く、苦い記憶が蘇ったその時!
バッターン!!
「へぷっ!!」
派手な音を立てて、姫乃は顔面から床に倒れ込む。
更衣室入り口の小さな段差に躓いたようだ。
ナイス五センチの段差!!
「ご、ごめん!」
ウチはいそいそとパンツをはき直して、狂気に触れた姫乃を踏み台にして更衣室から走って離れる。
無事、狂気の現場から逃れることに成功した。
……危なかった……
外で服を脱ぐことは、もうやめよう。
本気でそう思った。
……
……
……
あ。
逃げたとはいえ、家に帰ったわけじゃ無い。
おでこを擦り剥いて、「いったぁーーぃっ!」と泣きじゃくる姫乃を、このまま置いて帰るわけにも行かず、泣き止むまでずっと介抱してた……。
お店の人と一緒に……ね。
めっちゃ迷惑な客だった……。




