サンタの約束
【陽介】
普段は印刷所に勤めているぼくには、家族に秘密があった。
ぼくはサンタクロースだったのだ。
「それじゃ、梢。今夜も遅くなるね」
「毎年のことね。わかったわ」
12月になってすぐのこと。サンタクロースはクリスマスの準備で忙しくなる。
妻はこのことを知らない。
いつもの印刷業が、セール用のチラシで忙しいのだと思っているのだろう。
サンタクロースは基本、誰にも正体を明かせない。不公平だと騒がれたくないからだ。
「…………」
ぼくは毎年のクリスマス、家に居られないことが多いことを申し訳なく思いながら、クリスマスをサンタとして過ごした。
「っ、おとうさん、いってらっしゃい」
梢の足元を通り過ぎて、娘の柊がぼくにギュッとしがみついた。
「うん、いっていきます」
クリスマスに家に居られない――そんな罪悪感があったからだ。
サンタの仕事が始まりだした12月の初頭、ぼくは愛おしい娘に言ったのだ。
「柊は、ぼくにしてほしいことはないか? いつもクリスマスに言えに居ない代わりに、何でも1つ聞いてやろう」
その答えが、全く予想もつかないままに。
「それじゃ、ひぃね……おとうさんと、くりすますに、いっしょにけーきのひをけしたい!」
――何でも叶えると約束したのだ。
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【柊】
ひぃのおとうさんはとってもやさしいの。
だから、ひぃはおとうさんがだいすき!
おかあさんのこともすきだけど、おとうさんはもっとすき。
12がつになって、『くりすます』まであとすこし。
あとすこし、ってけっこうながいよね。
でもね、ひぃのおとうさんは、くりすますはおしごとでいえにいないの。
ようちえんのともだちはみんな、おとうさんとおかあさんと、いっしょにけーきをたべたりするんだっていってる。
……ひぃも、おとうさんといっしょにくりすます、すごしたいの。
……でもね、ひぃは、おとうさんをこまらせたくないの。
わがまま、めっ、だよね。
でもね、おとうさんといっしょに、ふーっ、ってろーそくのひをけしたいよ……。




