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サンタの約束


【陽介】

 普段は印刷所に勤めているぼくには、家族に秘密があった。

 ぼくはサンタクロースだったのだ。

「それじゃ、梢。今夜も遅くなるね」

「毎年のことね。わかったわ」

 12月になってすぐのこと。サンタクロースはクリスマスの準備で忙しくなる。

 妻はこのことを知らない。

 いつもの印刷業が、セール用のチラシで忙しいのだと思っているのだろう。

 サンタクロースは基本、誰にも正体を明かせない。不公平だと騒がれたくないからだ。

「…………」

 ぼくは毎年のクリスマス、家に居られないことが多いことを申し訳なく思いながら、クリスマスをサンタとして過ごした。

「っ、おとうさん、いってらっしゃい」

 梢の足元を通り過ぎて、娘の柊がぼくにギュッとしがみついた。

「うん、いっていきます」

 クリスマスに家に居られない――そんな罪悪感があったからだ。

 サンタの仕事が始まりだした12月の初頭、ぼくは愛おしい娘に言ったのだ。

「柊は、ぼくにしてほしいことはないか? いつもクリスマスに言えに居ない代わりに、何でも1つ聞いてやろう」

 その答えが、全く予想もつかないままに。

「それじゃ、ひぃね……おとうさんと、くりすますに、いっしょにけーきのひをけしたい!」

 ――何でも叶えると約束したのだ。


☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ 


【柊】

 ひぃのおとうさんはとってもやさしいの。

 だから、ひぃはおとうさんがだいすき!

 おかあさんのこともすきだけど、おとうさんはもっとすき。

 12がつになって、『くりすます』まであとすこし。

 あとすこし、ってけっこうながいよね。

 でもね、ひぃのおとうさんは、くりすますはおしごとでいえにいないの。

 ようちえんのともだちはみんな、おとうさんとおかあさんと、いっしょにけーきをたべたりするんだっていってる。

 ……ひぃも、おとうさんといっしょにくりすます、すごしたいの。

 ……でもね、ひぃは、おとうさんをこまらせたくないの。

 わがまま、めっ、だよね。

 でもね、おとうさんといっしょに、ふーっ、ってろーそくのひをけしたいよ……。


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