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我が家が所属する国家は近隣諸国から金を借りまくり、良家の子息令嬢のための社会経験と帝王学を学べる一大都市『学園都市』を造り上げていた。
この学園都市には、勇者の直系である次期クレオドール伯(性別;♂)も就学する。
公然の秘密ではあるが、もし彼と女生徒が肉体関係になり、妊娠した場合。親権を女側にする―――という取り決めが交わされている。
そう、学園とは金持ち紳士淑女の一大社交都市であり、神童達の学び舎であり、勇者の繁殖場でもあるのだ。
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入学費用は高価ではある。
ただし、大量の魔物が溢れており、街や村が魔物一匹に滅ぼされた話に事欠かない現在において『対魔物兵器』である勇者の血を手に入れられるとなれば破格の値段だ。
しかも賢い人間、才能を見いだされた人間には奨学金も出される。
都市の名前を冠するだけあって、都市内には衣食住、学術に必要な消耗品や実験素材、あらゆる【商品】が必要とされている。
かくして学園都市には、思惑を秘めた様々な人間と金。
情報や流行のファッション。
犯罪者や聖者、あらゆるものが集められた
そこで暮らすのは諸国の王族、令嬢や令息。
優秀な軍閥の子息や一芸に秀でた神童。
才能に覚えのある教師陣や豪商の子供達。
あらゆる職人と商人、犯罪者。
さらにはクレオドール伯をたらしこむために、国会レベルで送り込まれた選り抜きの美女や美童がつどう事になった。
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そんな学園都市に、義母はあの手この手を使い、義妹二人を入学させることに成功してしまったのだ。
たしかに義妹たちは私と違い、美しく賢い女だ。
ただ、いかんせん狂信者なのだ。
「世界は私のためにある!!」
とかなら可愛げがあるが、彼女達いわく、この世界は【オトメゲー】で自身は【ヒロイン】というものらしい。
私にはよくわからなかった。
テオの推理だと【オトメゲー】とは演劇や戯作小説の類いで、【ヒロイン】は主役。
物語における主人公役を、劇外にある世界からやってきて、演じている女優みたいなものではないか?
との事だ。
「妹さま方のお振る舞いは、まるで“演劇ごっこ”のように見えます。
役者が台本の内容や結果を全て知っているみたいに。
どんな事が未来に起きるか、全てを知り尽くした上でストーリーを変えない範囲で好き勝手に振る舞って、楽しんでいるような気がします………」
ゾッとした。
世界の外部に世界があるという発想すらキッチーだというのに、義妹達はオシメがとれる前から、
「待っててね、私のオウジさまたち」
「もぶのくせにナマイキ」
「がくえんに行くのが楽しみ」
「オウジさまは、私に愛されるために生まれてきたのよ」
「いいじゃない、こんなモブ一個なくたって」
とか言っていたのだ。
発音のつたない声で、歯が数本しか生えていないピンクの歯茎をむき出しに笑いながら。
たしかに【学園】なんて斬新なものを義妹たちは幼児期から知っていた。
そして、その目の奥にあったのは幼児の無邪気さとは、まるで違う。打算と利益に濡れた、欲望にみちた大人の女それだった。
赤ん坊役を演じる欲深い女。
それこそが義妹の正体なのだとしたら、あまりにも納得できてしまったのである。
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彼女達は全ての人々を『モブ』とかいう扱い(たぶん、奴隷か演劇の端役みたいな意味だと思う)をしているが、唯一お互いを同等の存在―――――ライバルと定めている。
義妹達は、幼児期から【オトメゲー】の利益を独占するべく、様々な手段で競いあっていた。
ドレスの数、アクセサリーの数や質、髪の長さや美しさ、珍しく高価なお菓子、マナーや習い事での誉められた数、最新の化粧品。
その中でも“美男子コレクション”は最たるものだろう。
義妹達は幼い頃から若い女の召し使いを嫌った。乳児期にはダッコすると、泣きわめいて目や鼻をなぐられ、髪を引っぱられる。
離乳食の時には、メイドの顔めがけて食器やポットのお湯をぶちまけたりするのは毎度の事で、時にはフォークや食器の破片で手や服や髪を切り裂いてきたりするのだ。
義妹の一人目の乳母やは常に傷だらけで、青アザまみれ、引っ張られすぎて所々禿げてしまい、とうとう精神を病んでしまった。
二人目の乳母は頬にフォークを刺されたせいで口が裂け、自殺したらしい。
三人目の乳母は、自分の生んだ娘が毒草を食べて亡くなってしまったので宿下がりをした。
庭先でよちよち歩きの義妹達が、乳妹にあたるその少女を押さえ付け、何かを無理やりたべさせているのを見かけた次の日の事だった。
義妹達が言葉をおぼえ、よちよち歩きを初めた頃にはメイドが軒並み逃げ出していた。
セズのお子様は悪魔の子供だ。
やっと歩き出した年齢から、人を傷つけ殺してしまう。
鼻を削がれ、頬を切り裂かれ、嫁にいけない顔にされてしまう。
逃げた召し使いから家の噂が領地にも広がり、誰も奉公に来たがらない悪魔の館。
そして、そんな噂の中、生け贄同然で連れてこられた四人目の乳母。青ざめた彼女の側には、たいそう美しい少年がいた。
乳母の息子だった。
彼を見た瞬間、義妹達は激変した。乳母にも素直に従い、召し使いにも優しくなり、まるで天使のごとく愛らしく振る舞った。
ひとえに乳兄となった美少年にいいところを見せるためである。
義妹達のあまりの代わりように、私も少ない召し使いも驚いたが、これで悪魔のような凶行が無くなるだろうと安心していた。
そんなある日、四人目の乳母は私の世話も兼任するよう命じられ、私の代わりに毒入りスープを飲んで亡くなってしまった。
彼女の死に様は三人目の乳妹と全く同じ、どうやら同じ毒草を使われたようだった。
『おねえさまにだけ、乳母やがいないねは、可愛そうだわ』
そう義妹達が言い出したため、私の乳母を雇うまでのツナギで彼女が私の世話を兼任する羽目になった初日の出来事だ。