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そんな敗北確定状態な私の従者になったら、私もろとも抹殺されるのは目に見えている。
逃げるか死ぬか殺されるか、運命の分かれ道に立った事を知ってか知らずか。意識を取り戻したテオの第一声は
「その馬鹿でかいカエル、とんでもなく危険な魔物ですよ?」
私が唯一信頼しているエミリー………虐殺の大蟇に対する冷静な突っ込みだった。
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エミリーは、私と一緒に物置小屋に閉じ込められてしまった縁で仲良くなったイボガエルである。
閉じ込められた初日こそお互い相手に警戒していたが、2日目に互いが攻撃してこない、無害な生き物である事が分かり、3日目には仲良くなり4日目には手に手をとって協力して一緒に物置小屋から脱出した。
念を入れたのだろう、小屋の天窓から断続的に毒虫達が放り込まれたが、エミリーが一匹残らず食してくれたために私の命は助かったし、エミリーへの信頼を高めるものとなった。
エミリーは賢く私の言動を読み取って上手く立ち回ってくれる。さらに彼女は毒が好物であるらしく、私の食事を見せたところ怪しいものが混入された皿のみを空にしてくれた。
毒味役はもちろん、ベッドに放り込まれた毒蛇からも守ってくれる、素晴らしく有能で賢い友人なのだ。
たとえどれほど忠実な従者や召し使いが現れエミリーの危険性を説いたとしても、私はエミリーを側に置き続けるだろう。
エミリーは解雇されて離れてしまうような関係ではない、強く逞しく、ずっと私を裏切らないでいてくれるのだから。
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私はテオに従者の状況や事情を聞かせてやると、換金用のブローチを一つ持たせ、お使いにだした。
永遠に帰って来なくていいお使いだ。
ブローチはなかなか良い物なのだが、この田舎では需要がないため、大した額にならないだろう。
それでも長く苦しめられた彼の逃亡資金の足しにはなる。
そうやって送り出したテオは、いくばくかの野菜と香草、塩。
そしてブローチを持って帰ってきた。
道の途中でいい金になる茸を見つけたため、それを収穫して野菜や塩と交換してもらったらしい。
「それに、これは大切な物のようですから」
そういって返されたブローチは、母が生前愛用していたものだった。
私の手元に残された、数少ない遺品。
それでも背に腹は変えられず、諦めて手放してきた。
返ってきてくれた。
その時からテオと私の日々が始まったと言ってもいいだろう。
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今までの生活に比べて、命の危険こそあるものの適度な睡眠と食事が取れる私の従者生活は、テオには快適だったらしい。
死にかけた痩せガエルから、元気な痩せガエルに戻ったテオは本領を発揮し始めた。
食べられるキノコや便利な薬草、香りが強い花。ちょっと上質な木片や松ヤニ。食べられる川魚や宝石の原石。
それらを領地のどこからか採ってきて、ポプリにしたり、櫛や何やらに加工しては近隣の村に行き生活必需品と交換してくる。
最初は加工に失敗したり腐らせたりもしていたが、異様な速さでめきめき上達し、今や職人芸や神業レベルである。
やればできる子という言葉はあるが………テオはやれば何でもできてしまう子という勢いだった。
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そんなテオの涙ぐましい働きにより、私とエミリーは最低限の文化生活基準が守られる事となった。
感謝してもしきれない。
一方、首の皮が繋がった私個人とは裏腹に、我が家には大ピンチが訪れようとしていた。




