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サンタの奥さん


【陽介】

「何かいい方法はないかなぁ……」

 ぼくは仕事をしながら、周りの人たちのそう聞いた。

 サンタクロースは沢山はいない。ぼくの働くこの支部にいるのも、10人に満たない。

 サポート役の『トナカイ』と呼ばれる人たちは別だが、『サンタクロース』になれるのは、少し特別な力を持った人だけだからだ。

 2桁にも達しないそのメンバーで、街1つの子供たちのプレゼントを用意するんだ。

「クリスマスに早めに家に帰る方法? ……急いで終わらせるしかないんじゃないかな?」

「…………。サンタクロースを増員でもしない限り無理ですよ」

 晶さんと、もう1人、叶と言う無職の青年サンタが難しいと、首を横に振る。

 他にも何人かいるサンタも、渋い顔をして首を横に振った。

「……やっぱりだめかぁ」

「……一応、だめもとで『シリウス』に連絡入れますか?」

 叶がそう訊ねてきたけど、それに対しての返答は意外なところから出てきた。

「いえ、すでに連絡を入れてみましたが、無理でした」

「へ? ……あ、マスター!」

 工場長であるあるサンタを、マスターと呼ぶのだけど、そのマスターがぬっと、不意に工場内に現れた。

「無理って……言う前から訊ねて貰えていたんですか?」

「ええ。陽介君は頑張り屋ですからね。手助けしたいと思ったのですが……力になれそうもありません。やはり、頑張って早めに終わらせるしかないでしょう」

「あ、ありがとうございます」

 ぼくは反射的にお礼を言ったけど、一方で残念にも思っていた。

 サンタクロースの組織『シリウス』に頼るわけにはいかないのだから。

「うん……頑張って早く終わらせて、早く家に帰る努力をします」

 そう意気込むぼくに、せめてもの褒美とばかりにマスターは言う。

「……せめて、娘さんの分は陽介さんがプレゼントを届けるように、特別枠にしましょう」

「あ、ありがとうございます!」

 その申し出には素直にぼくは喜んだ。

「……急いで帰って、途中で事故に遭わないようにしてくださいよ」

 叶が意気込むぼくの心配をして、そんな忠告をしてくれた。

 ……うん。事故して死んだら、元も子もないのだ。気を付けよう。


☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ 


【梢】

 陽介さんが、12月になると何か隠しているのは知ってる。

 あの人のことだからおかしなことや、悪い事じゃないだろうけど、印刷所の方の仕事じゃないみたい。

 そのくらいは知っているし、けれどあの人が話す気がないのなら無理には聞かない。

「ただいまー!」

「おかえり、早かったのね」

「みんなもうかえっちゃったから」

「……ああ」

 そうか、もうすぐクリスマスになると、いつもそうだった。

『良い子の方が、サンタクロースは良いものをくれる』

 柊はいつでも良い子だから、あまりそう言うのを気にしてはいなけど、ちゃっかりした子がクリスマスシーズンに一時的に『良い子』になるのが、クリスマスの風物詩の1つだった。

 サンタクロースは眉唾物で、都市伝説のように扱われているけど、一部――特に子供たち――の間では、この話は有名なものだ。

「おかあさん、ひぃにもそれ、おしえてー!」

 そんな噂、あるいは真実に関係なく、柊はいつも通りなので、その話をよく忘れてしまう。

 そんなことを思いながら、わたしは少し意地の悪い顔で聞いてみた。

「あら、これ? 難しいわよ?」

 自分の店『アミュレット』で靴下を編んでいると、遊びから帰ってきた柊が目聡くそれを見付けて、好奇心に駆られた眼をした。

「うんっ」

「そう、それじゃあとりあえず、手を洗ってきなさい」

「はーいっ」

 柊は元気よく、わたしの出来ることをよく真似したがる。

 いろいろ気を遣い過ぎるのは陽介さんの血だろうけど、好きなことはわたしと似たようなものだから、やっぱりわたしたちの子なんだなと、こう言う些細なことでも愛おしさが溢れてくる。

 陽介さんも同じだろう。

 この子の「大好き」には、抗いにくい。

 わたしは陽介さんを信じている。だから、少しくらいの隠し事もなんともない。

「……無茶をしていないと良いけれど」

 陽介さんは、気を遣い過ぎるきらいがある。

 それはいいことで、わたしはそんな彼に惹かれたのだけど、少しの罪悪感でも必要以上の無茶をしてしまったりする。

「クリスマス、無茶をしないように釘を刺しておかなくちゃ……ね」

 柊も、表面上いつもと変わらないけど、陽介さんを見るとたまに申し訳なさそうにしている。

 クリスマスのお願いが、少し無茶なものだと思い、気にしているのだろう。

 本当に、似たもの親子なんだから……。

「おかあさん!」

「はいはい、それじゃあ練習しようか」

 わたしは作業途中の物を脇に置き、新しい道具一式を用意して、また一から2人で柊の編みたいものを編み上げ始めた。


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