サンタの奥さん
【陽介】
「何かいい方法はないかなぁ……」
ぼくは仕事をしながら、周りの人たちのそう聞いた。
サンタクロースは沢山はいない。ぼくの働くこの支部にいるのも、10人に満たない。
サポート役の『トナカイ』と呼ばれる人たちは別だが、『サンタクロース』になれるのは、少し特別な力を持った人だけだからだ。
2桁にも達しないそのメンバーで、街1つの子供たちのプレゼントを用意するんだ。
「クリスマスに早めに家に帰る方法? ……急いで終わらせるしかないんじゃないかな?」
「…………。サンタクロースを増員でもしない限り無理ですよ」
晶さんと、もう1人、叶と言う無職の青年サンタが難しいと、首を横に振る。
他にも何人かいるサンタも、渋い顔をして首を横に振った。
「……やっぱりだめかぁ」
「……一応、だめもとで『シリウス』に連絡入れますか?」
叶がそう訊ねてきたけど、それに対しての返答は意外なところから出てきた。
「いえ、すでに連絡を入れてみましたが、無理でした」
「へ? ……あ、マスター!」
工場長であるあるサンタを、マスターと呼ぶのだけど、そのマスターがぬっと、不意に工場内に現れた。
「無理って……言う前から訊ねて貰えていたんですか?」
「ええ。陽介君は頑張り屋ですからね。手助けしたいと思ったのですが……力になれそうもありません。やはり、頑張って早めに終わらせるしかないでしょう」
「あ、ありがとうございます」
ぼくは反射的にお礼を言ったけど、一方で残念にも思っていた。
サンタクロースの組織『シリウス』に頼るわけにはいかないのだから。
「うん……頑張って早く終わらせて、早く家に帰る努力をします」
そう意気込むぼくに、せめてもの褒美とばかりにマスターは言う。
「……せめて、娘さんの分は陽介さんがプレゼントを届けるように、特別枠にしましょう」
「あ、ありがとうございます!」
その申し出には素直にぼくは喜んだ。
「……急いで帰って、途中で事故に遭わないようにしてくださいよ」
叶が意気込むぼくの心配をして、そんな忠告をしてくれた。
……うん。事故して死んだら、元も子もないのだ。気を付けよう。
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【梢】
陽介さんが、12月になると何か隠しているのは知ってる。
あの人のことだからおかしなことや、悪い事じゃないだろうけど、印刷所の方の仕事じゃないみたい。
そのくらいは知っているし、けれどあの人が話す気がないのなら無理には聞かない。
「ただいまー!」
「おかえり、早かったのね」
「みんなもうかえっちゃったから」
「……ああ」
そうか、もうすぐクリスマスになると、いつもそうだった。
『良い子の方が、サンタクロースは良いものをくれる』
柊はいつでも良い子だから、あまりそう言うのを気にしてはいなけど、ちゃっかりした子がクリスマスシーズンに一時的に『良い子』になるのが、クリスマスの風物詩の1つだった。
サンタクロースは眉唾物で、都市伝説のように扱われているけど、一部――特に子供たち――の間では、この話は有名なものだ。
「おかあさん、ひぃにもそれ、おしえてー!」
そんな噂、あるいは真実に関係なく、柊はいつも通りなので、その話をよく忘れてしまう。
そんなことを思いながら、わたしは少し意地の悪い顔で聞いてみた。
「あら、これ? 難しいわよ?」
自分の店『アミュレット』で靴下を編んでいると、遊びから帰ってきた柊が目聡くそれを見付けて、好奇心に駆られた眼をした。
「うんっ」
「そう、それじゃあとりあえず、手を洗ってきなさい」
「はーいっ」
柊は元気よく、わたしの出来ることをよく真似したがる。
いろいろ気を遣い過ぎるのは陽介さんの血だろうけど、好きなことはわたしと似たようなものだから、やっぱりわたしたちの子なんだなと、こう言う些細なことでも愛おしさが溢れてくる。
陽介さんも同じだろう。
この子の「大好き」には、抗いにくい。
わたしは陽介さんを信じている。だから、少しくらいの隠し事もなんともない。
「……無茶をしていないと良いけれど」
陽介さんは、気を遣い過ぎるきらいがある。
それはいいことで、わたしはそんな彼に惹かれたのだけど、少しの罪悪感でも必要以上の無茶をしてしまったりする。
「クリスマス、無茶をしないように釘を刺しておかなくちゃ……ね」
柊も、表面上いつもと変わらないけど、陽介さんを見るとたまに申し訳なさそうにしている。
クリスマスのお願いが、少し無茶なものだと思い、気にしているのだろう。
本当に、似たもの親子なんだから……。
「おかあさん!」
「はいはい、それじゃあ練習しようか」
わたしは作業途中の物を脇に置き、新しい道具一式を用意して、また一から2人で柊の編みたいものを編み上げ始めた。




